アニメ「SHY」の放送が10月2日深夜にテレビ東京系でスタートした。
「SHY」は「週刊少年チャンピオン」で連載中の同名マンガを原作とした作品。突如超人的な力を持つヒーローが世界各国に1人ずつ現れたことにより戦争がなくなった、21世紀半ばの地球を舞台にした物語だ。作中では日本の平和を担う恥ずかしがり屋のヒーロー・シャイの活躍が描かれている。
アニメの放送を記念して、音楽ナタリーとコミックナタリーでは連載企画を展開。最終回となる今回は、タイ出身のアニソンシンガーMindaRynが歌うオープニング主題歌「Shiny Girl」をフィーチャーする。「Shiny Girl」は主人公のシャイの葛藤や強さを描いた楽曲で、作詞作曲はこれまでもMindaRynの音楽制作に携わってきたMisaki(SpecialThanks)が手がけた。MindaRynとMisakiはこの曲にどのような思いを込めたのだろうか? アニメの印象や楽曲の制作過程について語り合ってもらった。
取材・文 / 須藤輝撮影 / 曽我美芽
私の頭の中、のぞかれてる?
──MisakiさんはMindaRynさんの1stシングル「BLUE ROSE knows」(2020年11月発売)から作詞作曲を手がけていて、今回の「Shiny Girl」で通算11曲目になりますね。
MindaRyn おおー! そうですよね。
Misaki アルバムが作れちゃうね。
MindaRyn めちゃくちゃ素敵な曲をたくさん作ってくれて、ありがとうございます。Misakiさんの曲はデビュー前から歌っていたので、いろんな思い出が詰まっています。
──Misakiさんが書かれる曲はざっくり言うとギターロックですが、MindaRynさんもそういう音楽がお好き?
MindaRyn 好きです。Misakiさんがやっているバンド、SpecialThanksも大好きでライブも観に行きました。
Misaki そう、来てくれたんだよね。私が初めてマイちゃん(MindaRyn)のライブを観たのも同じ会場なんです。だから2人で「同じ場所だねー」って。
MindaRyn SpecialThanksのライブは曲もMisakiさんのパフォーマンスもとっても素敵で、感動しました。
Misaki ありがとう! もともと私は、自分は楽曲提供はやらないと考えていたんですよ。自分がバンドで歌いたい気持ちが強かったので。でも、マイちゃんの歌を聴いたときに「こんな素敵な声の人だったら、むしろ歌ってほしい」と思えて。マイちゃんがライブで私の書いた曲を歌ってくれているときも、感動して泣いちゃったんです。そんなことは初めてだったので、すごくいい体験として残っていますね。
MindaRyn これは私が勝手に思っていることなんですけど、私とMisakiさんは、声のトーンがけっこう似ていて。だからデモを聴いたときに、自分が歌っているところとか「こういう気持ちで歌いたい」というのをイメージしやすいし、歌詞のメッセージもしっかり伝わってくるんです。
──例えばMindaRynさんの1stアルバム「My Journey」(2022年12月発売)のタイトルトラックなどは、MindaRynさんのパーソナルなことを歌っているように思います。そういった曲の場合、お二人で相談されたりするんですか?
Misaki 2人で話してはいないですね。
MindaRyn でも「My Journey」はすごく自分っぽいと感じているから、Misakiさんは私のことを本当によくわかってくれているんだなって。この曲に限らず、Misakiさんの歌詞を読むと「私の頭の中、覗かれてる?」みたいな感じ。
Misaki アルバムのテーマが「旅」で、これまでのマイちゃんの歩みがわかるものにしたいという話をプロデューサーさんから伺って。マイちゃんはタイから、家族や友達と離れて1人で日本にやってきて……話していてなんか泣きそうになってきたんですけど、そこにはすごい勇気とか覚悟があったはずだと思うんです。日本とアニソンが好きとはいえ、全然知らない環境に身を置いてプロの歌手としてやっていくとなったとき、自分だったらどんな気持ちになるだろうと、勝手にマイちゃんになりきって書きました。
MindaRyn Misakiさんは中学生のときにSpecialThanksを結成して、今も続けているじゃないですか。しかもメンバーチェンジが何回かあって、それでもMisakiさんは夢を抱き締めて、ずっとステージに立っている。それはすごいことだし、そうやって夢を追いかける姿を見習いたいというか、私はMisakiさんを見て「私もがんばろう!」という気持ちになります。
Misaki きゃー! 涙が出そう……いや、出てきた。やばい。
──(ポケットティッシュを差し出して)使います?
