スパンコールの楽曲の魅力は説得力
──グループが始動してから約1年半が経ちましたが、ここまでの活動の手応えはいかがですか?
祐 前のグループから3年ほど活動しているので、アイドルとしては下積みの期間がけっこう長いほうなんですよ。ライブでお客さんの数がゼロのときもあった。転機となったのは、藤のスト缶事件ですね。
──スト缶事件?
祐 先ほども言ったように、藤はすごく真面目。それがよくない方向に進んでしまってるように感じることが増えてきて、彼女自身も長い期間それに悩んでいたように感じました。それである日のライブで、冗談でストロング缶を差し入れしたんですね。そしたら、その日から急にライブがよくなりまして。新規のお客さんも急に増え始めたんです。まあ……本人は渡されたスト缶を飲んでないと言ってるんですけど。
藤 飲んでないです!
祐 でも、僕はずっと疑っていて。もうあからさまに違うんですよ。
──それはいつ頃の話なんですか?
藤 鮮明に覚えています! 夏に開催した主催ライブの日ですね。
睦月 めっちゃ楽しかったもんね!
天野 あの感じは初めてだったよね。自分たちで、あまりのライブのよさにびっくりしました。
深田 そこからお客さんの数も、ステージの雰囲気もよくなったよね。
祐 本人曰く、お酒ではなく音楽に酔っていたらしいんですが(笑)。
藤 本当に飲んでないです!(笑)
──(笑)。そんなスパンコールグッドタイムズの記念すべき1stアルバム「SPANCALL NUMBER ~今夜のヒッツ!~」が完成しました。グループにとって現在までの集大成的な1枚ですね。
睦月 活動を始めたときから、アルバムをCDでリリースするのが憧れだったんです。でも買ってくれる人がいないと出せないし、今までは自分たちに実力が足りず悔しいと思っていたんです。だから念願が叶って本当にうれしいです。ライブで何度も披露していて、ずっと音源化したかった曲もたくさん入っているので、多くの人に聴いてもらいたいです。全曲好きなんですけど、中でも「トーキョーlast number」はすごく大事な曲。とにかく完成度が高いんですよ。この曲は世に出さないといけないって、ずっと思っていたんです。ライブで歌うようになってから3年経ってのリリースなので、本当に待望の音源化ですね。自分としては、この曲を祐さんが書いてくださったときに「これで世界が変わるかも」と思えるくらい希望を見出すことができました。
藤 ワンマンライブでアルバムのリリースを発表したら、応援してくれているファンの方たちも本当にうれしそうで。先日「トーキョーlast number」のミュージックビデオを公開したんですけど、「サーチライト」以来、約1年半ぶりのMVで、そのこともファンの方はメンバーと同じ熱量で喜んでくれました。ファンの皆さんと一緒に喜びを分かち合えることが、何よりもうれしいですね。アルバムのリリース日には作品の最後を飾る「フューズ」のMVも公開されました。ちなみに「サーチライト」は、スパンコールになってから初めて発表した曲で、当時「よし、ここからスパンコールとしてがんばるぞ」と思った記憶があります。今も自分の中でギアを入れたいときに聴くくらい大好きです。
──ほかの曲と比べると、「サーチライト」はメンバーそれぞれのキャラクター性が歌に出ている印象を受けました。
祐 そう言ってもらえるとうれしいです! スパンコールになって初めての曲だったから、彼女たちらしさみたいなものは特に意識したと思います。スパンコールはステージに立つメンバーが曲作りに参加しているわけではないので、説得力という点においてはそれが弱点になることもあるんじゃないかと思っていたんです。でもこれは僕の個人的なスタンスでもあるんですが、プロデューサーや社長とか、そういう立場からグループを動かしていくというよりは、どちらかというと同じメンバーのように、仲間として一緒に音楽をやっていきたいという気持ちが強くて。今ではありがたいことに、仲間として言い合ったりできる信頼関係が4人とできていているので、そんな自分だからこそ彼女たちをテーマにした、彼女たちの音楽を作れているという自負はあります。
──サウンドで言うと、「サーチライト」は1曲の中でさまざまな表情を見せていますね。ジャジーなピアノだったり、きらびやかな管楽器だったり。その中で一貫しているのが、どこか懐かしい哀愁感とバーレスクっぽさ。まさに、スパンコールの音楽性を凝縮した1曲だと思いました。
祐 “懐かしい”って最高にエンタテインメントじゃないですか。でもサウンド関係は案外デジタルで作っているんですよ。未来しかない彼女たちに、お父さんが昔着ていたジャケットをただ着させて「お洒落」って言うのも違う気がして。楽曲については、メンバーの技術やステージでの自由度のレベルもどんどん上がってきていて、最近はより音楽的に楽しんで作っているつもりです。彼女たちがステージで歌うとき、ライブハウスのフロアでお客さんが楽しんでいるとき、お客さんが仕事の帰り道で聴いているとき……そういったことを想像しながら作っていたら曲ができちゃってたりします。だから5分の曲って5分でできるんですよ。やっぱりまずは作ってる自分が全方向で楽しんでいたいというか。実際にライブハウスでスパンコールを楽しんでくれてるファンの姿を見てると、仕事で着るスーツは脱ぎ捨てるためにあるんじゃないかって思いますね。
深田 スパンコールになってしばらくは、自分のグループ内での立ち位置に悩んだり、前に進みたいと思えなくて葛藤していたりした時期があって。でも、ファンのみんながアルバムのリリースを喜んでる姿を見て吹っ切れたんです。このアルバムは、自分自身の心を開くことができた作品でもありますね。今ではコーラスを歌うのが楽しくて仕方がないんです。ほとんどの曲にコーラスを入れているんですけど、特に「Shangri-LA」はめちゃくちゃ気持ちいいコーラスラインで、これを歌う快感を覚えてしまったらヤバいです。メンバーの歌い方を見ながら、そこにコーラスで合わせにいくのが楽しい。
