ナタリー PowerPush - ケラ&ザ・シンセサイザーズ × FLOPPY
世代は違えどベクトルは同じ? 脱線ニューウェイブ対談
ここまで自分を追い詰めなくても……
KERA ところで歌詞はいつ書くの? 完全にオケができてから?
写楽 ほとんどそうですね。歌を録る直前までに上げる感じです。
KERA 歌詞書くのって大変じゃない?
写楽 大変ですねー。
KERA 歌詞なんてラクしようと思えばいくらでもできちゃうからね。語呂を合わせりゃなんとなく書けちゃう。なのに本当、何故か毎回泣きそうになりながら書いてる。(書けても)全ボツにしたりするし。
写楽 カバー以外で人の歌詞を歌うのがすごく嫌いなんで、それで全部書かせてもらってるんですけど。
KERA 書かせてもらうってのは、戸田君の許可を得てってこと?
写楽 宏武君も自分のバンドでは自分で書くので、「歌詞を書かせて」って言うからには締め切りが近いから辛いなんて思っちゃダメだと思って(笑)。実際は、けっこうギリギリになって「ウァァァ~ッ!」て思いながら作ってるんですけど。
三浦 だから不器用っちゃ不器用ですよ。ここにいる4人は。自分がかかわるとなると、ギリギリまでやって。ここまで自分を追い詰めなくても、もっと楽にできるだろうに……。
KERA それ、いつも思うよ。
三浦 そういうことをやる人がここに集まってるって感じがしますよね。
歪曲の武装を解いたシンセサイザーズ&ハードコアFLOPPY
KERA シンセサイザーズの新しいの聴いてくれた?
写楽・戸田 はい。
KERA 予想と違った?
写楽 そうですね。
戸田 いわゆるシンセサイザー然とした音が入らなくてもグッとくるような素晴らしい曲が多かったです。こう、ゆったりと。
KERA 今で言う速い曲はないね。比較的ダウンテンポ。このあいだ「ナイト・サーフ」(2005年3月発売)聴き返したけど、速いね、アレ。
三浦 あの頃は個人的にPOLYSICSを意識していたところがあって。ニューウェイブにサーフやガレージのテイストを入れるなんてオレたちには考えもつかなかくて、ちょっとくやしかった。そこでテンポをちょっと速めにして、ライブでお客さんがこっち側にリズムで寄ってきてもらえるようなものが作れたらな、とそのときは思ったのね。さすがにそこから10年も経つと、誰が何やってるとかはどうでもよくなってきた。歌詞も変わったよね。
KERA だいぶ裸になってる。有頂天の「AISSLE」(1987年6月発売)の頃なんか、歪曲したアプローチしか恥ずかしくてできなかったけど、歳とってくるとそんな斜に構えてカッコつけるのが逆に恥ずかしくなってくる。もはや今はフォークの人とあんまり変わんない(笑)。
──そういう意識の変化は自然に?
KERA シンセサイザーズのライブも最初のうちは有頂天のレパートリーばかりが圧倒的な盛り上がりを見せていて、そこにコソッとシンセのオリジナル曲を入れてるような時期もあったんですよ。それが2006年に「隣の女」って女性ボーカルのカバーアルバムを出してから、バンドに対する自分の意識が変わったんですね。カバーだったから思いきったことができたのかな。で、続いて2007年には「15 ELEPHANTS」っていう、自分でもこいつはなかなかなんじゃないかと思えるアルバムを作ることができて、すごく至福感があったんです。有頂天からの自分をどうこうするんじゃなくて、今芝居をやってるケラリーノ・サンドロヴィッチでいいんじゃないかって吹っ切り方ができたというか。今回それをより強調して前面に押し出すためには、ちょっとゆったりした曲もいいかなっていう風に思って。勢いじゃなくて、メロディやアレンジで聴かせられるものにしたいなって、ミーティングで言ったんです。
──タイトルにもなってる「Body and Song」は、そういう裸になってる感じを表しているんですか?
KERA ま、ジャズのスタンダードナンバー「Body and Soul」のモジリですけど。歳とってくると、首が痛いとか頭が痛いとか、毎日体のどこかが具合悪いのが当たり前になってきて。演劇は頭で書いてるところがあるんですけど、音楽はそこからはみ出してきてるもの。自分にとっては両方が手離せない大切なもの。それで体と音楽の関係みたいなことで書けないかなって思ったんです。収録数は8曲だけど、結果的に1枚のアルバムとして聴きごたえのあるものになったと思います。
三浦 前作「15 ELEPHANTS」と今作「Body and Song」の間にKERAさんの芝居の音楽を2本担当させてもらって、KERAさんの演劇での世界観が理解できたことも大きかったかもしれない。それがなかったら、今回の方向性も理解できなかったと思うんだよね。FLOPPYにしても最近はだんだんカッコつけらんなくなってると思うんですよ。こういう風に自分を見せたいって思う余裕もないくらいハイペースで作品を作ってるから、どんどんコアな部分が出てくる。今回のアルバムを“ハードコアFLOPPY”と呼んでるんですけど、FLOPPYの軸の部分が初めて出たアルバムなんじゃないかなって思ってます。だから一聴した感じでは聴きづらいかもしれないですね。でもシンセサイザーズの今回のアルバムと同じように、聴いてるうちにすごくハマるタイプの作品。
──しかもFLOPPYのアルバムの最後にDEVOのマーク・マザーズバーのリミックスが収録されていたのには驚かされました。マークにリミックスを頼んだ経緯というのは?
