Sir Vanityで音楽をやる醍醐味
──梅原さんはSir Vanityで音楽をやることの醍醐味をどう感じていますか?
梅原 僕はほかで歌詞を書く機会がないので、このバンドで1人ちまちまと歌詞を書く作業がとても楽しいです。あと、歌詞によっては僕よりヨシキが歌ったほうが映える曲があったり、2人のボーカルが合わさったときの迫力はツインボーカルならではだと思います。それに、ヨシキにせよ大聖さんにせよ、僕がひっくり返っても書けないような歌詞を毎回上げてくれるので、「人間ってこんなに個体差があるんだな」と感じる瞬間も楽しいですね。
──今作の中で特に驚きがあった曲というと?
梅原 僕は歌っていないんですが「プレタポルテ」は特に好きですね。疾走感のある曲調も好きですし、ヨシキは常々「自分のことは歌詞に書かない」と言ってるんですが、この曲は彼の成分が多い歌詞だと感じました。自分でブランドをやるくらい洋服が好きですし、ヨシキが普段あまり見せないようにしている弱さみたいな部分を忍ばせてるんじゃないかなって。まあ僕の想像ですけど。
桑原 すごい。よくわかるね。この前ヨシキが「この曲の歌詞だけは、ずっと書きたいと思って少しずつ書き溜めてたものを当てはめた」と言ってたので、梅ちゃんが言ったような部分はあるんだろうなって思います。
「まだ音を止めたくない」という思いを楽曲に
──桑原さんは映画というコンセプトを意識しながら作曲を進めていったんですか?
桑原 そうですね。昔の日本の楽曲はイントロABサビ、そのあとまたABサビでDメロか間奏にいって大サビにいってアウトロ、という固定のパターンがあったんです。それが近年は3分前後の短い曲が増えてきて、イントロABサビ、そのあとにまたABサビにいかず、Dメロにいってサビにいくという構成が増えている。今回はなるべくそれに捉われないようにしたいと思ったのと、展開を少なくして1番も2番も3番もサビがちゃんとあるんだけど3分ぐらいに収めました。「明日ハレるかな」はまさにそういう曲ですね。あと個人的に一番こだわったのが「MUSIC」で、ワンコーラスごとにちゃんとサビを作って、梅ちゃんとヨシキそれぞれのソロがあって、最後2人で別のサビを歌うという構成にしたところ。2人の歌声が合わさったときの爆発力を表現したかったんです。単に繰り返しじゃなくて、短いタームで変化を付けたりしてひねりがある展開にすることを意識しました。
──「MUSIC」は最初からアルバムの最後の曲にしようと思っていたんですか?
桑原 8月にやったライブで初披露する新曲として作ったんです。ライブの1週間くらい前に急遽作った曲なんですけど、いい仕上がりになったと思います。ライブでは本編最後の曲として披露したんですが、アルバムの曲順決めの際にも最後を「MUSIC」にすることにみんな自ずと納得していた感じがありましたね。
──音楽に対する思いがまっすぐに書かれていますが、こういう曲を作ろうというのはいつの段階で決まったんですか?
桑原 僕はライブにおける予定調和なアンコールがあまり好きじゃないんです。アンコールをやりたい気分じゃなかったら別にやらなくてもいいと思う。でも、お客さんがたとえゼロだったとしてもステージに立つのは好きで、このメンバーと演奏するのも楽しいんです。部活みたいな感覚で練習してるときも好きだし、練習するならステージでも演奏したいという気持ちがあって。そういうことを3月のライブのあとに考える中で、「まだ音を止めたくない」っていう気持ちで曲を作っていたんです。それでヨシキに歌詞をお願いしたら、すごくいいものが上がってきた。仮タイトルしか伝えてないのにこれだけ書けるのはすごいですよ。しかも1日くらいで上がってきましたから。
梅原 早かったですね。
桑原 イベント帰りの新幹線で一気に書いたと言ってました。
梅原 僕はあまり曲を届ける相手のことを考えられない人間なんですが、「MUSIC」はヨシキに相手のことを考えられるエンタテイナーとしての一面があるからこそ書ける歌詞だと感じました。歌っていてとても気持ちのいい曲です。
曲を作ってるときは楽しいです
──梅原さんが作詞作曲した「桜、猫、電車」は2番で一気にテンポが速くなる面白い展開の曲ですが、どんなイメージがあったんでしょう?
梅原 何回目かのライブのあと、疲れて家でパンイチでソファで寝てたときに夢を見たんです。その夢の中で「愛を知らない人がいるよ」と歌っていて、飛び起きてその1フレーズを書き起こしたのがきっかけでできた曲ですね。1stアルバムにヨシキが作詞した「酔狂」という曲があって、当時その曲を練習していたんです。「酔狂」に出てくる「愛を知らない人たちが愛を説く」というフレーズとリンクして、「愛を知らない人がいるよ」という言葉が出てきたのかなって。
──ご自身が作詞作曲した曲をSir Vanityとして発表することにはどんな楽しさがありますか?
