田所あずさ×堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)|ネガティブだからこそ伝えられる前向きな思い

田所あずさが通算3枚目となるオリジナルアルバム「So What?」を完成させた。堀江晶太(PENGUIN RESEARCH)、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)、Q-MHz、滝善充(9mm Parabellum Bullet)、柴田隆浩(忘れらんねえよ)、こだまさおり、楠瀬拓哉(ex. Hysteric Blue)らそうそうたる作家陣を迎えて制作された本作には、田所がこれまで積み重ねてきたロックテイストをさらに発展させた強力なナンバーが並ぶ。

アルバムリード曲としてミュージックビデオも制作された「ストーリーテラー」は、彼女にコンスタントに楽曲を提供してきた堀江晶太が作詞・作曲・編曲を手がけたキャッチーなロックチューン。堀江はほかにも「ギミーシェルター・ブライトネス」の作・編曲、「Pajama KINGDOM」の編曲と全14曲中3曲に参加している。音楽ナタリーでは田所と堀江の対談をセッティングし、今作のレコーディング秘話やお互いの音楽観などについて語り合ってもらった。

取材・文 / 臼杵成晃 撮影 / 石原敦志

ころあずは“僕らの歌を歌ってくれる”主人公ボイス

──堀江さんは2ndシングル「君との約束を数えよう」(2015年9月発売)のカップリング曲「Straight Forward」の作・編曲で参加して以来、田所さんの作品にはたびたび楽曲提供されていますが、この「Straight Forward」はどういう流れから堀江さんが書くことになったんですか?

堀江晶太 その少し前に、ころあず(田所の愛称)さんを担当しているランティスの斎藤(滋)さんとご縁がありまして。斎藤さんに「今から売り出していこうと思うアーティストがいるんだけど、1曲書いてくれないかな」とお話をいただいたんです。

左から堀江晶太、田所あずさ。

──「Straight Forward」は田所さんが初めて作詞に挑戦した曲でもあるんですよね。

田所あずさ はい。でもこれは初めから自分で作詞をしようと思って書いたわけではないんです。キーチェックのとき、ラララだとわかりにくいので、仮歌詞を作って歌ったら「このまま書いてみない?」って言われて。

──歌いやすくするためとは言え、メロディを聴いて意味のある言葉が浮かんできたということですよね。

田所 デモを聴いたとき「すごく好きだな、この曲」と思ったのと同時に、昔の思い出が浮かんできたんです。それでちょっと、書いてみたくなって。高校生時代の部活をテーマに書いたんですけど、いろいろ浮かばせていただいて。

堀江 浮かばせていただいて(笑)。どこにきっかけがあるかわからないですね。

──当時まだデビュー間もない、それほど色の付いていない状態の田所さんに対し、堀江さんはどんな曲を書こうと?

堀江 そこはプロデューサーと綿密に話し合いました。ただ、1stアルバム(2014年7月に発売されたアルバム「Beyond Myself!」)からは方針を変えたんだよね? 1stアルバムはいろんなバリエーションがあったけど、「ロックで行こう」とシフトチェンジしたのが「君との約束を数えよう」で。まずは声を聴かせていただいて……たまにこういう人いるんですけど、彼女は主人公ボイスなんですよ。

田所あずさ

田所 えっ? 初めて言われました。

堀江 ド派手な声だったりハスキーだったりするわけではないけど、ヒロインと言うかヒーローと言うか、一点突破すぎないがゆえの市民の代表みたいな。「僕らの歌を歌ってくれる声」みたいな印象がまずあって。そう思うと、変に難しいことをするよりはストレートなロックがいいなと。ロックだし歌モノだし、そのへんもあまり意識せずにド真ん中にポイと投げるような曲が、一番彼女の声に合うんじゃないかと思って書きましたね。「Straight Forward」以降はそれを念頭に置いて書いてます。

