sino R fine「Crazy for you」インタビュー|篠原涼子が19年ぶりに歌う理由 “運命的な出会い”と“これからのこと”

2月14日に配信がスタートした、Netflixシリーズ「金魚妻」。タワーマンションに暮らす6人の女性たちが、一線を越えて禁断の不倫愛に足を踏み入れてゆく様を描くこの話題作の主題歌「Crazy for you」には、sino R fine(シノールフィーネ)という聞き慣れないアーティスト名がクレジットされていた。

このたび、そのsino R fineがドラマの主演を務める篠原涼子であることが明らかになった。篠原が歌手として歌唱するのは実に19年ぶりだが、彼女は4年ほど前から、趣味として音楽活動を再開させていたという。

「Crazy for you」のリリースに際し、音楽ナタリーでは篠原にインタビュー。彼女を19年ぶりに音楽のフィールドへと導いた“運命的な出会い”、「Crazy for you」の制作エピソード、そして今後の歌手活動について、胸に抱く思いを聞いた。

取材・文 / 秦野邦彦撮影 / YURIE PEPE

運命的な出会い

──Netflixシリーズ「金魚妻」、篠原さん演じる主人公・さくらの行動や言動から目が離せません。

ありがとうございます。ご覧になった方、1人ひとりの心情が動かされる作品になっていると思うので、楽しんでいただけたらうれしいです。

──このドラマの主題歌「Crazy for you」を歌っているsino R fineが篠原さんだと発表されて、皆さん驚かれていると思います。19年ぶりの歌唱ということで、まずは今のお気持ちからお聞かせください。

実は、4年前くらいから音楽活動は個人的な趣味としてやっていたんです。どこに発表することもなく「いつか形になればいいな」と思っていたところに今回の主題歌のお話が舞い込んできたので、最初は本当に私でいいんでしょうかと恐縮していたんです。でも、せっかくのチャンスなので挑戦させていただきたいと思って。

篠原涼子

──女優業が忙しい中でも、歌いたい気持ちはずっとあったんですね。

はい。でも、なかなかチャンスがなくて。もう一度歌うなら、今まで私が歌ってきたものとは違うことをやってみたいと思っていたこともあって。そんな中、たまたま仕事の知人と話をしているときに「音楽をやりたいんだけど自分1人の力だけだと難しくて」みたいな相談をしたら、「知り合いに、いい音楽プロデューサーがいます。ちょっと連絡してみますね」って、その場で電話してくださって。それがSUNNY BOYというアーティストだったんです。

──安室奈美恵さんの「HERO」の作詞・作曲・プロデュースをはじめ、数々のアーティストの楽曲を手がけるトラックメイカーですね。

はい。そうしたらSUNNY BOYがその日に来ることになり、ビックリしました。すごく忙しい人なんですけど、たまたま空いてるということだったので、紹介してもらったんです。それで「私はこういう音楽をやりたいんです」とお話ししたところ、「だったら、うちにスタジオがあるから今度来ませんか」ということで、自宅に隣接してるスタジオにお邪魔させてもらったんです。スタジオを見せてもらいながら歌って、2時間ぐらいでちょっとした曲ができて。「ああ、面白いな。こうやって作っていく時代になったんだ。これなら私にもできるかも」なんて思いながら「時間があるときに協力してもらってもいいですか?」と言ったら「もちろん」みたいな感じで、最初はリモートで音楽作りを始めたんです。SUNNY BOYと私で作ったメロディを形にして、それを聴きながら私が声を入れたものをまたデータで送って、みたいな作業を楽しみながら。

──19年前とは制作環境も大きく変わっていましたか?

もう全然違いますね。パソコンであらゆる楽器の音が出てくるし、歌声も変えられるし。技術の進歩ってすごいなと思いました。

──これまで主演ドラマや映画の主題歌のお話があっても、篠原さんのほうで断っていらっしゃるのかと思っていました。

いや、もう全然。いつでもウェルカムだったんですけど(笑)。

──「金魚妻」の制作発表時、篠原さんは「これまでにないような役柄を演じてみたかったのでうれしいです」とコメントされていましたが、音楽活動ともクロスするところですね。

新鮮でしたね。ここまで開放的になれる作品はなかなかないので、そういう意味では挑戦でしたし、同時に自分がやりたかった歌もできたのは運命的な出会いだったと思います。作品も、人たちも。

篠原涼子

心溺れるほど

──「Crazy for you」は最初から「金魚妻」のテーマソングとして制作されたんですか?

