SUSHIBOYS|俺たちは不良、じゃなくて不良品

カンボジア人の適当さに感動する

──タイプライターさんがビートを作った「味の素」もテーマ先行ですか?

ファームハウス この曲はテーマとビートが同じタイミングでそろったんですよ。ちょっと前にミュージックビデオの撮影でカンボジアに行ったら、現地の人たちが俺らを見て「アジノモト」って言うんです。向こうでは「日本=味の素」っていう感覚みたい(笑)。それが面白かったんで、アジアの人たちに日本を紹介する曲を「味の素」というタイトルで作ろうと思ったんです。

──サンテナさんの「過剰なおもてなし これ味の素」「取引先様にすぐ土下座したい 低価格で君の味覚変える」というフレーズには、日本のおもてなしに関する複雑な感情が込められていますね。

サンテナ

サンテナ 日本はきっちりしてるから、治安がいいし暮らしやすい。それは素晴らしいことだと思う。けどルールやマナーが全然わからない俺みたいな人間にとって、日本はすごく窮屈な国なんですよ。だからカンボジアに行ったときにとても感動しましたね。みんなすごい適当なんですよ。飲食店に入って注文しようとしたら「今飯食ってるからあとにしてくれ」って断られたり(笑)。俺はカンボジアに行って「こういうふうに生きてもいいんだな」って思えた。そういう思いを歌詞にしました。

──ゆるふわギャングも同じようなことを言ってました。彼らは2ndアルバムをロサンゼルスで制作したんですが、現地ののびのびした雰囲気を体験して「日本は狭くて窮屈だから、ずっとLAにいたかった」と話していましたね。

ファームハウス 俺ら世代の人たちは、日本が窮屈だって感じてると思いますよ。ちゃんとした教育を受けているような人たちは別かもしれないけど、俺らの周りには幸せそうなやつなんてほとんどいない。普通に仕事しているようなやつらも生きづらそうだし。日本は豊かで物質的には恵まれてるから、逆に幸せを見出しづらいのかもしれない。カンボジアなんて本当に貧乏で何もないから、ちょっとしたことでも大喜びしてるんですよ。どっちがいいのかは人それぞれだけど、俺はちょっとしたことで幸せを感じられるほうが楽に生きていけると思うな。

──3曲目の「Drivin'」は“今、この瞬間”にフォーカスした曲ですね。最近の若いラッパーは、未来に起こる何かに期待するのではなく“今”にフォーカスした歌詞を書く人がすごく多い。

ファームハウス それはみんな未来に価値を見出してないからじゃないかな。俺もまったく未来に期待してないし。だから“今しかない”んだと思う。ワクワクする発明とか、これからもう生まれないだろうし。AIの進化なんて、むしろ夢がないと感じてます。さっき言った窮屈さにも通じることかもしれないけど。

ヒップホップとはカッコよくないことをカッコよく表現すること

──サンテナさんに質問ですが、「8月32日」の「くすぶっちゃってるこの感情しけてる花火で飛ばそう」というフレーズはBUDDHA BRAND「人間発電所」のパンチライン「そして天まで飛ばそう」へのオマージュですか?

サンテナ ブッダさんはもちろんめちゃめちゃ好きで「人間発電所」も本当に何度も聴いてたから、自然に出ちゃったんでしょうね。無意識サンプリングと言うか。

──次のフレーズ「糞2車両編成の電車の女子高生見て光合成」もすごいパンチラインですね。

SUSHIBOYS

サンテナ 「8月32日」は夏休みがテーマなので、性欲を夏っぽく表現したんです。光合成って夏のイメージがある。草木が生き生きする感じ。草の匂いと言うか。自分の内側の草が女子高生という太陽でグングン育っていくような。

──「自分の内側の草」って表現はヤバいですね(笑)。でもSUSHIBOYSの表現はリリックはもちろん、全体のアレンジやビート、ハットの使い方に至るまで、一事が万事考え抜かれていますよね。ふざけたタイトルの曲でも、歌詞には詩的な表現が多かったり。

