the engyはオリジナリティを追求する|平日がテーマのメジャー1stアルバムで描いた“休日以上のドラマ”

今しかできないことを作品に

──今作はサンプリングも効果的に使われていますね。とりわけ3つのインタールードでは、環境音が作品のストーリーをわかりやすく伝えています。

山路 「interlude1」は朝方から昼に向かっていく途中をイメージしていて、あの「ガシャーン」という音は妻の料理中にマイクを向けて録音しました。で2人がケンカしてるところをイメージした「interlude2」では、泣いているのか笑っているのかよくわからないような声が聞こえてくると思うんですけど。

──もしかして、あの声も山路さんのご家庭で採取されたもの?

山路 はい(笑)。「interlude3」では家に走って帰るシーンを意識してるんですけど、それも実生活から拾った音で表現しています。というのも、なんせ自粛期間で家にずっといたもので、音も家の中で拾うしかなかったんですよね。でも、それも今にして思えば、このときの僕らにしかできないことだったなと。このバンドでは今しかできないこと、僕らにしかできないことを常に考えていきたいんです。やっぱりオリジナリティを大切にしたいというか。

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独創性と大衆性はつながる

──そうしたサウンド面のオリジナリティを追求しながらも、the engyの楽曲はメインストリーム的なスケール感と大衆性を感じさせます。

山路 独創性と大衆性はつながるものだと考えているので、僕らとしてはとんがった作品を作って、それをなるべく広いところに突き刺したいんです。そういう意味で最近やっぱりすごいなと思ったのがジェイ・Zですね。彼の「Empire State of Mind」ってめっちゃ熱いことを歌ってるのに、サウンド的には「東京ガールズコレクション」でかかってもハマるようなキラキラ感があるじゃないですか(笑)。クリエイター / プロデューサーとして、ジェイ・Zは本当にすごいと思う。

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──the engyの楽曲は英語詞をメインとしつつ、今作には全編日本語詞の楽曲「朝になれば」も収録されています。どちらにしてもラップ的なフロウは山路さんの歌の特徴だと思うのですが、どのような判断で日本語詞と英語詞を書き分けているのでしょうか?

山路 使い分けとしては、メロディを口ずさんでうまくハマりそうなときは日本語を選ぶときもあるんですけど、英語しか考えられないときは英語、みたいな感じですね。そもそもバンドを組んだ頃は洋楽だけを聴いてたのもあって、自分としては英語で書くほうが自然だったし、歌に関しては何よりも耳に入ってきたときのフロウを重視しているので、そこが日本語だとうまくハマらなかったんです。で、どうすれば日本語もハマるだろうと試行錯誤してみて、自分の中で一番しっくりきたのが、今のような韻を踏んでいくラップ的な歌い方だったというか。

──英語詞と日本語詞の比重が今後変わってくる可能性もある?

山路 「朝になれば」のように全編日本語詞がハマるような曲が出てくればそうなると思います。英語にこだわっているわけではなくフロウ重視なので、日本語のフロウが貯まってきたら自ずと増えてくるのかなと。

──山路さんがそうしたボーカリゼーションを培ううえでヒントになったシンガー / ラッパーと言うと、例えば誰が挙げられますか?

山路 歌い回しでいうと、まずエド・シーランが大きいですね。あとはジェイソン・ムラーズ。ラップ的なフロウをしっかりと歌に乗せていくやり方を僕が教えてもらったのは、たぶんそのあたりだと思います。日本のアーティストでいうと、これは影響を受けたというより単純にフロウがすごいなと思ってるのは、マキシマム ザ ホルモンとサカナクションですね。日本語を音として捉えながら、その意味もしっかり伝えてるという点で、この2組は本当にすごいと思う。だからこそ自分はその2組とはまた違う歌い回しを作っていきたいと思ってます。

家庭とバンド、“合わせる”ことの大切さ

──なるほど。では、今作のモチーフに“平日”を選んだ理由を教えていただけますか?

山路 休日についての作品はたくさんあると思うんですけど、実は人の気持ちがより動いてるのは平日の方なんじゃないかなと思ったんです。平日は仕事でどれだけ気持ちのバランスが崩れたとしても、次の朝までには気持ちを立て直さなきゃいけないわけで、そこには休日以上のドラマがあるんじゃないかなと。なので、今作には特にオチがあるわけじゃなくて、むしろループして平日がまたやってくる感じを表現したかったんです。特に最近は自粛期間とかもあって、同じ家で生活する人たちは一緒にいる時間が増えましたよね。そうなるとケンカも増えがちだけど、それでも相手とずっと一緒に暮らしていきたい。1日の流れの中で気持ちをなんとか整えながら、お互いに合わせていくことがすごく大切になってくる。それがこの作品の根底にあったことなのかもしれないです。

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──合わせることの大切さは、きっとバンドにおいても言えることですよね。

山路 そうですね。言ってしまえば、今はすべてパソコン上で完結できちゃう時代ですよね。それこそ自粛期間はみんなと顔を合わせて演奏することもできなかったんですけど、そういう状況で自分たちにできることはなんだろうと考えていくと、お互いが合わせていくことかなと。僕が今回用意したデモ音源も「みんなで演奏するとしたらどうなるだろう?」という発想から浮かんできているし、やっぱり人と人が混ざる意味ってあると思うんです。制作スピードでいうと1人の方が絶対に速いですけど、それをあえてほかのメンバーにインプットしてもらって、もう一度みんなで組み立てる。そういう手間をかけること自体に意味があるというか、その過程で作られた音が僕らのオリジナリティだと思っています。

──初のフルアルバムを完成させた今、今後はどんな展望を抱いていますか?

山路 最近、メンバーと「1回すごくチャラい曲作ってみようよ」みたいな話をしてるんですよ(笑)。今回の作品は自粛期間とかの影響もあって、みんなと顔を合わせずに頭の中で世界観を完結させていったので、次は一旦そのやり方を忘れて、周りからいろんな刺激を受けながら作りたいなと思っています。

ライブ情報

the engy ONEMAN LIVE 「On weekdays」
  • 2021年9月11日(土)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2021年9月24日(金)東京都 Veats Shibuya
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