STEPHENSMITH|“スロータッチ”なアーバンサウンドに秘めた意外な野心

自らの作るサウンドを“スロータッチ”と呼び、クールでメロウなインディR&Bを聴かせる3ピースバンド、STEPHENSMITH(スティーブンスミス)。今年の春からSpotifyで数多くのプレイリストにその楽曲が使用され、現在サブスクリプションサービスのユーザーを中心に注目を集めている彼らが、“スロータッチ”というコンセプトをさらに推し進めたニューアルバム「ESSAY」を12月5日に発表した。

そこで音楽ナタリーでは今回、メンバーのCAKE(Vo, G)、OKI(B)、TARO(Dr)へのインタビューを実施した。昨年福岡から上京したばかりで、まだメディアの取材をほとんど受けたことがなかった彼ら。話を聞くとCAKEは、そのサウンドの印象からは意外にも思える野心を語り始めた。

取材・文 / 天野史彬 撮影 / マスダレンゾ

「売れるためならなんでもします」っていう気持ち

──STEPHENSMITHの皆さんは、去年福岡から上京されたんですよね。上京のきっかけはなんだったのでしょう?

CAKE(Vo, G) 「音楽で飯を食いたい」っていう、もう本当にそれだけですね。

OKI(B) 福岡にいたら、こういうインタビューの場もないもんな。

CAKE(Vo, G)

CAKE うん。テレビにも出たいし、雑誌にも載りたいし、とにかく有名になりたいっていう気持ちです。地元で活動していた頃も、傲慢かもしれないけど「地元に留まる音楽性ではないんじゃないか?」って自分で思っていました。「STEPHENSMITHは東京に合うんじゃない?」って言ってくれる人もいたし、それを実現したいなと思って。

──野心的ですね。

CAKE ずっと「売れたい」と思っていますね。「売れるためならなんでもします」っていうくらいの気持ちではいます。目指すは星野源とかSuchmosとかのレベル。そのぐらいに思っていないと、それ以下にすら行けないような気がする。

──「売れるためならなんでもする」と言い切れる覚悟はすごいと思います。その根源にあるものって、なんなのでしょう?

CAKE ああー……やっぱり、お金ですね。

──なるほど。

CAKE 僕の家は別に貧乏だったわけではないんですけど、お金持ちだったわけでもないので。でも、ずっと「お金があったら楽なんだろうな」って思っていたし……お金が欲しいんですよね。お金が欲しいから音楽をやっている。これ、活字になったらどう思われるのかわからないけど、でも自信を持って言えますね。この気持ちは隠したくない。僕は自分のセンスや才能がお金になるための努力をしているけど、それは絶対に悪いことではないと思うんですよ。かと言って、お金のために自分の才能を隠すようなことはしたくない。お金を出してもらえるような価値が自分に出るように努力するのは、芸術的なことだと思うんです。そういう意味で、お金が欲しいんですよね。

──すごく芯が通った野心だと思います。OKIさんとTAROさんの中にも、少なからず野心はありますか?

TARO(Dr)

TARO(Dr) 僕が東京に来たのは、ただ、メンバーに付いてきたっていう感じなんですよね。「なるようになるだろう」っていう精神が強いのかもしれないですけど。バンドに誘われたときも、何の気なしに「いいよー」って言って始めたんです。そうしたら優大(CAKE)が「俺は音楽で飯が食いたい」って言って大学を辞めて。でも、自分は大学にまだいたし。

CAKE 留年もしてたしな(笑)。

TARO うん(笑)。その頃はまだ「ずっとバンドをやっていきたい」っていう感じではなかったんですよ。でも「東京に行きたい」っていう話が出てきて、去年興味本位で東京に来て、それから現実を見始めた感じはします。ちょっと有名なバンドの人たちに実際に会ったときは、正直「自分たちはもっと売れてもいいはずだな」って思ったりもするし、逆にすごいライブを観ると「ヤベえ!」って思ったりもするし……「バンドでお金を得るってどういうことなんだろう?」ってことは、東京に出てきてから考え始めた感じですね。

──OKIさんはどうですか?

OKI(B)

OKI 僕は小さい頃から、どこか冷めていると言うか、ドライな部分があって。すべての学校行事を楽しめないタイプだったんですよね。ただ音楽は好きで、高校の頃、バスで1時間半ぐらいかかる通学時間ずっと音楽を聴いていて。でも学校ではみんな勉強や運動ができたり、人を笑わせたり……何かしら得意なものがあるじゃないですか。そういう意味で「俺は何ができるんだろう?」って考えると、何もできないんですよ。それで楽器を始めたんです。楽器を始めたことで自分に自信が付くようになったんですけど、根本にあるのは「ほかの人と一緒はイヤだ」っていう気持ちだったんだと思うんですよね。なんか中二病っぽいですけど(笑)。

CAKE みんなそうだよ(笑)。

OKI やっぱり人と違うこと、しかも自分の好きなことでごはんを食べられるっていうのは、人がうらやむことじゃないですか。なので「音楽で生活できるようになりたい」という気持ちはずっとありますね。

自分は3ピースという苦しみを味わいたいんだと思う

──STEPHENSMITHの音楽って、昨今のR&Bやヒップホップの流れをちゃんと消化しつつも、 必ず“3ピースのバンドサウンドである”という点に帰結するところが魅力だと思うんですよね。今、自分たちが3ピースバンドという表現形態を選んでいる理由は、どこにあるのでしょう?

