音楽ナタリー PowerPush - Village Vanguard presents Sing Your Song! 2015

ヴィレヴァンのインスト仕掛け人+人気プレイヤー3名 新木場競演前の座談会

“戦メリ”通ってますか?

──そもそもなぜお三方がインストの道に足を踏み入れたのかということを、改めて話していただけますか?

HAYATO(→Pia-no-jaC←)

HAYATO 俺は最初はまさかインストをやるなんて思ってなかったです。もともと→Pia-no-jaC←は弾き語りのバックで演奏するサポートユニットとして結成したんですよ。一時期は地元で20組ぐらいサポートしてたんですけど、本番になると2人で好き勝手やっちゃうんで、だんだん誰からも呼ばれなくなって(笑)。始めたのが、サポートしてた人たちの曲をインストでやるっていうことだったんですけど、いざ始めてみたら自由度が半端なかったんですよね。ピアノとカホンがぶつかればぶつかるほどスリルが生まれるというか、それがとにかく面白くて、どっぷりインストにハマっちゃいました。

渡辺 やっぱり歌があると、歌を一番よく聴かせるためにみんなでアンサンブルを考えてお神輿の上に乗せるって発想なんですよね。でも、歌がない状態で誰かと演奏すると、音同士が対等に聞こえて、誰かがこうやったらこっちはこうやるっていう面白さが生まれる。僕はそこを1回掘り下げたいと思ったんです。ジャズはもちろん好きですけど、今はそこにはこだわらずもっと自由にやれたらいいなって思って、Schroeder-Headzを始めた感じです。あ、あとタバコをすごい吸うんで、のどを気にしたくないなって(笑)。

──タバコを吸うためにインストにしたと(笑)。岸本さんはいかがですか?

岸本 そもそもで言うと、中学生のときにテレビで観た坂本龍一さんが大きかったです。ピアノ弾きながら歌う人って当時いっぱいいたじゃないですか? 槇原敬之さん、KANさん、平松愛理さんとか。でも、坂本さんを見て「歌ってない!」って思ったんですよ(笑)。で、そのほうが曲の輪郭がちゃんと見えると思ったし、ピアノだけのほうがなんとなく少数派な気がして、若い自分は「こっちのほうがカッコいい」って思ったんですよね。

──岸本さんとシュンスケさんがそれぞれ別の記事で、「戦場のメリークリスマス」について語ってるのを今回の取材にあたって見つけました(笑)。

渡辺 あー、あれが弾きたくて弾きたくてね(笑)。

岸本 そうですよね。あれでちょっと黒鍵に慣れたみたいな(笑)。

渡辺 そう、「白いトコが全然出てこない!」って思った。あれ白鍵で弾こうとするとすごい難しいんだよね。

岸本 そうっすよね。あのキーだから弾きやすいんですよね。

──HAYATOさんは“戦メリ”は通ってますか?

HAYATO 俺、黒鍵ダメなんですよ(笑)。今の話を聞いてトライしてみようと思いました。黒鍵じゃなくて、青色に塗って。

金田謙太郎

金田 そういう問題?(笑)

HAYATO 気分が大事やから(笑)。

──じゃあ、HAYATOさんにとってのインストの入口は?

HAYATO あとあと考えて「これインストやったな」っていうのは、ゲーム音楽じゃないですかね。

岸本 確かに、学校とかで「ビッグブリッヂの曲(「FINAL FANTASY V」のBGM「ビッグブリッヂの死闘」)、めっちゃカッコいいよな」みたいな話けっこうしたような。

金田 ゲームミュージックって、日本で一番浸透してるインスト音楽ですよね。もしかしたら世界で一番かもしれない。ゲームミュージックは耳と指が覚えてますから。

岸本 おお、名言っすねえ(笑)。

2000年代中盤~後半のインストブーム

──少し時代を振り返ってみると、2000年代の中盤から後半にかけてインストブームがあったと思うんですね。その当時は、ジャムバンド、ポストロック、クラブジャズっていうのがそれぞれに分かれていた。そこから徐々にインストが定着の道をたどって、今だからこそ「Sing Your Song! 2015」みたいなクロスオーバーができる。そういうふうにも思ったんです。

岸本 確かに、当時SOIL & “PIMP” SESSIONS、quasimode、indigo jam unitが先にデビューしてて、自分はそのあとにJABBERLOOPでデビューしたんですけど、その頃ほかのシーンの情報はあんまり入ってこなかったかもしれないです。クラブジャズシーンが完全に確立されて、YouTubeとかが普及し始めた頃に「こういうバンドもいるんや」みたいな感じで。例えば、toeとかSPECIAL OTHERSとか、インストでも全然違うアプローチでカッコいいなって思いましたね。

──fox capture planはポストロックの要素を取り込むことを目的として結成したっていう側面があるわけですよね?

岸本亮(fox capture plan)

岸本 そうですね。フェスとかで、ポストロックとクラブジャズが同じ日に出たりし始めて、そういうシーンを邂逅する役割になれればなっていうのは、バンドの1つのコンセプトでした。ドラム(井上司)がnhhmbaseのメンバーなのは、そういうところをかなり意識しての人選でしたしね。

──シュンスケさんはインストの流れっていうのをどのように見てきましたか?

