「卒業を目の前にした寂しい気持ち」は、今しか書けない
──ここからは、記念すべきデビュー曲「さくら咲かないで」についてのお話を。今作はロックバンドAliAのTKTさん(Key)が作詞、ERENさん(G)が作編曲を手がけ、菅井さんも作詞で参加されています。お二人からの楽曲提供は、どのような経緯で決まったのでしょう?
去年の夏、私の友達がアイドルとして活動していることもあり、「TOKYO IDOL FESTIVAL」に行ったんです。いろいろなアイドルさんのライブを観る中、yosugalaさんの曲にすごく惹かれて。どんな方が曲を作っているんだろう?と気になり調べたところ、AliAさんにたどり着きました。思わず「私と同じ名前だ!」とびっくり(笑)。そこからAliAさんの「かくれんぼ」の弾き語り動画を投稿したりしてご縁が生まれました。
──偶然が重なって、「さくら咲かないで」が誕生したんですね。運命めいているといいますか。
本当に! 好きな音楽を作る方々が私と同じ“ありあ”って……こんな偶然ってあるんですね。
──TKTさんとの作詞は、どのように進めていったのでしょう?
最初は歌詞というより短い言葉を書き出していって、そこからTKTさんと相談しながら、パズルのように組み合わせていきました。正直、最初は歌詞を見せるのが恥ずかしかったんですよ。全部私の妄想ですから(笑)。けど、TKTさんから「伝えたい思いがあるなら全部入れたほうがいい。恥ずかしがらなくていい」と言っていただけたので、自分の言葉をそのまま伝えました。私の短文をTKTさんがきれいな表現でまとめてくださって、すごく素敵な歌詞になりました。
──言葉を書き出していったときは、どのようなテーマにしようと考えましたか?
作り始めたのがちょうど高校生活終盤に入った頃だったので、「まだ卒業したくない、友達と別れたくない」という思いが日増しに強くなっていたんです。きっとこの“卒業を目の前にした寂しい気持ち”は今しか書けないなと思ったので、歌詞は実際の通学中の出来事や卒業したくない素直な気持ちを軸にしながら、大人へと成長していく不安と青春との別れへの不安が伝わればいいなと思いながら書き進めていきました。
──「さくら咲かないで」という言葉から察せられるように、冬と春の境い目を舞台にしていますよね。
冬から春に変わっていくその間の風景に、もどかしさや時間が止まってほしいという気持ちを込めたかったんです。その思いは「さくら咲かないで」「雪とさくらの境界線 溶ける前に忘れる前に」という歌詞に表れています。
──時間が止まってほしいという思いと裏腹に過ぎ去っていく、その刹那の光景がドラマチックに描かれているのが面白いなと思いました。
この曲の主人公は大切な人に思いを伝えたいのに、伝えられないまま時が過ぎていきます。書き始めた当初は、最後まで伝えられずに終わる予定だったんです。でも、季節が移り変わるのと同じように、心が成長していった様子を歌詞に入れたくなって。それで最後のパートを追加して、「さくら散らないで」という言葉で終えました。ちゃんと春を迎えたことで、前を向かせて終わらせようと。あと、この曲とともに私も成長できたらいいな、という願いも込めています。
──妄想と現実を織り交ぜて歌詞を作られるとのことですが、今作の中で特にその両極がうまく出たフレーズを挙げるとしたらどれでしょう?
Aメロの「今日もまた乗り過ごした一駅先 電車の窓で慌てて整えていた前髪」、これは実話です。高校に行くときはいつも電車で寝過ごしちゃって、気付くと1駅先で(笑)。乱れた前髪を、慌てて電車の窓を鏡にしながら整えていたんです。TKTさんに「高校生活を感じさせるエピソードはない?」と言われ、こういうのなら……と伝えて、そのまま歌詞になりました。逆にサビの「キミの特別に僕がなれますように」は、完全に妄想のフレーズです(笑)。
いつかは“人の感情の分身体”に
──切なさと希望が入り乱れる言葉の魅力を最大限に引き立たせていくERENさんによるバンドサウンドも、非常に素晴らしい仕上がりですね。
「離ればなれになる前、自分の大切な思いを伝えなきゃ」という歌詞など、大切な人のもとへ走って向かっている姿をイメージしていたので、さわやかで疾走感にあふれ、きれいさとカッコよさもある曲にしていただいて感動しました。
──初のレコーディングはいかがでした?
とにかく大変でした(笑)。何度も同じフレーズを歌って完成させていかなければいけないので、繰り返すうちに何が正解の歌い方かわからなくなってしまって。正直言うと、もっとがんばれたらよかったと反省する部分もありました。人生で一度きりのデビュー作、全部に納得したくて。ただ、最後のサビで感情を入れて歌いたいと、何度も納得いくまでやり直したことで、歌に思いは乗せられました。何よりもTKTさんとERENさんから「本当にがんばったね。胸を張って!」とお褒めいただけたので、結果的に大満足です。
──そうして完成した「さくら咲かないで」を聴いたときの感想はいかがでした?
うれしさ以上に「本当にできたんだ!」という驚きが一番強かったですね。私が何かをしたというよりは、お二人のお力添えがあって完成した曲。お二方がこの曲に懸けてくれた思いも背負って、大切に歌い続けようと気が引き締まりました。あと、この曲を作ってからというもの、街中でさくらにまつわるものを見かけると、「あれもさくら、これもさくら……」って、ついつい手に取るようになっちゃいました(笑)。
──さくらに支配されていますね(笑)。最後に、「さくら咲かないで」の歌詞になぞらえた質問をさせてください。「春のその先へ」と向かうアーティスト・菅井純愛は、“その先”をどのように思い描いていますか?
いつか、私のこれまでの経験を生かした曲作りしていければいいなと思っています。例えば英語が話せるので英語詞を書いてみたり。あとは、“人の感情の分身体”になって、聴いた方とともに歩んでいける曲を作れる人になりたいです。……ん、分身体? 言葉、怪しいですね(笑)。自分で言って恥ずかしくなってきました。
──いえいえ、素晴らしいですよ。いろいろな人の感情に寄り添える曲を作りたいということですよね。
そうです、そうです! 日常生活で自分の感情をまっすぐ人に伝える機会って少ないと思うんです。私の曲を聴いたときに、まるで自分の思っていたことを言葉にしているかのように、少しでも心が軽くなってくれたらうれしい。いつも皆さんの傍に私の曲があれば……(照れながら)アハハ。
プロフィール
菅井純愛(スガイアリア)
2006年6月8日、アメリカ・ハワイ生まれ。幼少期よりモデルとして活動し、多数の雑誌やショーで活躍。帰国子女というバックグラウンドや類稀なスタイルで同世代からの⽀持を得る。雑誌「Popteen」の専属モデルを務めたのちにアーティストを志し、2024年からあえて顔と名前を出さずにSNSに弾き語り動画を投稿。2025年4月にB ZONEよりシングル「さくら咲かないで」を配信リリースし、アーティストデビューを果たした。