思い出の補完ではなく、僕が確認したいのは「生き様が放たれているか」
──THE SPELLBOUNDでBOOM BOOM SATELLITESの曲を歌うにあたって、亡くなった川島さんの人生というか思いというか、そういうものも背負って歌うことになるわけじゃないですか。自分から言い出したこととはいえ、そこらへんに関してはある種のプレッシャーはありませんでしたか。
小林 プレッシャーはもちろんあって。僕がそう言い始めて、いざその日が近付いてきて本当に歌わなきゃいけないとなったとき、それはもう僕にとって、人生で味わったことないくらいのプレッシャーでした。本当に自分が壊れてしまうんじゃないかと思うくらいの初めての体験。それでも、それに恥じないような人間でいたいという思いのほうが強かった。中野さんはいろんな言葉で奮い立たせてくれた。ただ慰めたりとか、ポジティブなことで元気付けたりとか、そういうことだけじゃなくて、命を燃やせって。自分もBOOM BOOM SATELLITESのライブであれほどの感動を味わって、人生を変えられるくらいの、世界も変わってしまうような衝撃を受けて、それに導かれてきたんだという自負もある。それだけの、「人生」や「今」を燃やしている人にしか作れない何かがあるし、そういう人こそみんなに分け与えることができるエネルギーを生み出せる、と信じられるようになりました。今、目の前で、この音楽はみんなのいる空間を震わせている。今間違いなく一緒の場所に俺たちがいて、それはすごく美しいことだよなっていう感覚。
──キャリアの長いアーティストが昔の曲をやると、ファンサービスというか、懐メロっぽい部分も出てしまうものですけど、THE SPELLBOUNDのライブでTHE SPELLBOUNDとBOOM BOOM SATELLITESの曲が並列に演奏されても、全然そういう印象は受けないですね。
中野 「今、何が起こせるか」でしか自分たちがやってることを評価してないってことがあって。10年前のあの曲はいい曲だよね、15年前のあの曲は今聴いても力があるな、とかそういう会話上のことじゃなく、実際に演奏が行われたそのときその場で何が起こせているかが重要なんですよ。10年前のあの曲であのときの思い出がよみがえってきたとか、そういうことではないように、もう全力で集中している。そうすると、ちゃんとその曲を演奏している本当の意味みたいなものにちゃんとフォーカスがいくので、後ろめたさも消える。僕と小林くんとメンバーで何を起こそうとしているのかという、もう本当にシンプルにそれだけになっていく。昔を懐かしむんじゃなく、ライブ感というか、まさにそのとき何かが起きているという、聴いている人にとってもそういう体験になっているのではないかなと思います。
──ボーカルが違うこと以外に、今THE SPELLBOUNDがBOOM BOOM SATELLITESの曲をやるにあたって変えたところや、「こういうところが違う」ということは具体的に何かあるんでしょうか。
中野 そんなにない。一生懸命演奏するっていう、高校野球みたいな感じですね(笑)。ちょっとずつ練習して、1曲1曲、しっかり取り組んでいくので、それなりに時間がかかるんです。その曲の大事な部分をまず再現するところから、「今、2026年に演奏して意味がある」という状態に持っていくまでひたすら練習するんですよ。演奏が楽しめて、オーディエンスが体験して楽しめてという領域に行くまで、ひたすら1000本ノックみたいにやっていく。その判断基準は感覚的なものでしかないんだけど。
──小林さんにしても、川島さんの歌とメロディをそのままなぞるだけでは当然成り立たないわけで、そこに何かプラスアルファというか、超えるものを提示していかないと歌う意味もないと思うんですけど、それは具体的にどういうふうに捉えていますか?
