新東京1stフルアルバムインタビュー|初のフルアルバムは全曲新曲、美学と野心が詰まった「NEO TOKYO METRO」 (2/2)

アルバムのために作った曲しか入れたくなかった

──10曲というよりも、大きな1曲を作った感覚だという話でしたが、収録されている10曲はすべてアルバムのために書き下ろした新曲なんですよね。既発曲を交えて構成したくはないというこだわりがあったんでしょうか?

杉田 最初にアルバムを作ろうという話が出たときに、僕からトシに「絶対大変だから曲数減らそうよ」とか「『Cynical City』とか、過去の曲を入れつつ作ろうよ」と打診したんですよ。だけど「絶対嫌だ」「それだったらアルバム作らないよ」というふうに、けっこう強く言われて。

田中 アルバムのために作った曲しか入れたくなくて。せっかくアルバムを作るんだったら、初めにテーマを1つ決めて、そこに向かって曲を作るところから始めたいなと思っていたんです。

杉田 彼に強いこだわりがあったので俺たちも感化されつつ、テーマや世界観をしっかり決めたり、曲と曲のつながりやストーリー性も意識したりしながら、アルバムの醍醐味が感じられる作品を目指していきました。作り終えた今、すごく満足してますね。

田中 僕も大満足してます。だけど今、健康を損ねてしまったという話を大蔵から聞いて、ちょっと申し訳なかったなと思いました(笑)。

大蔵 あははは。でも、いいアルバムになったと思うよ。

大蔵倫太郎(B)

大蔵倫太郎(B)

──曲と曲とのつなげ方を工夫することでストーリーを作る意識は確かにすごく伝わってきました。「Perrier」「踊」「さんざめく」の3曲がシームレスにつながっていたり、「透明」と「Waste」の曲間が0秒だったり。

田中 曲間のつなぎは最近ライブでも工夫していて、リハのときにめちゃくちゃ練るんですよ。「この曲とこの曲は、ドラムとベースのソロでこういうふうにつなげてみようか」というように。セトリはいつもこだわって作っているので、それと同じノリでレコーディングしてみました。

杉田 僕は人間関係に対して刹那的な価値観を持っているんですけど、「Perrier」「踊」「さんざめく」の3曲では、スピード感のある展開でそういうものを表現できたと思っていて。情景が鮮明に浮かぶような流れにできた思うので、ストーリーを楽しみながら聴いてほしいですね。

──「Waste」と「刹那」の間に「7275」というポエトリーを入れるアイデアもフルアルバムならではです。この曲では大蔵さんが作詞に初挑戦していますね。

田中 春音が書いた歌詞もすごくよかったんだけど、どこか小説っぽい感じがして。次の曲の「刹那」にうまくつなげるには、小説よりも詩っぽいものがよかったので、大蔵に書いてもらいました。大蔵は趣味で小説を書いているんですよ。その小説は新東京のグッズとしてライブ会場とかで売ったりしているんですけど。

大蔵 ポエトリーということでメロディがないから、ある程度自由ではあったんですけど、文章のリズム感や押韻を意識しつつ、「刹那」につながるようにという制約はあったので、難しかったですね。ほかの曲の制作もありつつ、なんとかして生み出したけど、そのわりにはうまくできたのかな?

杉田 すごくいいと思う。大蔵に書いてもらったことによって、アルバム全体に新しい風が入ってきた感じがありました。

均質化していく社会への危機感

──アルバムのテーマをあらかじめ明確にしてから制作に取り組んだという話でしたよね。その点について、もう少し詳しく聞かせてもらえますか?

杉田 アルバムタイトル「NEO TOKYO METRO」の「METRO」はmetropolitanの「metro」なんですけど、それなら「NEO TOKYO METRO」は僕たち新東京の思う理想郷のような場所であるべきだという話になりまして。その「NEO TOKYO METRO」をテーマに据えながら、ミクロとマクロの2つの視点から歌詞を書いていきました。ミクロにあたる曲では人と人との関係性にフォーカスしていて、マクロにあたる曲では社会全体を鳥の目で見て批評しています。「人って本来こうあるべきだよね」「社会ってこうあるべきだよね」という思いが根底にあるという点は共通してますね。

──歌詞に関しては、以前よりも直接的な表現が増えた印象がありました。例えば「Escape」の「無口の傀儡になりたきゃなればいい」とか、けっこう強い言葉ですよね。

杉田 人間関係を描くときに直接的な表現をするのは薄っぺらくて好きじゃないし、普段生活している中でも「自分の思っていることをどれだけマイルドに伝えられるか」ということはけっこう考えるんですけど、「Escape」のように社会に言及する歌詞を書くときは、オブラートに包みすぎても意味がないんじゃないかという感覚があります。なので、あえて直接的な言葉を選びました。

新東京

新東京

──「このくらいストレートに言わなければ伝わらない」といった感覚があるんでしょうか。

杉田 というよりかは、半ばあきらめているんですよね。「Escape」で書いたような、均質化していく社会に対する危機感は日々ずっと感じていて。だけどそれってもうさんざん言われてきたことで、どんなに言われても結局みんな頑なに変わらない、のれんに腕押し状態なんですよね。「だったらもう、それでいいんじゃないの?」という皮肉っぽい感情が自分の中に湧いてきたから、それを形にしたという感じです。

──今話してもらったことは杉田さんの個人的な感覚だけど、新東京の在り方とも乖離していないように思います。既存の枠にはまらずインディペンデントな活動をしているバンドですし、全員がソリストのように自由に奏でているバンドなので、「均質化」というワードからはかなり遠いというか。

杉田 そうですね。僕がずっと言いたかったことではあるんですけど、新東京の思想にマッチする歌詞にもなっているんじゃないかなと思っています。

──皆さんの中には、このアルバムを通じて、音でも言葉でも新東京像を表現できたという感覚がありますか?

