ナタリー PowerPush - The Cheserasera

この音楽が届くまで この命が終わるまで

曲ができるとすべてが解決できた気分になる

宍戸翼(Vo, G)

──当時からバンドで世に出ようと思ってました?

高校のときから思ってました。一番得意なものが音楽だったんですよ、それまでやったことの中で。勉強もスポーツも振るわなかったけど、音楽は一番できそうな気がしたし、何より楽しかったので。逆に言うと「音楽以外はない」ということなんですけどね。他の仕事はできそうにないし、音楽がなかったら死んじゃうだろうなって。

──ということは大学生のときもバンド中心の生活だった?

サークルに入り浸ってました。学部の友達とかもいなかったし……。大学のミーハーな雰囲気に馴染めなかったんですよね。

──わかるような気がします(笑)。

授業にもあんまり出てなかったんですよ。昼の1時半くらいに起きて、スタジオに入る時間までに曲とか歌詞を書いてて。バイトは一応やってましたけどね。

──当然、就職も考えず。

ハナから考えてなかったです。「働きながらでもバンドはやれるよ」って言われることもあったけど、2つ同時進行は無理だと思ったんですよ。俺、バンドのことばっかり考えてますからね。仕事をしたとしても、そうなるんじゃないかなって。

──そういう時期の心境って、「WHAT A WONDERFUL WORLD」に収録されている「でくの坊」に反映されてるんじゃないですか? 歌い出しが「また遅刻寸前の電車を見送った / 昨日もそうだった 言い訳を考えてる」っていう。

そうですね(笑)。授業が終わる頃に学校に着いて「どうしよう?」みたいなことも多かったし。何もできないなって思ってる時期の歌ですよね、まさに。

──その時期はどうやって音楽に対するモチベーションを保ってたんですか?

曲を作ることですね。「でくの坊」みたいな歌を書いて、それができあがったときにめちゃくちゃスッキリするんですよ、なぜか。状況は何も変わってないんですけど、曲ができたことですべてが解決できた気分になるっていう。今もそうですけど、自分にとっては(曲を書くことは)かけがえのないことなんですよね。

ロックにおいて一番大切なのは、ギターが歪んでいること

宍戸翼(Vo, G)

──今回のアルバムの楽曲からも「これを書かずにはいられなかったんだろうな」という切実な思いが伝わってきます。リードトラックの「月と太陽の日々」はいつ頃の曲なんですか?

最近ですね。最初から「このアルバムのリード曲にしよう」と思って作ったんですよ、これは。メジャー1発目のリード曲って、セットリストの大事なところで演奏されたりするじゃないですか。そういう立ち位置の曲は大事に作りたいと思ったし、今自分が言いたいことだったり、「この気持ちこれからも変わらないだろうな」と思うことを書きたいな、と。

──バンドの核になる曲を作りたい、と。特に「いつかは私あなたのこと / 忘れちゃうかもしれない / でもいつまでも味方よ / 愛してる」というフレーズは印象的でした。

本当のリアルって、そういうことだと思うんですよ。恋人、友達もそうだけど、実際の生活のなかで大事にできる人ってそんなに多くないんじゃないかなって。そのときの旬なこともあるし、その前の思い出はどんどん後ろに追いやられていくじゃないですか。でも、嫌いになったわけではないというか……。「ずっと愛してる」っていうのは現実的じゃないんですよね、自分の中で。まあ、僕はどっちかっていうと未練タラタラのタイプなんですけど。

──「あのとき、こうしておけばよかった」って後悔することも多い?

そうですね。「後悔しないようにこの道を選ぼう」と思っても、そこに対しても後悔が生まれるっていう。悔やむことばかりだなって思ってますね、最近は。

──「ラストシーン」には「理想はいつだって」というラインがあって。宍戸さんにとって理想の状況っていうのはどんなイメージなんですか?

漠然としてるんですよね、それも。ただ「とにかくいいほうに行きたい」という気持ちはずっとあるんです。劣等感も強いし……。今は「まず、日銭を稼がないと」って思ってますけど(笑)、お金持ちになったとしてもこういう気持ちは変わらないでしょうね。

──その話は「思い出して」の「結局どこに行っても愚痴たれるんだな」というフレーズにもつながりそうですね。そのうえで「未来に期待する / それだけが答え」という気持ちを持ち続けるっていう。

「思い出して」はアマチュア時代のデモに入っていた曲で、今回改めてリアレンジして収録したんですよ。歌詞はそのまま使ってるんですけど、ちょうど「でくの坊」を作った少し後くらいの曲だし、嘆きたくなるような気持ちを振り切ろうとしてたんだと思います。「後悔ばかりするな」という言葉も入ってますからね。

──曲を作ることで自分の気持ちを高めるというか。

そうですね。さっきは「スッキリする」って言いましたけど、曲を書いて腹が決まることもけっこうあるので。そういう最高の瞬間って、あんまりないんだけど……。

宍戸翼(Vo, G)

──あとはライブのときくらい?