小林 変な話に聞こえるかもしれないですけど、自分で作った歌詞とか自分で作った曲以上に丸裸で歌っているような感覚があるんですよ。やってみて初めて味わった、ほかで味わったことがない感覚でした。本当に“小林祐介そのもの”として、虚勢も何も通用しないところにどれだけ向き合えるか。それしか、僕がその世界に入っていく方法はないと思った。本当に試されている感じというか。
──最近のTHE SPELLBOUNDのライブで感動するのは、「めちゃくちゃロックの力を信じてるんだな」ということなんですよ。長いこと音楽をやってきたベテランであっても、ロックを知って間もない若者のような情熱とかエネルギーみたいなものが感じられる。今お話しいただいた、BOOM BOOM SATELLITESの曲を今やる意味とかエネルギーとか、裸の自分で向き合う覚悟と通じると思いました。
中野 情熱が何かを動かすという単純な話でもないような気がするんです。思い出だけでも人の心は動くじゃないですか。30年40年キャリアがあるアーティストのコンサートに行って、30年40年前の曲を演奏されたときに、演奏が十分じゃなくても、自分の思い出で補完して、そのコンサートを成立させちゃうことができる。僕が確認したいのは、「そこからちゃんと生き様が表れてエネルギッシュに放たれているか」なんですね。そうすると僕はすごく感動したり、高揚したり、すごいいいものを観てるな、いい音楽聴いてるな、いい体験してるなっていう感覚になれる。素直になれるわけです。自分のライブもそうありたいなって思うし。
──なるほど。オーディエンス側の脳内補完のようなものを絶対に使わせないという。「この曲は昔好きだったから感動した」ではなく、今起きていること、それだけで感動してもらう。現役のアーティストとして、とても潔いし正しいと思います。
中野 音楽家としてのキャリアというバリューとは関係なく、1人の人間として対峙して何か新しいものを作る、面倒くさい手間のかかる作業なんですけど、幸い小林くんは探究心と関心を持って、僕といろいろ話し合ってくれた。「俺もうすぐ50歳なのにデビューかあ」みたいな思いもありましたけど、でも例えばステージから見る光景だとか、すごくいい曲ができた瞬間とか、その体験はかけがえないものだと思います。いろんな制作現場で切磋琢磨してきたわけですけど、やっぱり自分のアーティスト活動でしか体験できないものがある。それはすごくいいものなんですよね。
小林くんに言ったのは「すべて意味があることだけをやれ」ということ
──小林さんはもちろんThe Novembersもあるけど、ほかにもいろんな人と一緒に音源を作ったり、ライブをしたりしてるじゃないですか。そういうプロジェクトと、THE SPELLBOUNDって何が一番違うんですか?
小林 「バンドである」っていうことに尽きると思います。これもやっぱり中野さんと一緒になってから気付かされたことなんですけど、いろんな人にいろんなふうに才能を評価してもらって、貴重な体験をさせてもらってきましたけど、僕はやっぱりそこで、何がしたくてそこにいるのか、その人と何をしようとして、なんのために出会ったのかということを全然大事にしないまま、お手伝いのようなことをしてたんです。そのときなりに一生懸命だったとしても、今の僕が振り返ると、自分の憧れの人にどんどん声をかけてもらって、一緒にステージに立って、うれしくて舞い上がったり、自分も肩を並べたような気持ちになったり、本当になんとなくそこにいただけだった。そのとき隣にいる人、目の前にいる人と出会ったことで、どんないいことが起こせるのか、それに尽きると僕は思っていて。バンドの本質っていうのは、お互いどれだけ正面から向き合えるかだと思います。両親にも教わらなかったいろいろなことを中野さんに教えてもらって、全然世界が変わって見えてしまった。
中野 はたから聞いてみると、なんか古風な考え方ですよね。やっぱり今、普通に大学を卒業したぐらいの子たちにこういう話をしても、面倒くさいことは全部スルーしていくというか、煩わしいことよりも、自分が快適になることを優先している。今そこにいる時間とか、誰といるかということに対して、意味を見出すことすらしない傾向があるんですね。そんな中、僕が小林くんに言ったのは「すべて意味があることだけをやれ」ということです。意味がないことだったら、そもそもしなくていいからって。
──それはめっちゃプレッシャーのような気がしますけど(笑)。
中野 そうですね(笑)。歩くことにも意味を持つ。でも作家が1つ単語を用意したときに、その意味とか何を伝えたいかとかは抜きで、スタイルだけでやると、今だったらAIが簡単にはじき出して、それっぽいものは簡単にできあがるわけじゃないですか。でもちゃんと1つひとつに意味を通していったら、それだけ力強いものになっていったり、美しいものになっていったりする。ちょっと気を抜いたところはすぐわかるから。ここ、がんばらなかったでしょ?みたいな。それが1秒ぐらいの間だったりしても、その力を抜いた1秒が、その音楽の中で変なスポットみたいになっちゃって台無しになる。でも小林くんがそこをきちんと考えて埋めてきたら、やっぱりすごくいいものになるんです。
小林 やっぱりわかる人にはわかっちゃうんです。僕は今までそういう経験はなかった。ダメを出されたこともなかったし、自分1人でそれに気付けるかというと、間違いなく気付けなかったと思う。
昔の曲のリメイクではない、“THE SPELLBOUND×BOOM BOOM SATELLITES”の新曲を作りたい
──小林さんはTHE SPELLBOUNDをやることで、The Novembersにフィードバックはありましたか? 先日拝見したThe Novembersのライブも、以前とはかなり雰囲気が違っているように思えました。
小林 めちゃくちゃありますね。やっぱり僕自身の中でハードルの高さが変わってしまったところがある。昔だったら例えば、ワンマンが終わったらよかったよかったで終わっちゃってたけど、「次はもっとできるかな」「もっとこうならないと」「これじゃ少なくとも自分は楽しめない」とか、どんどん次に次にと目が向くようになってきた。少しでもいいことをしたい、いい音楽を作りたいという意識がバンド内で共有されるようになってきましたね。
──なるほど。今後のことですが、リリースは考えていらっしゃらないんですか?