田所 私は声優業でもあまりヒロインはやってなくて、逆に主人公の隣にいるキャラが多いので、ちょっと意外でした。

堀江 昔は主人公と言うと“選ばれし者”みたいなイメージがあったけど、ここ最近はそうでもないなと思うんです。極論を言うと、僕は才能のない主人公が好きなんですよ。ころあずさんに才能がないって言ってるんじゃないよ(笑)。もとから突出したものがあるわけじゃなく、一般人が努力すれば手の届くようなことをしっかりと手に入れる、そういう主人公像が僕は好きなんです。実際のころあずさんがどうかはともかく、彼女の声にはそういう歌が合うと思っていて。今回の「ストーリーテラー」は歌詞も僕が書きましたけど、ここでもやっぱり一貫して、普通の人の歌であってほしいなと思って書きましたね。それを歌う才能に秀でた人なんだと思います。

聴いた瞬間から「名曲だ!」

──田所さんはここまでのご自身の音楽活動についてどう思っていますか?

田所 やらされるわけじゃなく、私もちゃんと参加しながら作らせてもらえる現場なので、皆さんと物作りをしていく楽しさがあります。作詞をするようになってからは、よりそれを強く感じるようになって。「次はどういう曲がいいかなあ」とみんなで探る時間も楽しいですし、ロックに的を絞ったと言ってもまだ「これが私だ」というものを決めてしまったわけではないので、まだまだいろんな可能性を探っていけたらなと思っています。

──今回のアルバムには堀江さんをはじめとするおなじみの方から、忘れらんねえよの柴田隆浩さんといった初コラボの方まで幅広い作家陣が集まっていて、第1報が出たときは(参照:田所あずさの新アルバムにUNISON田淵、9mm滝、ペンギン堀江ら参加)大きな話題になりました。アルバムを一聴した感想として、ものすごくざっくりした言い方をすると「うるさいアルバムだな」と思いました。

左から田所あずさ、堀江晶太。

田所 バラードもうるさいですからね。個性がうるさいアルバムみたいな(笑)。でも、しつこくはない……いい意味でしつこいですけど(笑)、胃もたれのしないアルバムになりました。作家の皆さんの個性が爆発していて。

──堀江さんは全14曲中3曲に参加されていて、このうちリードトラックである「ストーリーテラー」は作詞・作曲・編曲すべて堀江さんですが、この曲すごくキャッチーですね。

堀江 これ、いい出来ですよね。

──そんな他人事みたいに(笑)。

堀江 いやでもホント、まれにできるキャッチーでいい曲だなと思います。でも、そこは考えました。事前に「今回のアルバムはめちゃくちゃな曲がいっぱい入るから、その中にあって埋もれない、まっすぐな曲を1つ作ってほしい」と言われたので。シンプルなよさも感じられるガールズロックが欲しいと。個人的には「Straight Forward」の流れも汲む曲にしようと思っていて、シンプルに耳に入ってくる、歌詞がスッと入ってくる……言ってしまえば“王道”なんでしょうけど、自分のできる範囲で王道を極めようと思って作りました。

──イントロから歌、間奏、後半のブレイク、終わり方まで徹頭徹尾キャッチーな、100点のガールズロックだなと思いました。

田所 私も最初に聴いた瞬間から「名曲だ!」と思いました(笑)。そのぶんレコーディングはすごく緊張しましたけど。「この名曲を汚してはいけない……」って。すでに100点だから私のせいでマイナスが出てはいけないという緊張感はありつつも、歌っているとすごく楽しい曲で。MVの撮影では、最初に撮るシーンは「あまり笑わないで、張り詰めたような表情で」って言われたのに、どんどんニコニコしてきちゃって(笑)。この曲の持っている力を改めて感じました。聴いているだけで、この先いいことが待っているような気持ちになれると言うか。私は基本ネガティブなんですけど、この曲を歌っているときは前向きになれそうで。

