音楽ナタリー PowerPush - THE COLLECTORS
結成29年目の新たなる挑戦
「お前ら、このアルバムを聴いて勉強しろ」
──率直に意思表示するというスタンスは、アルバム全体に共通してるんですか?
加藤 いや、それは全然。とにかくひとつ気を付けたことは……僕、NHK-FMで「ソングアプローチ」という番組をやってるんだけど、そこでJ-POPの歌詞の分析をやってるんですよ。ときにはボロクソに言って、ときには賞賛してるんだけど、要は歌詞の先生みたいな感じだから、その見本を示さないといけないなと思ったんです。例えば「家具を選ぼう」なんて、ロックバンドが使いそうにない言葉でしょ。そういうところにも愛にあふれた行為があるんだってことを表現してるんだよね。「ガーデニング」という曲もタイトルを見ると「何それ? ホームセンターなの?」みたいに思うだろうけど、そこから引き寄せてラブソングにするっていう。そういう例を10個並べたっていう感じですね。みんなさ、愛の歌っていうとシチュエーションが似通ってくるんだよ。それが面白くないって番組でもよく言ってるし、「お前ら、このアルバムを聴いて勉強しろ」っていう感じかな。
──ロックバンドが歌っていることは、実はすごく狭いんじゃないか?という問題提起も含んでいそうですね。
加藤 ロックバンドは別に何を歌ってもいいのに、みんな繰り返し同じようなことばかり歌ってるでしょ。だったら、せめて視点を変えるとか、言葉を変えるとか、モチーフを変えるとか、そういうことをやらないと面白く聴けないよね。
──コータローさんは今回のアルバムの歌詞について、どんなふうに感じてますか?
古市 どこがどう変わったかはわかんないですけど、進化しようとしているのは伝わりますよ。だいたい自分のスタイルができたら「それでいい」ってことになるけど、そうじゃないんだなって。
加藤 ワンパターンだなって思われるのが怖いんだよね。自分のオリジナルがあるんだったら、ずっとそれを押し通せばいいっていう考え方もあるんだろうけど、俺はそれが得意ではないというか。常に新しいと思わせる何かをやっていたいんだよね。それは今回に限らず、次作も同じだろうけど。
──常に新しい作風にトライしていく、と。
加藤 ラブソングの歌詞にしても、また違う角度から書きたいからね。そうやって作風を広げながら、どこまでいけるのかっていう挑戦もあるんじゃないかな。どこかで枯渇するんだろうけど、新しいことをやれなくなったら、アーティストを辞めたほうがいいと思うんですよ。そこに挑戦しているからこそアーティストは生き生きするのであって、慣れちゃってる感じで続けるのは、俺は好きじゃないから。
──自己模倣を避けるということですよね。
加藤 ただ、その反対の気持ちもあるんだよね。自分の好きなバンド、たとえばThe Rolling Stonesのライブを観ると、やっぱり「『Jumpin' Jack Flash』やってくれないかな」って期待しちゃうから。コレクターズのファンも同じで「世界を止めて」とか「TOO MUCH ROMANTIC!」を歌ってくれないかな?って思ってるはずなんだよ。そこもやっていかないといけないし、せめぎ合いだよね。それはライブだけじゃなくて、新曲もそうで。だいぶ前の話だけど、ストーンズが「Start Me Up」を出したとき、「Brown Sugar」を聴いたときと同じ気持ちになったんだよ。ギターのリフが似てるっていうのもあるけど、「カッコいい! これがストーンズだ」と思ったから。
──リスナーから求められるものと、自分たちがやりたいことのバランスを取るのも難しいですよね。
古市 ソングライティングにおいては難しいだろうね。楽器のプレイヤーはちょっと違っていて、自分の得意なことというか、「古市コータローは古市コータローをやらなくちゃいけない」というところもあるし。進化しようとしてないってことではなくて、新しい歌詞の世界観を作るのと、僕が新しいギターのスケールを弾くことは全然違うことだから。
加藤 確かに。
古市 いきなり妙なスケールのソロなんて弾いたら、俺も戸惑っちゃうよ(笑)。現状でできることを目いっぱいやることで、次の制作までに自然と入ってくるものもあると思うし。
THE COLLECTORSとピチカート・ファイヴ
──今回のアルバムは、7年ぶりに復活したTRIADからのリリースです。かつてのTRIADにはコレクターズのほかに、ピチカート・ファイヴも所属していたわけですが、このレーベルに対してはどんな思いを持っていますか?
