高垣彩陽|「戦姫絶唱シンフォギア」への愛を込めて

「わたしだけの空」のトラウマ

──高垣さんのソロ楽曲は生音主体の温かみのあるサウンドのものが多いと思うのですが、他方で「シンフォギア」楽曲はクールなデジタルサウンドです。後者は高垣さんのディスコグラフィの中でどういう位置付けになっていますか?

「Meteor Light」のときからそうなんですけど、「シンフォギア」という作品と出会えたからこそ歌えるジャンルであり、表現させてもらえる音楽だと感じていますね。あるいは「シンフォギア」と出会えていなければ触れる機会がなかったジャンルとも言えるので、歌うこと自体がチャレンジでもあるし、今回の「Lasting Song」を含めて5曲完成させられたというのは自信にもなります。ちなみに、また作詞の話に戻ってしまうんですけど、ディレクターさんは「高垣は途中でギブアップするかもしれない」と思っていたという(笑)。

──そうだったんですか。

実際、私は作詞に対する苦手意識がものすごく強くて。近年は、同じレーベルの寿(美菜子)や夏川椎菜ちゃんも作詞をし始めているんですけど、彼女たちを見ていると「とても私にはできない」と思うことがあるんです。昔、私は一度だけ自分の曲の歌詞を書いたことがあったんですけど……。

──それは「わたしだけの空」(2010年7月発売の1stシングル「君がいる場所」カップリング曲)ですか?

そう。あの曲の作詞クレジットが私とmavieさんの共作になっているのは、私が書けなさすぎたから。そのとき歌詞の第1稿をディレクターさんに提出したらボロクソに言われて、それがトラウマで。

高垣彩陽

──そのディレクターさんとは、菅原拓さんですか?

そうです。「手垢のついた言葉ばっかり使いやがって」と言われました(笑)。本人は「俺そんなこと言った? ごめんね」って言ってるけど。

──僕は寿さんと夏川さんが初めて作詞にチャレンジされた際にインタビューさせてもらったのですが、お二人も菅原ディレクターにボッコボコにされたそうですよ。

あはは(笑)。ただ、当時は逆によかったなとも思っていて。なぜなら、私は作詞に向いていないけれど、その代わり私の気持ちを言葉にしてくれるmavieさんという人に出会えたから。それでも、いつか自分の言葉で伝えてみたいと思うことも時々あって、だから寿や椎菜ちゃんにも憧れというか尊敬の念を抱いているんです。自分の中にある世界を言葉にできるのは素敵だと思うし、それは自分の中からしか出てこないものだから。でも今回、シングル表題曲で、しかもタイアップ曲の作詞ができたことで、トラウマは克服できたのかな。まだ世に出ていないので皆さんがどんな反応を示されるかわからないんですけど、とりあえず菅原さんは「よくできた!」と褒めてくれたので。

──よかった。

そういった意味でも、「Lasting Song」は表現者として1つの転機になった1曲なんじゃないかなと思っています。

──ちなみに「Lasting Song」というタイトルを付けた理由は?

「戦姫絶唱シンフォギア」という作品と、そこに登場するキャラクター、あるいは音楽というものが、作品を愛してくださった方の心の中に残り続けてほしいという気持ちから「Lasting Song」にしました。

今の自分は好きですか?

──カップリング曲「幸せのかたち」は、取材をしている現時点ではまだ音源がなくて情報がゼロなんです(笑)。

すみません(笑)。

──どういった曲になる予定ですか?

私の中で音楽的にトライしてみたいことがあって、シンプルなピアノロックを作っています。アレンジはソロでもスフィアでもお世話になっている籠島裕昌さんにお願いしていて、絶対にカッコよく仕上げてくださるはずなので、レコーディングも楽しみにしているところです。

──歌詞の内容は?

