清水翔太「Insomnia」インタビュー|「不眠症だからできた」自信作で“清水翔太”というジャンルを確立 (3/3)

俺は不眠症だけど、だからこそこんなアルバムができた

──タイトル曲「Insomnia」で共作しているToshiさんってどなたですか?

友達です(笑)。ダンススクール時代の友達。LAに留学してたんですけど、すごく器用で才能あるヤツなので、日本に帰ってきて音楽で食っていったほうがいいって帰国を促したんです。ピアノも弾けるから「トラック作ったほうがええで」と言ったら「ほな帰るわ」って感じで日本に帰ってきて。そんなふうに僕きっかけでトラックを作り始めたから応援しているんです。

──なるほど。

でも、最初から「情で仕事はしない」と伝えてたんです。作ったトラックを聴かせてくれるけど、本当に自分に合うと思わない限りはやらないと。で、Toshiは僕と一緒に仕事するというのが1つの励みというか目標になっていて。やりたがっているけどクリエイティブが僕の基準に届いていないっていう期間がずっとあったんです。そしたら、いよいよ、めっちゃいいトラックを作ってきて「これ、いいね。これで1曲作らせて」っていうことで作りました。

──ベースになるトラックをToshiさんが作って翔太さんがアレンジした?

僕は歌詞とメロだけですね。アレンジはすべてToshi。

──歌詞はどんな思いから書いたんですか?

「これがいい曲だからアルバムタイトルにしよう」となるパターンが多いけど、今回は逆で、「Insomnia」というアルバムタイトルを先に決めていて、制作の終盤でこの曲を作ったんです。Toshiのトラックに「Insomnia」というテーマが合いそうだなと思って急遽作った感じ。

──「Insomnia」というアルバムタイトルはどんな思いから付けたんですか?

意味はそのまま不眠症。僕が不眠症だから。めちゃめちゃ夜行性だし、夜が好きだし、眠れなくて困るけど、でも曲を作るのは夜だし、みたいな。不眠症だから清水翔太なんだろうなと思ってる部分もあるんですよね。自分が健康的で、夜ぐっすりタイプだったら今みたいに曲を作ってないかもしれないから。

──中学生の頃から夜型だったし。

そう。不眠症で夜中にクリエイティブな気持ちが湧き上がって、何かを作りたくなるのが自分だから。不健康だし、すごく嫌だけど、寝られないおかげで清水翔太の曲が作れて、感謝している部分もある。そういう矛盾があってムカつくなあという思いを曲にしたんです。

──アルバムタイトルにしたのは、「Insomniaが自分自身を象徴する言葉だから」ということ?

それもそうだし、さっき言ったように今回はあまり他人のことを考えてないから。そんな今の自分でも、このアルバムにポジティブなメッセージを加味するとしたら、「みんな多少なりとも自分の嫌な部分とかコンプレックスがあるはず。でも、それがプラスに作用することもあるかもよ。だからあまりしょげんなよ」って。俺は不眠症だけど、だからこそこんなアルバムができたぜっていうことを言いたくて、「Insomnia」にしたんです。

清水翔太「Insomnia」完全生産限定盤ジャケット

清水翔太「Insomnia」完全生産限定盤ジャケット

清水翔太「Insomnia」通常盤ジャケット

清水翔太「Insomnia」通常盤ジャケット

初めてここまで「いいものが作れた」と思えた

──タイトル曲の次に「Nights」という曲を入れたのは意図的にですか?

そう。その2曲はセットで考えてました。

──「Nights」は創作における苦悩や葛藤がテーマ?

そうです。天才の自分とそうじゃない自分がいて。天才のほうに出会える可能性は低いし、たまに出くわす感じ。曲を作るのは夜だから、夜中に悶々としながら、結局飲みに行っちゃうみたいな(笑)。

──そんな夜こそ天才が現れたり(笑)。

そう。飲みに行ってなきゃ会えたんじゃないの?みたいな(笑)。僕らは欲とか調子の良し悪しの葛藤と一生付き合っていくわけじゃないですか。そういう中で逃げちゃう瞬間が増えてきちゃうんですよね。金銭的にとか、キャリア的にとか、自分が安心すればするほど目の前の快楽に逃げちゃう。という中で、今回のアルバムは本当に天才の自分を探して探してめっちゃ向き合ったと思ってるんです。欲を断ち切って絶対に名盤を作るって気持ちで向き合ったんで、そういうことを歌いたくて。自分との追いかけっこみたいなことを「Nights」で書きたかったんです。

──最後に入っている「君がいない、僕らの日常」はどんなテーマで書いたんですか?

