私、ディスジャパに入れる!
──では、チッチさんが参加した「KARAGARA feat. セントチヒロ・チッチ(BiSH)」の話に移りましょうか。チッチさんはこの曲を最初に聴いたとき、どう感じました?
チッチ 「私の声を入れると、どうなるんだろう?」と想像しながら聴いたんですが、まったく抵抗がなく、スッと入れる感覚がありました。「私、ディスジャパに入れる!」って思ったし(笑)、デモ音源を聴きながら一緒にやってるところを妄想してました。
かわむら そう言ってもらえるとこちらもうれしいです。「KARAGARA」の土台は杉森が作って、それをもとに僕が歌詞をまとめて、譜割りを決めたんですけど、その頃は「THIS IS JAPANらしさってなんだろう?」と悩んでた時期でもあって。いろんな曲を作っては「あーでもない、こーでもない」とやってたんですけど、チッチさんが入る前提で作った「KARAGARA」が一番我々らしかったんですよね。
杉森 うん。
かわむら 「ディスジャパらしさって、これじゃん!」って思ったよね。(資料の歌詞を読んでいるkoyabinに)聞いてる?
koyabin 聞いてます(笑)。初期っぽい感じというか、結成したばかりの頃にやってた曲に近かったんですよね。
チッチ 初期衝動を思い出した、という感じですか?
杉森 まさに。チッチさんをお迎えするにあたって、「自分たちが一番得意なこと、一番カッコよくやれることってなんだろう?」と考えて。「KARAGARA」を作ったときは正直、「自分たちらしさが出すぎてるかな」と思ったんだけど、いつも曲を仕上げてくれるかわむらがなんとかしてくれるだろうと。でも、そういう連携が前はできなかったんです。それがメンバーで作ったアレンジもしっかりハマったし、いろんな技も使ってるので“大人の初期衝動”かもしれないですね。根底にあるのは「チッチさんが参加してくれるんだから、いいところを見せよう」だったんだけど(笑)。
かわむら そう、チッチさんに嫌われたくなかった(笑)。ダサい曲は絶対に出せないし、全員が張り詰めてましたね。
チッチ エンジンになれたみたいでよかったです(笑)。
水元 “らしさ”にもいろいろあって、シングルの表題曲「トワイライト・ファズ」も自分たちらしい曲なんですけど、「KARAGARA」はバンドを組んだ頃の遊び心というか、フザけた感じがあるんですよね。
koyabin うん。この曲、冷静に聴くと「なんだこれ?」みたいな要素が入ってるんです。でも、それがバンドの本質だって気もして。普段は「あんまりフザけてすぎちゃいけない」という気持ちもあるんだけど、チッチさんがいてくれたら「なんだこれ?」ということもやれるというか。
杉森 ホントにそう! きっとわかってくれるはずだって思ってました。
──なるほど。歌詞はもちろん、杉森さんとチッチさんが一緒に歌うことをイメージしてたんですよね?
かわむら そうですね。ボニーとクライド(※1930年代前半にアメリカ中西部で銀行強盗や殺人を繰り返した、ボニー・パーカーとクライド・バロウからなるカップル。大恐慌時代に犯罪を犯しながら逃避行を続けるも、民衆には英雄視されていた)じゃないけど、チッチさんと杉森が“破滅的でカッコいい2人”としてセンターに立っているところをイメージして。チッチさんと事前にお話したわけではないんだけど、過去の発言だったり、杉森やディレクターから聞いた話も参考にしながら書きました。サビのフレーズは、杉森が原型を作った時点ですでにあったんですけどね。
──「もう終わった! からの」「空の体で命からがら 愛と勇気とポップコーン片手に」など、強烈なフレーズが並んでますね。
チッチ 歌ってて気持ちよかったです。例えばBiSHとして自分がどう戦っていくか、どう生きていくかもそうなんですけど、普段から考えていることと「KARAGARA」の歌詞は、何ひとつギャップがなくて。私たちはいろんなことをひっくり返して生きてきたし、ガムシャラにやるしかなくて……「KARAGARA」の歌詞を読んだとき、BiSHのことも考えてくれてるんだなって、すごくうれしかったです。
杉森 そう言ってもらえると何よりですね。
チッチ BiSHの「PAiNT it BLACK」という曲に「諦めること諦めて」という歌詞があるんですけど、「KARAGARA」の歌詞はそれとまったく同じだと思います。さっきも話に出てましたけど、ディスジャパとBiSHはマインドが近いんじゃないかなって。メンバーの皆さんの会話も、ちょっと私たちに似てるんですよ。私もインタビュー中に、ほかのメンバーに「聞いてる?」って言うことがあって。
THIS IS JAPAN一同 ハハハハハ!
