高橋洋子|世界に向けてエクストリームなエヴァを

高橋洋子、どうしたの?

──今作「EVANGELION EXTREME」はそのタイトルが示す通り、「エヴァ」絡みのエクストリームな楽曲ばかりで構成されていますね。

今回は、今までリリースした中でも意外とあまり知られていない楽曲を、もう一度まとめた形で出したかったんです。というのも、私は去年の6月に初めて「残酷な天使のテーゼ」と「魂のルフラン」をカップリングしたシングルをリリースしたのですが、その際に海外の方にも向けた作品にしたくて、ブックレットに歌詞のローマ字表記と英語翻訳を付けたんですね。この2曲に関しては、世界中のどの国で披露しても皆さん日本語の歌詞で歌ってくださって、いつも本当に感動するんですが、そうやって世界を回っているうちに、海外の方は、わかりやすく手に取りやすい形でパッケージングした作品を求めていらっしゃるのかなと思いまして。そこで今回は、私がもっとたくさんの人に聴いてほしい楽曲に新曲を加えて、ローマ字表記と英語翻訳の歌詞を付けてまとめることにしたんです。

──ある意味、世界に向けた作品でもあるんですね。

私は今も世界のあちこちでライブをさせていただいてますけど、最終的には単独のコンサートツアーで世界を回りたいという思いがあるんですね。そうなるともっとたくさんの楽曲を皆さんに知っていただきたいですから。

──タイトルの「EXTREME」という言葉にはどのような意味が込められているのですか?

「エヴァ」は非常にエッジの効いた作品で、昭和の作品の主人公は「カッコよさ」や「強さ」を個性にしていましたけど、「エヴァ」の主人公は大人でも子供でもない14歳の普通の少年で、しかも少し弱いところがある。でも「弱さを出す強さ」を持っていて、要するに「みんなの中にある自分」を持った人が主人公になっていることが、ものすごく大きな影響を与えたと思うし、そこに哲学的な要素が加わって、視聴者1人ひとりの答えが違う作品になったと思うんです。なおかつ「エヴァ」はまだ完結していない。そういう作品を音楽で表現するとなると、自分たちとしてもエクストリームにせざるを得ないんですよ。

──本作に収録されている「慟哭へのモノローグ」(2010年4月発売のシングル曲)と「暫し空に祈りて」(2013年3月発売のシングル曲)も、そうしたエクストリームさを求めて生まれた楽曲ということですね。その2曲と同じく大森さんが作編曲された新曲「赤き月」も、また壮大かつすさまじい楽曲ですが……。

「こう来るか!」ということですよね? そう思われる曲にしたかったんです(笑)。「高橋洋子、どうしたの?」と言われるぐらいじゃないと、やる意味がないですから。私の歌はよく「母性がある」と言われて、及川眠子さんも「やっぱり洋子ちゃんは母性なんだよね」とおっしゃっていたんですが、この新曲に関しては特に母性を意識して制作したんです。やはり私が「エヴァンゲリオン」に関わるとしたら、年齢的にもそういう立ち位置だと思いますし。

200%「エヴァ」を意識した新曲

──今回は「エヴァ」関連曲では珍しいことに及川眠子さんではなく、高橋さんがご自身で作詞をされています。そもそも「赤き月」というタイトル自体が「エヴァ」っぽいですよね?

高橋洋子

まあ、それ以外にないですよね(笑)。ただ、この「赤き月」が何なのかを説明するとしたら「自分の中にある月」であり、自分自身ということでもあるんです。なので歌詞の中に「赤き月」という言葉は出てこないんです。

──高橋さん自身が「赤き月」であり、それがこの曲の歌詞における母性的な表現に直結すると。

そういうことですね。この曲は立ち位置としてはシンジくんのお母さんに近いと思うんですよ。まあ「『エヴァ』における母とは何なのか?」を考えると、話が終わらなくなるんですけど(笑)。そういう複雑な背景を踏まえたうえでも、母はどんなときでもあなたの背中を押す勇気でありたいと思っているはずなんです。だから「強く生きろ!」「前に行け!」という、そばにいられない母の思いが込められています。

──その見守る母のような視点は「暫し空に祈りて」の歌詞にも通じる部分があります。

はい、一緒です。それが「エヴァ」において私が触れることのできる唯一の場所なので。私は音楽セクションの人間なので、やっぱり「エヴァ」のストーリー性の部分にはいないんですよね。

──サウンドも非常に挑戦的で、まずEDM調のスケール感のあるトラックに驚きました。

初挑戦です。「私がEDMをやっていいんですか?」という感じなんですけど(笑)、「高橋洋子がまだやり残していることはEDMだろう」ということになりまして。それにコンサートでお客様に楽しんでもらうことを考えると、EDMのビート感はすごく乗りやすいんです。コンサートでいつも思うのは、みんながいたから私は歌えているということで、私自身はこの24年間を「エヴァ」と共に生きてきた背景もありますし、「エヴァ」に関わる曲を歌う場合は、皆さんの参加した状態が完成形だと思っているんです。今回はそういう作品にしたくて、後半に世界中のみんなで歌えるように「ナナナー」というコーラスを盛り込んだりして。それと間奏では(ヒューマンビートボクサーの)HIRONAくんに参加してもらってるんですが、コンサートではその部分でダンサーによるダンスバトルをやりたいんですよ。要は実際に足を運んでいただいて、一緒に歌っていただいて、あるいはパフォーマンスを観ていただくことで曲が完成する作りを目指しました。

