ナタリー PowerPush - 鈴木祥子
5年ぶりのシングルCD「my Sweet Surrender」でポジティブに「愛の復権」を歌う
鈴木祥子が約5年ぶりとなる新作シングルCD「my Sweet Surrender」、そして2枚組DVD「無言歌」を4月8日に同時リリースする。活動20周年を過ぎてさらに勢力的な活動を続ける彼女だが、実は2008年から2009年にかけて父親、そしてドラムの師匠を相次いで亡くし、音楽を続けるモチベーションを失っていた。だが彼女はそんな精神状態の中、女性として、そしてミュージシャンとして闘いながら生きている自分自身を包み隠さず撮ることを決意。セルフによる約1年間による撮影は、映画「無言歌~romances sans paroles~」として完成し、鈴木祥子にとって大きなセラピーとなった。
その後ロックの躍動感とそこから生まれる音を通したコミュニケーションを追求するため、「ジャック達&かわいしのぶ」というロックバンドを従えたワンマンライブを敢行。90年代のロックをキーワードとした代表曲をプレイしたその夜のバンドセットから生まれたのが、ジャック達の一色進をソングライターに迎えた「my Sweet Surrender」だ。
骨太なギターサウンドに愛の希求を重ね、鈴木祥子の新章を飾るにふさわしいポジティブなナンバーがここに誕生。またカップリングの「名前を呼んで~When you call my name」では、自身による多重録音で70年代ポップの洗練さと心浮き立つ心情を巧みに構築している。今回は待望の新曲、そして「無言歌~romances sans paroles~」が伝える女性としての生き方とメッセージについて、DJの鈴木万由香がインタビューを行った。
取材/鈴木万由香 構成/駒井憲嗣 撮影/菅野勝男
救いとなった「無言歌」の撮影
──今回シングルと同時に発売されるDVDに収録の映画「無言歌~romances sans paroles~」は、ほとんどがセルフ撮影ですよね。歌の場合、1つの作品世界があって、それは必ずしもイコール鈴木祥子ではない。でもこの作品には、赤裸々な鈴木祥子という1人の人物が映っていると思うんです。すごく勇気のいることだったんじゃないですか?
あのとき私、音楽を辞めようと思っていたんです。やるモチベーションがなくなってしまって。父親が死んだり、師匠(藤井章司/一風堂)が亡くなったりという出来事を経て、音楽にだんだん感動できなくなってしまったんです。そういうことを考えていた時期に、ちょうど井上(春生)監督からドキュメンタリーのお話をいただいて、アラフォーだけど日々仕事に恋に充実みたいな、そんな綺麗事を言ったって嘘くさいし、女の人はみんな苦闘しながら生きているのに、自分イチ抜け! みたいなそんな立場から撮られてもしようがないし、だったら今の音楽を辞めようと思っている自分を自分で撮るしかないと思ったんです。
──ただ本人は辛いだろうなと思いました。自分の辛さを実感している以上に、それを撮るということはさらに客観的にもう1回それを突きつけられるということですから。
でも逆に、突きつけられて撮ったことですごく救いになったんです。心の中に溜めるだけだったら、おそらく本当に辞めていた。けれど不思議なタイミングで映像に撮ってそれを人に観てもらう、つまり作品化するという機会を与えていただいたことが、その危機をなんとかくぐりぬけるための手助けをしてくれたというか。
──その頃、鈴木さんはちょうど活動20周年だったんですよね。デビューが88年で、その数年後にガールポップブームというのがありました。私がラジオの仕事を始めたのが89年。ガールポップブームのときに邦楽番組を担当していて、なぜこの鈴木祥子さんというアーティストがこの中にいるのか。それがどうしてもわからなかった。
あのときは20代の女性はみんなガールポップと呼ばれて、音楽的な評価がされない、そういう悔しさはずっとありました。「レコード会社の戦略か何か知らないけれど、私は違うんだよ」という気持ちがずっとあったんです。若いながらにちゃんと音楽を作っているという自負があったけれど、本格的な音楽雑誌からは全く相手にされなかった。音楽的に認められたいってすごく思ってましたけど、今思うとあまり必要のなかったことなんですよね。ちゃんとしたことをやっていれば評価は自ずと付いてくるのが自然ですから。
CD収録曲
- my Sweet Surrender
- 名前を呼んで~When you call my name
- 恋人たちの月
- 黒い夜 [Live ver.]
- あたらしい愛の詩 [Live ver.]
- my Sweet Surrender [karaoke]
- 名前を呼んで~When you call my name [karaoke]
Disc1
『無言歌~romances sans paroles~』本編
Disc2
『名前を呼んで~When you call my name』
- 5years,/AND THEN...
- シュガーダディーベイビー
- BLONDE
- 恋人たちの月
- Father Figure
- 名前を呼んで~When you call my name
鈴木祥子(すずきしょうこ)
1988年、エピックソニーよりシングル「夏はどこへ行った」でデビュー以来、14枚のオリジナルアルバムを発表。日本を代表するシンガーソングライターとして活動を続ける。中学の頃からピアノを習い始め、高校時代になり一風堂の藤井章司に師事しドラムを学ぶ。卒業後、原田真二やビートニクス(高橋幸宏・鈴木慶一)、小泉今日子のバッキングメンバーを経て、デビュー後は国内では数少ない女性のマルチプレイヤーとしても地位を確立する。またソングライターやサウンドプロデューサーとして小泉今日子、松田聖子、PUFFY、金子マリ、渡辺満里奈、坂本真綾、川村カオリなど、数多くのアーティストを手がけ、高い評価を得ている。2008年、デビュー20周年を記念して渋谷C.C.Lomonホールでライブを開催。2009年には出演・撮影・主題歌を手がけたドキュメンタリー映画「無言歌」が公開された。そして2010年、約5年ぶりとなるニューシングル「my Sweet Surrender」をUPLINK RECORDSより4月8日にリリース。