SHIMA×会長(打首獄門同好会)“ポップでピース”を信条とする2組が惹かれ合う理由

福岡・北九州発の4人組バンド・SHIMAが3rdフルアルバム「FLAKES」を5月4日にリリースした。

今作は、SHIMAが所属するレーベル・CAFFEINE BOMB RECORDSの主宰者をモチーフにした「MOPPY」や、シリアスな歌詞がつづられたバンドの新境地を感じさせる「Sleepless Night」など計13曲が収録されている。音楽ナタリーでは新作の発売を記念して、SHIMAのEGACCHO(Vo)、HIKIDA YUSUKE(G, Vo)と親交の深い打首獄門同好会の“会長”こと大澤敦史(Vo, G)へのインタビューを実施。両バンドともにラーメンをテーマにした楽曲をリリースするなど、共通項の多い2組に、出会の経緯やお互いが惹かれ合う理由、新作「FLAKES」の聴きどころなどを語り合ってもらった。

取材・文 / 小林千絵撮影 / 山崎玲士

2組に共通する“食べ物のシンパシー”

──今回はお互いにリスペクトし合う2組にお越しいただきました。最初に2組の出会いから教えてください。

EGACCHO(Vo / SHIMA) 初めて会ったのは2016年、福岡のライブハウス・Queblickでした。バックドロップシンデレラと打首さんのレコ発で、ビレッジマンズストアとSHIMAの4組で福岡、広島、高松を回ったんです。

大澤敦史(打首獄門同好会 / 以下「会長」) それが初めてだっけ?

EGACCHO そうです。打首さんと対バンできたのがうれしかったので、はっきり覚えています。

──それまでSHIMAのお二人は打首獄門同好会のことをどう見られていましたか?

EGACCHO やろうとしていることが近くて、一緒にライブをやったら楽しそうだなと思っていました。「私を二郎に連れてって」なんかめちゃくちゃツボでしたし。

会長 食べ物のシンパシーね!(笑)

HIKIDA YUSUKE(G, Vo / SHIMA) 打首に対するイメージは“エンタテインメントとして完成されている”というものでした。ライブはそのときに初めて見たんですけど、「わー! すげー!」ってファン目線で見ちゃいました。

左からEGACCHO(Vo / SHIMA)、HIKIDA YUSUKE(G, Vo / SHIMA)、大澤敦史(打首獄門同好会)。

左からEGACCHO(Vo / SHIMA)、HIKIDA YUSUKE(G, Vo / SHIMA)、大澤敦史(打首獄門同好会)。

──会長さんは、SHIMAにどのような印象を持っていましたか?

会長 バックドロップシンデレラが「面白いバンドいるから呼んでいい?」と言ってSHIMAを誘ったんです。そのときに「絶対に会長も気に入ると思うよ」「アレンジがただのバンドじゃないから」と教えてくれて。ライブを観て納得しました。ギターを見ても楽しい、ベースを見ても楽しい、ドラムを見ても楽しいっていう。

EGACCHO ありがたいです。

会長 そこから急激に仲よくなったよね。

EGACCHO ですね。

どうしても打首っぽい曲ができちゃう

──出会ってから6年ほどが経ちましたが、その中でお互いのバンドの変化はどう感じていますか?

会長 俺が「おっ!」と思ったのは、麺と犬に触れてきたとき。

EGACCHOHIKIDA あはは。

──「DOGGYMAN」(2017年5月リリース「MORE!! MORE!! MORE!! MORE!!」収録)と、「すすれ-Re麺ber-」(2018年9年リリースのシングル表題曲)ですね。

会長 僕らも「私を二郎に連れてって」(2012年10月リリース「獄門のすゝめ」収録)や「YES MAX」(2019年9月リリース「獄至十五」収録)といったラーメンをモチーフにした曲を作ってきたから、麺に関しては完全にシンパシーを感じました。で、犬に対してこっちは猫なんで(「猫の惑星」)、そこは分かれるんだなって(笑)。

HIKIDA 曲を作っていると、どうしても打首っぽい曲ができちゃうんですよ。仮歌詞で、気が付いたら「麺」とか「ピザ」が入っていて「また食いもんじゃん!」って(笑)。

EGACCHO 2019年に出したアルバム「BLAST」はHEY-SMITHの猪狩(秀平)くんがプロデューサーで入ってくれたんですけど、途中で「食べ物の歌はここまでにしましょう!」って言われたし(笑)。

HIKIDA そういう意味で、打首はこの路線でトップを獲ったんじゃないかなと思っていて。それこそ出会ってからの6年で上り詰めたんじゃないかな。もう「食べ物の歌」とかじゃなくて「打首獄門同好会」っていうジャンルといってもいいくらいですよね。作りましたね、会長!

HIKIDA YUSUKE(G, Vo / SHIMA)

HIKIDA YUSUKE(G, Vo / SHIMA)

会長 作ろうと思って始めたわけじゃないんだけどね(笑)。

HIKIDA あとはコロナ禍でも率先して面白いことを探している印象がありました。常に面白いことに対するアンテナを張っていて、尊敬しています。

物理的にインプットして、音楽でアウトプットをする

──それこそ「楽しいことを追求する」、さらに言うと「好きなものをそのまま歌にする」というところは2組の共通点でもありますよね。それにしても、「好きな食べ物をそのまま歌にする」というのは、どちらかというと特殊なことだと思うのですが、両バンドとも、好きなものをストレートに歌うのはどうしてなのでしょうか?

