小池貞利(teto)×谷口鮪(KANA-BOON)対談|ロックバンドで在り続ける理由

tetoの2ndフルアルバム「超現実至上主義宣言」が10月23日にリリースされた。2018年9月の1stアルバム「手」の発売に前後して大型音楽フェスをはじめさまざまなイベントに出演し、ライブバンドとしてさらなる成長を遂げたteto。今年の初夏に行われた全国ワンマンツアーも盛況で、超満員となった東京・TSUTAYA O-EAST公演で2ndフルアルバムのリリースが発表されると、会場は歓喜の声で満たされた。

ファン待望の2ndフルアルバム「超現実至上主義宣言」には、tetoらしいみずみずしくエネルギッシュなサウンドとこれまで以上に幅広いリスナーを魅了するポップさを併せ持った15曲を収録。今のtetoを存分に感じられる1枚に仕上げられている。この作品の魅力を紐解くべく、音楽ナタリーではtetoのフロントマン小池貞利(Vo, G)と、彼と同じく1990年生まれでありながら一足先に2010年代のロックシーンを切り開いてきたKANA-BOONの谷口鮪(Vo, G)のクロストーク企画を実施。大型ライブなどでの共演を経て親交を深めてきたという2人が令和元年の今、ロックバンドのソングライターとして提示していきたいこととは。じっくりと語り合ってもらった。

取材・文 / 天野史彬 撮影 / 伊藤元気

99%無理でも残りの1%を信じてる(小池)

──お二人は年齢も同じで、プライベートでも飲みに行くほどの仲だと伺ったんですが、そういった関係性はいつ頃から始まったんですか?

小池貞利(teto) 知り合ったのは、今年の3月くらいなんですよ。それから2人でごはんを食べに行ったりするようになって。そんなにしょっちゅう会っているわけでもないんですけど……。

谷口鮪(KANA-BOON) 大して仲良くなさそうに貞ちゃんはいいますけど、僕は仲がいいつもりです(笑)。

小池 いやいや、もちろん仲いいです(笑)。まぐちゃんは女房役になってくれるというか、俺が話したいことを話しまくっても、ちゃんと聞いてくれるんです。

谷口 貞ちゃんは自分をバンバン出せるけど、僕はあんまり出せないタイプなんですよ。音楽云々というよりも、そういう性格的な部分での相性もいいんだと思います。僕が鬱屈してため込んでいたことを、貞ちゃんが音楽や普段の会話の中で代弁してくれこともよくありますし。

──お二人ではどんなことをお話されるんですか?

谷口 基本的には音楽の話ばっかりです。僕がどれだけマンガや映画の話にいこうとしても、結局、貞ちゃんに音楽の話に戻される。しかも貞ちゃんの「俺の音楽は最高だ!」という話に(笑)。

小池 俺、自分大好きだから(笑)。

──ははははは(笑)。

小池貞利(teto)

谷口 こんな人そういないし、見ていて気持ちいいです(笑)。あと、品の話とかもよくしますね。

──品の話?

谷口 音楽を作るうえで上品であるか、下品であるか、という話です。歌詞1つとっても、アレンジ1つとっても当てはまることなんですけど。特にtetoは音もデカいし、演奏も激しい……よくも悪くもただ泥臭いだけのバンドでもよかったと思うんですよ。でも、そこをちゃんと上品なものへ昇華するためにいろいろと間引いているんですよね。ガシャーン!っとやっているけど、下品にはならない。そこが、僕がtetoの音楽ですごく好きなところ。

小池 絶対に下品にはならないようにしたいというのは、自分でも意識していて。俺自身、汚いものを汚いまま表現しているようなものを見るのが、あまり面白いと思わないんですよね。例えば、お店に魚を食べに行ったとして、同じ魚でも生魚がボンッと出されるんじゃなくて、ちゃんとキレイに切って盛り付けられていること、そうなるまでの過程があることが大事だと思うんですよね。もちろん、生魚のまま出されたものもインパクトがあって面白くはあるんだろうけど。そういうわかりやすい面白さも大事だけれど、俺は「ひと手間加えたい」という思いがあるんです。自分はリスナーとして、ひと手間が加えられているものが好きだし。

谷口 そこが、僕が貞ちゃんをカッコいいなと思うところ。ちゃんとエンタテイナーであろうとしているというか。世の中の誰しもが理想の自分とか、違う自分を日常生活の中でも作り上げていると思うんですけど、ステージに立つ立場となると、それはある種の強制……つまり“やらなきゃいけないこと”になってくると思うんです。貞ちゃんの場合はそれを能動的にやろうと動いていて、俯瞰して見たうえで演じきっている。誰だって、そのままの自分をさらけ出したいとは思うだろうけど、それをやってしまっては面白くないんですよね。

