Silver Kidd「Die Pretty」インタビュー|多彩なルーツとキャリアを持つ4人が東京から世界へ

4人組バンド・Silver Kiddが11月にAlpha Pup / Virginより新曲「Die Pretty」を配信リリースし、全米デビューを果たした。

Silver Kiddはアメリカ・ニューヨークで幼少期を過ごしたFUYU(Dr)、ミシガン州出身のBubby(B)、カリフォルニア州でギターを学んだAssH(G)、オレゴン州出身のNyk(Vo)からなる国際色豊かなバンド。これまでは高いスキルを武器に個々で活躍してきたが、2022年9月、FUYUを中心にバンドとしての活動をスタートさせた。

アーティストとしてすでにキャリアを築いていた4人が、なぜバンドを組んだのか。音楽ナタリーではSilver Kiddの成り立ちから全米デビューに至るまでの道のりをたどり、彼らが抱く信念に迫る。

取材・文 / 西廣智一撮影 / 佐々木康太

メンバープロフィール

FUYU(Dr)

FUYU(Dr)

2歳からドラムを始め、アメリカ・ニューヨークに転居後、9歳よりハーレムのジャズクラブでセッションに参加。2009年に拠点を東京に移し、さまざまなアーティストのレコーディングやライブに参加している。2016年からはEXILE ATSUSHI率いるRED DIAMOND DOGSのメンバーとしても活動中。

Bubby(B)

Bubby(B)

14歳でベースを始め、父が牧師を務めるアメリカ・ミシガン州フリント市の教会で初めてステージを踏む。ゲームデザイナーを目指してロサンゼルスに引っ越すが、手違いによって入学できず音楽に専念することを決心。スヌープ・ドッグ、ドクター・ドレー、ルーペ・フィアスコ、ジェネ・アイコ、スティービー・ワンダー、AI、EXILE THE SECONDなど大物アーティストとの共演経験を持つ。

AssH(G)

AssH(G)

Silver Kiddとしての活動だけでなく、ソロアーティストとしても活躍。2022年にはAIのツアーでギタリストを務め、板野友美、EXILE、倖田來未、Hey! Say! JUMP、YOASOBI、渡辺美里などのレコーディングにも参加している。

Nyk(Vo)

Nyk(Vo)

コブクロ「蕾」に感動してJ-POPの魅力に目覚め、歌手になる夢を追うために17歳でアメリカ・オレゴン州より来日。ニコラス・エドワーズとして日本テレビ系「のどじまんTHEワールド!」に出演し、3度の優勝を果たす。2013年に「fが歌詞(うた)になる」でCDデビュー。アーティスト活動のみならず、俳優やモデルとしても活躍し、YouTubeチャンネル「ニックちゃんねる」の登録者数は11万人を超える。

結ばれるべくして結ばれた4人

──プロフィールを拝見すると、皆さんすごいキャリアの持ち主であることがわかります。1人ひとりがミュージシャンとして第一線で活躍しており、そこで充実感も得られていたと思いますが、なぜこの4人が集まってバンドを組むことになったんでしょう?

FUYU(Dr) 最初は僕がAssHを、Instagramでナンパしました(笑)。それが6、7年前。いろんな音楽活動をしていく中で、新たな挑戦としてバンドをやってみたくて。AssHをインスタで見つけたときに「彼とだったら一緒にできる」とピンときて、そこから2人で楽曲制作を始めたんです。

AssH(G) もともと彼のことは一方的に知っていたので、DMをもらったときはシンプルに「一緒にやってみたい」と思いました。でも、当時はいろんなタイミングが合わなくて、さらにそこからコロナ禍に入ってしまい、一度バンドを組む話がポシャっているんです。で、コロナも落ち着き始めてきた頃に「やっぱり何かやりたいよね」ということで一緒に曲を作り始めて。ボーカルを誰にしようかと考えていたときに、「ネイティブスピーカーのほうがもっと世界で活動できる可能性も広がるよね」という話になったんです。と同時に、日本での活動もあるので、ちゃんと日本語が話せて、かつフロントマンとしてのルックスも兼ね備えている、そんな条件のもと探していたら、奇跡的にNykにたどり着きました。

Nyk(Vo) そんなに欲張ってたの?(笑)

AssH ビジュアルがよくても歌がヘタだったらダメだし、逆もしかり。それ以上に、性格的に合わなかったらバンド活動も難しい。その点でも、Nykはすべてを兼ね備えた奇跡の存在だったんです。

Silver Kidd

Silver Kidd

Nyk 僕自身、今年でちょうどソロとしてメジャーデビュー10周年で、その前に独立してセルフプロデュースのアルバム(2019年3月発売「うわノそら」)を出したんですけど、その後コロナ禍とタイミングが重なってしまって。自分の中で次にやりたいことについて思い悩んでいたときに、FUYUさんから声をかけてもらったんです。デビューしてから日本語中心で歌って、日本を拠点に活動してきたけど、このバンドでなら別の角度から新しいことに挑戦できる、日本も大事にしつつ世界の人たちに音楽を届けられると思い、躊躇することなく「やります」と返事しました。

AssH 声をかけてから、動き出すまでが早かったもんね。

Nyk 最初にAssHとFUYUさんが作ったデモを送ってもらって。まだ歌詞の付いていない、「ラララ」でメロディを歌った状態だったんだけど、曲を聴いた瞬間にピンとくるものがあって、一気に英語で歌詞を書いたんです。最初に歌詞を書いた曲が、去年インディーズから発表したEPに入っている「Cloud 9」という曲。いろんなことがすんなり進んでいくということは、おそらく真剣にやってみる価値のあるものなのかなと思ったし、運命と言ったら大袈裟かもしれないけど、それくらい何かに導かれている手応えを感じました。