梅原 いや、全然楽しくはないです(笑)。
桑原 おいおい!(笑)
梅原 編曲することで曲としての体裁は保たれていますが、自分では稚拙だなと感じる部分が多々あるので、もう少し勉強しなきゃいけないですね。そう言っても特に何もできてないんですけど(笑)。
桑原 作っていけばどんどんよくなるよ。
梅原 そういうことですよね。曲を作ってるときは楽しいです。
桑原 「桜、猫、電車」は最初鍵盤でデモを作っていて、リズムが入ってからの展開がいまいちわからない部分があったんで、梅ちゃんとやりとりしながら形にしていきました。
──編曲はすべてSir Vanityのクレジットになっていますが、どういう流れでアレンジしていくことが多いんでしょう?
桑原 みんなで編曲しているというよりは、僕を中心にこの4人のバンドのことを考えて編曲をしている、という感じですね。例えば「梅ちゃんにこういうギターを弾かせたい」とか「大聖にパッドでこういう音を叩かせたい」っていうようなことを考えながら作っていて。時間がないと簡単なギターにせざるを得なかったりするんですが、それをやり続けているとどうしてもマンネリになったり、「これなら弾けるな」と慢心して結局ライブ前に焦ったりすることになる。なので、ちゃんと覚えないと弾けないようなギターを今回のアルバムには盛り込みました。「プレタポルテ」だと梅ちゃんはギターだけなので意識的に難しくしたり。メンバーのそのときの力量を踏まえて少しずつ成長していけたらいいなと思ってやってます。さっき名前が挙がった「酔狂」は意識的に梅ちゃんをリードギターにしましたね。
梅原 今回のアルバムは「酔狂」くらいちゃんと練習しないと弾けない曲が何曲もありそうなので、ライブに向けてしっかり練習してサポートギターの方の負担を少しでも軽くしたいです。
2026年は一番活動が多い1年に
──3月には斉藤壮馬さんとのツーマンライブが予定されています。この公演はどういう経緯で決まったんでしょう?
桑原 壮馬くんとはもともと仲がよくて、Sir Vanityの活動を始めるにあたって「いつか一緒にやりたいね」と話してたんです。でも僕らはライブ経験も多くないし、いきなり壮馬くんとご一緒しても、彼はずっと前から音楽活動をしているし、バックバンドは本当に上手な方たちばかりなので、僕らはしばらくワンマンしかやってきませんでした。そういう流れがあったので、最初に対バンするなら壮馬くんだと考えていて。当初、壮馬くんは「Sir Vanityに鍵盤で参加する」と言ってたんですけど、そんなことやったら怒られるわと思ってツーマンになりました(笑)。
梅原 斉藤壮馬もヨシキと同じくちゃんと届ける相手を見ている人だと思いますし、昔から仲がいいので単純に楽しみですね。彼のライブは観たことがないので、どんなパフォーマンスをするのかも気になります。彼は本当に音楽が好きで、僕たちのバンドの曲の感想を送ってくれるので、一緒にできるのがうれしいですね。
──その初対バンもありつつ、2026年はどんな1年にしたいですか?
桑原 これまでで一番活動が多い年になると思います。ライブもけっこうやりますし。下手したら燃え尽きるんじゃないかな(笑)。自分たちも楽しみですし、応援してくれる人が楽しんでもらえるような何かを届けられたらいいなと思ってます。
梅原 僕は、まず体力をつけたいと思います(笑)。
公演情報
Sir Vanity×斉藤壮馬 2man Live
- 2026年3月7日(土)東京都 立川ステージガーデン
- 2026年3月8日(日)東京都 立川ステージガーデン
<出演者>
Sir Vanity / 斉藤壮馬
プロフィール
Sir Vanity(サーバニティ)
2019年7月に桑原聖(B)、梅原裕一郎(G, Vo)、中島ヨシキ(G, Vo)、渡辺大聖(VJ, Creative Director)の4人で結成されたバンド。翌2020年4月1日に活動を開始し、2022年6月には1stアルバム「Ray」をリリースした。2025年12月に2ndアルバム「cinéma」を発表。2026年3月には東京・立川ステージガーデンで斉藤壮馬とのツーマンライブを2DAYS開催する。またSir Vanityはメンバーそれぞれが声優業や楽曲・アーティストプロデュース、ステージ・映像ディレクションなど、異なるカルチャーシーンに身を置きながら精力的に活動している。
Sir Vanity (@sirvanity_official) | Instagram