小池 それこそ、まさに下品なことだからね。そもそも普通に生きていれば、「こんなことを成し遂げるのは99%無理だ」という現実に直面したりもするじゃないですか。でもステージに立っている俺は、クサい言い方になるけど、残りの1%をずっと信じてるんですよね。そしてその1%をいかに大きくするのか考えて実行していくことが、自分たちのやるべきことだと思うから。

tetoもKANA-BOONもやっていることは変わらない(小池)

──勝手なイメージですけど、お二人共、そこまで簡単に他人と仲良くなりそうもない感じがするんです(笑)。でも、tetoとKANA-BOONは音楽的にやっていることも違う部分が多いとは思うけど、こうやって親密な仲になっている。やはり、どこか奥底の部分で通じ合っているものがあるということですかね。

谷口 前はtetoのほかのメンバーからも、「仲いいの意外やわ」とよく言われていましたよ(笑)。僕は自分の性質として、貞ちゃんのようにロックスター的な気質がある人には、自分と正反対のものだからこそ惹かれる部分もあるんです。そうでなくても、根本で通じ合っている感覚はあるし、どこか近いところはあるんじゃないかとも思うけど……どう?

小池 自分としては、tetoもKANA-BOONもやっていることは変わらないと思っていて。見せ方は違っても、思っていることや考えていることが近いというか。そもそも音楽をやる人が根本の部分で芯にしているものは、第一線でやっている人たちと自分たちでも、そんなに変わらないと思うんです。いろいろ枝分かれしているというだけで、根本的にカッコいいと思うことは、みんなきっとそんなに変わらないはず。まぐちゃんとはそういうこと自体をわかり合えているから、向き合って話せるんだと思うんですよね。それがわからない人とうまく話はできないような気がする。言っていることの意味を理解してもらえないだろうから。

谷口 それはあるかもしれないね。

──谷口さんは、tetoの新作「超現実至上主義宣言」を聴いて、どんな印象を持たれましたか?

谷口鮪(KANA-BOON)

谷口 これまでと音作りが全然違うし、攻めている感じがしました。今回はかなりきっちりした音像に仕上がっていると思うんですけど、tetoがこういうものを発信するということは、意識的に受け口を大きくして、もっと多くの人に聴かれようとしているからだと思うんです。きっと、tetoはもともと多くの人に聴かせることを前提としたバンドだったんだろうし、だから僕も好きになったんだと思うんですけど。今回はそういう部分に、すごく説得力があるなと思いましたね。あとこれは常々言っているんですけど、貞ちゃんの声はいいですね。グワーッて叫ぶ部分ももちろんいいんですけど、僕はそこよりも、ちゃんと歌を歌っているときの貞ちゃんの声がすごく好き。サビよりも、AメロやBメロの歌声が好きなんです。今回のような音像にすると、そこがすごく映えるなと思いました。今回のアルバムで特に気に入ったのは「声のもと」と「ねぇねぇデイジー」。今、tetoが大きく注目され始めているタイミングでこういうアルバムが世に出るところがいいなと素直に思いました。

小池 ありがとうございます。まあ、前作と違うことをやろうということしか考えていなかっただけなんですけど。ただ活動を続けていく中でいろんな人から何かを与えてもらうことが増えてきて。誰かから何かをもらったのなら、それはきっちりと返さなくちゃいけない。俺らが返せるものって音楽しかなかったから、今たくさんの人たちにその気持ちを返そうと思った結果がこういう音だったのかなと思う。まぐちゃんもそうだと思うけど、音楽って、歌詞にしろ、曲にしろ、音像にしろ、そのときどきの心情がどうしても色濃く出てしまうものだからね。だからもしかしたら次のアルバムは、まぐちゃんの嫌いな、グチャッとした音像のものになるかもしれない(笑)。

谷口 そういうのも、嫌いじゃないけどね(笑)。歌詞も、今までとけっこう変わったよね? 今までは物事をすごく俯瞰で見ている感じがあったし、それ故に比喩を使ったりしている部分も多かった。そこも1つの上品さだったと思うんだけど、今回はあくまでも貞ちゃん視点というか、貞ちゃんの心情をそんなに遠回りさせずに出しているのかなと感じた。貞ちゃんは「もらったもの」と言ったけれど、ライブをたくさんやってきた経験が曲にフィードバックされているのかなと思ったりもしたけどね。

小池 確かに、そうかもしれない。