渡辺 僕が上京してきたのが94年とか95年で、その頃はアシッドジャズが流行ったり、ジャズやフュージョンみたいなルーツミュージックに則したインストとは違ったインストをやる若い子が増えてきたときではあったと思います。あとシカゴのTortoiseとかが出てきて、エフェクターを使えばそんなにスキルがなくてもカッコいい音が作れるってことに若い人が気付いて、みんな面白そうなことをやり出したっていうのもありましたね。Schroeder-Headzを始めたのはそういうところからの影響もあります。

──インストがブームとして広まったことで、プレイヤーとしてはやりやすくなったっていう面もあったのでしょうか?

渡辺 やる場所が増えてきたなっていうのは思いました。それまではピアノトリオをやるのはジャズクラブしかなくて、ほかの場所でやるなんて発想もなかったけど、ライブハウスもお客さんも、意外とどこでもアリだなってみんなが思うようになった感はありましたね。

Village Vanguard presents「Sing Your Song! 2015」2015年4月26日(日)東京都 新木場STUDIO COAST / OPEN 13:00 / START 14:00
Village Vanguard presents Sing Your Song! 2015
出演者

SPECIAL OTHERS / →Pia-no-jaC← / Nabowa / DEPAPEPE / mudy on the 昨晩 / fox capture plan / Schroeder-Headz / toconoma
VJ:丸橋圭太郎×土肥武司×比嘉了×ウサミタクト

VJプロフィール
丸橋圭太郎
2008年頃より電気グルーヴへのツアーVJ映像を提供開始。大型フェス、テレビアニメ、CM、ゲーム、映画など活動の場は多岐にわたる。代表作にRYUKYUDISKOの廣山哲史アーティスト写真やスクウェア・エニックス「MoreSQ」メイングラフィックなど。
土肥武司
1999年よりCG制作を開始。CGとプログラミングをかけ合わせた映像表現を中心に、VFX、VJ、インスタレーション、ゲームなどさまざまなフィールドで創作活動を行っている。近年では、プラネタリウムでの音楽イベントのビジュアルシステムや、LEDと映像を使った日光東照宮でのインスタレーションなどを手がけている。
比嘉了
多摩美術大学情報デザイン学科卒業後よりフリーランスとして活動し、2011年より株式会社ライゾマティクスへ所属。2015年より再度フリーランスへ。リアルタイム3Dグラフィックス、コンピュータビジョンなどの高度なプログラミング技術、多種多様なプロジェクトに関わった経験を生かし、インスタレーション、リアルタイム舞台演出、ライブパフォーマンスなど幅広い作品を制作している。
ウサミタクト
2011年頃からプログラミングの勉強を始める。2014年にロシア・モスクワで行われた大規模なマッピングイベント「Circle of Light」に参加。ドイツ・デュッセルドルフで行われた国際ガラス製造・加工機材展「GLASSTEC」にて建築インスタレーションの照明計画などを担当する。
HAYATO(ハヤト)

HIRO(Cajon)とのインストゥルメンタルユニット→Pia-no-jaC←のピアノ担当。鍵盤と打楽器というシンプルな編成ながら、重厚かつ多彩な音を鳴らすのが特徴。その独自の音楽性が各方面から注目を受け、ディズニーやスクウェア・エニックス、ショパンなど多数のトリビュートアルバムに楽曲提供し、宝塚歌劇団への楽曲提供やラジオのジングル制作など幅広い活動を展開。葉加瀬太郎とのコラボレーションアルバム「BATTLE NOTES」やクラシックのカバーアルバム「EAT A CLASSIC 5」でも話題をさらう。2014年10月から11月にかけて4カ国8都市でヨーロッパツアーを敢行。2015年3月にはライブDVD「Zepp Entertainment ~→PJ←ワンダーランド~」をリリースした。

岸本亮(キシモトリョウ)

1983年生まれ。2005年3月にクラブジャズバンドJABBERLOOPに加入し、躍動感のある鍵盤さばきでオーディエンスを魅了する。2011年にはカワイヒデヒロ(B / Immigrant's Bossa Band)、井上司(Dr / nhhmbase)とともにfox capture planを結成。“現代版ジャズロック”をコンセプトとした情熱的かつクールで新感覚なサウンドを展開している。2015年はfox capture planとして3枚のアルバムリリースを予定しており、4月にその第1弾「UNDERGROUND」を発表する。

渡辺シュンスケ(ワタナベシュンスケ)

ソロプロジェクトSchroeder-Headzのほか、数多くのアーティストのサポートでも活躍するキーボーディスト。2010年、アルバム「NEWDAYS」よりポストジャズプロジェクトSchroeder-Headzを始動。ピアノ、ベース、ドラムによるアコースティックなトリオサウンドとプログラミングを融合させ、美しいメロディと有機的なグルーヴが印象的なサウンドを紡ぎ出す。2013年12月にはリミックスプロジェクトの一環としてミニアルバム「Sleepin' Bird」を発表し、2014年2月にメジャー移籍第1弾アルバム「Synesthesia」をリリース。また、土岐麻子とともに「土岐麻子 meets Schroeder-Headz」としても精力的にさまざまなイベントに出演している。

金田謙太郎(カネダケンタロウ)

「Sing Your Song! 2015」オーガナイザー。ヴィレッジヴァンガード下北沢店のCD担当バイヤーとしてSotte Bosseや→Pia-no-jaC←の作品をヒットさせ、コンピレーションアルバム「DISNEY ROCKS!」シリーズのプロデュースや、スクウェア・エニックスによるゲームミュージックのアレンジコンピレーションアルバム「SQ」シリーズの協力を手がける。