そうですね。大きい音でギターをガーン!と鳴らすのは気持ちいいですから、やっぱり。この前「ロックミュージックにおいて、僕が大切にしていることはなんだろう?」って考えてみたんですけど、まず思ったのが「ギターが歪んでること」だったですよ。歌詞とはまったく別の観点なんですけど、サウンドにおいては歪んだエレキギターの音が一番大事なんじゃないかなって。

──最近はリズムに重点を置いて、踊らせることを意識したバンドが多いですが、The Cheseraseraのスタンスはかなり違うようですね。

あ、そうかもしれないですね。今って「踊れる音楽で身体を動かして、その後から心が追いついてくる」という感じが多いと思うんです。僕らはそうじゃなくて、まずは心に向けて発信したいんですよね。そこから沸き立つ感情によって身体が動くっていう……。そういう音楽を作りたいんですよ。

みんなが心の中で追い求めてることを自分は言い当てられるかもしれない

──アルバムの最後に収録されている「SHORT HOPE」には、まさに「この音楽が届くまで / この命が終わるまで」という歌詞があって。

最初は「速くて駆け抜けるような曲を作ろう」というところから始まったんです。ドラムの美代君は速いビートが得意だから、それを活かそうと思って。歌詞に関しては、アルバムのテーマ曲みたいなイメージですね。今の自分の気持ちを乗せてみたいっていう気持ちもあったし……。ちょっと恥ずかしいですけど。

──すごく強い決意表明みたいに聞こえますけどね。ここからさらに突き進んでいくんだ!という。

宍戸翼(Vo, G)

もともと僕は「大きい会場でやりたい」みたいなことは全然思ってなかったんです。まずは自分たちが気持ちよくやれて、そのことによって救われたいという感覚が強かったというか。だから事務所が決まって、メジャーから出すってことになったときも「どうしよう?」っていう戸惑いの気持ちがあって……。だけど最近、1つ思ったことがあるんですよ。流行とか社会生活の下で、人々が本当に思ってることがあるんじゃないかっていう。

──なるほど。

どんな人種であっても、若い人でもおじさんでも、対立しているように見える人たちも、心の中で追い求めてることは1つだけで、自分はそれを言い当てることができるかもしれない。もし本当にできたら、ライブ会場もどこまでも大きくなるだろうなって納得できた。それをメジャーでやってみたいんですよね、僕らは。

──このアルバムを聴いて、「まさに自分が考えたいたことだ」と感じる人はすごく多いと思います。最後に「WHAT A WONDERFUL WORLD」というタイトルについて教えてもらえますか?

“なんて素晴らしい世界なんだ”っていう言葉はすごく明るく聞こえると思うんですけど、僕の中では“本当にそうなのか?”っていう目線も入ってるんですよね。そういう疑問を投げかけられたらいいなと思って、このタイトルにしました。

──曲を聴き終った後でこのタイトルに戻ると、意味合いが変わってきますよね。

あ、それはうれしいですね。そうやって深読みできる作品を作っていきたいとも思ってるので。ただ、僕らは曲を作ることとライブにしか関心がないんですよ、ホントに。バンドの表現はそれに尽きると思うので、これからもそこを追求していきたいですね。

メジャーデビューミニアルバム「WHAT A WONDERFUL WORLD」2014年6月4日発売 / 1851円 / 日本クラウン / CRCP-40374
収録曲
  1. 月と太陽の日々
  2. でくの坊
  3. ラストシーン
  4. 彗星
  5. goodbye days
  6. 思い出して
  7. SHORT HOPE
The Cheserasera(ケセラセラ)

宍戸翼(Vo, G)、西田裕作(B)、美代一貴(Dr)からなる、センチメンタルでエモーショナルなギターサウンドが特徴のロックバンド。2009年に東京で前身バンドを結成し、翌2010年に初自主企画「曇天ケセラセラ」を開催したタイミングでThe Cheseraseraに改名。2011年には「COUNTDOWN JAPAN 11/12」の出演者オーディション「RO69JACK 11/12」の入賞アーティスト16組に選出された。2013年10月にタワーレコード限定でリリースした1stシングル「Drape」はタワーレコードインディーズチャートで1位を獲得。2014年1月に初の全国流通盤となる「The Cheserasera」を発売した。その後、日本クラウンからのメジャーデビューを発表。メジャー第1弾作品としてミニアルバム「WHAT A WONDERFUL WORLD」をリリースした。