STEPHENSMITH|“スロータッチ”なアーバンサウンドに秘めた意外な野心

優大のことを知っている人が見たらすごく理解できる

──CAKEさんはどんなときに音楽を作るんですか?

CAKE ずっと、気持ちが下を向いているときに曲ができるのかなって思っていたんですけど、むしろ心に余裕があるときのほうが曲ができるって最近気付いたんですよね。いくら落ち込んでいたとしても、「明日はバイトがない」とか、ちゃんと時間があって余裕があるときに曲が生まれている気はします。なので、最近はちゃんと休みを取るようにしていて。どれだけ不安を歌っていても、なんだかんだで、精神的には健康な状態のときに曲って出てくるんだと思うんですよ。

──なるほど。

STEPHENSMITH

CAKE 自分が作った曲に対して、自分でいいか悪いかを判断するのが一番大変な作業なんですけど、「いい」と判断して「人に聴かせよう」って思えるのって、心に余裕があるときなんです。それは曲の良し悪しと言うよりは、心のコントロールの問題なんですよね。なので、そういうことにも向き合わなきゃいけないなって最近は思っています。健康でいないとダメですね。

──OKIさんとTAROさんは、CAKEさんの世界観をどのように感じていますか?

OKI ほかの邦楽アーティストにはない感性だよね。

TARO そうだね。優大のことを知っている人が見たらすごく理解できる、みたいな歌詞が多いんですよ。そこが面白いなって思うし、ちょっと難しい言葉を使って書いたりするのもまた、優大の性格を表しているような気がします。優大って、きっと頭の中がめちゃくちゃ目まぐるしいんですよ。「考える」っていうことが習慣化されている気がする。

CAKE 確かに。Twitterはもうやめたんですけど、やっていた頃は1~2分前にツイートしたことと、そのあとにツイートしたことで、まるっきり考え方が違ったりするんですよね。それにあとから自分で気付いて、「あれ、なんでこんなに考えが変わったんだろう?」って不思議になるっていうことを繰り返していたんですけど(笑)。でもTwitterだけじゃなく、「今日言ったことは明日には考え方が変わるんだろうな」って、いつもどこかで思いながら生きている感じはあるんですよね。

STEPHENSMITH

TARO そうだよね。でもだからこそ、優大はいろんな人のいろんな考え方も許せたりできると思うんですよね。あと、僕はアルバムの最後の「ベッドタイムミュージック」の歌詞がすごく好きなんですけど、冒頭の「愛情表現 それは無限 嫌いって表現はどこか難しい」っていう表現、すごいなと思うんです。僕だったらもっとストレートに、「嫌い」よりも「好き」の側から考えてしまうと思うんですよ。

CAKE なるほど……自分では全然考えてなかった。これは部屋で1人で作った曲なんです。当時まだ福岡に住んでたんだけど、2人はもう東京に出てきていたから、僕は月1、2回くらい東京と福岡を行き来する生活をしていたんですよね。その頃はスタジオで音を合わせる時間もなかったけど、新曲はやりたいからめっちゃシンプルな曲を作ろうと思って。この曲、コード進行はずっと一緒なんですよ。

──「これから 争いが増えてしまっても ベッドタイムミュージック 世界中に流せば……」というラインを聴くと、部屋で1人で生み出した音楽が世界中に届いていく光景に思いを馳せているようにも思えます。

CAKE そうですね。この曲を作った頃、実家に帰ってバイトをしながらお金を貯めていたんです。一人暮らしの頃は家にテレビがなかったんですけど、実家に帰ると、テレビのニュースを見る機会も自ずと増えて。そのとき「ニュースって、ネガティブなことしか放送しないなあ」って漠然と思ったんです。でも「ベッドタイムミュージック 世界中に流せば……」の、「……」のあとのことは言いたくなかったんですよね。その部分は聴いた人に委ねたいです。

坂本慎太郎さんを生で観て
「まだ自分たちにもできることがある」って思った

──TAROさんが言ったように、僕もCAKEさんの歌詞を読んで「思考と言語の結び付け方が独特だな」と思ったんですけど、好きな作詞家はいますか?

CAKE やっぱり、坂本慎太郎さんですね。唯一無二だなって思う。

──ああ、わかる気がします。CAKEさんと坂本さんの共通点って、僕は“狂っていない”ところにあると思うんです。ひねくれてはいるんだけど、狂っていない。自分にとって、わからないことや理解の範疇を超えることも、「わからない」という状態で頭の中に置いておけたりする。そういう整理のされ方が、もしかしたら近いのかもなって。

CAKE なるほど……坂本さんって、ゆらゆら帝国からソロに切り替えてからのシンプルさがすごいんですよ。ソロ名義の1stアルバム(「幻とのつきあい方」)は全部自分で演奏していましたけど、めちゃくちゃシンプルなんですよね。レニー・クラヴィッツの1stアルバム(「Let Love Rule」)なんかもそうですけど、自分の頭の中で全部整理が付いた状態になっていると言うか、余計なものが削ぎ落とされたうえで形作られている感じがある。かなりひねくれた人だと思うけど、いろいろねじ曲がった思考を経たうえでたどり着くシンプルさ、と言うか。それは本当にすごいなって思うんですよね。今年の1月に、坂本さんのライブを初めて生で観たんですけど……泣きました(笑)。

──(笑)。

CAKE そのときは3人編成にサポートの管楽器を加えた形だったんですけど、そのライブを観て「まだ自分たちにも3ピースでできることあるわ!」って思って、すごく刺激を受けましたね。

STEPHENSMITH
STEPHENSMITH「ESSAY」
2018年12月5日発売 / SPACE SHOWER MUSIC
STEPHENSMITH「ESSAY」

[CD] 2500円
DDCB-14063

Amazon.co.jp

収録曲
  1. エッセイ
  2. 手放せ
  3. フラットな関係
  4. 豪雨の街角
  5. デコルテ
  6. 紫陽花
  7. 欲しがり
  8. ベッドタイムミュージック
WWW presents "dots"
  • 2018年12月19日(水) 東京都 WWW
    出演者 STEPHENSMITH / AAAMYYY
Release Live "Essay"
  • 2019年2月8日(金) 東京都 TSUTAYA O-nest

※チケットは1月5日から一般発売

STEPHENSMITH(スティーブンスミス)
STEPHENSMITH
CAKE(Vo, G)、OKI(B)、TARO(Dr)からなる全員1993年生まれの3ピースバンド。2013年に福岡で結成され、2017年から活動の拠点を東京に移している。自らの音楽のテーマを“スロータッチ”と名付け、ニューソウルやインディR&Bの空気をまとったサウンドの楽曲を制作。2018年5月に3週連続配信リリースした「豪雨の街角」「手放せ」「放蕩の歌」は、Spotifyにて計20以上の公式プレイリストに使用されるなど、サブスクリプションサービスを中心に大きな話題となった。2018年12月に上京後初となるアルバム「ESSAY」を発表した。