SIRUP|この1年で明確になった伝えたいメッセージと音楽

「違和感をいかに見過ごさないか」は常に考えている

──日本のプロデューサーについても、どんなふうに作業を行ったのか聞かせてください。まずは、Yaffleさんとの「Thinkin about us」から。この曲は、個人的に本作のベストトラックでした。

ありがとうございます。自分自身の心の中のことを歌った曲で、「相手について考えることは、自分について考えることにもなり、結局それが自分たちについて考えることになる」みたいなことがテーマになっています。ずっと「Thinkin about us」のような曲を書きたいと思っていたんですけど、こういう曲は狙って書くとうまくいかない場合が多いので(笑)、自分の中から出てくるまでずっと待っていたんです。ある日の夜中に、ふと鍵盤に向かったときに自然と出てきたメロディで、これをアレンジしてくれるのはもうYaffle先生しかいないと思ってお願いしました。

──この曲と「LOOP」は「THE FIRST TAKE」でも披露されていましたが、いかがでしたか?

「LOOP」は、あっちゃん(井上惇志[showmore])の伴奏に乗せて歌ってるんですが、あっちゃんの演奏って基本ファーストテイクで、いつも同じ弾き方をしないんですよ。だから逆にそのまま、普段の俺たちって感じです。「Thinkin about us」は1人で歌ったし、自分の中であまりにもフレッシュな曲なので、めっちゃ緊張したんですけど、集中する瞬間がすぐに訪れて、それを映像として残せたのがすごくよかったです。本当にいいコンテンツだなと思いましたし、こんなに反響があるとも思ってなかったので、とてもありがたいですね。

──アルバム冒頭の「R&W」は、A.G.Oさんとのコラボです。

A.G.Oとの作業は、家もめちゃくちゃ近いので、しょっちゅう行き来して作業していて。「R&W」もそんな中からできた曲で、正直いつどうやって作ったのかあんまりはっきり覚えていないんです(笑)。A.G.Oは世界的に見ても、本当に個性的なセンスを持つトラックメーカーだと僕は思ってます。乗りこなすのがけっこう難しいトラックを書いてくるし、1曲作り上げるといつも「もうちょいいけたかもしれないな」という感覚があって。でも今回は2人ともかなり満足度の高い作品にできました。

──「HOPELESS ROMANTIC」と「Runaway」でコラボしているstarRoさんとは、どのような経緯で親交が始まったのですか?

starRoさんは一昨年の年末くらいに初めてお会いして。曲ももちろん好きなんですけど、彼の思想がものすごく好きで、一度ご自宅でお会いして話をしたら、考え方も近いし、学ばせてもらうことがたくさんありました。「HOPELESS ROMANTIC」は家でセッションしながらゼロから作っています。メロディに関しては、その場でワンコーラス分全部作った記憶がありますね。ギターサウンドっぽくしたかったので、シンちゃん(Shin Sakiura)に入ってもらって。メッセージは、当時はオーストラリアの山火事にインスパイアされたというか、ハッとした気持ちが片思いの感覚と似ているなと。……それだけ聞くとまったく意味不明ですよね?(笑)

──はい(笑)。どういうことですか?

どんなに思いを募らせても、それが伝わらない「やるせなさ」。それを「HOPELESS ROMANTIC」=絶望的なロマンチスト、と表現しているんです。2番の歌詞は当初、「声届かない 燃える炎の先に」という山火事についての直接的なリリックだったんですけど、コロナ禍で「あのときに感じたことが、今日本中で起きている」と思って「今更笑えない」に変えたんです。例えば、自粛期間中に家庭内で起きていた虐待も含め、家にいること自体をストレスと感じていた人がたくさんいたし、同居している高齢者に感染させたら怖いと思って家に帰れない人もたくさんいて。そういう存在が、まったく認知されていなかったことへの憤りをこのフレーズに込めたつもりです。

──この曲でギターを弾いているShin Sakiuraさんとの「I won't be」は、どのように作っていきましたか?

