玉井詩織ついにソロアルバム発表!「何者にでもなれる」個性を表現したcolorS (2/2)

シティポップムーブメントの先駆け「涙目のアリス」と声の資質

──12カ月連続の音楽制作は大変でした?

曲作りについては、写真のイメージが先にあったから「こういう内容にしたい」というアイデアを膨らませやすかったけど、それで言うと写真を撮ってるときのほうが大変だったかもしれないです。知らず知らず似たり寄ったりのイメージになりそうで、引き出しの乏しさに悲しくなったり(笑)。ソロと言っても自分1人でなんとかしなきゃいけないとも思っていなかったので、何もひらめかなかったらスタイリストさんに「次はどんなのがいいと思う」と聞いてみたり、カメラマンさんに「こういうアイデアがあるんですけど、どうしたらよくなりますかね」と相談してみたりとか。何も出てこなければ人に頼る(笑)。1年続く企画なので写真も曲作りも大変ではありましたけど、楽しさのほうが上回ってましたね。

玉井詩織

──各楽曲のテイストは、往年の歌謡曲を彷彿とさせるものから、疾走感あふれるさわやかなロック、近年のダンスポップをイメージさせるものまで本当に多種多様ですね。各楽曲については配信リリース時にいろんな場所でコメントされていると思いますが、改めて振り返ったとき一番思い出に残っている曲を1曲だけ選ぶとしたら? 特に新しい扉が開けたとか、単純に気に入っているとか。

難しいなあ。あえて1曲だけ選ぶなら……「暁」ですかね。ソロプロジェクトの最初の曲だし、この企画がどう転ぶかが決まるバロメーターというか。ファンの方がどう反応するかも気になったし、自分がここから12カ月続けていけるのか(笑)、そういう自分の中での指標になった曲なので。写真を元に作るというコンセプトだったから、ぜいたくにも5曲くらい作ってもらって、その中から一番イメージに近いものを選ばせてもらったんですよ。いくつかの中から選ぶとなると、自分の好みとか歌いやすさとか、そういうところで選んでしまいそうなところを「いや、これは違う」「この写真に合うのが一番だ」とじっくり考えて。

──あくまでビジュアルありきで。

はい。1月に発表するために撮った写真で、私のイメージにはないであろう和服を着たビジュアルだったから、音楽的にも私のイメージから遠いものにしたくて。写真のイメージ優先で曲を選んだから、うすうす気付いてはいたけど、レコーディングは本当に難しかった(笑)。高いし速いし、音程が上下に一気に飛ぶ感じとか、私の感覚でいうとYOASOBIさんの曲に近い印象で。選んではみたものの歌えるのかな?という心配はありました。

「暁」配信ジャケット

「暁」配信ジャケット

──確かに一発目から意外性のある曲だと思いましたけど、逆に意外ではない曲、音楽的な「玉井詩織のイメージ」を玉井さん本人はどう捉えている?

やっぱり私のソロと言うと「涙目のアリス」の印象が強いと思うんです。シティポップみたいな曲が声質に合うといろんな方に言われるし、自分でもそう思うものの、ベースは1980年代、90年代のポップスを思わせるものにしながら新しい扉を開けたい気持ちもあって。

──2012年のライブで「涙目のアリス」が初披露されたとき、作曲が林哲司さんということで、ももクロファン以外にも話題が波及していました。「涙目のアリス」と「…愛ですか?」はボーカルを再レコーディングして新たにミックスを施した“NEW SHIORI ver.”としてアルバムに収録されています。オリジナルバージョンの無垢なボーカルも80年代アイドル感があってよかったですけど、今の声で歌うとよりシティポップとしての強度が増しますね。

「涙目のアリス」を発表したのは高校生のときでしたけど、当時の私にとってはすごく大人っぽい世界観で。「都会の中の孤独感」が曲のテーマだと言われても、都会のことなんて知らないし全然わからなかった(笑)。コアな人気がある曲だとは聞いていたし、今となっては皆さんが騒いでいた理由もわかります。でもあの頃は私もソロで歌うならあーりんみたいな曲がよかった(笑)。「だって あーりんなんだもーん☆」とかメロディもかわいいし、キャッチーだし。「なのにどうして私はこんな悲壮感のある曲なんだろう?」って思ってました(笑)。なんであの頃の私にシティポップを歌わせようと思ったのかわかりませんけど。

──おそらく玉井さんの「何者にでもなれる」資質を当時のスタッフが見抜いてたということでしょうね。80年代風アイドルを憑依させるといい演技をすると。

なるほど。そう考えると納得です。

玉井詩織
玉井詩織

実は珍しい王道のラブソング

──再レコーディングは昔の自分と向き合う作業でもあったかと思いますが、「…愛ですか?」で13年前の自分と向き合ってどう感じましたか?