チッチ みんな自由だなって(笑)。
かわむら 活動の規模は全然違いますけど、我々もずっと“終わってる”ようなもんですから(笑)。それでもバンド活動を続けて、「うまくいかねえな」とか言いながら、でも辞めるっていう選択肢はなくて。
杉森 うん。「終わったわ」ってこと、めっちゃあるんですよ。でも、本当に終わったかどうかを決めるのは自分たちなので。野望、計画、目論見とか、頭の中で思い描く未来のことって、一般的にはイイこととされてるじゃないですか。それよりも“今”に集中したほうがいいと思うんですよね、あと、開き直りや“どうでもいい”もポジティブだと思っていて。Sex Pistolsが歌う「No Future」(「God Save The Queen」のワンフレーズ)も昔は「暗いな」と思ってたけど、今は「いや、めちゃ明るいじゃん」って(笑)。未来よりも、今、ここにいる時間が大事。両足でふんばって、「いくぞ!」という勢いを「KARAGARA」のサビで表現したかったし、その幅をさらに広げてくれたのがチッチさんなんですよね。
チッチ うれしいです。BiSHも先のことは考えてないし、今を生きる人たちが集まってるんですよ。私、みんなに「明日世界が終わるかもしれないんだよ。どうでもいいじゃん!」ってよく言うんですよ。そうすると「やめてよー」って言われちゃうんだけど(笑)、それくらいの気持ちでやらないとほかに勝てないというか、伝わらないもの、届かないものがあって。今は“解散”が決まっているのもあるし、そのことについて聞かれることも多いんだけど、それよりも今の私たちを見てほしいんです。「今、どれだけやれるか」が大事だし、そこに向かって誠心誠意やることがBiSHらしさなのかなと。そうやって積み重ねることが未来につながると思うんですよね。
魂とリンクした「KARAGARA」
──ちなみにレコーディングで緊張感はなかったですか?
チッチ 半分は緊張、半分はめっちゃ楽しかったです。初体験って2度とないし、全部が新鮮でしたね。皆さんのレコーディングも見せてもらって、「カッケー」と思ってました。自分の歌に関しては、声が枯れてもいいから必死で歌おうと思って。ただ、けっこう難しいんですよ、この曲。言葉数が詰まってるところがあるんですけど、実は私、滑舌がよくないので、めっちゃ練習しました。レコーディング当日もどうしても引っかかるところがあったんですけど、かわむらさんが丁寧に教えてくださって。私が一番時間を取ってしまったんですけど、妥協したくなかったので。さっきも言いましたけど、サビが歌っていてめちゃくちゃ気持ちいいんですよ。魂とリンクしている感じがあったし、すべて出し切りました。
──チッチさんの強くてまっすぐな声、杉森さんのディストーションがかかったような歪んだ歌声のバランスもよくて。
杉森 そうなんですよ。普段はボーカルのディストーションは加減しているところもあって。歪ませすぎると何を歌ってるかわからなくなるし、うるさいじゃないですか(笑)。「KARAGARA」はチッチさんの真芯を捉えた声があるので、「自分の声はめっちゃ歪ませてもいいんじゃないか?」と。Aメロから歪みのレベルをフルテンにして歌ってますね。
かわむら 杉森が振り切って歌ってるのを見て、「よかったね」って(笑)。チッチさんのボーカル、素晴らしかったです。「真芯を捉えた」というのはまさにそうで。「こんなふうに歌ってくれたらカッコいいだろうな」という想定を当然のように超えてきたし、さらに「こういうニュアンスもあります」と用意してきてくれました。
チッチ けっこう準備しましたね。「何もできないじゃん」と思われたらイヤだなって(笑)。BiSHのチッチとしてしっかりやろうと思っていたし、レコーディングのときにパッと浮かんだアイデアもけっこうあって。すごくいろんなものを引き出してもらいました。
──当たり前ですけど、ディスジャパと一緒にやることで生まれた表現もあったと。
チッチ マジでそうですね。
水元 ……すごいカッコよかったです。
杉森 コメントが浅いな(笑)。
水元 さっきも言いましたけど、レコーディングのとき、めちゃくちゃ緊張してたんですよ(笑)。下手だなって思われたらどうしようって。チッチさんの歌は本当にすごくて、自分にはこういう表現はできないなと。
かわむら 当たり前だろ!
