SUGARLUNG「Desert or Ocean」インタビュー|苦難を乗り越えて再出発、ロックバンドの爆発力を信じて

SUGARLUNGの2ndミニアルバム「Desert or Ocean」がリリースされた。

SUGARLUNGは2017年結成のバンド。翌年にロッキング・オンが主催するオーディション「RO JACK for ROCK IN JAPAN FESTIVAL」で優勝し、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」への出演を果たした。順風満帆に見えたSUGARLUNGの活動は、その後、さまざまな要因でペースダウンを余儀なくされる。「Desert or Ocean」は彼らが約5年ぶりにリリースしたミニアルバムで、苦難に直面しながらも進み続けた証のような作品だ。

音楽ナタリーでは初登場となるSUGARLUNGの2人に、バンドの歩みや制作スタイル、そして「Desert or Ocean」についてじっくり話を聞いた。

取材・文 / 蜂須賀ちなみ撮影 / はぎひさこ

活動1年で「ロッキン」出演、SUGARLUNGのこれまで

──SUGARLUNGはどういう経緯で結成されたバンドなんですか?

エザキマサタカ(Vo, B) 前に組んでいたバンドが解散したあとにイシカワが、新しいバンドを始めようとTwitterでメンバーを募集していた時期があったんです。その募集に対して、僕の友達が「こんなボーカリストいるよ」とメッセージを送ったみたいで。

イシカワケンスケ(G, Cho) そのメッセージをきっかけに、エザキがYouTubeにアップしていた動画や、広島にいた頃に組んでいたバンドのライブ映像を観て、振れ幅の広さに惹かれました。バンドのときはラウドロックの激しいサウンドの中で殺気立つような感じで歌っていて、ギターを弾きながら1人で歌っている映像の中では優しい声で歌っている。僕はもともと1人で曲を作っていたものの、このまま1人で作っていても面白くないから、いい意味でぶち壊してくれる人に出会いたいなと考えていたんですよ。そんなタイミングでエザキと出会ったので、この人と一緒にバンドを組めたらいいんじゃないかと思いました。

SUGARLUNG

SUGARLUNG

エザキ 僕は友達から他薦されたことを知らなかったので、「イシカワケンスケと申します。こういうバンドをやろうと思っています」というメールが来たとき、びっくりして。だけど僕もバンドをやりたいと思っていたので、コンタクトを取ってみたんです。初めて会ったのは下北沢の居酒屋だったかな。2019年までメンバーだったドラマーも含め3人で会ったんですけど、僕がベースもちょっと弾けるということで、じゃあ3人でスタジオに入ろうという話になりました。スタジオではNirvanaとかをコピーしたんですけど、2人から「ベースも弾けるし歌も歌えているから、この形態でよくない?」と言われて、3ピースバンドとして始動しました。僕はずっとギターボーカルだったし、このバンドでもギターボーカルのつもりだったんですけど、今となってはベースボーカルが自分のスタイルになっています。

──作詞も作曲もSUGARLUNG名義になっていますが、曲作りはどのように行っていますか?

エザキ 3ピース時代はスタジオに入ってセッションで作ってました。2018年にリリースした「whatever ( )」は、ほぼスタジオセッションで作ったアルバムですね。だけどドラムが脱退して2人になってからは、宅録で作るようになりました。僕が弾き語りで土台を作り、それをバンドサウンドにアレンジしていき、作詞をイシカワが担当するケースが一番多いですね。僕は相方のイシカワが書いた歌詞を歌いながら、「今自分が歌っている言葉には嘘がないな」と思えているんですよ。自分で書くと、ちょっといいように見せようという意識から「俺、本当にこんなこと思ってる?」という歌詞になってしまうこともあるんです。それを歌にすることにちょっとストレスを感じていた時期もあったんですけど、SUGARLUNGを組んでからはそういうことがまったくなくて。

イシカワ 歌詞を書くときは、エザキと自分が考えていることの共通項を見つけることを意識しています。エザキにとっても、僕にとっても、嘘っぽく思える言葉は歌にしたくないなと。

エザキ 思っていないことは歌にしたくないよね。だから「ドラゴンボール」で言うフュージョンのような。SUGARLUNGの音楽はこの2人が融合することで初めて生まれるものだと思ってます。

エザキマサタカ(Vo, B)

エザキマサタカ(Vo, B)

──活動開始から約1年後の2018年8月には「RO JACK for ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2018」で優勝。そして「ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2018」に出演したんですね。

エザキ 「RO JACK」表彰式で名前を呼ばれたときは「はにゃにゃ?」って感じでした(笑)。本当に実感が湧かなくて。

イシカワ 「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」でライブできたことはすごくうれしかったし、すごく貴重な経験をさせていただいたと思っているんですけど、オープニングアクトとしての出演だったので、今度は本編に出られるように日々がんばっていかなアカンと思っていて。

