ナタリー PowerPush - ストラト☆ダンサーズ

中川いさみ連載マンガが生んだ“編集部バンド”がメジャー進出

「こりゃあひどいねー。びっくりだねー」

──合宿で結成されたストラト☆ダンサーズは、その後も活動を続けていくことになります。その中で訪れた大きな出来事が、マンガ「ストラト!」1集のハイライトにもなっている泉谷しげるさんとの出会いです。

「ストラト!」2集より、ライブ中にとんでもないところでブレイクするというミスを犯した江上編集長。

神村 せっかくだしバンドは続けていこうっていう話になったところに……。

江上 偶然、泉谷さんが現れて。

──どんな偶然だったんですか?

江上 泉谷さんが吉祥寺でイベントを開催することになって、楳図かずおさんに出演依頼をするつもりだったみたいなんですよ。で、楳図さんの担当は僕なので、そのお話が来たときに「ストラト☆ダンサーズも出していただけないですか」っていうお願いをしたんです。

佐藤 そこがちょっとね、常軌を逸してますよね。楳図さんにつないでやるからさっていう(笑)。

江上 そうそう。楳図ハウスに連れてってあげるから我々もどうですか、みたいな。イヤらしくない程度にね。

──いわゆるバーター的な(笑)。

神村 そこはもう、大人のバンドならではのメリットというか(笑)。

江上 でも泉谷さんはマンガがとても好きな方なんで、意外と快くOKをくださったんですよ。あ、その前に1回、僕らの練習を観に来てくれたんだっけ? それで出してくれる気になったのかな。

中川 うちらの音を聴いたことないのに、いきなりライブに出すわけにはいかないからね。

神村 我々が練習してる下北沢のスタジオに来てくれたんですよ。で、腕組みして座ってる泉谷さんの前で1時間くらいずっと演奏して……。

江上 「こりゃあひどいねー。びっくりだねー」って言われるっていう(笑)。

──名シーンですよね。

中川 俺はそれなりにうまくいったんじゃないかなって思ってたんだけどね。

神村 自分たちとしては、結構大丈夫なんじゃないかなって思ってたのに。

江上 ここまで仕上がってるからびっくりするなよ、みたいな。

──でも違った意味でびっくりされちゃって(笑)。

神村 今思うと何様だっていう感じですけど。素人って怖いですよね(笑)。でも、大人になってからバンドを始めたっていう僕らのことをすごく面白がってくれたみたいで。そこからはすごくいろいろお世話になってます。

もう大人なんで傷つきたくない

──結局、そのイベントにも出演することができたんですよね。それが事実上、初ライブになるわけですか?

「ストラト!」2集より、練習中の神村。

神村 そうです。生まれて初めて人前で楽器を弾くなんて行為をしたわけで。楽しかったけど、とにかく精一杯でしたね。

江上 今聴くと演奏もひどいと思いますけどね、きっと。そこからはちょこちょこライブをやるようになりました。マンガが絡んでるっていうことで声がかかりやすいんですよ。そこはすごくありがたいなって思いますね。

──結成時からずっとカバー曲をレパートリーにしていたストラト☆ダンサーズですが、その後、オリジナル楽曲を作るようになっていくんですよね。

中川 はい。それもね、オリジナル曲をやればうまいとかヘタとか言われなくなるかなっていう理由で。オリジナルやれば文句ないだろ、みたいな(笑)。

──なるほど。比較するものがないから(笑)。

神村 ただ、今度はそこでオリジナル曲を作ってくる人が恥ずかしがるっていう事態になって。

江上 そうなんですよ。編集者ってマンガ家が出してきたものを評価するのには慣れてるんですよ。「ここがちょっと描けてないね」とか「キャラが立ってない」とか。でも音楽に関しては自分たちが表現者側なんで、自分で作った曲を出す瞬間の恥ずかしさっていうのがものすごくあって。「まだまだなんだけど……」「まだ途中なんだけど……」って、ちょっと言い訳しながらみんなに聴かせるっていう(笑)。

神村 もう大人なんでね、傷つきたくないんですよ(笑)。

中川 で、それに対してみんなで褒めあってね。「ああ、いいよ!」「これかっこいいよ!」って(笑)。

神村 それがバンドを長続きさせるコツだっていうことを学びました。で、そういうエピソードをマンガに盛り込めたのも良かったと思いますね。今までそういう部分を描いた作品ってなかったと思うので。

──オリジナル曲を作るようになって、ストラト☆ダンサーズとしての音楽性が明確になってきたところもあったんじゃないですか?

江上 歌詞は中川さんが書いてるんですけど、それはひとつ大きい特徴かなって思いますね。思いもよらない歌詞が上がってくるんだけど、どれもすごく面白い。僕が昔担当してた「クマのプー太郎」の頃から中川さんの世界ってずっとつながってるんですよね。どこかかわいいような、気持ち悪いような、怖いような世界が詞の中にあって。それがすごく独特だなって思います。

──マンガを読ませていただくと、中川さんはロックというものにかなりこだわっている印象ですよね。

中川 そうなんですよね。世の中にはロックじゃないよなあっていう歌がたくさんあると思ったので、ロックってなんだろうっていうのはすごく考えました。広く考えればなんだってロックなんだけど、狭く考えていくとそれは男と女の話、セックスみたいなことがロックなのかなって自分としては思ったんです。なのでそのへんは突き詰めていきたいですよね。

メジャー1stシングル「運命論メロン」2012年8月29日発売 Ki/oon Music

収録曲
  1. 運命論メロン
  2. ヴィレッジヴァンガードのテーマ
  3. 風俗ガールとバドミントン
初回限定盤DVD収録内容
  1. 運命論メロン(ミュージックビデオ)
  2. ストラト★ダンサーズ メイキングダイジェスト
LIVE INFORMATION
中川いさみ&漫画「ストラト!」presents 祝・キューンミュージックよりメジャーデビュー!! 遅れてきた新人バンド [ストラト☆ダンサーズ] CD発売記念LIVE!!

2012年8月30日(木)東京都 新宿LOFT
OPEN 19:00 / START 19:30
<出演者>
ストラト☆ダンサーズ / 水中、それは苦しい / 久住昌之 / 羽生生純 / カネコアツシ / ヤスコーン / 河井克夫 / and more

ストラト☆ダンサーズ(すとらとだんさーず)

マンガ家の中川いさみ(Vo, G)が、小学館「月刊IKKI」編集長の江上英樹(G)、編集部員の佐藤祐二(B)と神村正樹(Dr)とともに結成した4人組ロックバンド。中川の「ギターがうまくなりたい」という願いを叶える過程を追った「IKKI」の連載実録マンガ「ストラト!」を通じて結成され、さまざまなライブイベントに出演して注目を集める。2011年11月、初の音源となるシングル「オタマジャクシ・ベイベ」をリリース。このシングルを1000枚販売するという条件をクリアし、Ki/oon Musicからのメジャーデビューが決定する。2012年8月、シングル「運命論メロン」でメジャーデビュー。同月には「ストラト!」の最新刊となる第3集も発売される。