Misaki ありがとうございます(笑)。マイちゃんもティッシュいる? もらい泣きしてない?
MindaRyn ください(笑)。
私もシャイなんです
──「Shiny Girl」はアニメ「SHY」のオープニングテーマですが、まず「SHY」という作品からはどういう印象を受けましたか?
MindaRyn 主人公の紅葉山テルちゃんは、めちゃくちゃ自分と似ていると感じました。彼女は「シャイ」という名前で平和を守るヒーローをやっているけれど、ものすごくシャイでいつも「自分にヒーローが務まるのかな?」「自分よりすごいヒーローがいっぱいいるのに、私なんかでいいの?」と悩んでいて。私にもそういうところがあるから、原作マンガを読んで「私と同じだ」「私もテルちゃんと一緒にがんばりたい」と思ったし、そんなシャイなテルちゃんが、周りの人たちから愛をもらって少しずつ成長していく。その成長を追いかけていくようなストーリーにも引き込まれます。
Misaki うんうん。
MindaRyn あと、テルちゃん以外のヒーローたちにもそれぞれバックストーリーがあって、ヒーローたちのリレーションシップにも勇気付けられます。
Misaki 私もシャイなんですよ。人前に出ることが苦手だし、今でこそライブのMCとかもできるようになったけど、本当はステージに立ちたくないし、目立ちたくない。でも、それよりも「歌いたい」「歌を聴いてもらいたい」という気持ちが勝っている……けど、やっぱり人前で歌うのは恥ずかしいみたいな(笑)。
MindaRyn わかるー!
Misaki だからテルちゃんの気持ちがすごくわかるし、そんなシャイな子が日本のヒーローをやるというので「私にもってこいの作品だな。絶対にいい曲が書ける!」と思いました。特に、若干ネタバレになってしまうんですけど、テルちゃんがヒーローに変身できなくなってしまうシーンがあって……。
MindaRyn 自分に自信が持てなくなっちゃってね。
Misaki そうそう。その経験も経て、原作の第11話でテルちゃんは自分の心と向き合うために、書道をするんです。要は、自分が本当は何を思っているのかを1つひとつ書き出していくんですけど、それが、私が曲作りをするときと似ていて。そうやって心の中を吐き出すみたいな作業って、誰にとっても大事なことだし、自分でも気付かないうちに自分に嘘をついていることってあるじゃないですか。本当は嫌なのに、つい「いいよ」と言っちゃったり。そういうことが積み重なって、人はだんだん疲弊していったり、壊れてしまったりすると思うので、あのシーンはめちゃくちゃ印象に残っています。
「SHY」という作品に心が動かされるままに
──「Shiny Girl」の曲作りについて伺いますが、Misakiさんは曲先ですか詞先ですか? あるいはメロディと歌詞が同時に出てくるタイプ?
Misaki 曲によっていろいろで、同時のときもあればどっちかが先のときもあるんですけど、確か「Shiny Girl」は歌詞が先で。「こういうことを伝えたい」という思いにメロディをハメていく流れで作りました。
MindaRyn 「Shiny Girl」は、テルちゃんのキャラクターソングみたいな感じですよね。
Misaki そう。まさにテルちゃんの葛藤を歌にしたような。
MindaRyn 1番サビの「確かに受け取ってきた愛とか 溢れる優しさ 誰かの為に」とか「生きている証 痛みだけじゃないんだ」というパートはすごくテルちゃんっぽい。しかも、確かに「痛み」は生きていることの1つの証だけれど、それだけじゃなくて、誰かに愛されることもそうなんだという考え方が素晴らしくて。愛してもらったから、それがパワーになって成長もできる。
Misaki 「SHY」の原作を読んで、今、自分が生きているのは、誰かに愛されてきたからだというのを改めて感じて。逆にいうと、もし愛されていなかったら死んでいたかもしれない。例えば中世ヨーロッパで、生まれたばかりの孤児を集めて、言葉を一切かけずに育てるという実験があったそうなんです。実験の目的は、言葉を教わらなかった赤ちゃんはどんな言語を獲得するのかを調べることだったんですけど、結果は、言葉を覚える前に亡くなってしまった。
──今でいうネグレクトですね。
Misaki だから誰かに言葉をかけてもらう、愛情を注いでもらうことは、生きていくうえで不可欠なんだなと。そういうことを考えていたときに「SHY」の主題歌のお話をいただいたので、私自身の気持ちをテルちゃんに重ねている部分もあります。なので「Shiny Girl」は書きたいことがポンポン出てきたというか、「SHY」という作品に心が動かされるままに歌詞を書いていった感じです。
──曲もすらすら書けました?
