音楽ナタリー Power Push - シュガー・ベイブ
山下達郎が語る「SONGS」40周年と大瀧詠一
リマスターで目指したのはロックンロールの音
──今回のリリースはリマスター盤とリミックス盤の2枚組ですが、完成してみての手応えはいかがですか?
面白いものができあがったと思います。リミックスはあくまでマニア向けなんで、普通の人が聴いたらどっちがどっちかわからないとは思うんですけど(笑)。でもボーナストラック入れて全37トラック。1曲100円以下だから、それで「今さら」とか言う人には別に聴いてもらわなくて結構です(笑)。
──リマスターに関しては、1994年の初CD化のときに最初のデジタルリマスタリングが行われ、さらに30周年記念の2005年盤で大瀧詠一さんによるリマスター音源が作られていますね。
はい、それぞれに優れたリマスターなんですけど、この10年間の技術的な進化っていうのはやっぱり大きくて。当初はもういいかなとも思ったけど、やってみたら全然違った。
──今回のリマスターの特徴を言葉にすると?
“中域の根性”ですね。中域のエッジが効いた音が僕は好きなので。僕の自宅のステレオはスピーカーがJBLでアンプはMcIntosh。何十年もこれがベストだと思って聴いてる。でもクラシックしか聴かない友達はうちに来ると耳痛くてイヤだって言うんですよ。そういう具合に音質に関してはそれぞれ好き嫌いがあるからどうしようもない。だけど、自分が何を目指すかって言ったら、それはやっぱりロックンロールの音なんです。ひずみと根性。何を言われてもロックンロールの音じゃなきゃイヤなので。
──じゃあ2005年盤には大瀧さんの好みが反映されていたわけですね。
そう、あれは大瀧さん好みのロックンロールな音です。同じロックンロールでも好みが微妙に違う。大瀧さんもアナログ志向だったんだけど、80年代以降は、ほとんど新譜を聴かなかった人だから。
──今回は達郎さん好みのロックンロールになっている?
そうです。僕のほうがより80年代的だから(笑)。でも少なくとも今回のリマスターは例えば有線で最新の新譜に続けてかかってもそんなに負けないし、ちゃんとコンテンポラリーな音にも聞こえるよう心がけた。そこはすごく重要です。
聞こえなかった音がリミックスで聞こえてくる
──リミックス盤についてはいかがですか?
リミックスをやろうと思ったきっかけは、大瀧さんが作った2005年盤に入ってる「DOWN TOWN」のカラオケなんです。そのクラビネットがオリジナルとは違うものだったので。そういうとこ意外とアバウトな人なんです(笑)。
──それは新たにミックスし直して作ったものなんですか?
そう、レコーディング当時はカラオケなんて作ってないから、今回初めてもとのマルチトラックをリミックスしてカラオケを作ってみたわけ。で、やってみたら意外と出来がよくて。じゃあいっそのこと歌入りも全部作ってみようってことになったんです。そしたらできあがったリミックスもリマスターもどっちもよくてね。「じゃあ2つとも出しちゃえ!」ってことで2枚組になった(笑)。
──リミックスが作れるということは、そもそも40年前のマルチテープがいい状態で残っていたということなんですか?
いや、オリジナルマルチは劣化しちゃって今はもう使えないけど、90年代に大瀧さんがオリジナルの16chのマルチから48kHz/24bitでトランスファーしてくれてたんですよ。そのおかげでいわゆるハイレゾと言われるメディアでも通用するマスターになりました。
──この時代のオリジナルマスターって通常マルチトラック単位でデジタル化されているものなんですか?
いやいや、普通はないです。大瀧さんだからです。大瀧さんが1年がかりでデジタル化した素材がなかったらこのリミックスは実現しなかった。
──ライナーノーツで達郎さんは「バランスとリヴァーブに十分配慮すれば、かなりの再現性が期待でき、うまくいけば40年前の音がデジタル上で新装開店するのではないか」と、今回のリミックスの狙いについて書かれていますね。
16トラックしかないからね。リズムトラックなんてシンプルこの上なくて、ドラムのチャンネルなんてキックと上物とアンビエンスだけで、ひどいときはアンビエンスまで消しちゃってるから。ほとんどすべての楽器がモノラルだし、コーラスは全部1チャンネルにまとまってるし。だけどそれをリミックスすることで解像度が増して、聞こえなかった音が聞こえてくる。だからター坊はすごく喜んでましたよ。自分の歌がくっきりしてるって。
──新しい音を足してるわけではないんですよね。
全然。何も変えず何も足さずにそのままミックスし直してるだけ。オリジナルミックスのバランスに最大限肉薄させようと思ってやったんです。それでも定位感はデジタルとアナログでこれだけ違うのかっていうくらい違う。あと、いいオーディオで聴くとキックのアタックとかそういうものが現代的に聞こえてくる。
──大瀧さんもリミックスには興味を持っていたんですか?