中野 何か出していかないと、と思ってます。“THE SPELLBOUND×BOOM BOOM SATELLITES”の曲を作ってみたいですね。
──BOOM BOOM SATELLITESの曲の再録ではなく、新曲ということですか?
中野 そうです。昔の曲のリメイクとかじゃなくて新曲を作る。ファンもすごく納得しづらい、すごく難しいアイテムになると思うので、あえて挑戦してみたいなと思います。
──要するに、THE SPELLBOUNDがBOOM BOOM SATELLITESとして新曲をやったらどうなるかということですね。ただ、それをするには両者の違いが明確に見えていないと。
中野 そうなんです。そこをどう乗りこなすのか。2025年にTHE SPELLBOUND×BOOM BOOM SATELLITESとしてライブをやってきた中で、このバンドが新曲を作ったらどうなるのか?という視点が生まれてきたんです。だから、1曲でいいから作ってみたい。
──特に小林さんに求められるハードルが高そうですね。
中野 いや、そうなんですよ。でも、小林くんに来るべくして来た宿命だと思うんです。
小林 がんばります!
──期待しています。まだだいぶ先の話ですが、10月9日のツアーファイナルが終わったあとの予定は?
中野 まだ何も考えてないです。そういうプランニングは全然できてなくて、とりあえず今年はこれをやりきるぞっていう気持ちでいます。でもちゃんと考えておかないと、ライブ1本やるにしても、全然ハコが押さえられないんで。
──らしいですね。ライブ需要が多すぎてハコが足りない。
中野 2年前でも押さえられない。かといって3年先の予定組むっていうのもね。ちゃんとやろうとすればするほど、そのときにモチベーションがない予定を組まないといけないんですよ。
──中野さんだったら緻密に考えて先々の予定を立ててるのかと思ってました。
中野 いや全然。僕、実はそういうタイプじゃないんで。そういうこと考えてくれる人がいたらいいのになあ、って状態です(笑)。
公演情報
「THE SPELLBOUND×BOOM BOOM SATELLITES presents 川島道行10周忌LIVE“FRONT CHAPTER” -DECADE- Tour 2026」
- 2026年5月10日(日)福岡県 DRUM SON
- 2026年6月6日(土)宮城県 仙台MACANA
- 2026年6月27日(土)北海道 SPiCE
- 2026年7月3日(金)愛知県 ell.FITS ALL
- 2026年7月4日(土)大阪府 Shangri-La
- 2026年10月9日(金)東京都 SGC HALL ARIAKE
東京・SGC HALL ARIAKE公演オフィシャル二次 / 先着先行はこちら
2026年2月28日(土)12:00~2026年3月15日(日)23:59
※各券種予定枚数に達し次第受付終了となります
DEEP DIVE / 攻殻機動隊 in TOKYO NODE
2026年3月7日(土)東京都 TOKYO NODE内 TOKYO NODE GALLERY
OPEN 15:00 / START 17:00(21:30終了予定)
<出演者>
THE SPELLBOUND×BOOM BOOM SATELLITES / 80KIDZ / D.A.N. / RISA TANIGUCHI / machìna / YOSHIROTTEN / and more
プロフィール
THE SPELLBOUND(スペルバウンド)
BOOM BOOM SATELLITESの中野雅之とThe Novembersの小林祐介によって結成されたロックバンド。2019年に行われた中野のボーカリスト募集オーディションを経て、2021年1月に活動をスタートさせた。同年7月に東京・LIQUIDROOMでバンド初のライブとなるワンマン「THE SECOND CHAPTER」を開催し、2022年2月に1stフルアルバム「THE SPELLBOUND」を発表。2023年にはBOOM BOOM SATELLITESのデビュー25周年イヤーに合わせ、同バンドをさまざまな形で再現する“BOOM BOOM SATELLITES 25th Anniversary Set”体制でライブを行った。2024年8月には2ndフルアルバム「Voyager」をリリース。2025年開催の「SONICMANIA」より、BOOM BOOM SATELLITES楽曲のみでセットリストを構成した“THE SPELLBOUND×BOOM BOOM SATELLITES”名義でのライブを始動し、2026年5月から “THE SPELLBOUND×BOOM BOOM SATELLITES”としてのツアーを開催する。