Misaki はい。サビはけっこう息継ぎが大変というか、息切れしそうなぐらい詰め詰めにしちゃったんですけど、マイちゃんなら歌えるだろうと。もしマイちゃんじゃなかったら、もうちょっと歌いやすいように変えていたかもしれない。
MindaRyn Misakiさんに書いてもらった曲はどれもメロディが耳に残りやすくて、「Shiny Girl」も1回聴いただけで忘れられなくなりました。その日は1日中、「Shiny Girl」を鼻歌で歌っているみたいな。
Misaki わあ、うれしい。
MindaRyn あと、例えばさっき言った1サビの「確かに受け取ってきた愛とか 溢れる優しさ 誰かの為に」というパートが、2サビでは「確かに受け継いできた愛とか 溢れる笑顔をずっと守るよ」になっていたりして。フレーズのパターンは同じなのに、言葉をちょっと変えるだけでストーリーが開けていくところがすごくきれい。私はこれを“Misakiマジック”と呼んでいます。
──1サビと2サビの歌詞が微妙に違っていて、覚えづらくないですか?
MindaRyn 覚えづらいです(笑)。
Misaki 私も、自分の曲をライブで歌うと「どっちだっけ?」ってなっちゃう(笑)。
MindaRyn でも、本当に素敵な曲と歌詞だから覚えたいし、覚えられる。
自分も誰かに愛されていることに気付ける作品
──先ほどMisakiさんは「マイちゃんなら歌えるだろう」とおっしゃいました。やはりMindaRynさんが歌う前提で曲を書くのと、SpecialThanksの曲を書くのとは違いますか?
Misaki 違いますね。なんとなくなんですけど「これは自分用。これは自分用じゃない」という切り分けが私の中ではあって。「スペサンのMisakiはこういう曲は歌わないだろうけど、マイちゃんが歌ったらよさそう」みたいなスイッチが入ることもあります。本当に感覚的なものなので、言葉ではうまく説明できないんですけど。
MindaRyn でも、いつもガイドボーカルは歌ってくれるじゃないですか(笑)。
Misaki そうだね(笑)。やっぱり自分のバンドにはテーマみたいなものがあったりするので、逆にバンドではやれないことをやらせてもらっているところがあるかもしれない。「Shiny Girl」はいいサビが書けて、めっちゃ気に入っています。
MindaRyn 私は特に、サビの後半の「痛みだけじゃないんだ」というパートが大好き。予測不可能なメロディがめちゃくちゃカッコよくて。
Misaki あ、それは確かにそうかも。
──「予測不可能なメロディ」というのを自覚している?
Misaki 最近、自覚するようになったんです。コロナ禍でライブが減っていた時期に、YouTubeにカバー動画を年間で100本アップしたんですよ。そのときに「みんな、メロディが私の予想せぬところに行くな」「自分だったらこっちに行くのに、みんなはそっちに行くんだ?」というのに気付いてしまって。
──裏を返せばMisakiさんがみんなと違っていた。
Misaki そうそう。「みんな」というと大きくくくりすぎなんですけど、100曲カバーした中では「統計的にこっちに行きがち」みたいな。図らずもそういうメロディの分析をすることになって「これは自分の個性なんだな。大切にしよう」と思いました。
MindaRyn とてもユニークだから、忘れられないメロディになる。しかも「Shiny Girl」のメロディはすごく明るくてさわやかで、聴くだけで元気が出ます。この曲を聴いてくれた人が、自分の大切な人や自分を愛してくれている人のことを思い出してくれたらうれしいですね。
Misaki 「SHY」自体が、自分も誰かに愛されていることに気付ける作品だと思うんです。なので「Shiny Girl」も、例えば自分が生きてる意味を見失いそうになっている人とかに、ちょっとでもプラスに作用するような曲になってくれたらいいなあ。
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“心”とはなんなのか?