CAKE 僕が好きなバンドって、John Mayer Trioとかゆらゆら帝国とか、3ピースが多いんですよ。3ピースって、シンプルだけど難しいものだと思ってて。アレンジに関しても、行きすぎることができない。作りながら物足りなさは絶対に出てくるんです。でも、自分はそういう苦しみを味わいたいんだと思います。最近は人数が多いバンドも多いじゃないですか。そういうのも見ていると「人数が多かったら、よくなるのは当たり前だよね?」って思っちゃう(笑)。人数が多くて、よくならないほうがおかしい。別にそこに対してストイックになる必要もないとわかってはいるものの、大所帯でイキイキやっている人たちを見ると、ムカついちゃうんですよね(笑)。

──なるほど(笑)。

CAKE なので、STEPHENSMITHが3人でやっているのは自分の尖りのようなものです。僕の唯一の、みんなに見せつけたい尖り。あと、お客さんにも聴きながらいろんなことをイメージしてもらいたいっていうのもあります。音楽だけじゃなくなんでもそうですけど、今は説明しすぎるものが多いと思うんですよね。まあ別にそれでもいいんですけど、「そうじゃない音楽も必要じゃないですか?」っていう提案と言うか。

STEPHENSMITH

──そのストイシズム、すごいですね。

CAKE でも苦しいほうに行きたいし、そのほうが自分にとっては楽な気もします。

──苦しい方向に行きたがるのは、時代に対する批評性とも言えると思うんですよ。実際、2018年に提示するバンドミュージックの形として新作「ESSAY」はすばらしい作品だと思いました。皆さんの手応えはどうですか?

CAKE この作品の前にアルバムを1枚出しているんですけど(2016年リリースの「sexperiment」)、それはほとんど宅録だったんです。スタジオで全部録ったのは今回が初めてだったから、正直、反省点がめちゃくちゃあって。 「次はもっとよくする余地があるな」っていう、ポジティブな気持ちではあるんですけど。

──反省点って、具体的にどういった部分ですか?

CAKE 個人的に、音源ではあまり生音感を前面に押し出したいとは思っていなくて、1個1個の楽器の音作りにこだわって、シンプルなサウンドの上に歌を乗せたいんです。でも今回の録音は知らないことばかりで、できないこともたくさんありました。この先はもっと、バスドラとベースの重なり方とか、細かい音作りにこだわるバンドになりたいなって思ってます。

TARO そうだね。もっと無機質な感じがいいんですよ。僕らの演奏はまだまだ荒いです。それがいいと言えばいいんだけど、熱量でカバーしようとしてしまっている感じは否めない。ライブはそれでもいいけど、音源として残していくものは、もっと冷静に音の細部を見つめて作りたいなって、このアルバムを作って改めて思いました。日頃、どれだけ感覚でやってきたのかっていうことも実感させられたし。

STEPHENSMITH「ESSAY」
2018年12月5日発売 / SPACE SHOWER MUSIC
STEPHENSMITH「ESSAY」

[CD] 2500円
DDCB-14063

Amazon.co.jp

収録曲
  1. エッセイ
  2. 手放せ
  3. フラットな関係
  4. 豪雨の街角
  5. デコルテ
  6. 紫陽花
  7. 欲しがり
  8. ベッドタイムミュージック
WWW presents "dots"
  • 2018年12月19日(水) 東京都 WWW
    出演者 STEPHENSMITH / AAAMYYY
Release Live "Essay"
  • 2019年2月8日(金) 東京都 TSUTAYA O-nest

※チケットは1月5日から一般発売

STEPHENSMITH(スティーブンスミス)
STEPHENSMITH
CAKE(Vo, G)、OKI(B)、TARO(Dr)からなる全員1993年生まれの3ピースバンド。2013年に福岡で結成され、2017年から活動の拠点を東京に移している。自らの音楽のテーマを“スロータッチ”と名付け、ニューソウルやインディR&Bの空気をまとったサウンドの楽曲を制作。2018年5月に3週連続配信リリースした「豪雨の街角」「手放せ」「放蕩の歌」は、Spotifyにて計20以上の公式プレイリストに使用されるなど、サブスクリプションサービスを中心に大きな話題となった。2018年12月に上京後初となるアルバム「ESSAY」を発表した。