加藤 すごく家庭的なレーベルだった。残念なことに亡くなってしまった佐藤智則さんが代表だったんだけど、すごくロックが好きな方で、僕らのワガママも無理して聞いてくれたりしてね。TRIADには佐藤さんの人望も反映されていたと思うし、ほかのレコード会社とは一線を画す感じがあったんじゃないかな。
──先ほども話に出た「家具を選ぼう!」には、ゲストボーカリストとして野宮真貴さんが参加されていますね。
加藤 “家具をいっしょに選ぼうよ”っていうカップルの歌だから、女性の声が入っていたほうがいいなと思って。野宮真貴ちゃんとはピチカート・ファイヴのときに3、4曲デュエットしてるし、年齢もほぼ一緒だからちょうどいいかなと。こういう歌って、あまり年が離れ過ぎてるとピンと来ない気がして。
──コレクターズとピチカート・ファイヴの交流はかなり長いですよね。
加藤 そうだね。僕らのデビューのきっかけを作ってくれたのは、元はちみつぱいのベーシストだった和田博巳さんなんだけど、和田さんはピチカートもデビューさせてるんだよね。当時の事務所にはピチカートのメンバーも出入りしていて、そのときに紹介されたんだよ。コレクターズの1stアルバムのレコーディングが始まって、最初に陣中見舞に来てくれたのもピチカートのメンバーだし。小西(康陽)くんにはアルバムを1枚プロデュース(「COLLECTOR NUMBER.5」)してもらったこともあるしね。
──アルバムの話に戻りますが、「SONG FOR FATHER」もとても心に残る曲でした。
加藤 親父が死んで、何か残さなくちゃなって思ったんだけど、やっぱり歌しか書けないからね。
──加藤さんご自身の思いが強く反映された楽曲ですが、最初からコレクターズの楽曲として発表しようと思っていたんですか?
加藤 そこは悩みましたけどね。かと言って、ソロアルバムを出すつもりは昔からまったくないから、発表するとしたらコレクターズなんだよなって。前回のアルバムのときにデモを録ってたんだけど、そのときは照れてしまってメンバーには聴かせてなかったんです。今回はみんなも「いいんじゃない?」って言ってくれたから、収録することにして。このテイク、そのときのデモトラックを使ってるんですよ。歌い直したり、アコギを弾き直すことにもトライしたんだけど、どうも雰囲気が出なくて。結局、デモがベストトラックだなということになって、そこにチェロを足したんですよね。元ピチカート・ファイヴの高浪慶太郎くんに「これに何か足すとしたら、何がいいと思う?」って相談したら「チェロがいいんじゃないか」って言ってアレンジまで考えてくれました。チェロは1966 QUARTETの林はるかさんが弾いてくれたんだけど、ものすごくうまくてビックリしましたね。
──ロックバンドにおけるチェロのあり方を、よく理解されてるんでしょうね。
加藤 1966 QUARTETも、The BeatlesやQueenをカバーしてるからね。いろんなスタジオミュージシャンとやってきたけど、ストリングスもブラスも、うまいだけじゃダメなんですよね。「音は合ってるんだけど、なんか違うよね」ということもあったし。
古市 そうだね。
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- ニューアルバム「言いたいこと 言えないこと 言いそびれたこと」2015年9月16日発売 / 日本コロムビア
- 初回限定盤[CD+DVD] 4000円 / COZP-1073~4
- 通常盤 [CD] 2800円 / COCP-39234
CD収録曲
- ガリレオ・ガリレイ
- 自分探しのうた
- Tシャツレボリューション
- 深海魚
- ガーデニング
- 家具を選ぼう!
- 永遠ロマンス
- 始まりの終わり
- 劇的妄想恋愛物語
- SONG FOR FATHER
- 自分メダル
初回限定盤付属DVD収録内容
- RECORDING DOCUMENTARY
- 「Tシャツレボリューション」MV
THE COLLECTORS(コレクターズ)
1986年に加藤ひさし(Vo)を中心に結成。1987年に「僕はコレクター」でデビューすると同時に、ブリティッシュロック、サイケデリックなどのエッセンスを取り入れたサウンドが話題を集め、日本のモッズシーンを代表するバンドとして認知される。2014年3月に小里誠(B)が脱退。同年11月にそれまでサポートベーシストを務めていた山森"JEFF"正之(B)が正式加入し、加藤、山森、古市コータロー(G)、阿部耕作(Dr)の新体制となる。2015年9月に21枚目のオリジナルアルバム「言いたいこと 言えないこと 言いそびれたこと」をリリース。ポップなメロディと洗練されたアレンジ、激しいライブパフォーマンスはモッズの枠を超えて多くのロックファンの支持を集め、結成から28年経つ今もシーンの第一線で活躍し続けている。