4歳からめっちゃ“オタク”

──そして、最後にBubbyさんが加わるわけですよね。

Bubby(B) オハヨウゴザイマス(笑)。

一同 (笑)。

FUYU Bubbyはロサンゼルスに住んでいたんですけど、日本のことが大好きで。「日本に行きたい」と言っていたので、「もしかしたら、このタイミングにBubbyがバンドに入ってくれるんじゃないかな?」と思って声をかけてみたんです。Bubbyとは以前、違う現場で一緒になったこともあって面識もあったので、「ぜひぜひ!」ということですんなり加入してくれて。なので、4人それぞれいろいろやってきた中で、新たな挑戦をしたいタイミングが重なって、結ばれるべくして結ばれたんだと信じています。

──Bubbyさんは日本語を話すことができないので、ここからはNykさんとFUYUさんに通訳をお願いします。

Bubby FUYUから声をかけられたときは、「やべえ、いいじゃん!」と思いました(笑)。メンバーを見ても、今後に期待できそうなバンドでしたし。FUYUとはずっとバンドという形で一緒に音楽がやりたいと思ってました。

──日本という国に対しては、どういう印象を持っていましたか?

Bubby 僕は4歳のときからめっちゃ“オタク”(笑)。アニメや食べ物、伝統芸能や歴史的建造物に至るまで、日本文化全般が好きでした。だから、このバンドに加わることは、僕にとってまたとないチャンスだったんです。今はとってもハッピーですよ。

Silver Kidd

Silver Kidd

──Silver Kiddとしてどんな音楽を作りたいと考えていましたか?

AssH ジャンルの縛りなく、そのときに出したい音をピュアに届けていこうというのが大前提としてあって。そのうえで、聴いていて飽きさせないようなアイデアであったり、「えっ、そこでそうくるんだ!」という驚きがあるような楽曲を作っていきたいんです。作り方に関しても曲ごとにいろいろ変わるんですけど、例えばDAWソフトを使ってレコーディングしていく、データをみんなに投げる、各々スタジオに入ってパートごとにアレンジしてもらうというときもあれば、リフとかコード感が素敵だからそのままループさせて、そこにメロディを乗せていく作り方もある。僕が母体を作ってBubbyに投げてまとめてもらったり、「Cloud 9」みたいにアレンジャーを入れて完成させたり、Nykの歌詞に肉付けしていくとか、本当にさまざまで。そのときにやりたいこと、自分たちがちゃんと胸を張ってやれるものだけに取り組んでいます。

Nyk 僕らはそれぞれの分野で鍛えてきたものもあるので、聴いてくれる人が「すごい!」と思ってもらえるようなものももちろん聴かせていきたいと思っています。ただ、多くのリスナーはそういったテクニック面を重視するのではなくて純粋に曲として聴いてくれるので、無理やり技術面をアピールしたいというわけではないんです。自分たちが持っている表現をフル稼働させて、初めて聴く人にもSilver Kiddの色が伝わるような……それこそ曲が始まると独特の世界観が展開されて、サビで王道感が味わえるような、皆さんが普段聴いているような音楽からかけ離れすぎず、でも流れた瞬間に「あ、Silver Kiddキタ!」と思ってもらえるような音楽を作っていきたいなと思っています。

候補に「番長」

──昨年発表されたEP「Cloud 9」を聴かせていただきました。オープニングのタイトルトラックがストレートでカッコいいロックだなと興奮していると、2曲目、3曲目と曲ごとにいろんなジャンル、いろんな色を見せ続けてくれる。「次に何が来るんだろう?」というひと筋縄で行かない感じが全編から伝わってきて、聴き終えたときの充足感が非常に大きかったんです。

Nyk それはうれしい言葉ですね。それこそ今回の「Die Pretty」に関しても「この曲のジャンルは?」と問われたら、ロックなんだけどそのひと言だけでは全貌が伝わらないんじゃないかなと思うので、ジャンルが入り混じったところも大事にして活動していきたいですね。

──ところで、Sliver Kiddというバンド名はどうやって決めたんですか?

FUYU 時間がかかったよね。

AssH たぶん、曲を作るよりも時間がかかったんじゃないかな。最初、Bubbyが知っている日本語から出したアイデアが「番長」でしたから(笑)。

Bubby バンチョー、カッコイイネ(笑)。

Silver Kidd

Silver Kidd

AssH すごく強いワードなんですけど、日本人からするとちょっとギャグっぽくもあって。

FUYU で、いろいろ話し合っていく中で、大人(=Silver)と子供(=Kid)でいろんなジェネレーションを表していたり、「Silver」という色がどの人種にも当てはまらないというところから、Silver Kiddという名前が浮上して。

Nyk 艶感(=Silver)と遊び心(=Kid)という意味もね。この4人はそのキャリアから玄人扱いされちゃうかもしれませんが、僕らとしてはある意味これまでのことをすべて捨ててこのバンドをやろうと思っているので、イチから始めて自分たちがそれぞれ育んできたものを生かすというところにこだわりたくて。そういう意味では、1年半ぐらいかかってやっとSilver Kiddという名前がしっくりくるようになりました(笑)。

Bubby クールな名前だよね。Silver Kiddはオンリーワンって感じだし、すごく気に入っているよ。