──間奏がまた超絶的なヒューマンビートボックスとピアノがせめぎ合う、楽曲の中でも印象的な見せ場になっていますね。

あそこはダンスバトルのパートでもあり、ヒューマンビートボックスとピアノのバトルでもあるんです。もしピアノがある場所でこの曲を披露する機会があれば、私がピアノを弾こうと思っているんですけど、あのフレーズは弾けないですね(笑)。あのピアノは打ち込みなんですよ。私が「プログレみたいにして」とお願いしたんです。でもぜひこの曲をHIRONAくんも入れて生で披露する機会を設けたいと思っています。

──楽しみにしております。それにしてもこの曲の大森さんのアレンジは素晴らしいの一言に尽きますね。

大森さんはどんな難題をお願いしても絶対に80点以上を取る方。それに私が唯一ワガママを言える相手でもあるので、今回はヒューマンビートボックスのことや、コーラスのことで無茶をお願いしちゃいまして(笑)。今回のアレンジでも無茶をお願いしたからかけっこう苦戦していたみたいなんですけど、何かの拍子に気持ちが切り替わってからはすぐにできたみたいで。「やっぱり天才なんだなあ」って、しみじみ思いました。毎回私が思っていた以上のものを返してくださるので、すごく頼りにしています。

──曲の最後が唐突に終わるところも「エヴァ」っぽいと思いました。

アハハ、エクストリームですから(笑)。やっぱり200%「エヴァ」を意識してますので。

──そういう意味では「エヴァ」の世界観に完全に寄り添った、まさに「EVANGELION EXTREME」のタイトルに恥じない内容になりましたが、高橋さんは今作がご自身のキャリアにとってどのような作品になったとお考えですか?

私にとっては「始まりの作品」というイメージが強いですね。私は「残酷な天使のテーゼ」があったからこそ、ここまで来ることができたわけですし、来年に予定されている「エヴァ」の新作映画の公開に向け、私自身も「エヴァ」の大ファンとして、勝手に応援隊長になった気持ちで、作品を盛り上げて世界中の人にお伝えしていきたいんです。なので去年のシングルから取り組んでいることではありますが、ここからまた世界に向けて発信していく「始まり」が、この「EVANGELION EXTREME」だと思っています。

──平成という時代を「エヴァ」と共に駆け抜けた高橋さんの、新元号になって最初の作品としてもちょうどいいですね。ちなみに令和に入ってからも「残酷な天使のテーゼ」はいろんなアレンジで歌っていく予定ですか?

実は今年の夏のリリースに向けて、「残酷な天使のテーゼ」の和太鼓アレンジという、これまたものすごくエクストリームなものを制作しているところなんです(参照:高橋洋子「残酷な天使のテーゼ」新バージョンは和太鼓アレンジ)。私は以前から盆踊りや、やぐらを囲んで踊る日本のお祭りに歌手として参加したい思いがありまして、それを何かいい形で実現できないか相談していたんですよ。今回は和太鼓奏者の林英哲さんにお願いしまして、24年前に私が歌った「残酷な天使のテーゼ」の歌をそのまま使ってアレンジをしていただいてます。日本を代表する文化となったアニソンと日本のお祭りが合わさった、世界に発信できるものになっているので期待していてください。皆さんが輪になって「エヴァンゲリオン音頭」を踊る日も近いと思います(笑)。

高橋洋子
高橋洋子「EVANGELION EXTREME」
2019年5月22日発売 / KING RECORDS
高橋洋子「EVANGELION EXTREME」

[CD] 2160円
KICA-2561

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収録曲
  1. 赤き月
  2. 暫し空に祈りて
  3. 慟哭へのモノローグ
  4. 残酷な天使のテーゼ 2009VERSION
  5. 赤き月 off vocal ver.
高橋洋子(タカハシヨウコ)
高橋洋子
8月28日生まれ、東京都出身の歌手。2歳からピアノを習い始め、8歳で少年少女合唱団に入団するなど、幼い頃から音楽に囲まれた環境に育つ。1987年には久保田利伸のコンサートツアーのサポートメンバーとしてステージに立ち、その後は松任谷由実をはじめとする数々のアーティストのコンサートツアーやレコーディングに参加。CMソングのボーカリストなど活躍の場を広げ、1991年にはソロデビューシングル「P.S. I miss you」で日本レコード大賞新人賞ほか多数の新人賞を受賞。1995年にはアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のオープニングテーマ「残酷な天使のテーゼ」を歌い脚光を集めた。その後もさまざまなアニメのテーマ曲やCMソングを担当。コンスタントにオリジナル作品を発表している。2017年3月には8作品目のベストアルバム「YOKO SINGS FOREVER」をリリース。2019年5月には「エヴァンゲリオン」シリーズの関連楽曲を集めた新作ミニアルバム「EVANGELION EXTREME」を発表した。