ファームハウス イロモノみたいに思われがちなんですけどね。ヒップホップから遠いトピックを取り上げるときは、音楽的な部分を徹底的に研ぎ澄まします。そうじゃないとただのふざけた曲になっちゃうから。今回で言えば「遊戯王」とか。これはヒップホップ的に本当にギリギリだと思うし。ほぼナシと言うか(笑)。

──でもこの曲はUSの若いラッパーたちがドラゴンボールとか日本のマンガをリリックに引用してることを、リアル日本人であるSUSHIBOYSが「遊☆戯☆王」というカルチャーワードでカウンター的に表現したものじゃないんですか?

ファームハウス はい、そこは意識してます。日本をレペゼンしてる曲にしたくて。

サンテナ でもこの曲は「遊☆戯☆王」に対する俺らの思い出をつらつら書いただけだよね。リスペクトと愛でできてる。「遊☆戯☆王」っていまだに続いてるカードゲームで、アニメやマンガにもなってるんですよ。小学生の頃にめちゃブームになって。俺ら世代の男の子はみんなやってて、盗難とかも起きて軽く社会問題になったんですよ。上の世代のビックリマンみたいな感じ。で、この前ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)さんのラジオに出たら、この曲にすごいフィールしてくれて。彼もちょうどこの歌詞に出てくる時代の「遊☆戯☆王」にハマってたみたいで、ずっとその話で盛り上がってました。本当は番組で「Shopping Cart Racer」を流してもらう予定だったんだけど、急遽「遊戯王」をかけてもらったんですよ(笑)。

SUSHIBOYS

ファームハウス 「遊☆戯☆王」は俺ら世代の共通言語って感じがするよね。だけど、ここまで直球の歌詞は俺ら的にはかなり挑戦だったんですよ。一般的なヒップホップ観だと肯定し難いトピックだと思うし。だからフロウやライミングは意図的に複雑にしたんです。

サンテナ この曲はすごくSUSHIBOYSらしいと思う。俺らにとってのヒップホップは、カッコよくないことをカッコよく表現すること。「味の素」なんかもそうで。光の当たらない場所を明るく照らした瞬間こそ、一番ヒップホップなんですよ。

ファームハウス アメリカでは麻薬取引について歌うハスリングラップが主流ですよね。でも本来麻薬取引なんてすごく殺伐とした犯罪行為だと思う。それをカッコよく見せてるのは、ラッパーがヒップホップを体現してるからなんですよ。それを越生に暮らす俺らがやると、SUSHIBOYSになるっていう(笑)。

3人だったからこそ、今のSUSHIBOYSになった

──「USB」はアルバムの中で一番エモーショナルな曲ですね。

ファームハウス そうですね。この曲は今まで話してきた、自分たちのヒップホップ観や、東南アジアで感じたこととか、そういうことを丸ごと歌ってます。でも、この曲を書いてるとき、すでにエビデンスの辞めたそうな雰囲気を感じてた。俺は、だけど。みんなでいろいろ話したけど、俺には何が正解かが今もよくわからないんですよ。ちょっと混乱してて。そういうことがあって精神的にも不安定だったのが反映されてますね。

サンテナ エビデンスの件に関しては、オフィシャルサイトで発表した通り、きっと本人にやりたいことがあるんだと思う。

ファームハウス

ファームハウス 俺はけっこう物事を考え込んじゃう癖があって。「悲しい思い出はゴミ箱へ Delete key」みたいな歌詞は自分に向けて歌ってる部分もありますね。

サンテナ ファームハウスがSUSHIBOYSの考える担当で、俺は考えない担当なんです(笑)。

──とは言え、サンテナさんはものすごいパンチラインメーカーですよね。「友達の母ちゃんのブラジャー見ちゃったり 半端ないと思ってた過去の記憶」はヤバいと思いました。