KERA (自分たちにとって)神だからってこと?
戸田 国民なら誰でも一度はマークさんに……。
写楽 駄目もとで頼んでみようよって。
三浦 tokyo pinsalocksの北米プロモートをやってくれているロバートがマークの代理人もやってるから、彼を通じて音を送ってみたら「OK」って。こっちがビックリしましたよ。
タイムカード押せる人/押せない人
──KERAさんと三浦さんは、FLOPPYのお2人以外にも若いアーティストと接する機会があると思いますが、どのような印象を抱いていますか?
三浦 今の批判をするのはオジイサンの証しなのかもしんないけど、ほかに何かできる人が多すぎますよ。
──アーティスト活動以外のこともできそうだと。
三浦 うん。タイムカード押せそうな人。
KERA そうだね。昔のミュージシャンって音楽以外のことやって生きていくのは無理だろうなっていう、いわば社会不適応者ばかりだったから(笑)。
三浦 そんなアーティスト像をFLOPPYに見たと(笑)。そういう逃げ場のない感じってのが大事。
──そう言われて、どうですか?
写楽 いや、自分は意外とタイムカード押せるタイプだと思ってるんで。
一同 えーっ(笑)。
KERA 今までの話が全部ひっくり返された(笑)。
写楽 そういうタイムカードを押す人生もいけるんじゃないかって考えるんですけど、やっぱり音楽しかない! って感じるときが一番濃いものが出せるんだなとも思いますね。
CD収録曲
- Over Technology
- low-bit Disco
- メテオストライク
- 滅びのイド
- 時空ホロン
- エブリデイ
- 僕達は何かを目指す
- low-bit Disco "Don't Be Tricked Remix" Remixed by Mark Mothersbaugh (DEVO)
ケラ&ザ・シンセサイザーズ ワンマンライブ
「Bodies and Songs」
- 2011年2月11日(金)東京都 代官山UNIT
OPEN 18:00 / START 19:00
料金:前売 4300円 / 当日 4800円(ドリンク代別)
FLOPPY
「Tour Over Technology」
- 2011年1月15日(土)大阪府 大阪FANJtwice
OPEN 17:30 / START 18:00
料金:前売 3300円 / 当日 3800円(ドリンク代別) - 2011年1月16日(日)愛知県 名古屋池下CLUB UPSET
OPEN 17:30 / START 18:00
料金:前売 3300円 / 当日 3800円(ドリンク代別) - 2011年1月29日(土)東京都 代官山UNIT
OPEN 17:00 / START 18:00
料金:前売 3800円 / 当日 4300円(ドリンク代別)
ケラ&ザ・シンセサイザーズ
(けらあんどざしんせさいざーず)
1995年、元有頂天のKERA(Vo)と三浦俊一(G, Syn)を中心に「80年代ニューウェイヴの復権」を掲げバンドを結成。翌96年よりザ・シンセサイザーズを名乗るようになる。1998年に1stミニアルバム「ザ・シンセサイザーズ」、2003年にはバンド名を「ケラ&ザ・シンセサイザーズ」に改め、2004年に2ndミニアルバム「ナイト・サーフ」を発表。2006年にカバーアルバム「隣の女」、2007年に初のフルアルバム「15 ELEPHANTS」を立て続けにリリースする。2010年12月におよそ3年半ぶりとなるオリジナルアルバム「Body and Song」が完成。「歌と歌詞」に重点を置いた新たなスタイルを提示した。数度のメンバーチェンジを経て、現在はKERA(Vo)、三浦俊一(G, Syn)、福間創(Syn)、RIU(B)、Reiko(Dr)の5名で活動中。
FLOPPY(ふろっぴー)
小林写楽(Vo,Technology)、戸田宏武(Syn,Technology)の2人によるテクノポップユニット。2004年に活動を開始し、2005年に初音源「FLOPPY」をリリース。以降、コンスタントにリリースやライブを行い、幅広い層からの支持を集めている。80年代歌謡曲を思わせるキャッチーなメロディと、近未来的なビジュアル、レトロフューチャーな世界観が特徴。