瀬名ちひろインタビュー|アイドルグループやインフルエンサーとしての活動を経てソロデビュー (2/2)

炎上を受けて音楽の力を実感した

──その「ばず らいふ イヤー!」ですが、日本の“KAWAII文化”をイメージさせるポップソングになっていますね。

実はどういうジャンルの曲にするかはたくさん悩みました。せっかくのソロだから、私という人間を形作ってきたものの中からインスピレーションを得ようと考えました。自分が日本のライブアイドルであったことや、楽曲チームがJ-POPを得意とすること、アニメーションを駆使した合成MVを作成したいなど私の「やりたい!」という思いなど、自分を構成する要素は日本のポップカルチャーでした。そして、日本発祥の文化「カワイイ」は今では「kawaii」という世界の共通語になっていると思ったので、この方向性でいけばユニークな1つの作品が完成するんじゃないかなって。

──サウンドはかなりポップですが、歌詞にはかなり強烈な言葉も並んでいて、そのギャップが面白いなと。

うれしい! ありがとうございます。扱っているテーマ自体は少し真面目ですが、それを音楽としてマイルドに伝えたいと思った結果、“kawaii POP”な仕上がりになりました。個人的にはラップの「愛を発掘 ドルに換金 パフォーマンスは嘘は肝心~」という箇所が気に入っていて…! 「【推しの子】」の名ゼリフ「嘘はとびきりの愛なんだよ?」に通ずるものがあるようなないような。アイドルをはじめとした全パフォーマーが「本当の自分」と演者としての「キャラクター」の狭間で生きているような気がして。一緒に制作してくださったチームの色もあってこういうポップスにまとまりました。

──プロデュースユニット・DogPとの共作という形で初めて作詞に挑戦されたそうですが、どのようなイメージで歌詞を書いていったのでしょうか?

最初は「世間に対する反発心を歌詞にしていきたいよね!」という話も出ましたが、最終的には自分を信じてくれた人に愛を伝えたいという気持ちのほうが強くなっていき、それをチームに伝えました。そのほうがターゲットを絞らず、より多くの人に愛される楽曲に成長できるのではないかなと。アンチと戦うぜ!というよりは、アンチ側じゃない人に向けて書きましたね。

──歌詞には「炎上」というワードも含まれていますが、うまい具合に平和な世界線が保たれていますよね。

そうですね。最初は「炎上をエンジョイ」というキャッチフレーズを考えていて、炎上の「炎」と掛けた「炎ジョイ」という言葉を歌詞に入れていたんです。でも、楽曲をより多くの人に届けるべきだと考えたときに、この言葉は適切ではないなと(笑)。同世代のみならず、子供やその親御さんが聴いても不快感を感じないような言葉選びを大切にしたいと思って、最終的に「ばず らいふ イヤー!」になりました。

「ばず らいふ イヤー!」MV撮影中の瀬名ちひろ。

「ばず らいふ イヤー!」MV撮影中の瀬名ちひろ。

──ちなみに、瀬名さんの音楽的なルーツってどのあたりになるんでしょうか?

正直に言うと、誰か特定のアーティストのファンになったり、ライブ会場に足を運んだりという経験は特になかったんですよね。よく言う「広く浅く好き」という感じでした。深くハマる経験が一度もなくて、それでもソロで曲を出したいと思ったきっかけは、炎上を受けて音楽の力を実感したからなんです。アンチコメントや嫌な出来事があるとつい気になってしまいますけど、ポップな曲を聴いていると気持ちが楽になるんですよ。それは自分にとって初めての体験で、音楽がマイナスの感情をゼロにしてくれる効果があることを実感したというか。音楽はゼロをプラスにするという概念の娯楽だと思っていましたが、マイナスをゼロにしてくれるんだ……って。だからみんな音楽を好きになるのかと、私もそこでようやく世の中の人と同じ目線に立てたみたいなところがあって。音楽好きな方に比べたらまだまだひよっこですけど、私も音楽を通して周りをハッピーにできたらなと思っています。

──歌詞に関しては、ソロ活動を始める前から書き溜めていたのでしょうか?

