音楽ナタリー Power Push - 神聖かまってちゃん×テレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」

の子と諫山創の「弱い人対談」

「死ねよおまえ」って言いながら水の中に曲を突っ込む

──諫山先生はできあがったエンディングテーマを聴いて、どう感じましたか?

諫山 あまりにも「僕が望んだかまってちゃん」通りで、申し訳なくなってしまいました。すごい私的利用っていうか、ちょっと自分勝手なことやりすぎたんじゃないかって……。

の子 なんでですか(笑)。全然ですよ。

諫山 「夕暮れの鳥」の歌詞を見せていただいたあとに、エンディングの絵コンテに鳥が飛んで行くところを描き足したんです。夕日じゃなくて朝焼けなんですけど(笑)。

──えっ、エンディングの絵コンテって原作者が考えるものなんですか?

諫山創

諫山 いや、そんなことはないです。「それはやっちゃダメだ」っていう理性もあったんですけども、「いいや、もういっちまえ」って感じで描いちゃいました。だから今すごく恐いです。僕はアニメに関しても“憲法”が必要だと思ってるんですよ。アニメ作品はあくまで荒木(哲郎)総監督たちのもので、僕がしていいのは提案をすることだけ。「こうしてください」って主張するのは“違憲”なんです。作品作りにはそういう線引きがないとダメだと思ってたんですけど、今回は僕がそれを壊してしまって……。

の子 でもそれ、俺はホントにうれしいです。

諫山 こちらこそ。夢が叶いました。アニメ化する前から僕は、神聖かまってちゃんの曲を聴きながら妄想してたんです。「もしこれがアニメになったら、こういう曲でナウシカのオープニングみたいなことがしたいな」って。

──妄想といえば、諫山先生は以前自身のブログで「『男はロマンだぜ!たけだ君っ』は完全にエレンの歌」「もしハンジのキャラソンがあったら『自分らしく』だ」と言っていました。

の子 「ベルトルトのキャラソンは『死にたい季節』」とか。ホントにありがとうございました。

──で、今回のシングルにはカップリングに「男はロマンだぜ!たけだ君っ」が収録されるんですよね。

諫山 あっ、そうなんですか。

──諫山先生の「これはエレンのキャラソン」という言葉を受けてそうしたのかな?と思ったんですが。

の子 そうなんですよ。録り直して入れました。エレンの曲だって言ってくれてホントにうれしかったです。

諫山 曲に出てくる向こう見ずな少年の姿がエレンに重なると感じたんです。あと、エレンじゃなくて自分の話になっちゃいますけど、上京したときの僕は「田舎で暮らしてた弱い自分は、どうせ東京に来たって何も成し遂げられなくて当たり前だろう。30歳までバイトして実家に帰る確率が99.9%だろう」って思ってたんです。じゃあ何もやらないのかと言えば、「やるよね?」としか考えてなかった。「たけだ君っ」はそのときの自分の意志を肯定してくれるような曲だなって。

の子 諫山さんの中には強さと弱さが共存してるんですよね。劣等感もあるけど、それに勝つ強さもある。まあ、人間っていうのは誰しもそんな面があると思うんですけど。

諫山 僕は「窮鼠猫を噛む」ですよ。「失うものはない」的な気持ちになってエネルギーが出ちゃうっていう。でもの子さんの場合、負のエネルギーまでも幻想的でキレイな芸術に変えてしまうんですよね。それって最強じゃないですか。

の子 うん、それは僕の芸だと思ってます。曲作りをするときの僕は、天然な部分もあるけどけっこう計算してるんですね。さっき話してた「コンクリートの向こう側へ」で言うと、作り始めたときは天然なんですよ。頭の中が「わーっ!」ってなって一気に作り上げるけど、そのあと一旦何日か置いておくんです。しばらく経ってそれを冷静になってから聴くと「まだ甘いな……もっと弱く、弱者にしてやらないと」って思って練り直します。曲に「もう死ねよお前」って言いながら水の中にバシャーって突っ込むようなイメージ。そうしたほうが聴き手にもっとぐわあっと来る曲になるぞ、みたいな。そこはもう計算なんです。

