ナタリー PowerPush - 竹渕慶

Goose houseの歌姫が明かす誰かのために歌う理由

単なる集大成ではなく、これからの私も感じてもらえる

──ここからは「KEI's 8」の話題に移りたいと思います。アルバムには高校生の頃に書いた「舞花~my flower~」も収録されていますが、全体的にはこの何年間で書き溜めた中から選ばれた楽曲なんでしょうか?

竹渕慶

そういう曲もあるし、このアルバムのために新しく書き下ろした曲もけっこうあるんですよ。それ以外だと「ドロシー」は高校3年生のときに書いた曲がもとになっていて。文化祭で自分のクラスの出し物で演劇をやることになって。シンガーソングライターになりたい女の子が夢をあきらめかけるんだけども、友達や周りのみんなの後押しで最後に路上でたくさんの人が集まってる前で歌うっていうストーリーで、そのラストで歌う曲を作ってほしいと言われたんです。

──それが「ドロシー」の原曲であると。

はい。「夢を叶えにいこう」っていう内容なんですけど、演劇ってことで「オズの魔法使い」をコンセプトにしてるんです。最初に作ったときはメロディが今と一緒だったんですけど、劇の最後でキャスト全員が歌うことになってちょっと合唱曲っぽいアレンジにして、メロディも少し変えたんですよ。それを今回アルバムに入れようってときにメロディをもとに戻して、歌詞も今の自分の心境に合わせた内容に変えて。劇で歌ったときとはメロディも歌詞も違うけどタイトルは「ドロシー」のままなので、きっと同級生は「これってもしかして、あのときの曲だよね?」って気付くと思いますよ。

──じゃあ今回のアルバムは竹渕慶の原点的な楽曲もありつつ、これからを感じさせる新曲もあると。

そうなんです。単なる集大成ではなくて、今の私やこれからの私も感じてもらえるんじゃないかと思います。

「車輪の唄」バラードアレンジの秘密

──アルバムにはGoose houseでも披露したBUMP OF CHICKEN「車輪の唄」のカバーも収録されています。僕もそうでしたが、原曲を知ってる人はこのカバーを聴いてそのアレンジに驚くと思うんです。

竹渕慶

ですよね。テンポも全然違うので。「車輪の唄」はファンの皆さんの中でも1、2を争うぐらい人気の曲で。最初にカバーしたのはもう2年半ぐらい前かな。まだPlayYou.Houseが始まったばかりの頃だったけど、「たぶん合うと思うよ」ってことでピアノでバラード風にアレンジしたんです。これも特に打ち合わせることなく、自然とこのテンポになって。実際にメロディはすごくバラード的だと思うんです。で、このテンポにしたことで「こんな歌詞だったんだ」とよく言ってもらえるんですよ。

──おっしゃるように、この伸びやかなメロディって確かにバラードっぽいんですよね。実際このアレンジにピッタリ合致するし。

このメロディだったら普通はバラードにしちゃうところを、あえてアップテンポにして、マンドリンとかを使ったカントリーテイストのアレンジにしちゃう。本当にBUMP OF CHICKENさんはすごいなって、改めて思いました。

まず披露する場があって、そのために曲を作っていた

──ここまでお話を聞いていて面白いなと思ったんですが、竹渕さんは小学生のときに「勇気」というテーマで初めて曲を作ったし、高校でも演劇のために曲を書いてほしいと頼まれて作ってますよね。それって例えば作家さんが発注を受けて曲を作るのにどこか似てるんですよね。

あー……確かに! 「舞花~my flower~」も先輩の卒業式で歌うために作ったし……今気付きました(笑)。

──その感覚がすごく興味深いなと思って。

なんでですかね。誰かのために曲を作るとかそういう意識ではなかったんですけどね……もちろん「舞花~my flower~」は先輩のためでもあるんだけど。そういうテーマを与えられることで、たぶん知らないうちに人に聴いてもらうことを意識して作るようになっていたのかも。高校の頃は殻に閉じこもった詞も書いてたんですけど、そういう曲って人に聴かせても共感してもらえなくて。そう考えてみると、世に出した曲は全部何かテーマや対象があって書いた曲ですね。

──自分を知ってもらいたくて歌詞や曲を作るというより、とにかく多くの人に共感してもらえる曲をどんどん作りたい?

そうかもしれないです。まず披露する場があって、そのために曲を作っていたので。聴いた人の心が動くような曲を作らないとって、ずっと思ってました。確かに。

経験したこと全部を今の自分に生かせてる気がする

──「KEI's 8」を聴いてもう1つ強く思ったのは、「これが竹渕慶です」と強く主張するんじゃなくてまずは作品の世界観を大切にするということ。とにかくストイックに音楽を追求してるように感じました。

竹渕慶

以前tetra+というバンドを組んでたんですけど、そのときのメンバーがみんな音楽マニアばかりで、「いい音楽を追求した作品を作ろう」って常に言ってたんです。それはどうしたら売れるかとかどうしたら今の流行の音になるかとかではなくて、純粋に「長く愛される、いい音楽を作る」ということで。その「いい音楽を追求する」っていう姿勢は、以前のバンドで学んだのかもしれませんね。

──でも竹渕さんは単なる自己満足で終わらず、客観的に物事を見られてますよね。そこがちゃんとできてるのがすごいなと。

それはいろんな方に協力していただいて、いろんなことを学んだ結果だと思います。

──バンド活動やGoose houseでいろいろ刺激を受けたり、いろんなことを学んだと?

そうですね。私が経験したこと全部を今の自分に生かせてる気がします。

──これまでの経験が生かされたアルバム「KEI's 8」がいよいよリリースされますが、今の心境は?

デビューは宇多田ヒカルさんに出会った小学生の頃から憧れていたことの1つだし、それが実現したわけですけど……正直、まだ実感がないですね(笑)。

──竹渕さんが宇多田さんの「First Love」に出会って歌手を目指したように、このアルバムがいろんな人に影響を与えるような作品になるといいですね。

そんな作品になったら本当にうれしいなあ……この「KEI's 8」を聴いて「歌手になりたい」と思う人が出てきたら、歌手冥利に尽きるというか。すごく感慨深いですね(笑)。

竹渕慶 ミニアルバム「KEI's 8」/ 2014年3月5日発売 / Sony Music Records / SRCL-8480
竹渕慶「KEI's 8」[CD] 2500円 / SRCL-8480
収録曲
  1. ありがとう
  2. ブルーラブソング
  3. ドロシー
  4. cotton snow
  5. MERMAID
  6. ごめんねなんて言わない
  7. 車輪の唄
  8. 舞花 ~my flower~
竹渕慶(たけぶちけい)

Sony WalkmanのPlayYou.House企画から独立したシンガーソングライターが集う次世代ユニットGoose houseのメンバー。2011年からGoose houseの活動がスタートすると主だったメディア露出がない中、インターネットの口コミを中心にファンを獲得し、YouTubeの総再生回数は2億5000万回、チャンネル登録者は70万人を超える。CD制作、ライブにも精力的に活動。2014年2月にはGoose houseとして、アニメ「銀の匙 Silver Spoon」第2期エンディングテーマ「オトノナルホウヘ→」をCDリリース。そして竹渕自身も「Goose house×Sony Music Records Inc.」というソロプロジェクトで、3月にミニアルバム「KEI's 8」でデビューを果たした。