これは友達と別れる歌なんです。ケンカ別れかもしれないし、Toshiみたいに海外留学かもしれないけど、いつも一緒にいた仲間から1人いなくなるということを書いていて。なんでそれを書くかというと、僕がすごく自己中心的な人間で他人のペースに合わせたり他人の意見をあまり聞いたりしない人間だから、テンポがズレることが人生の中ですごく多いんです。一度は仲よくなって同じテンポで歩いた人とも、少しずつズレてくる、合わなくなってくる。「アイツ元気かな?」と思うことが多いから、それを書きました。

──それも大阪に帰省したことが影響してる?

いや。言葉で歌詞を説明するとこうなるんだけど、この曲を書いてるときの気持ちの根本は別にあって、アーティストの孤独を表現したかったんだと思う。なんでそういうふうにしか生きられないの?っていう。けど、そういうふうに生きるしかない。言い訳だけど、アーティストなんだから、そんな簡単に人のペースに合わせないし、常に自分が船長であるっていう。アーティストである以上、絶対にそういう悲しみを経験するから、それを言いたかったんだと思うんです。

──今日たびたび言葉にしているけど、今回のアルバムの大きなテーマは「孤独」ですか?

どうだろう……。孤独がテーマとは言いたくない。孤独がテーマというよりは、「清水翔太流、孤独への抗い方」みたいな。孤独がテーマだとチープですね、ベタすぎて。それよりは孤独に抗う姿とか……。

──孤独との付き合い方とか。孤独を取り巻く感情ということですかね。

そういう感じです。僕ね、1人でいるときにすべての症状が重くなるんですよ。不眠症もそうだし、ネガティブな感情も強まる。だからすごく人を必要としている。「Insomnia」でも「一人じゃ生きれない」と歌ってるし、すごく人を必要としている。なのに、そうやって自己中心的にしか生きられないっていうことを最後のオチに持ってきたかったんです。だからアーティストって悲しいよね?みたいな(笑)。

──今回のアルバムが10作目ということは意識していなかったそうですが、今年2月でデビュー15周年を迎えました。

それについても特に何も思わないです。長く支えてくれたファンをはじめ、いろんなものに感謝の思いはありますけど、とにかく今回はアルバムの完成度に自信があって。リリース前に、ここまで「いいものが作れたな」と思えたのはたぶん初めて。そういう作品を15周年の10枚目のタイミングで作れたことがとにかくうれしいんですよね。

清水翔太

ライブ情報

SHOTA SHIMIZU LIVE TOUR 2023 "Insomnia" supported by Taica

  • 2023年6月30日(金)千葉県 市原市市民会館 大ホール ※公開ゲネプロ
  • 2023年7月7日(金)神奈川県 神奈川県民ホール 大ホール
  • 2023年7月15日(土)静岡県 静岡市民文化会館 大ホール 大ホール
  • 2023年7月28日(金)大阪府 フェスティバルホール
  • 2023年7月29日(土)大阪府 フェスティバルホール
  • 2023年8月6日(日)石川県 本多の森ホール
  • 2023年8月9日(水)愛知県 日本特殊陶業市民会館 フォレストホール
  • 2023年8月27日(日)宮城県 仙台サンプラザホール
  • 2023年9月2日(土)兵庫県 神戸国際会館 こくさいホール
  • 2023年9月10日(日)福岡県 福岡サンパレス
  • 2023年9月11日(月)福岡県 福岡サンパレス

プロフィール

清水翔太(シミズショウタ)

1989年生まれ。作詞、作曲、アレンジまでを手がけるシンガーソングライター。地元大阪のスクールで学び、ソウルミュージックに魅せられたことをきっかけに、感情豊かな歌唱からラップまで幅広くこなすマルチな才能を発揮する。2008年にシングル「HOME」でデビュー。2016年にリリースした楽曲「My Boo」がサブスクリプションを中心に若年層にヒットを記録する。2019年には、V6のシングル「Super Powers / Right Now」に恋愛ソング「Right Now」を提供。2023年にデビュー15周年を迎え、10thアルバム「Insomnia」をリリースした。