──ちなみにその「コンクリートの向こう側へ」も今回のシングルにカップリングとして収録されてます。

諫山 おおおー。

の子(Vo, G / 神聖かまってちゃん)

の子 そうですね。「夕暮れの鳥」「光の言葉」「男はロマンだぜ!たけだ君っ」「コンクリートの向こう側へ」の4曲入りです。

諫山 僕は「コンクリートの向こう側へ」が大好きなんですけど、この曲をの子さんがどんな気持ちで作ったのか全然わかんなくて。

の子 俺もわかんないんですよね。

諫山 あ、そうなんですか(笑)。

の子 先ほども言ったんですけど、曲を作り始めるときは「わーっ!」ってなってて、その最中で覚えてることは気分だけなんです。周りを見たら白い壁で、見上げたら天井も白い。どんよりした気分でコードを鳴らしたら、いきなりこの曲ができてた。

諫山 曲を作るのは、自分の気分をほかの人に届けたいってことですか?

の子 誰かに届けたいとかはまったくなくて、ただただがむしゃらに作ってるだけ。曲を作ってるとき、別に実際に涙を流したりはしてないですけど、心の中では「わーっ!」です。

──曲が生まれるきっかけはある種の“排泄”で、生活していると自分の中から漏れ出てくる。でもそれを作品としてきれいなものに仕上げるのは計算、ということなんですかね。

の子 ああ、そうですね。だからホント、半分天然半分計算でいつもやってる気がします。

信じてきた前提が一気に覆る瞬間

の子 なんか今日は心療内科にいる気分になりますね(笑)。

諫山 どのへんが病院っぽいですか?

の子 諫山さんは人間的にものすごく波長が合うんで、自分のことをしゃべっちゃう。もっと話していけば、お互い「ここまで合うのか!」っていうのが出てくるんじゃないかって気がします。

左からの子(Vo, G / 神聖かまってちゃん)、諫山創。

──年齢も1歳差だし、多感な時期に受けた影響が共通してたりもしそうですね。

の子 そうですね。僕と諫山さんは「学校がホントに嫌で嫌で」みたいなのをたぶん同じ時期に感じてただろうし、インターネットとかスマホが出てくる流れも同じように体験してる。まあ「僕らの世代は全員2ちゃんねるを見てました」なんてことはひと括りにして言えないですけど(笑)。

諫山 きっと若者はいつの時代もいろいろあるんでしょうけど、僕たちの世代は、中学生から高校生にかけてインターネットに触れるようになって「それまでテレビが言ってることは全部ホントだと思ってたのに、インターネットでは言ってることが違う」っていう、信じてきた前提が一気に覆る瞬間みたいなのを味わった人が多いと思います。ある種の宗教体験といいますか。

──ああ。

諫山 僕は2ちゃんねるは見ていないんですけど、ある意味自分も2ちゃんねらーみたいなもんだと思ってて。ネットの向こう側でマンガを描いてるっていう感覚なんですよ。ネットにいろいろ書き込んでる人たちと僕は立ち位置がすごく近い。本来その中の1人に過ぎない人が、たまたまマンガを描いてなんとかなってるっていう状態なんです。ただ、の子さんも同じようにネットユーザーと近いところにいますけど、もう「アーティスト」って感じですよね。そんなふうに言われると僕は恐縮してしまう。僕は「商人」って感じの人なんで。

の子 俺もそうですよ。自分の弱さを芸術に変えることは、ビジネスに使える武器でもあるんだな、みたいなことを実は思ってますし。自分に「商人」の面がまったくなかったらここまで来れてなかったですから。