基本的にはそうなります。ドラマの撮影中に曲を探して、撮影後に映像が全部仕上がってからレコーディングに入ったので。候補としてほかにも素敵な曲がたくさんあったんですけど、「『金魚妻』ならこれしかない」と思ったのが、SUNNY BOYさんとシェネルさんが作ってくださった「Crazy for you」のデモだったんです。あんまり言いすぎてスタッフさんの選択肢を狭めるのもよくないと思ったので控えめにはしていたんですけど、聴いた瞬間に「絶対これ!」と思っていました。

──作詞作曲のクレジットには加藤ミリヤさん、シェネルさん、SUNNY BOYさんの名前が連名で並んでいますが、それぞれどういう役割で参加されたんでしょうか?

楽曲はシェネルさんとSUNNY BOYです。シェネルさんが作ってくれた冒頭の英語の歌詞をもとに、加藤ミリヤさんが「金魚妻」の台本をご覧になったうえで、さくらの気持ちに当て書きで歌詞を書いてくださいました。なので、本当にみんなで作ったって感じですね。英語の部分で少し歌いづらい場所があると、シェネルさんが歌いやすいように変えてくれたり。ミリヤさんも「歌いづらいところは変えていいですよ」と言ってくださったんですけど、これ以上ないぐらい好きな歌詞だったので、このままやらせていただきますという感じでした。

──加藤ミリヤさん、シェネルさんとは以前から面識が?

お二人ともはじめましてでした。なのにすごく気さくだし、話しやすいし。なおかつすごく愛情を込めて、この曲に命を注いでくれたんです。レコーディングもけっこう長時間やらせていただいたんですけど、海外在住のシェネルさんはお子さんの世話をしながらリモートの画面の前にずっといてくださったし、ミリヤさんもまるで私の母親か、姉かと思うぐらい応援してくれて。本当に守られてるなと思える空間で歌わせていただきました。声を出しすぎてハスキーになってしまったときも、ミリヤさんは飴をくれたり「これ飲むといいですよ」ってさりげなくハーブティーを淹れてくれたり、繊細で優しい気遣いをいっぱいしてくださったんです。そういう気持ちのエネルギーが自分には助けになったなと思います。SUNNY BOYも「急がないでいいので、ゆっくりやりましょう」みたいな感じで、プレッシャーを全部はがしてくれましたね。

篠原涼子

──19年ぶりのレコーディングはいかがでしたか?

やっぱりブランクは感じました。「あ、こんなに自分は下手だったんだ」と思いましたし、どうやって完成まで持っていけばいいかを考えながら歌っていました。「あんまりいろいろ考えながら歌っちゃうとよくないな」と思いながら(笑)。でも、SUNNY BOYの「もう少しウィスパーっぽく」とか、いろんな人のアドバイスを聞いてちょっと自分の気持ちを変えたら、すんなり集中して歌えるようになりました。ドラマの撮影を終えて、さくらの気持ちが全部入った状態でこの曲に挑めたこともすごくよかったです。気持ちを込めて歌えたし、どれだけ歌っても疲れない感じがありました。「Crazy for you」のメロディは、どんどん気持ちが高ぶっていくんです。

──特に感情を込めて歌いたいと思った部分はどこでしょう?

どの言葉も全部好きなんですけど、やっぱりサビの部分は聴かせどころなので、丁寧に歌詞を伝えることを意識しながら「もう1回やっていい? もう1回やっていい?」と何度もお願いしました。特に「今、愛になって あなたとひとつに溶けたい」という最後の部分は、「金魚妻」という作品のメッセージ性とすごくリンクするなと思ったので、大事に歌いました。そのあとに続く「心溺れるほど」は、どんな言葉が当てはまるか、みんなでいろいろ考えたんです。それで私が「『溺れる』ってワードがいいんじゃない?」と提案したら、採用していただきました。

──いい言葉ですね。「金魚妻」をご覧になられた方、特に女性の方は、きっと共感や安らぎを感じると思います。

皆さんの勇気になったらいいなと私も思います。もちろん自由に感じていただくのが一番いいんですけど、「私だけじゃないんだ」とか、「明日から大丈夫だな」と、ちょっとでも思っていただけたらなって。人間誰しも悩みはつきものだと思うんです。でも、この曲ではその悩みを悩んだままで終わらせず、金魚をゆっくり泳がせて解放するような描き方になっているので、少しでも救われた気持ちになってもらえたら。ドラマも楽曲も、最終的には「私はこういう人間なんだ」と理解して、ありのままの自分と向き合って明日からもがんばって生きていく、ということを描いていると思うので。

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