ファームハウス ですよね(笑)。中学のときに友達の家で一緒に見たんですよ。冷蔵庫みたいな体型のお母さんの、すげーでっかい紫のブラジャーが部屋に無造作に置いてあって。サンテナは俺も忘れてたような懐かしい思い出を歌詞にブッこんでくる。2人とも考えるタイプだとどんどん固く難しい方向にいっちゃうんで、サンテナのこの感じがちょうどいい。

サンテナ でもね、あれは俺の頭のUSBの中でも、相当半端ない記憶として記録されてるんですよ。無垢だった中学生の俺にとって、正直あのブラジャーは怖かった。本当に食らった。

──考える担当ということは、SUSHIBOYSのスタイルを作ったのはファームハウスさんなんですか?

サンテナ そうですね。

ファームハウス でも俺は考えてただけで、1人では絶対に体現できなかった。3人だったからこそ、今のSUSHIBOYSになったんだと思います。

──ファームハウスさんから見て、サンテナさんはどんな人ですか? YouTubeチャンネル「ニート東京」で話してた「衝撃を受けた同級生~サンテナの話~」がかなり衝撃的でした。

ファームハウス 「とりま」を聴いてもらえればわかる通り、サンテナは本当に適当な人間ですね。でも天才なんですよ。「ニート東京」で話したみたいに、俺らは小さい頃からずっと一緒にいて、いたずらばっかりしてました。でも不良では全然なくて。なんか不良品って感じ(笑)。出来損ないだったんです。

──では最後にツアーに向けた意気込みを教えてください。

ファームハウス ライブ後にしゃべれなくなるくらいのバイブスでやりたい。それで、お客さんに末期の走馬灯に出てくるような衝撃を与えたいですね。奇想天外で、予想外な、ハプニング的なことをやろうと思ってます。視覚に訴えかけるという意味では、ライブもMVと同じくらい重要だから。ちょっと変わった見せ方ができたらいいなって。

サンテナ お値段以上のライブを観せますよ。

SUSHIBOYS
SUSHIBOYS「350」
2018年11月21日発売 / Trigger Records
SUSHIBOYS「350」

[CD] 1620円
TRGR-1010

Amazon.co.jp

収録曲
  1. Shopping Cart Racer
  2. 味の素
  3. Drivin'
  4. 8月32日
  5. 遊戯王
  6. USB
  7. とりま(Bonus Track)
ツアー情報
SUSHIBOYS「350」ワンマンツアー2018
  • 2018年12月2日(日) 東京都 WWW X
  • 2018年12月7日(金) 愛知県 CLUB ROCK'N'ROLL
  • 2018年12月9日(日) 北海道 Spiritual Lounge
  • 2018年12月12日(水) 大阪府 LIVE HOUSE Pangea
  • 2018年12月14日(金) 福岡県 graf
  • 2018年12月22日(土) 埼玉県 G-Style ※追加公演
SUSHIBOYS(スシボーイズ)
SUSHIBOYS
ファームハウス、エビデンス、サンテナの3MCで構成される、埼玉県出身のヒップホップグループ。3人は同じコンビニエンスストアで働いていた経験があり、廃棄になった鉄火巻きをほおばるサンテナとエビデンスを見たファームハウスがクルー結成を決意する。独創性あふれる楽曲やミュージックビデオが話題となってCDリリース前からその活動に注目が集まり、2017年10月にはデビューミニアルバム「NIGIRI」を、2018年4月に初の全国流通盤となるミニアルバム「WASABI」をリリース。またMAGiC BOYZへの楽曲提供、私立恵比寿中学やlyrical schoolとの共演など、アイドルとの制作でも話題を集めた。2018年11月には新作CD「350」を発売。本作を携えた初のワンマンツアー「SUSHIBOYS『350』ワンマンツアー2018」をもってエビデンスがグループを脱退することが決まっている。