諫山 うん、かまってちゃんには戦略もあったんだろうなと思います。さっき「放送事故的なイメージ」って言っちゃいましたけど、どんなにいいものを作ったとしても、誰にも知られなければ存在しないも同じだと思いますし。

の子 でも「俺を見てくれー!」って言いながら暴れてたら、結局みんなそういう部分しか見てくれなかったんですよ。「そうじゃなくて、俺は作品を見てくれつってんだよ!」って(笑)。

諫山 でもきっかけにはなったと思いますよ。僕が最初にの子さんを観たのは、ニコ動でセーラー服を着て踊ってるやつで。

の子 わはは(笑)。やっぱ投げとくもんなんですね。あんなくだらねえ動画でも。

諫山 「セーラー服の男」っていう見た目から最初は偏見があったんですけど、その人が作ってる音楽がすげえ自分好みだったので、僕はここでまた「前提が覆る」っていう強烈な体験をすることになるんです。

テレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」 / 2017年4月1日(土)より、TOKYO MXほかで放送
テレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」
スタッフ
  • 原作:諫山創(別冊少年マガジン連載 / 講談社)
  • 総監督:荒木哲郎
  • 監督:肥塚正史
  • シリーズ構成:小林靖子
  • キャラクターデザイン:浅野恭司
  • 総作画監督:浅野恭司、門脇聡、山田歩
  • 音楽:澤野弘之
  • オープニング主題歌:Linked Horizon
  • エンディング主題歌:神聖かまってちゃん
  • アニメーション制作:WIT STUDIO
神聖かまってちゃん ニューシングル「夕暮れの鳥 / 光の言葉」 / 2017年5月24日発売 / 1620円 / ポニーキャニオン / PCCA-04531
「夕暮れの鳥 / 光の言葉」
収録曲
  1. 夕暮れの鳥
  2. 光の言葉
  3. 男はロマンだぜ!たけだ君っ(2017新録音ver.)
  4. コンクリートの向こう側へ(2017 最新リマスター)

神聖かまってちゃん「東!名!阪!ワンマンツアー(仮)」

  • 2017年6月23日(金)大阪府 umeda AKASO
  • 2017年6月29日(木)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
  • 2017年7月2日(日)東京都 東京キネマ倶楽部
神聖かまってちゃん(シンセイカマッテチャン)
神聖かまってちゃん

の子(Vo, G)、mono(Key)、ちばぎん(B)、みさこ(Dr)の4人からなる“インターネットポップロックバンド”。の子による2ちゃんねるバンド板での宣伝書き込み活動を経て、自宅でのトークや路上ゲリラライブなどの生中継、自作ビデオクリップの公開といったインターネットでの動画配信で注目を集める。2010年3月に初のCD作品となるミニアルバム「友だちを殺してまで。」を発表したのち、ワーナーミュージック・ジャパン内のレーベル・unBORDEと契約してメジャーデビュー。子供の頃の暗い記憶やニートの抱える不安な感情などを美しいメロディに乗せた楽曲、予測のできない破滅的なライブパフォーマンスでファンを増やした。2016年7月にミニアルバム「夏.インストール」をリリース。2017年5月にはシングル「夕暮れの鳥 / 光の言葉」の発売が決定しており、「夕暮れの鳥」はテレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」のエンディングテーマとしてオンエアされている。

諫山創(イサヤマハジメ)

1986年大分県出身。2006年に「週刊少年マガジン」のMGP(マガジングランプリ)にて「進撃の巨人」で佳作受賞。2008年、同誌の新人マンガ賞にて「orz」で入選し、デビューを果たす。2009年に「別冊少年マガジン」にて「進撃の巨人」の連載を開始。同作は2011年に第35回講談社漫画賞少年部門を受賞した。なお「進撃の巨人」は2013年4月にテレビアニメ化され、2015年夏には三浦春馬の主演で実写映画化された。2017年4月からはテレビアニメ「『進撃の巨人』Season 2」が放送されている。


2017年4月7日更新