天野 私、今いろんな初めてを経験しているんですよ。アルバムを出すこともそうですし、リリイベや、ジャケット写真の撮影もそう。しかもアルバム制作中は、毎日のようにやることが山積みだったんです。メンバーとずっと一緒にいて、「忙しいことって、こんなに楽しいのか!」と初めての感覚を味わっています。アルバムの曲で、個人的に思い入れが強いのは「薔薇色のコメディ~なんつったってBig Band~」。これまでのスパンコールらしさも、今までになかった新しさも感じられると思います。
──「寂しい夜はロマンチックに、哀しいならコメディに」というアルバムのキャッチフレーズを象徴している曲ですよね。
天野 曲名に入っている「コメディ」のイメージで、楽曲の世界に入り切って歌うのが楽しいです。
祐 ライブでお客さんがいない時期が長く続くと、楽屋がどんどん暗くなっていくわけですよ。それだと誰もハッピーになれない。彼女たちはそのつらさや悔しさをステージに剥き出しにして表現することはしないし、したいと思っていない。それなら彼女たちらしくショーに、コメディにしてあげたいなと思って。この鬱屈とした状況がどうすればエンタメになるのか? それを必死に考えていましたね。スパンコールの音楽って、曲調は明るいけど歌詞は切ないものが多いんですよ。グループを取り巻く状況がなかなか変わらなかったんですけど、そんな中「薔薇色のコメディ」の歌詞を書き始めたんです。そしたら途中で内容が明るい歌詞になっていることに気が付いて。そのまま書き続けたんですが、3番サビの歌詞を書き終えたとき、「ついに動いたんだな」って、その気持ちが確信に変わりました。「薔薇色のコメディ~なんつったってBig Band~」は、タイトル通りの楽曲になったと思います。アルバムの発売が決まり、メンバーからも「いよいよリリースだ」「もうやるしかない」という、等身大でありながらもしっかり自分の足で飛び込んでいく覚悟のようなものが伝わってきて、そんな空気をさらに新曲「ウィ・アー・ザ」で形にしました。
このグループがどう受け入れられるのかわからない
──アルバムをリリースしてここからさらに精力的な活動をしていくと思うんですけど、スパンコールグッドタイムズにとっての理想の売れ方はなんなんでしょうか? どういう層、どこの世代にアプローチをしていきたいのか。
祐 スパンコールの音楽ジャンルって、ソウルミュージック、ファンク、シティポップ、AORとかに分類されると思うんですけど、この子たちにはそういう音楽が合うなと思っているんです。でも、それがどういう受け入れられ方をするのかは正直わからない。
メンバー一同 (笑)。
祐 スパンコールでやってる音楽のジャンルに関しては、正直僕も特別詳しいわけではなくて。強いて言うなら、楽しんで作ったものを彼女たちが楽しく歌ってくれたら、それがもうスパンコールの楽曲です。どこの層に向けてこのグループの曲を発信しているかって言うと、たぶんどこにも向けてないです(笑)。人の評価もすごく大切ですけど、それを追いかけすぎると本当の目的から外れてしまう気がして。気が付いたらやりたいことからかけ離れてしまっていて、あんなに大好きだった音楽を聴く気分になれない、一生懸命やっているとそうなるときもあると思うんです。でも、スパンコールはいつだって誰もが気軽に楽しめる場所にしたいから、だとすれば僕たちがまずいつだって楽しめなきゃいけないんです。
──なるほど。
祐 ただ皮肉にも、スパンコールでやってる音楽のジャンルを突き詰めていくことで、思いには反して曲のコードやアレンジ、パフォーマンスでけっこう難しいことをやっているんです。なので、曲のクオリティは高いと思っています。そういう面をマニアックに楽しんでくれてもいいし、小難しいことを考えずにノリで楽しんでもらえてもうれしいです。
睦月 歌詞について言うと、スパンコールの曲のすごいところは、歌詞を読むとドキッとすること。“私が知らない私”を曲が知っているというか。
藤 自分よりも知っている感じがするよね。
睦月 「そうそう! 私、これが言いたかったんだ」と思うことがよくあります。
──悩んでいることに対してどう向き合うべきか、その答えを音楽が導いてくれることもありますよね。
睦月 そうなんですよ! 悩んでいたことが新曲を聴くことで解決される感じ。スパンコールの曲は、そういうことばっかりですね。
祐 何か問題に直面しているときは、最後まで曲が書けないんですよ。でも、その問題が解決したときにスッと曲が書ける。要するに、僕自身にとってもカウンセリングみたいな感覚なんです。それこそグループがうまくいってないときに作った「MERRY-GO-LAND」という曲は、なかなか歌詞の結末が書けなくて。リアルな状況が曲に表れてました。だからもし今後、暗い曲が生まれたら……。
睦月 嫌だー!(笑)
天野 グループがまずい状況なのかも……と感じ取られちゃうかもしれない(笑)。ふふ、そうならないようにがんばります!
プロフィール
スパンコールグッドタイムズ
I LOVE YOU ENTERTAINMENT MUSICに所属するアイドルグループ。メンバーは藤ナオ、天野りこ、深田百香、睦月真尋の4人。前身グループでの活動を経て、2022年5月に現在のグループ名でステージデビューし、翌6月に東京・下北沢SHELTERで1stワンマンライブを行った。AORやファンクの要素を取り入れたアーバンなサウンドの楽曲が特徴で、2023年12月に1stアルバム「SPANCALL NUMBER ~今夜のヒッツ!~」をリリースした。
スパンコールグッドタイムズ | I LOVE YOU ENTERTAINMENT MUSIC