家で音楽を聴いていたら、すごく好きなコード進行が流れてきて頭から離れなくなったんです。それをずっと脳内でループしていたらサビのメロディが思い付いたので、そのメロディだけをもとにシンちゃんとトラックを組み立てていきました。シンちゃんとは、SIRUPとして活動を始めてからは一心同体みたいな感じになっていて。彼と曲を作るのがほとんどライフワークみたいになってますね。「これ、シンちゃんとやったら面白そうやな」と思った曲はすぐ送るようにしているんですよ。シンちゃんも、A.G.Oと同じく家がめっちゃ近いので、しょっちゅう遊びに行ってはセッションを繰り返していて。ただ、この曲を作っていたときはちょうど自粛期間だったので、すべてリモートで仕上げた記憶があります。

──そして「Journey」でコラボしたMori Zentaroさんは、SIRUPではお馴染みのプロデューサーですよね。

ZentaroとはSoulflexも一緒にやっているし、年間を通してずっと何か作っているような間柄です。Zentaroは、SIRUPに合いそうなトラックを常にストックしてくれていて、「Journey」は、その中からセレクトして作っていきました。彼とは細かいコミュニケーションを取らなくても、培ってきたものがあるからすぐに仕上がりましたね。

──この曲が本作ではもっともメッセージ性が強いというか、SIRUPさんの抱える憤りが歌詞の中に明確に表れていると思いました。「違和感には 最悪のゴールが 蹴る前のボールをよく見ろ!」というフレーズがとても好きです。

ありがとうございます。僕も好きなんですよ(笑)。自分は座右の銘とか特にないんですけど、「違和感をいかに見過ごさないか」については常に考えて、その精度を上げていきたいと思っているんですよね。ずっと思っていたことを、ようやく歌詞の中に入れることができたので、そこに注目してくださってうれしいです。

「売れる」ということ

──これまでもSIRUPさんは、曲の中に社会的なメッセージを込めてきたと思うんですけど、そもそもそういうことに関心を持つようになったのは、どうしてだったのでしょうか。

思春期には誰もが抱えるアンチテーゼ的なもの、アナーキーな気持ちというのが、僕は人よりもどこか強かったと思うんです。しかもそれを、全体のバランスを取るためにやっているというか。「常に真ん中にいることが多いよね」と言われることが、中学生の頃から多くて。クラスの中に派閥やスクールカースト的なものができても、絶対にどこにも属さないようにしていたんです。主流とされているものに対して常に疑いの目を向けていたいタイプだったんですよね。

──どちらかというと反体制、反主流の立場だったと。

でも大人になってからは、努めて真ん中にいようと思っています。そのためには知識が要るし、それでいろんなことを調べるようになったんですけど、そうすると同じようなことに興味を持つ人たちが自然と集まってくるので、彼らからの影響もかなり大きいと思っています。バンドメンバーとも、スタッフとも、友人知人たちともしょっちゅうディスカッションしているし。ただ、社会的な問題だけをリリックに乗せて、それだけを伝えたいという気持ちはまったくなくて。直接的に音楽に落とし込みたいわけじゃないんです。

──社会問題は、あくまでも曲を作るうえでのモチベーションであると。

社会運動に関しては、音楽とはまた別のところで個人的にやっていきたいし、アルバムには自分の心の動きを投影させたいと思っていて。「今、こういうことを思っているから、そのことについての曲を書こう」というよりは、なんとなく頭の中でモヤモヤしていたことを、歌詞にしてみて初めて「そうか、今自分はこんなことを思っているのか」と問題点、疑問点がクリアになっていく感じなんですよね。だから、アルバムを作りながら自分の頭の中を整理しているのだと思います。ごちゃごちゃになっていた棚が、どんどん片付いていくイメージ(笑)。それでメッセージが明確になった分、自分がどういう音楽をやってるかも明確に出せたアルバムになったなと思いますが、このコロナ禍で作ってみて、改めてミュージシャンってめっちゃ大変やなと思いました。「作れた!」「終わった!」と思えたことが、自分にとっての一番の「cure」でした(笑)。

SIRUP

──最後に今後の目標を教えてください。売れたいという気持ちはありますか?

人に言われて気付いたんですけど、「売れる」ってめっちゃ抽象的なことなんですよね。日本だったら「紅白歌合戦」に出るとかありますけど、いわゆるみんなが知っている存在になるという意味でも、テレビの世界とネットの世界では分断されていて、意味をなさない言葉になっている気がするんです。一個人としては、めちゃめちゃ好きなことを自分の好きな人たちと一緒にやって、なおかつ自分の伝えたいメッセージを出せて、もうそれでいいやんって思うんですよね。すごく贅沢な状態だから。もちろんみんなでやっていることだし、プラスアルファでもう1段階、上に行こうとかってレイヤーはありますけど、アルバムをたくさんの人に聴いてほしいというよりは、同じ感覚を持つ人と気持ちをシェアしたい。その人たちにより届けるためにどうするべきかを考えて、研ぎ澄ませていくことが自分の目標だし、それが「売れる」ってことなのかなと思います。


2021年3月25日更新