2005年盤が出たとき大瀧さんに「これのマルチあるんですか?」って聞いたら「あるよ」「リミックスできるよ」って。94年に「パレード」をリミックスしてもらったときもかなり再現性が高くて「これはいいね」って話したことがあって。だから大瀧さんが生きてたら、これはいいって言ってくれたと思う。喜んでくれたと思うんですよね。
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- アルバム「SONGS -40th Anniversary Ultimate Edition-」 / 2015年8月5日発売 / [CD2枚組] 3024円 / Warner Music Japan / WPCL-12160~1
- アルバム「SONGS -40th Anniversary Ultimate Edition-」
- アナログ盤 [アナログ2枚組] 4320円 / NIAGARA / SRJL-1090~1
CD DISC 1(2015 Remaster)収録曲
- SHOW
- DOWN TOWN
- 蜃気楼の街
- 風の世界
- ためいきばかり
- いつも通り
- すてきなメロディー
- 今日はなんだか
- 雨は手のひらにいっぱい
- 過ぎ去りし日々“60’s Dream”
- SUGAR
- パレード(Live)(Bonus Track)
- こぬか雨(Live)(Bonus Track)
- 雨は手のひらにいっぱい(Live)(Bonus Track)
- WINDY LADY(Live)(Bonus Track)
- DOWN TOWN(Live)(Bonus Track)
- 愛は幻(Live)(Bonus Track)
- 今日はなんだか(Live)(Bonus Track)
CD DISC 2(2015 Remix)収録曲
- SHOW
- DOWN TOWN
- 蜃気楼の街
- 風の世界
- ためいきばかり
- いつも通り
- すてきなメロディー
- 今日はなんだか
- 雨は手のひらにいっぱい
- 過ぎ去りし日々“60’s Dream”
- SUGAR
- 今日はなんだか(Original Piano Version)(Bonus Track)
- DOWN TOWN(Live)(Bonus Track)
- 風の世界(Live)(Bonus Track)
- SHOW(Karaoke)(Bonus Track)
- DOWN TOWN(Karaoke)(Bonus Track)
- 蜃気楼の街(Karaoke)(Bonus Track)
- いつも通り(Karaoke)(Bonus Track)
- 雨は手のひらにいっぱい(Karaoke)(Bonus Track)
シュガー・ベイブ
山下達郎(Vo, G)を中心に1973年に結成されたロックバンド。1976年解散。解散時のメンバーは山下達郎、大貫妙子(Vo, Key)、村松邦男(G, Vo)、寺尾次郎(B)、上原裕(Dr)の5名。メジャー7thを多用したコード展開や美しいコーラスワークなど、当時としては珍しい音楽性でその後の日本のロック史に大きな影響を与えた。1975年4月に発表したアルバム「SONGS」は、現在に至るまで名盤として多くのファンに支持されており、2015年8月には多くのボーナストラックを加えた「SONGS -40th Anniversary Ultimate Edition-」としてリイシューされた。
山下達郎(ヤマシタタツロウ)
1953年東京出身の男性シンガーソングライター。1975年にシュガー・ベイブの中心人物として、シングル「DOWN TOWN」とアルバム「SONGS」にてデビュー。翌1976年のバンド解散を経て、アルバム「CIRCUS TOWN」でソロデビューを果たす。1980年に発表したアルバム「RIDE ON TIME」が大ヒットを記録し、以後日本を代表するアーティストとして数々の名作を発表。1982年には竹内まりやと結婚し、彼女のアルバムをプロデュースするほか、KinKi Kids「硝子の少年」など他アーティストへの楽曲提供も数多く手がけている。また、代表曲「クリスマス・イブ」は1987年から四半世紀にわたってオリコン年間チャート100位以内を記録。2011年7月に通算13枚目のオリジナルフルアルバム「Ray Of Hope」を発表し、2012年9月には初のオールタイムベストアルバム「OPUS ~ALL TIME BEST 1975-2012~」をリリースした。2015年3月には「第65回 芸術選奨文部科学大臣賞」の大衆芸能部門・大臣賞に選出。同年10月から2016年4月にかけて35都市64公演のホールツアーを実施する。