音楽ストリーミングサービスSpotifyの2018年にまつわる各種ランキングが発表され、今年1年でどんな音楽がユーザーに聴かれていたのかが明らかになった。本稿ではそのランキングをベースに「2018年の日本の音楽シーンがどのような景色だったか」、そして「ストリーミングサービスは日本の音楽シーンにどんな影響を与えているのか」を考察してみたい。
文 / レジー
「今年一番再生された曲」は2017年リリースの楽曲
「日本国内で最も再生された楽曲」として1位にランクインしたのはDAOKOと米津玄師によるコラボ曲「打上花火」である。2017年夏に公開されたアニメ映画「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」の主題歌であり、清らかな印象の打ち込みとメロディアスなピアノの組み合わせが印象的なこの曲。映画の映像をふんだんに使ったミュージックビデオも大きな話題を集めた──と、フラットに楽曲の紹介から始めてみたものの、この曲のリリースは映画の公開年と同じく2017年。つまり「2018年の楽曲」ではない。ちなみに国内での再生回数トップ5のリリース年月は以下の通りである。
日本国内で最も再生された楽曲
- 打上花火 / DAOKO × 米津玄師(2017年8月発表)
- Shape of You / エド・シーラン(2017年1月発表)
- Change / ONE OK ROCK(2018年2月発表)
- Wherever you are / ONE OK ROCK(2010年6月発表)
- 愛をこめて花束を / Superfly(2008年2月発表)
「『2018年に国内で最も再生された楽曲』のうち、2018年にリリースされた曲は1曲のみである」「その1曲を歌っているのはONE OK ROCKである」。この2つの事象こそ、2018年における日本のポップミュージックを取り巻く環境を端的に表しているように思う。
「リアルタイム」という概念の後退
日本レコード協会の統計によると、2017年の音楽ストリーミングの市場規模は約263億円。2018年の実績はまだ発表されていないが、第3四半期までの市場の伸びから算出すると300億円を突破すると思われる。2017年の270億円から一貫してダウントレンドで推移するダウンロードの市場規模を追い抜くのは確実である。
CDの市場規模にはまだ遠く及ばないとはいえ、いよいよストリーミングサービスが「データで音楽を聴く」という行為の中で主流になりつつある状況は、言い換えれば「多くの人があらゆる時代、あらゆる地域の音楽を自由に聴ける時代に突入した」ということになる。そして、その膨大な選択肢は、「必ずしも新譜を聴く必要はない」「新しくなくても聴きたい音楽を聴けばいい」という音楽との向き合い方を提示する。
Spotifyの年間再生回数ランキングの上位が2017年以前の楽曲で占められているのは、まさにこういったストリーミングサービスの特性が反映されてのものだろう。この傾向は、単曲のランキングだけでなく、Spotifyのセールスポイントの1つであるプレイリストのランキングでも確認できる。 「Spotify Japan 急上昇チャート」「Top Hits Japan」といったトレンドを把握するプレイリストを抑えて1位となったのは、「平成ポップヒストリー」。平成最後の年に多くのSpotifyユーザーが、プリンセス プリンセス「DIAMONDS」やWink「寂しい熱帯魚」で始まる回顧的なプレイリストを楽しんだ。
「何でも聴ける」という構造ゆえの、「リアルタイム」という概念の後退。逆に言えば、一度リスナーの心を捉えたヒット曲は長いこと繰り返し聴かれ続けるとも言える。ストリーミングサービスが今後さらに浸透する中で、この流れはさらに進む可能性がある。
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- Spotify
2008年にヨーロッパでスタートした、スウェーデン発の音楽ストリーミングサービス。2011年にアメリカに進出し、日本では2016年11月に本格的にスタートした。国内外4000万曲以上の楽曲をラインナップし、2018年12月時点で世界でのユーザー数が1億9100万人超を記録。世界各国のキュレーターやアーティスト、音楽ファンが作成した膨大なプレイリストや、アルゴリズムに基づく独自のレコメンド機能を持つ。