田中 あります。自分たちの思う「新東京ってこういう音楽性だ」というイメージがギュッと詰まったようなアルバムになったんじゃないかと。今までのシングルがそうじゃなかったという話ではなく、アルバムというボリュームのある作品だからこそ、よりいろいろなところに新東京らしさが出ているように思います。

──バンドとして新しいアプローチにも挑んでいますよね。

田中 はい。例えばさっき話に出た「Escape」は構成が独特で、ドロップが3種類あるんですよ。「ちょっと新しいものに挑戦してみよう」という気持ちで作り始めた曲でした。あと、「Perrier」も今までの経験とか手癖からは絶対に作れなかった曲ですね。10曲の中で最初に作った曲で、俺と優真で家に集まって、曲の土台を一緒に組み立てることから始めたんですよ。サビの特徴的なドラムは、優真が作ったもので。

保田 さっき言ってた、ドラムのアイデアを100個出した曲です。

保田優真(Dr)

保田優真(Dr)

──ジャズドラムっぽくてカッコいいですよね。あと、Bメロのコード進行が面白いなと思いました。ピアノやベースのフレーズには、アボイドノートを取り入れているんでしょうか?

大蔵 この曲のベースは基本的にトシが組み立てたんですけど、正直僕はよくわかってなくて(笑)。

田中 自分もよくわかってないです(笑)。でも確かに、「このコード進行だから、この音を使って」ということはあんまり考えずに、感覚的に、時間をかけてコードを組み立てた覚えはあります。「Perrier」は今までの曲とはまた違う難しさがあって。新東京像がまた1つ広がった手応えがありますね。

次のツアーでは完璧なものを作りたい

──そのほかに、皆さんが特に手応えを感じている曲はどれでしょうか?

杉田 僕は「さんざめく」ですかね。メロディにしろ、楽器の演奏にしろ、構成にしろ、ミュージックビデオにしろ、「さんざめく」という言葉に対して最適のアプローチができたんじゃないかと。先行配信のときは「Escape」のほうが評判がよかったけど、この曲ももっと聴いてほしいです(笑)。

大蔵 僕は「透明」が好きです。移動中とかにみんなでアルバムを聴いているときに、この曲の話題ってそんなに出ないんですよ。みんな「NTM」とか「Perrier」とか「さんざめく」の話ばっかりしちゃって。でもその感じも「透明」っぽくてなんかいい(笑)。影の名曲だなと思ってます。

保田 自分は「春」がいい曲だなと思いますね。

田中 この曲、けっこう昔に作ったんですけど、優真はその頃からずっと「このメロディ、めっちゃいいね」って言ってくれていたんですよ。

保田 そうだっけ?

田中 うん。当時「香水」という仮タイトルがついていたんですけど、「『香水』、やらないの?」って何度も言われていた記憶があって。それを思い出して、今回入れようと思いました。

保田 へー。今初めて知りました。

新東京

新東京

──今後のライブで新曲たちがどのように演奏されるのかも楽しみです。2月23日からは全国ツアー「NEOCRACY」が始まりますね。

保田 新曲、怖いね……。

田中 5日後にスタジオに入るんですけど、そこで初合わせする曲があって。

杉田 そこでどれだけ絶望することになるのか……(笑)。

保田 俺たち、最初は本当に下手だからね(笑)。

田中 みんなバラバラに終わったりするんですよ。1人だけ1小節数え間違えていて、「あれ? もう終わってるの?」となったりとか。

大蔵 そういう道のりを経て、完成に至っております。

田中 去年の「フジロック」や海外でのライブも含めて、今までたくさんライブをやってきたので、演奏力も上がっているし、場慣れもしてきたんですよ。だから次のツアーでは、完璧なものを作り上げたいなと思ってます。そうなると、セットリストの塩梅が難しくて。ただクオリティを求めるなら、今まで何回も演奏してきた曲を完璧に仕上げる方向に持っていったほうがいいのかもしれないけど、アルバムリリース後のツアーだから、やっぱり新曲もやりたいし。そのあたりはちょっと今から考えてます。

新東京

新東京

公演情報

全国6都市ツアー 2024 "NEOCRACY"

  • 2024年2月23日(金・祝)静岡県 Shizuoka UMBERli
  • 2024年2月25日(日)福岡県 LIVEHOUSE OP's
  • 2024年3月2日(土)大阪府 Shangri-La
  • 2024年3月3日(日)愛知県 新栄シャングリラ
  • 2024年3月9日(土)宮城県 enn 2nd
  • 2024年3月20日(水・祝)東京都 LIQUIDROOM

プロフィール

新東京(シントウキョウ)

杉田春音(Vo)、田中利幸(Key)、保田優真(Dr)、大蔵倫太郎(B)からなる4人組バンド。2021年4月の結成後、6月にEggsが主催する23歳以下限定の音楽コンテスト・TOKYO MUSIC RISEにてグランプリを獲得。8月に東放学園主催のイベント「コンサートのつくりかた」にて、東京・Zepp Tokyoで初ライブを行い、その後デビューシングル「Cynical City」を配信リリースした。2022年2月には自ら運営する新東京合同会社を設立し、8月には「SUMMER SONIC」に出演。同年12月に初のワンマンツアー「NEOPHILIA」を東名阪で行った。2023年7月に「FUJI ROCK FESTIVAL」に初出演を果たし、その後韓国や台湾など海外のフェスにも出演。2024年2月に1stフルアルバム「NEO TOKYO METRO」をリリースし、同月より「NEOCRACY」と題した全国ツアーを行う。