高垣彩陽|「戦姫絶唱シンフォギア」への愛を込めて

水樹奈々に教えを請う

──先ほど「スラスラ書けたわけではない」とおっしゃいましたが、どうやってその困難を乗り切ったんですか?

まず、「きっと5期まで関わってきた自分だからこそ書ける歌詞があるんじゃないか」という不確かな希望を胸に臨んだんですよ。そのうえで、何をおいてもmavieさんが4期かけて描いてくださった世界を大事に継承したい。つまり今までの4曲の流れを汲む歌詞にしたかったので、改めて1期のエンディングテーマ「Meteor Light」(2012年2月発売の4thシングル)から順番に、4曲すべての歌詞を自分で手書きで書き起こしてみたんです。

──マメですね。

そうしたら、mavieさんは歌詞の中で一度も「私」という言葉を使っていなかったり、抽象的なんだけどちゃんと実像があって、作品に寄り添っているのに自分のことのようにも思えるんです。しかも、作品と照らし合わせると「この歌詞はあのセリフにかかってたんだ!」みたいな、アニメの話数が進むにつれて歌詞に込められた意味が明らかになる構造になってるのがよくわかるんですよ。だから「私もそれやりたい!」と(笑)。

──ははは(笑)。それはアニメ主題歌の機能の1つでもありますね。

あと、「シンフォギア」シリーズでずっとオープニングテーマを歌われていて、かつ作詞もなさっている(水樹)奈々さんや、タイアップ曲の作詞経験のある声優アーティストの先輩方に「どうやって書いているんですか?」と聞いて回って。そこで、シナリオから歌詞の材料となるキーワードをどれだけ拾えるかがポイントで、なおかつ「絶対に言いたいことがブレてはいけない」と教えていただきました。

──歌詞を拝読するに、mavieイズムを踏襲しつつ、今おっしゃった「言いたいこと」もしっかりと表現されていると思います。そして「XV」の話数を重ねるごとにキーワードの答え合わせもされていくのでしょうね。

そう願いたいです。実は、私自身は今までレコーディング前にシナリオを全部読んだことはなくて、歌を録り終わったあと、アフレコの最中に「あ、私はこのシーンのことを歌ってたんだ!」と答え合わせする感じなんです。そういう感覚を、誰か1人でも味わってもらえたらうれしいですね。それから、先ほど「自分だからこそ書ける歌詞」と言いましたけれど、結局、シリーズの集大成となる作品で、金子さんからいただいたテーマが自分の経験とも重なって、そのときに抱いた感情を今このタイミングで言葉に残せたことにすごく大きな意味があったんだろうなと思っています。

高垣彩陽

meg rockに英語を教えてもらう

──「Lasting Song」は初めて作品のシナリオを読み込んだうえで自ら歌詞を書かれた曲ですが、レコーディングにおいて、1~4期のエンディングテーマと違いはありました?

もう、全然違いました。私は今までどんな楽曲でも、歌詞と楽譜をもらって「よし、録るぞ!」と、けっこう前のめりな気持ちでスタジオに行くんです。でも今回は、レコーディング前日の深夜に、というか厳密には日付が変わってレコーディング当日に歌詞を書き終えたので(笑)。

──そんなギリギリだったんですか? そりゃあタイトル付けるのも当日になりますよ(笑)。

まだタイトルが決まっていなかったにもかかわらず、書き終えたという達成感が半端なくて。作詞の何が大変だったかというと、もちろん言葉を探すのにも苦労したんですけど、私が一番エネルギーを使ったのは、決定すること。作詞中はディレクターさんが相談に乗ってくださったんですけど、例えば私が「Aという表現とBという表現、どちらがいいか悩んでるんです」と言うと、ディレクターさんは「俺の好みはAだけど、Bと言いたい気持ちもわかる」みたいにアドバイスや意見をくれることはあっても「Aにしなさい」と決めてくれることはないんです。

──最終的には高垣さんが決めなきゃいけない。

そうなんです。そういう2択なり3択なりが1行ごとにあるんですよ。一方で「これしかない!」という言葉が降ってきた瞬間は「みんなこの瞬間のために書いているのかな?」と思うくらい気持ちがいいんですけど、私は優柔不断なので決定する作業が本当にしんどくて。それを乗り越えた結果、初めてこう思ったんです。「あとは歌うだけじゃん」って。

──そんな作詞のおまけみたいに……。

もちろんレコーディングを軽視しているわけではなくて、さっきも言ったように今までは「私は、歌を歌うぞ!」ぐらいのテンションが標準だったので、今回はほとんど気負いがなかったんですよ。ただ、歌で苦戦したのが、作詞でも最後までかかった英語のコーラス部分で。やっぱり英語の歌詞だけは自分1人ではどうにもならなくて、そこで、帰国子女のmeg rockちゃんに「私はこういうことが言いたくて、こういう英文にしようと思うんだけど」って投げたら「ここは“s”を付けないとダメだよ」とか。

──わりと初歩的なミス?(笑)

ですね(笑)。私も辞書で調べたりしてこねくり回すんですけど、meg rockちゃんに見てもらうと「そこはシンプルに“feel”で伝わるよ」とか、「語感的にしっくり来なかったらこういう言い回しもあるよ」と丁寧に教えてくれて。あと、英語のイントネーションと音のハマり具合も私はよくわかっていなくて、そこもmeg rockちゃんに直してもらいました。だからmeg rockちゃんは、スペシャル・スペシャル・スペシャルサンクスです! 彼女の助けがなかったらきっと完成してなかった。

──コーラスの歌録りで苦戦したというのは?

当日に歌詞を書き上げたくらいなので、歌の練習をする時間が取れなくて。特に英語コーラスは、なかなかテンポが速くてスムーズに英語が歌えず(笑)。単純に口を慣らすのに時間がかかってしまったんです。

──逆に言うと、コーラス以外はスムーズだった?

そうですね。ただ、今回は作詞をしていることもあって、今までとは違った高垣彩陽だったかなと思います。実は歌詞を書くにあたって、mavieさんも奈々さんもあらかじめシナリオを読まれているとのことだったので、私も読ませてほしいとプロデューサーさんにお願いしたら「高垣さんは作詞の初心者だし、雪音クリス役の声優として1期から作品に関わっているから、シナリオを読むとキャラクターの感情に寄りすぎてしまうんじゃないか」と言われたんです。つまりエンディングテーマには客観性がなきゃいけないのに、それがクリスやほかの誰かのキャラソンのようになってしまう恐れがあると。

──高垣さんは雪音クリス名義でキャラソンも何曲も歌ってらっしゃいますしね。

私自身は、そこに関してはあんまり気にしていなくて。プロデューサーさんが心配してくださったおかげで「客観性を大事にしなくちゃ」というストッパーはかかりましたけど、やっぱりシナリオを読んで特定のキャラクターに感情移入することはなかったです。あと、金子さんから「このシーンにフォーカスを当てたい」という要望があったので、そこに登場する人たちのことは考えたんですけど、自分の中に“言いたいこと”があったので、キャラクターとは乖離した状態で高垣彩陽が見る「シンフォギア」、そして高垣彩陽からの「シンフォギア」への思いを書けたし、それをきちんと歌にできたと思っています。