最近「自分が今の自分を好きかどうかって、大事だな」とよく思うんですけど、それがテーマです。例えば何かを選択したとき、誰かに言われたからじゃなくて、自分でそれを選んだ自分が誇らしいとか。だから「今の自分は好きですか?」と自分に問いかける瞬間がけっこうあって、それが今の私にとって物事の判断基準になっているところもあるんです。

──ポジティブな歌詞になりそうですね。

あと、私は今まで幸せな恋愛ソングというものを歌ってこなかったことに気付きまして。なので、ハッピーな大人なラブソングが歌ってみたくなったんです。まあ、「恋愛」と言いましたけど、家族や友人も含めて、その人と一緒にいる自分が好きかどうか。それを判断できるのは自分しかいないよね……ということを考えていた時期に、蒼井優さんが山里亮太さんとご結婚されて、そのタイミングでヒャダインさんが「『誰を好きか』より『誰といるときの自分が好きか』が重要」と蒼井さんが言っていたと明かしたじゃないですか。それを見て「そう! 私もまったく同感!」と思っちゃいましたね。そういった気持ちを、ハッピーでシンプルなピアノロックに乗せて歌いたいなと思っています。

高垣彩陽

「シンフォギア」のテーマに通じるカバー曲

──カップリング2曲目の「IF THE WORLD HAD A SONG」は白鳥英美子さんのカバーです。原曲はバッハの「主よ、人の望みの喜びよ」ですね。

そうです。10代の頃、父が私にこの曲が収録された白鳥英美子さんの「AMAZING GRACE」というアルバムを買ってくれたんです。私はカトリック系の学校に通っていて原曲のほうにもなじみがありましたので、いつかは歌ってみたい曲の1つでした。いつもシングルの3曲目にはカバー曲を入れているんですけど、今回は“歌”や“音楽”をテーマにしたものにしたくて。「Lasting Song」がわりと重めだったので、最後に聴いて優しい気持ちになれる柔らかい曲として「IF THE WORLD HAD A SONG」はぴったりだし、歌詞の内容も、もしも世界中の人たちみんなで歌える歌があったなら、この世界はもっと穏やかになるんじゃないかというもので。

──雪音クリスの「歌で平和を掴んでみせる」という夢に重なりますね。

そう、クリスの願いでもあるし、「XV」の内容にも重なってくるし、そもそも「シンフォギア」という作品自体のテーマにも通じると思ってこの曲にしました。

──アレンジは、高垣さんのクラシカルアレンジではおなじみの後藤望友さんです。

白鳥さんが歌われた「IF THE WORLD HAD A SONG」は弦があまり目立たないんですけど、私は後藤さんの弦のアレンジが大好きなので、ぜひチェロとバイオリンを聴かせるものにしてほしいとお願いしました。

──しゃれたアレンジですよね。イントロはバッハの原曲から引用していて、何度も耳にしているメロディのはずなのに、新鮮です。

そうなんですよ。実は、最初に上げてくださったアレンジでは、後藤さんがオリジナルの前奏を付けてくださったんです。でも、私としては自分が学生時代に耳にしていたバッハの曲のフレーズをガッツリ弦で聴きたくなっちゃって。オリジナルの前奏も本当におしゃれで捨てがたかったんですけど、やっぱり誰もが聴いたことがあるであろうあのフレーズを最初に弦で弾いてもらって、そこから「IF THE WORLD HAD A SONG」に入っていくという展開にしてもらいました。

──今作のリリース後、ライブのご予定などは?

残念ながら、今のところソロのライブは決まっていないので、現時点では「ぜひリリースイベントにいらしてください」としか言えないんです。ただ、9月からスフィアの全国ツアーが始まるので(参照:結成10周年のスフィア、9月より全国ツアー開催)。

──スフィアのライブのソロコーナーで歌う可能性は高い。

はい。あと、これもまだ決定はしていないんですけど、私の中では「いつか『シンフォギアライブ』で歌いたい!」という思いがあります。いずれにせよ「Lasting Song」には、最初のほうでお話しした通り「みんなと声を合わせられる歌にしたい」という気持ちを込めたので、ライブの場でも歌を通して皆さんと1つになりたいです。