「…愛ですか?」を最初に歌ったのは……あれ、いつだっけ?

──2011年の中野サンプラザが初披露ですね。

あかりん(早見あかり)の最後のライブのときだ(参照:ももクロあかり最後のステージ「私は本当に幸せ者です」)。13年前……まだ中学生の頃だから、歌うというのがどういうことかまったく考えてなかった(笑)。歌とは決められたメロディにただ声を乗せるだけの作業だと思ってたので、今聴き返すとなんの感情もないですよね(笑)。当時は逆にそれがよかったのかもしれないですけど。そこから13年、歌というものに向き合ってきて、葛藤することもあったりとか、歌に対する思いが徐々に変化してきたんだなと思います。少しずつ向き合えているし、歌が好きになれているんだなという実感がありました。

──「…愛ですか?」は妹キャラに対する当て書きのような曲ですからね。中学生にとっては深く考えるような要素はなかったかもしれない。

でも今になって思うと、ももクロとしては実は珍しい王道のラブソングなんですよ(笑)。当時は何も考えずに歌っていたけど、「あなたを強く想う気持ち…愛ですか?」ってすごいフレーズですよね。改めて歌詞を眺めて「何これ、すごいキュンキュンする曲じゃん!」って驚きました。校舎のシチュエーションとか今の自分にはすごくエモーショナルだし、ストレートなラブソングなので、歌うのがちょっと恥ずかしかったですね(笑)。

ちょっと前向きに検討します

──先日のソロコンでは、毎月配信リリースされたソロ曲やももクロナンバーからチョイスした楽曲に加えて13番目の新曲「Shape」が披露されました。この曲はアルバムにも本編ラストを締めくくる形で収録されています。

この曲は、実は私の発案じゃないんです。あはは。キングレコードさんからのプレゼントみたいな。12曲いろんなジャンルを歌わせてもらって、そのうえで12カ月の総括というか、1年通して成長できた自分がスタッフの皆さんには今こういうふうに映っているのかな?と思いました。

──12カ月連続リリースを経て、次の一手を見せる形で「SHIORI TAMAI 12 Colors」のプロジェクトは完結し、アルバムを制作するに至りました。ソロコンも大成功と言える内容で。であるからこそ、ここから先の玉井詩織ソロはどう展開していくのだろうと考えてしまいますが……。

……。

──一連の活動を経てソロのスイッチが入った、という話を今日は期待していたんですけど……そんなに乗り気ではなさそうですよね(笑)。

あはははは! そうなんですよねー。

──タマノフ(玉井詩織ファンの呼称)の意見を代弁する形で一応そそのかしておかなければと思うので。こんなアルバムを作り上げたのだから、継続したほうがいいですよ。

いや、でも前ほどソロ活動に対するネガティブな気持ちはないですよ。「メンバー全員がソロでも活動して、グループになったらよりパワーアップする」というのが私たちの理想でもあるので。ただ、ソロの活動をしているとなんだかいけないことをやっているような(笑)、もっとグループのことをやんなきゃ!という考えが抜けないんですよ。

──シティポップ好きをはじめ、新たなファンも獲得できると思いますよ。

ソロ活動が巡り巡ってグループに還元されることも身に染みてわかったので……前よりは周りの意見を聞き入れようかなとは思ってます。やったほうがいいよと言われたら、ちょっと前向きに検討します(笑)。

玉井詩織

プロフィール

玉井詩織(タマイシオリ)

1995年6月4日生まれ、神奈川県出身。2008年結成のアイドルグループ・ももいろクローバーZのメンバーで、イメージカラーは黄色、キャッチフレーズは「ももクロの若大将」。2018年にNHKの連続ドラマ「女子的生活」にメインキャストで出演し、2019年からはフジテレビNEXT「しおこうじ玉井詩織×坂崎幸之助のお台場フォーク村NEXT」のMCを務めている。そのほか、映画やバラエティ番組への出演など、個人での活動は多岐にわたる。2023年1月にソロプロジェクト「SHIORI TAMAI 12 Colors」を始動し、12カ月連続でソロ曲を配信リリース。2024年3月に東京・東京国際フォーラム ホールAで初のソロコンサート「いろいろ」を行い、29歳の誕生日を迎えた6月4日に1stソロアルバム「colorS」を発表した。現在放送中の連続ドラマ「お迎え渋谷くん」に出演するなど、音楽以外にも多方面で活躍中。