“ただ、あるということ”を体現しているのが民生さん

──ここまでで語られてきた柴咲さんの考え方が、受け身のまま「流される」のではなく、意志をもって「流れよう」と歌う「ゆくゆくは」につながっていく。

うん、そうですね。「ゆくゆくは」で歌っているのは、「抗わないよ」っていうことなんですよ。“抗う”という行為は怒りに変わることが多いし、“パワー（力）”ではなく“フォース（暴力）”になってしまうことも多いと思うんです。この曲では、「ただ、あるということ……それは誰にも変えられないんだよ」っていう自分の信念や目標が表現できたと思います。そして私がそれを体現しているように思えるのが、この曲をプロデュースしてくださった奥田民生さんなんです。

──柴咲さんから見た奥田民生さんとは？

民生さんとはテレビ番組やプライベートパーティでご一緒させていただいたり、フェスで何度かライブを拝見してご挨拶させていただいたこともあって、今年の春、民生さんと仲の良いスタッフ経由で楽曲のプロデュースをお願いしたんですね。民生さんって、ご自分のことを“おっさん”って言っていらっしゃいますけど（笑）、小学生みたいなところもあって。今回曲作りの工程に参加させてもらったら、いろんな楽器を使ってて。ジャングルジムによじ登ったかと思ったらすべり台からすべり降る……みたいな雰囲気で作業をされていて、レコーディングもすごく面白かったんです。しかもそれで確固たる音楽をやっていらっしゃるところも素敵じゃないですか。

──肩に力を入れず、子供心を忘れずに確固たる音楽を作り上げる大人。

今って、社会がぐちゃぐちゃで、ギスギスも極まっているから、自分の中でも「これはキツイな」って思ったりすることもある。だから民生さんみたいにもっとさらっと生きたいなって思うんです。ただこの曲の歌詞を書くにあたっては、私のそんな思いをお説教のような形で歌詞にしても聴きたくない人だっているだろうから、「流れのままに生きて、自分を浄化して軽くなったときに何が残るのかな？」っていうことを歌詞にしたんです。

「Premium Box」には今までとこれからが詰まっている

──柴咲さんは今年、プレミアムライブツアーを行ったり、CDデビュー10周年を迎えたりしたことでご自分の活動を振り返る機会も多かったのではないかと思うのですが。

「もう10年も経っちゃったんだ」って思いつつ。若いときって、いろいろあって大変じゃないですか。私は昔、今後どうなっていくかについて戸惑いや不安はあったけど、将来のことは何も考えてなかったんですね。活動をしていく中で、ようやく「人生は少しずつわかっていくものなんだな」ってことが理解できるようになったというか。自分が本当に欲しているものってすごく見えづらいし、いくつかの選択肢から選んだものを後から振り返ると、「やっぱり、あっちを選べばよかったな」って思うこともいまだにあったりして。でもそうやって取捨選択を繰り返していくことで、自分の好みがわかってきたんです。そして好みがわかれば、自分の扱いが楽になって、物事がシンプルになるんですよね。10年でそういうことがわかってきたと思います。

──ご自身の活動を記念した2枚のDVDとミックスCD、そして素敵なブックレットからなる「Orb -Ko Shibasaki 10th Anniversary Premium Box-」のリリースも控えていますね。

そもそも、私は記念日を忘れちゃう人だったりするんですけど（笑）。今年は自分にとっての10周年ということよりも、イベントとしていろんな人を巻き込んでお祭り騒ぎをするのが楽しかったので、節目は今後も積極的に活用していきたいなと思いました。それによって自分の好きなアーティストとコラボレーションできましたし。ボックスセットのブックレットは自分のやりたいようにやらせていただいたんですけど、私の芸名の由来であるマンガ「ゴールデン・デリシャス・アップル・シャーベット」の作者であるかわかみじゅんこさんとのコラボレーションで私の原点に立ち返ることで、ファンの方々に喜んでもらえるかなって思ったんです。さらにファンタジスタ歌麿呂さんとのコラボレーションは、まさに今の私が大好きな色合いやポップ感覚というか……こういうとがったものも表現したかったんです。

──柴咲さんのルーツから現在までがプレミアムボックスには詰め込まれていると。

そうですね。そしてこのプレミアムボックスは、これからの新しい自分のスタートにもなるんじゃないかなって思っています。今までの音楽活動は、女優業とは別の私らしさを見てもらう活動だったんですけど、今は極端に言えば、私にしかできないことがやりたいんですね。その中で、演じて音楽をやっていると受け取られてもいいとさえ思っているし……それがボックスセットのコラボにもつながっているし、そんなことを考えながら新しいアルバムも制作しています。

──新しいアルバムは、どんな作品になりそうですか？

私、車の中で音楽を聴くのが大好きなんですけど、次のアルバムはドライブに合う曲がたくさん入ることになりそうです（笑）。