EGACCHO なんでですかね……。

HIKIDA 僕個人で言うと、人が喜ぶ姿を見るのが好きな人間なので、「ラーメンの歌作ったらみんなどんなリアクションするんだろう」って想像してうれしくなるからかなあ……。犬に関してはただ犬が好きだからっていうだけですけど。

──「犬が好き」とか「ラーメンが好き」だからって、普通のバンドはそのまま歌にしないのではないかと思うのですが……。

EGACCHO そうなんですか!?

会長 今、ここにいる全員が衝撃を受けてますよ(笑)。「みんな歌にしないんだ?」って。

HIKIDA 少なくともこの3人はそうは思ってない節が(笑)。

会長 「このラーメン、おいしい! 歌にしたい」「犬が好き! 歌にしたい」「猫が好き! 歌にしたい」というこの衝動は、「この燃え上がる気持ち、歌にしたい!」というラブソングと変わらないんですよ。嘘偽りのない我々の気持ちを歌ってるだけで。世の中には、世間のニーズに応えようとして「自分を偽っているんじゃないか」と葛藤する作家さんも多いと思うんですが、我々は今好きなものを歌うだけなんで全然大変じゃないんですよ。曲ができないときは、ハマってる食べ物がないだけ。そういうときはおいしいものを食べればいいだけですからね。

EGACCHO 食べたことないものを食べに行くとか。

EGACCHO(Vo / SHIMA)

EGACCHO(Vo / SHIMA)

会長 カッコいい言い方をするとインプットですよね。物理的にインプットして、音楽でアウトプットをする。

HIKIDA ああ、素晴らしい。

会長 ほら、我々がやっていることは極めて自然なことなんじゃないでしょうか。生きてさえいれば曲のネタが生まれてくるわけで。

HIKIDA そうですよね。年を取っていけばまた違った、「ぼた餅がおいしい」とか「お茶がうまい!」っていう曲ができてね。

会長 弱点としては若者が付いてこられない可能性が(笑)。「腰痛が治らない、何をやってもダメだ」と歌っても10代のお客さんは置いてけぼりですよ。

HIKIDA デカい弱点ですね……。でも全員シニアのライブも見てみたいですね、「腰が痛いぞー!」ってコールが起こって。

会長 「お前ら、肩上がるかー?」って!(笑) そういう歳の取り方もいいかもしれないですね。

素直に歌うことで共感できる

──先ほどHIKIDAさんが、リアクションを想像するのが楽しいとおっしゃっていましたが、実際にファンやリスナーからの反響で印象的だったものはありますか?

会長 「私も犬好きです」とか?

HIKIDA そういう方はいっぱいいらっしゃいましたね。それこそ「DOGGYMAN」のミュージックビデオを作るときに、愛犬の映像を募集したんですけど、たくさん届いて。犬好き同士でつながっている感じはしましたね。ラーメンとかもそうでしょ? ラーメンの写真を撮って「すすれ-Re麺ber-」と書いてSNSに投稿してくれたりね。

EGACCHO そうですね。「楽しい」を共有できる感じはありますね。

会長 素直に歌っている分、共感できるんですよね、きっと。そして、共感できるというところに救いがあるのかなとは思います。それに音楽を通して「私も好き!」が広がっていくのが目に見えて、僕らもハッピーになれる。そこはもしかしたら「愛してる」と歌うバンドよりもシェアしやすいし、広がりやすいのかも。

HIKIDA 確かに打首もSHIMAも、お客さん同士が仲よくなって、そこにコミュニティができていますよね。打首のお客さんとSHIMAのお客さんが仲よくなっているのも見かけますし。そういうのはうれしいですよね。まあ、「猫好きなので、猫の曲を作ってください」っていう意見もたくさん届きましたけど(笑)。

EGACCHO あのMVのとき、猫派の人たちの圧がすごかったよね(笑)。

会長 あの……いいですか? うち、猫の歌のとき、逆の現象が起きました(笑)。

EGACCHOHIKIDA あはは。

会長 でもそこで「じゃあ犬の曲も歌うわ」というのは違う。それぞれが“自分のナンバーワン”を歌うからいいわけでね。

HIKIDA 別に猫が嫌いなわけじゃないんですよね。ただ犬が好きなだけで。

会長 そうそう。

──「好きなものを好き」と歌いつつも分断が生まれないようにしているところが、2組に共通するスタンスでもあるのかなと思いました。

大澤敦史(打首獄門同好会)

大澤敦史(打首獄門同好会)

HIKIDA 確かにディスる曲は書かないですね。あくまでもポップでピースでいたいし、僕はどちらかを上げるために、もう一方を下げるみたいなことって好きじゃなくて。「このラーメンおいしい」だけでいいのに「それに対してあそこのラーメンはまずい」と言うのって意味ないじゃないですか。おいしいほうだけに目を向けて幸せになれればそれでいいのに。

会長 まったく同じ考えです。「犬より猫だ」とか「猫より犬だ」じゃなくて、「猫が好き」っていうそれだけ。なんなら最近、犬の散歩に行くマンガばっかり読んでますし(笑)。

HIKIDA でも僕や会長が好きで聴いてきたハードコアって、わりと怒りやヘイトが原動力ですよね。そういう音楽を好きで聴いてきたのに、なんでですかね。

会長 なんでだろう……。

EGACCHO 人間性が出ているんじゃないですか?

HIKIDA そうかも。リフとか激しい音楽要素を使って、まったく否定をしない僕らの人間性を歌うから面白い。その感性が、SHIMAと打首は似ているのかもしれないですね。

会長 考えてみれば、英語がわからないので、自分が聴いている音楽に怒りとか悲しみがぶつけられているということを知らなかったです(笑)。