田所あずさ「So What?」
2017年10月25日発売 / Lantis
田所あずさ「So What?」初回限定盤

初回限定盤 [CD+Blu-ray]
5184円 / LACA-35659

Amazon.co.jp

田所あずさ「So What?」通常盤

通常盤 [CD]
3240円 / LACA-15659

Amazon.co.jp

CD収録曲
  1. 涙 one of them
    [作詞・作曲:Q-MHz / 編曲:Q-MHz、滝善充]
  2. 1 HOPE SNIPER
    [作詞・作曲・編曲:Q-MHz]
  3. ストーリーテラー
    [作詞・作曲・編曲:堀江晶太]
  4. ギミーシェルター・ブライトネス
    [作詞:田淵智也 / 作・編曲:堀江晶太]
  5. スーパースタールーザー(So What? mix)
    [作詞:こだまさおり / 作・編曲:山本陽介]
  6. Pajama KINGDOM
    [作詞・作曲:Q-MHz / 編曲:堀江晶太]
  7. そう上手くいかないものです。
    [作詞:田所あずさ / 作曲:楠瀬拓哉 / 編曲:eba]
  8. DEAREST DROP
    [作詞・作曲:Q-MHz / 編曲:増田武史]
  9. Crying
    [作詞:こだまさおり / 作曲:藤末樹 / 編曲:山本陽介]
  10. 僕は空を飛べない
    [作詞・作曲:田淵智也 / 編曲:eba、高瀬一矢]
  11. Aiming for Utopia
    [作詞・作曲・編曲:Q-MHz]
  12. I can't live without you.
    [作詞:田所あずさ / 作・編曲:黒須克彦 / ストリングスアレンジ:秋月須清]
  13. 運命ジレンマ
    [作詞・作曲:田淵智也 / 編曲:eba]
  14. ころあるき
    [作詞・作曲:柴田隆浩 / 編曲:山本陽介]
初回限定盤Blu-ray Disc収録内容

2016年10月8日(土)にLIQUIDROOMで開催されたライブ「Azusa Tadokoro LIVE 2016 ~before the CUE/DISTORTION~」の模様を完全収録。

ライブツアー
「AZUSA TADOKORO LIVE TOUR 2017 ~So What?~」

  • 2017年12月2日(土)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
  • 2017年12月9日(土)上海 バンダイナムコ上海文化中心 未来劇場
  • 2017年12月16日(土)東京都 Zepp DiverCity TOKYO
田所あずさ(タドコロアズサ)
田所あずさ
1993年11月10日、茨城県生まれの声優アーティスト。2011年に行われた声優オーディション「第36回ホリプロタレントスカウトキャラバン~次世代声優アーティストオーディション~」でグランプリを受賞した。アニメ「アイカツ!」の霧矢あおい役や、ゲーム「アイドルマスターミリオンライブ!」の最上静香役などの声優として活動するかたわら、2013年12月に1stソロライブを開催。2014年7月にはデビューアルバム「Beyond Myself!」、2015年4月に1stシングル「DREAM LINE」を発表した。以降も精力的に音楽活動を重ね、2017年4月には6thシングル「DEAREST DROP」をリリース。全国8会場を回るライブツアー「AZUSA TADOKORO LIVE TOUR 2017 ~DilEMmA~」を経て、10月には通算3枚目となるオリジナルアルバム「So What?」を発表する。
堀江晶太(ホリエショウタ)
5月31日生まれ、岐阜県出身。10代の頃より作編曲家として活動し、上京後に音楽制作会社に入社する。2011年にボカロP・kemuとして、イラストレーターのハツ子、動画クリエイターのke-sanβ、アドバイザーのスズムからなるKEMU VOXXを結成し、動画共有サイトに楽曲を投稿。いずれも大きな反響を呼ぶ。2013年に独立して以降は、LiSA、ベイビーレイズJAPAN、茅原実里、田所あずさらに楽曲を提供。アレンジャー、コンポーザーとしての地位を確立させる。PENGUIN RESEARCHのベーシストとして、2016年1月にシングル「ジョーカーに宜しく」でメジャーデビューし、バンドマンとしても精力的に活動中。