STEPHENSMITH|“スロータッチ”なアーバンサウンドに秘めた意外な野心

奇をてらわず、必然的に生まれる“新しさ”を求めていたい

──ライブの熱量を音源にも閉じ込めたがるバンドも多いと思うんですけど、STEPHANSMITHが音源とライブを明確に分けて、音源には無機質さを求めるのはなぜなのでしょう?

CAKE 自分たちが好きな音楽に、そういうものが多いからだと思います。例えば自分の原点にはディアンジェロのようなネオソウル系の人たちがいるんですけど、あの人たちって、ライブはめちゃくちゃ激しいけど、音源はコンピュータで作ったような緻密さがあるじゃないですか。そのギャップが好きなんです。それにディアンジェロのような人たちは、音源とライブにギャップがあっても、どちらも歌に圧倒的な熱量があるから、どんな振り幅のアレンジにも耐えられる。ポップスって、そういうものなのかなって思うんですよね。

STEPHENSMITH

──そもそも、バンドを始める段階で音楽的な方向性は見えていたんですか?

CAKE John Mayer Trioが好きだったので、ブルースを軸にしながら、最近の音楽を取り入れたものをやっていきたいっていうのは、ぼんやりとはありました。でも、本当に行き当たりばったりでやってきたので、最近やっとイメージしていたものに近付けている感じはします。最初はゴリゴリにファンクっぽい曲や英語詞の曲もあったし。でもディアンジェロとかを聴くようになって、やっと明確に方向性が見えてきた感覚があって。

──それだけディアンジェロとの出会いが大きかったんですね。

CAKE 大きかったですね。最初に聴いたときはあんまりわからなかったんですけど、だんだんと「これ、めっちゃすごいことをしているんじゃないか?」って思って、自分のバンドと結び付けるようになったんです。あと、ディアンジェロがきっかけでR&Bの歴史を追うようになったし、そこからヒップホップのサンプリング文化なんかも調べて。そういった面でも大きかったですね。ディアンジェロって元ネタが多いじゃないですか。丸パクリしたようなトラックに歌詞だけ乗っけたような曲もあるし。「これもアリなんだ!?」って、自分の許容範囲が広げられた感じがします。

──音楽の歴史を調べたりするのはお好きですか?

CAKE 大好きですね。僕は「温故知新」っていう言葉が好きなんですけど、過去を知るからこそ、新しいものは生まれるんだって信じていて。なので、機材のことや音楽理論はわからないけど、自分の好きな曲の元ネタとか「この音楽が流行った時期には、こんなことが起こっていた」みたいな歴史を調べるのは好きです。でも、その瞬間に偶発的に起こったことに対して、後付けで「こういう時代だったから、こういう音楽が生まれたんだよ」って言うのは、あまり好きではないんですよね。みんな、目の前にあるものを必死にやっていったから歴史に残る音楽になっただけだと思うので。

──確かに歴史って瞬間の集積ですからね。きっと歴史に名を残している音楽家たちは、教科書に載りたくてその音楽を作ったわけではないでしょうし。作り手の孤独で内発的な理由によって産み落とされた音楽が、社会や歴史を反映していたってことなんですよね。

CAKE そうですよね。それを確認するために、僕は過去の音楽を掘っているんだろうと思います。変に奇をてらって、変な音を出すために新しいシンセを買って……っていうことではなくて、必然的に生まれる“新しさ”を求めていたい。この時代に古い音楽をやることだって、絶対に“新しさ”につながるものだと思うんですよ。“新しい”という価値観に対する柔軟性は持っていたいと思います。“新しさ”は人それぞれにとって違うものだと思うし。

STEPHENSMITH

音楽は悩みを解決させるものではない

──CAKEさんの書く歌詞って、この世界で生きることに対してちゃんと傷付き、ちゃんと疲れている人の歌詞だと思うんです。そうやって真っ向から傷付いている人の歌は今、すごく切実に響くなと思いました。

CAKE 本当はもっと優しい曲を書きたいんですけど、なかなかできないんです。いつも自分の本音だけが曲になってしまう。例えばアルバムに入っている「手放せ」とか「欲しがり」って曲は、東京で暮らし始めたことで自分の中から出てきた焦燥感が歌詞になっているんです。穏やかでありたいと思うのは不安を隠したいからで、結局本心は不安のほうにあるんですよ。特に東京に出てきてから作った曲はそんな感じで、今回のアルバムは優しい曲もあるけど、不安や焦燥感が出ている曲も散りばめられていて、すごく混沌としたものになったなと思います。でもこれが2018年の自分の心の中なんですよね。すごく極端で不安定だなって、自分でも思います。

──歌詞は、本当に包み隠さず書いていますよね。

CAKE そうですね。人と話しているときに使う言葉に近付けようと意識してます。曲にするということは、普段言えないことを言うのと同じだって考えてるので、大事な部分はなるべくシンプルな言葉で伝えたいと思っています。

──壮大なメッセージや、聴き手に夢を与えるようなことを歌いたいという欲求は、CAKEさんの中にはないですか?

CAKE 全然ないですね。僕は共感のほうが大事だと思うし。ピート・タウンゼント(The Who)の名言で、「ロックンロールは苦悩から解放してはくれない。ただ、悩んだまま踊らせるんだ」っていうのがあるじゃないですか。本当にその通りだなって思う。音楽は悩みを解決させるものではなくて、「自分が今感じてる不安は、こういうものなんだ」ということを、ただ理解させるものだと思うんです。それを理解したうえでどうするかは、聴いた人次第だと思う。

STEPHENSMITH「ESSAY」
2018年12月5日発売 / SPACE SHOWER MUSIC
STEPHENSMITH「ESSAY」

[CD] 2500円
DDCB-14063

Amazon.co.jp

収録曲
  1. エッセイ
  2. 手放せ
  3. フラットな関係
  4. 豪雨の街角
  5. デコルテ
  6. 紫陽花
  7. 欲しがり
  8. ベッドタイムミュージック
WWW presents "dots"
  • 2018年12月19日(水) 東京都 WWW
    出演者 STEPHENSMITH / AAAMYYY
Release Live "Essay"
  • 2019年2月8日(金) 東京都 TSUTAYA O-nest

※チケットは1月5日から一般発売

STEPHENSMITH(スティーブンスミス)
STEPHENSMITH
CAKE(Vo, G)、OKI(B)、TARO(Dr)からなる全員1993年生まれの3ピースバンド。2013年に福岡で結成され、2017年から活動の拠点を東京に移している。自らの音楽のテーマを“スロータッチ”と名付け、ニューソウルやインディR&Bの空気をまとったサウンドの楽曲を制作。2018年5月に3週連続配信リリースした「豪雨の街角」「手放せ」「放蕩の歌」は、Spotifyにて計20以上の公式プレイリストに使用されるなど、サブスクリプションサービスを中心に大きな話題となった。2018年12月に上京後初となるアルバム「ESSAY」を発表した。