THE BOYZ|メンバーインタビュー&レビューで掘り下げる “夜明け”を告げる日本1stアルバム

「Breaking Dawn」レビュー

シーンが注目する実力派の新作はコロナ危機に射した希望の光

自粛期間で退屈していた2020年のある日、友人からLINEが送られてきた。「テミン(SHINee)の『Danger』を若手がすごいアレンジでカバーしてる!」。かなり興奮気味でテンション高めのテキストが、YouTubeのリンクに添えられていた。とはいえ「Danger」は個人的に思い入れの深い1曲。「テミン以外がカッコよくやれるわけないじゃん」と斜に構えて動画を再生した。

それは、THE BOYZがMnetの番組「Road To Kingdom」に出演した映像だった。「Road To Kingdom」は「Kingdom: Legendary War」という番組への出演権をかけて新人同士がパフォーマンスで競い合うサバイバル番組。THE BOYZは「Danger」のオリジナルの振り付けをオマージュしつつ、優勝のために危険(Danger)な階段すら駆け上がっていくというストーリーをパフォーマンスに加えた。しかもそれをセットではなく、11人のメンバーが体を張ってアクロバティックに表現したのだ。もちろん階段も自らの体で表現。これにはさすがに度肝を抜かれ、「こんなすごいやつらがいたのか……」と己の無知を恥じた。もちろんTHE BOYZは優勝。夏頃にはそこかしこでTHE BOYZの名前を聞くようになった。だが「Kingdom: Legendary War」の制作はコロナなどの紆余曲折を経て延期となり、4月1日からようやく放送される。

3月17日にリリースされる日本オリジナルアルバム「Breaking Dawn」には、そんなお膳立てがある。彼らにとっては、絶対にしくじれない勝負の作品とも言える。

アルバムリリースに先駆け、タイトル曲のミュージックビデオが公開に。このMVが素晴らしいのは、派手なセットや余計なイメージカットはなく、個々人のソリッドなパフォーマンス、グループとしてのフォーメーションの妙をしっかり見せてくれるところ。さらに驚かされたのはメンバーたちの表情だ。「Road To Kingdom」が数年前かと思えるほど垢抜けて洗練されている。たった1年でこんなに雰囲気が変わるものか。本作に対するメンバーの並々ならぬ気合いが伝わってくる。

THE BOYZ
THE BOYZ

ダークな不協和音とドデカいビートだけが曲を引っ張る序盤のトラックは、コロナが世界中を襲った陰鬱な2020年を想起させる。そこから「Breaking Dawn(夜明け)」と歌うフック(サビ)につながるが、ここには「逢えない君のことを想い続ける」「自分の出来ることに集中するんだ」というアルバム全体のテーマが集約されている。このステイトメントは、芸能活動も難しかった昨年に、懸命な努力で素晴らしい「Danger」のカバーを披露してくれたTHE BOYZが歌うからこそ、より強い説得力があると言えるだろう。

さらにこの曲が新しいのは、K-POPの魅力を損なうことなく、曲中で日本人にメッセージを伝える方法論を確立した部分だ。日本人がK-POPを聴くとき、どこに魅力を感じているか? それは韓国語の響きだ。ハングルの歌がカッコいい。だからみんなネットでカナルビを検索して必死に覚える。日本語バージョンや英語バージョンよりもハングルバージョンがいい。この「Breaking Dawn」は日本盤のために作られた曲だが、最後のヴァースまで日本語が出てこない。K-POPの音楽面での特徴は、インターナショナルなサウンドのトレンドを素早く大胆に取り入れるが、最終的に演歌を思わせるダイナミックな歌い上げに着地するところだ。「Breaking Dawn」のメッセージはまさにラストの歌い上げパートに集約されているのだが、そこの歌詞のみが丸ごと日本語なのである。画期的なアイデアだと膝を打つ思いだった。

そして同時に触れておかなければならないのが、THE BOYZの日本語のうまさ。日本語ベースで作られたバラード「FLAG」やミディアムダンストラック「Penalty」でのイントネーションは完璧。韓国人には発音しづらい日本語すらもなんなくこなしていた。どれだけ練習したのか、もしくは耳がいいのか。歌唱と表現力はK-POPクオリティなので、言うまでもなく抜群。個人的に一番好きだった曲は、アダルトなオルタナティブR&Bチューン「HUSH」。意図的に崩した日本語のフロウが気持ちいい。ライブで観たい。スーツ風の衣装にダークな照明で、フォーメーションの妙も感じさせるようにボーカルチームとラップチームが入れ替わりで出て来たら超カッコいいだろうな、なんて妄想した。

私はニワカなので、まだTHE BOYZのライブを観たことがない。だからこそ、ペンたちの熱狂的な声援をエネルギーに換えてパフォーマンスする彼らのライブを生で体験したい。今回のアルバムはもちろん、過去のあの曲もこの曲も。すぐには無理かもしれないが、その日は必ず来る。アルバムはもちろんエンドレスリピート。「Kingdom」でもTHE BOYZを応援していれば、きっと彼らは日本でもライブを見せてくれるはずだ。

「逢えない君のことを想い続ける」「自分の出来ることに集中するんだ」。改めてポジティブで素晴らしいメッセージだと思った。