エザキ MCで「俺らは夏の思い出で終わるつもりはございません! 絶対あのGRASS STAGEに立ってやるから!」と啖呵を切っちゃったんですよ。「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」のGRASS STAGEには今後絶対に出演したい。そのためにもっと歌がうまくなりたいしバンドとして強くなりたいと、この日を境に思うようになりました。

曲を作り続けたコロナ禍、2人体制で表現がより柔軟に

──2019年8月にドラマーが脱退。2020年3月に配信シングル「Now or never」をリリースするとともに2人体制で本格的に再始動するも、新型コロナウイルス感染拡大により、有観客ライブを開催できない状況になってしまいました。正直もどかしさもあったのではと想像しますが、そんな中でもSUGARLUNGは、オンラインライブを開催したり、YouTubeで未発表曲のデモ音源を毎月公開する企画を行ったり、TikTokを始めたりと、今の自分たちにできることを模索してきましたね。

エザキ 僕らは普段ライブではサポートメンバーに協力してもらっているんですよ。2人だけじゃライブもできないけど、2人でもできることってなんだろう?と考えたときに、「曲作りはできるよね」という話になって。だからコロナ禍でもバンドがちゃんと動いていることを示すために、曲は絶対に作り続けようと思いました。毎月1、2曲は必ず作るようにしていたので大変でしたが、バンドとしてすごく鍛えられていい日々だったなと、今振り返って感じます。

イシカワ そうやって曲を作り続ける中で、「2人になったことで、より柔軟な表現ができるようになったよね」という話になったんですよ。なので、バンドサウンドにこだわらず、アコースティックの曲も作ったりしていました。歌詞も「別にリリースするわけじゃないから」と自分の好きなように書くことができて。制作しながら、救われた気持ちにもなっていました。

イシカワケンスケ(G, Cho)

イシカワケンスケ(G, Cho)

エザキ ただ、ライブがないということは曲を作って爆発させる場所がないということで、イシカワと衝突することもありました。だからライブができている今の状況が本当にありがたくて。

──今年の3月に初めてワンマンライブを開催できたんですよね。

イシカワ もともとは2021年にワンマンライブを計画していたんですよ。それから2年を経てようやく実現して、しかも結成当時から見てくれているお客さんや、TikTokで僕らのことを知ってくれたお客さんの顔がステージからよく見えて。「この人たちが僕らの音楽を守ってきてくれたから、今活動できているんだな」という実感があふれてきて、2曲目で泣いてしまいました。

エザキ 早かったね(笑)。

イシカワ アカンと思って、5曲目で切り替えました。

エザキ 偉い! すごく楽しくて、満たされたライブだったんですけど、初めての経験をしたことで新しい課題も出てきて。自分はもっと成長していけそうだなと感じました。だから今は、何回でもワンマンライブをやりたいなって気持ち。

イシカワ そうなると、ワンマンツアーだよね。

エザキ 確かに。ワンマンツアーやりたいな!

SUGARLUNG

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ロックバンドの「なんかわからないけどカッコいい!」という爆発力

──TikTokがきっかけでライブハウスに来るようになったファンもいるんですね。

エザキ そうなんです。TikTokではfewという名前でカバー動画を上げたりTikTokで人気が出そうな楽曲を意識的に作ったりしているんですけど、動画がきっかけで僕たちのことを知って、初めてライブハウスに来たというお客さんも多いです。

──TikTokを始めたことで、楽曲制作の考え方も変化しましたか?

エザキ 楽曲の尺を前より気にするようになりました。「ギターソロは飛ばされる」という風潮もある中で僕らはギターソロを入れがちなんですけど、飛ばさずに聴いてもらうために、ギターソロを入れてもコンパクトに収まるよう、制作の段階から考えるようになりました。

──「じゃあギターソロはやめておこう」という考え方にはならないんですね。ギターソロが飛ばされがちな風潮の中であえて入れるのは、そこにロックバンドとしての魅力があるからでしょうか?

エザキ そうですね。僕はロックバンドの可能性を信じてるんですよ。僕自身、落ち込んだときはELLEGARDENとかONE OK ROCKとか、ロックバンドの曲を聴いて元気をもらってきたので。もちろん海外のバンドから背中を押してもらうこともありました。英語だから、正直なんと歌ってるのかわからないこともあるんですよ。だけどロックバンドの「なんかわからないけどカッコいい!」という爆発力に僕はいつも元気をもらっているんですよね。自分がカッコいいと思うものを信じ続けていたいと思わせられるというか。自分たちも、お客さんにとってそういう存在になれたらという気持ちは日に日に強くなっています。