作詞や文章を創作するという経験は、大学以来でした。人との対話が好きで、思ったことや伝えたいことは常に言葉にして過ごしてきました。裏を返せば、思ってないことは口に出来ないタイプで(笑)。なので言葉として書き留めることは“消えてなくならない言葉作りの最高峰”だと思っていて、より丁寧に作詞活動に向き合いました。

──初めて作詞に挑戦してみて気付いたことはありますか?

作詞に携わらせてもらう中でプロの方の力を感じました。私が届けたい言葉や経験について伝えると、それを曲に合わせてサラッといい感じの語呂に変換してくれるんですよ。DogPさんは私と年齢や性別、普段の暮らしも違うのに、なんでかわいい言葉が出てくるのか、乙女なのか………!?とちょっと不思議でもあり、ディスカッションの時間がとても楽しかったです。そこで自分も作詞活動に携わっていきたいという意欲が湧いてきました。人に共感してもらえるような言葉を考えることはできるかもしれないですが、インパクトのある言葉やキャッチーなフレーズはまだ自分から生み出せていないなと感じているので、今後はオリジナリティのあるホットなワードを作っていきたいです。

──アソビシステムのFRUITS ZIPPERも“NEW KAWAII”という既存の単語を組み合わせたオリジナルのワードを掲げていて、自ら新しい文化を発信していますよね。瀬名さんもそういうカルチャーを創出したい思いがあるのかなと。

「ばず らいふ イヤー!」という言葉自体にもそうした意味合いを込めています。「バズ ライフ」をあえてひらがな表記にしたのは「kawaii」を意識したからでした。新しいカルチャーを作るのって難しいですよね。初ソロ曲なので大きいことは言えないですが、「アンチの魔法~」という「ばず らいふ イヤー!」のフレーズが世の中に浸透してくれたら、なんて考えています。

「このままでは戦えない」から始めたダイエット

──サウンド面に関しては、瀬名さんの中でどういう構想があったのでしょうか?

DogPさんが手がけた超特急さんの「My Buddy」という曲に力強さというか、とてつもない破壊力を感じたんです。楽曲の尺ってだいたい3分や4分くらいですけど、その中でイントロの数秒はとても大切だと思っていて。今回はTikTokで楽曲をバズらせたいという気持ちもあり、TikTok向けの企画も考えているのですが、最初の15秒だけでも印象に残る強いインパクトのある楽曲を作ってくださる方にお願いしたいと思っていました。それでいろいろと調べてみて、特に自分の感性と合うなと感じたDogPさんにお願いすることにしました。

──「ばず らいふ イヤー!」も一度聴いたら頭から離れられなくなる中毒性がありますよね。

歌詞がいいというのも曲を何度も聴きたくなる大切な要素だと思いますが、それ以上に中毒性が欲しかったんです。気が付いたらつい聴いてしまうようなサウンドやメロディ。流れていたら自然と耳に入ってくるような曲にしたくて、今回の楽曲制作に至った感じですね。

──ミュージックビデオに関してはどうでしょう? きゃりーぱみゅぱみゅのMVも手がけた坂本渉太さんが監督を務めました。

私はきゃりーぱみゅぱみゅさんのほか、戦慄かなのさんもリスペクトしており、アイドル時代は生誕祭で戦慄かなのさんの曲をカバーさせていただいたりしていました。そんな戦慄かなのさんのユニットfemme fataleの「だいしきゅー だいしゅき」という曲のMVがずっと好きで。そのMVを手がけた坂本さんに「ばず らいふ イヤー!」の映像を制作していただけたのは1つ夢が叶った瞬間でもあり、とてもうれしかったです。坂本さんご本人はとても温厚な方なんですけど、映像制作においては普通に生活している中では出会うことのできない独特な空間を作り出すパワーの持ち主で、そこには「kawaii」がたくさん詰まっていました。私がきゃりーぱみゅぱみゅさんの音楽について「パラレルワールド」と表現したのと同じで、坂本さんの作品も「映像を観る」というより「違う世界に遊びに行ける」というようなイメージがあって。「ばず らいふ イヤー!」の歌詞やこの曲で伝えたいニュアンスを表現するにあたって、「坂本さんの世界観×瀬名ちひろ」が相性抜群だなと思って依頼しました。