koyabin (笑)。ディスジャパは大学のサークルで結成したんですけど、当初はサークルでは誰もメインで歌っていなかったんですよ。杉森さんもギターを弾いてて、たまに歌うくらいで。別のボーカリストが入ることもあって、女性が歌うときはBOATやBuffalo Daughterのカバーをやってたんです。今回チッチさんが参加してくれて、その頃のことを思い出してましたね。できればメンバーになってほしいです(笑)。
チッチ ライブで「KARAGARA」をやるときはどうするんですか?
杉森 俺1人で全力で歌います。
かわむら 一応、1人でも歌えるようになってるんですよ。どうしても無理なときは、ほかの3人がどうにしかします。
──いつかぜひ、チッチさんとディスジャパがステージで「KARAGARA」をパフォーマンスする場面を見たいです。今回のコラボはチッチさんにとっても得られたものがたくさんあったのでは?
チッチ めちゃくちゃありましたね。BiSHの中で何を経験してきて、何を得てきたかを今回のレコーディングで確認できたところもあったし、新たに知れたこともあって。今まで私の中になかったものを芽生えさせてもらったし、何よりもこんなに楽しくレコーディングできたのはひさしぶりだったんですよ。歌うことの楽しさを改めて教えてもらえたし、人生が明るくなりました。
かわむら 光栄の極みです。
杉森 よかった。こちらこそありがとうございました。
THIS IS JAPAN ライブ情報
THIS IS JAPAN pre. "4COUNT"
- 2022年5月14日(土)大阪府 LIVE HOUSE Pangea
<出演者>
THIS IS JAPAN / Panorama Panama Town - 2022年6月19日(日)東京都 下北沢SHELTER
<出演者>
THIS IS JAPAN / aoni / pavilion - 2022年7月10日(日)東京都 新代田FEVER
<出演者>
THIS IS JAPAN(ワンマンライブ)
プロフィール
THIS IS JAPAN(ディスイズジャパン)
杉森ジャック(Vo, G)、かわむら(Dr)、koyabin(G, Vo)、水元太郎(B)の4人によるロックバンド。2011年に東京・新宿Motionを中心にライブハウスでの活動をスタートさせ、2012年9月に1stミニアルバム「ジャポニカ学習装置」をリリース。2014年8月に初の全国流通盤となるアルバム「THIS IS JAPAN TIMES」を発表する。2020年2月に配信シングル「Not Youth But You」でKi/oon Musicよりメジャーデビュー。同年5月に2nd配信シングル「HEARTBEAT」、7月にメジャー初となるCDシングル「new world」をリリースした。2021年8月には「SDガンダムワールド ヒーローズ」第2クールのオープニングテーマ「ボダレス」を発表した。2022年5月にテレビアニメ「BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS」のエンディングテーマ「トワイライト・ファズ」を表題曲としたシングルをリリースする。
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セントチヒロ・チッチ
2015年3月に結成された“楽器を持たないパンクバンド”BiSHのメンバー。2016年5月にavex traxよりメジャーデビュー。2018年9月にGOING STEADY / 銀杏BOYZ「夜王子と月の姫」のカバーでソロデビューを果たす。無類のカレー好きとしても知られ、フジテレビNEXT系「スパイストラベラー」のMCを担当。初のフォトエッセイ「チッチと猫のハクと坊(仮)」を5月31日に上梓する。なお、BiSHは2023年をもって解散することを発表している。
セントチヒロ・チッチ (@Chittiii_BiSH) | Twitter