瀬名ちひろと坂本渉太監督。

瀬名ちひろと坂本渉太監督。

──楽曲のリリースやMVの撮影に向け、独自の方法で肉体改造を行ったそうですね。

そうなんです(笑)。現段階で7、8kgは減量しました(※取材は12月上旬に実施)。以前から自分磨きは意識してやっていたのですが、今後ソロ活動を展開していくにあたって、このままでは戦えないなと感じてアフタヌーンティーダイエットを始めました! アフタヌーンティーってかわいいスイーツが並んでいて写真映えするし、テンションが上がるんですよ。アフタヌーンティー=高カロリーというイメージがあるかもしれませんが、スイーツ1つに対して紅茶を数杯飲むというスタイルにしたら、水分摂取量が増えたからなのか体重が落ち始めました。ごはんをガッツリ食べるより、友人とゆっくり紅茶やスイーツを食べるスタイルが私の体には合っているようで。私は身長が164cmあるので以前はMサイズやLサイズの服を着ることが多かったんですけど、今ではXSやSじゃないとウエストがゆるゆるになってしまうくらい体を絞ることができました。

──話によると、まだ2、3kg落としたいのだとか。

落としたいですね。この記事が出るまでにがんばります!(笑)

──この先の展開についても聞かせてください。すでに2025年の活動に向けて動いているかと思うのですが、今後の目標はありますか?

まずは初ソロ曲「ばず らいふ イヤー!」を多くの人に知ってもらいたいです。女の子の永遠のテーマでもある「kawaii」を追求してサウンドのほか、衣装やジャケット写真などの細部にこだわりながら自分でプロデュースしました。SNSを一番活用しているであろうZ世代に響くような原宿の「kawaii」要素も組み込んでみました。ファッションアーティストとしてモデル活動や自身のパーソナリティを生かしたインフルエンサー活動にも興味があります。目指すは歩く「kawaii サウンド」です!

──現時点ではまだ2曲目、3曲目に関しては未定なんですね。

現時点ではそうですね。「ばず らいふ イヤー!」ではこの1年間のインフルエンサー活動を通じて感じた思いを形にできたので、次に曲を出すことがあれば、そのときも自分の経験をモチーフにしたいという思いがあって。これから自分にどんなことが起きるかによって、次の楽曲のテイストを決めたいなと考えています。なので足を止めない予定です。いろんなことに挑戦したいし、さまざまなタイプの人間に出会いたいです。楽曲をシリーズ化できたらいいな。

──最終的な到達点といいますか、ソロ活動を通して瀬名さんが実現したい夢はありますか?

“誰か”のロールモデルになることです! 誰かの“かわいい”のモデルになったり、私のコンテンツを見て元気になってもらったり、誰かしらに影響を与える力を持った自分に成長したいです。会社員を辞めて、この仕事を自分の居場所とするのならば、もっと私という生き様を見せていく必要があると感じています。こう見えて恥ずかしがり屋なので「ここまでさらけ出すのは恥ずかしい……」なんて思ったりもしていましたが、グループ活動を辞めて、1人になったときの強みを考えたとき、それは等身大の自分であることなのかなって。ありのままの自分をもっと磨いて“バズライフ”を起こします(笑)。

プロフィール

瀬名ちひろ(セナチヒロ)

日本大学藝術学部文芸学科卒。身長164cm、体重47kg。アイドルグループやモデル、インフルエンサーとしての活動を経て、2024年12月にセルフプロデュースでソロアイドルとしての活動をスタートさせた。これまでの経験を踏まえて楽曲やミュージックビデオ、衣装、振付などの方向性やクリエイターの人選を自ら決め、初のソロシングル「ばず らいふ イヤー!」を配信リリース。目指すは歩く「kawaii サウンド」。