ナタリー PowerPush - 石鹸屋

「自信もあるし批判も怖くない」同人シーン発バンドの快進撃

2005年、同人ゲーム「東方Project」の楽曲をアレンジする同人バンドとしてキャリアをスタートしながらも、そのシリアスなサウンドで同人界隈、ネット界隈のみならず幅広い支持を集める石鹸屋。2008年にオリジナルナンバーでのライブ活動を本格的に開始するやいなや神奈川・川崎CLUB CITTA'、東京・渋谷CLUB QUATTROでのワンマンライブを敢行し、メジャーデビュー後となる2012年には東京・Zepp Tokyoでのワンマンライブを開催。さらに年末の「COUNTDOWN JAPAN 12/13」に出演するなど、バンド結成から今に至るまで、破竹の快進撃を続けている。

そんな彼らが今回完成させたメジャー2作目のアルバム「ヒュー」に詰め込まれていたのは、70~80年代ハードロック&ヘヴィメタルを思わせる硬派なプレイとタフな言葉の数々が絡み合う「ド」が付くほどの王道ロック。ゲーム音楽の二次創作バンドは、いかにして正調ロックバンドとなったのか。厚志(Vo)、秀三(G)の2人に話を聞いた。

取材・文 / 成松哲 インタビュー撮影 / 佐藤類

バンド結成の理由はhellnianがゲームにハマったから

──まず確認しておきたいんですけど、お2人はご兄弟なんですよね?

左から厚志(Vo)、秀三(G)

秀三(G) ええ。僕が兄で、厚志が弟になります。

──了解です。では今回ナタリー初登場ということなので、まずは皆さんの歴史を追わせてください。もともと同人ゲーム「東方Project」関連の楽曲をギターロックにアレンジするバンドとして結成されたんですよね?

秀三 そうですね。hellnian(Dr)が東方Projectにすごい興味を持ちまして。東方は二次創作に寛容というか、ファンやプレイヤーがゲームの楽曲をアレンジして、メロディにオリジナルの歌詞を乗せて演奏してみる「東方アレンジ」っていう文化があって。同人誌の即売会とか動画サイトとか、その楽曲を発表する場もあったんですよ。

──「東方Project」ってキャラクターのイラストや音楽といった、ゲーム内の著作物をファンが弾力的に取り扱うことを認めていますもんね。

秀三 ええ。それにhellnianが興味を持ちまして。「自分もドラマーなんだし、せっかくだから東方アレンジをやってみたいな」ってなったらしいんです。で、僕と当時のベースだったイノが呼ばれて。それが石鹸屋のスタートですね。

──いつ頃の話ですか?

秀三 2005年ですね。それ以前というか、高校時代から僕とhellnianと今のベースのBOSSはオリジナルバンドをやってまして。高校を卒業したあともそのバンドでしばらく活動を続けてたんですね。ライブハウスにブッキングしてもらったりして。でもまあ、鳴かず飛ばずと申しますか(笑)。お客さんは対バンのメンバーとその彼女しかいないみたいな状態が何年も続いて「なんだこれ?」「もうこれムリだろ」って感じでやめたんです。で、しばらくしたらhellnianが東方Projectの話を持ってきたっていう流れなんですよ。

──最初期は厚志さんはメンバーじゃなかった?

石鹸屋

厚志(Vo) はい。結成した頃は秀三がギター&ボーカルをやってたんですけど、2006年に東方アレンジのライブイベントがあって。それに出るにあたって秀三が「ボーカリストがほしい」と。で、ちょうどその頃、僕がやっていたバンドが解散した時期でもあったんで「歌ってみない?」って声をかけられました。

秀三 兄弟なだけに厚志がバンドをやっていたことも、どのくらい歌えるのかっていうことも知っていたので「まあ、アイツなら大丈夫でしょ」って感じで(笑)。

厚志 僕も僕で「じゃあ、歌ってみよう」っていうノリで(笑)。

秀三 ただ、これは厚志加入前からなんですけど、当時の同人音楽の世界には男性ボーカルに対する拒否反応っていうのもちょっとあって(笑)。「かわいい声の女性が歌ってないなら売れないから」って同人ショップさんから委託販売を拒否されたこともありましたし。

厚志 あと東方アレンジって打ち込みが多かったこともあって「生バンドっていうのは……」っていうムードもありましたね。

ライブ映像をきっかけに活動が軌道に

──でもプロフィールを拝見していると結成当初からけっこう順風満帆だったような気もするんですよ。石鹸屋名義の同人CDを10作前後リリースしている上に、東方アレンジのコンピレーション盤やライブイベントにも何度となく参加しているし。

厚志(Vo)

秀三 確かに男性ボーカルであることやバンドであることにコンプレックスみたいなものはなかった気はします。むしろ普通アマチュアの場合、ドラムの録音ってなかなかできない中、ウチはhellnianが自前のドラムセットを持っていたからとりあえずメンバーが集まりさえすれば録音できた。それが石鹸屋の強みだと思ってましたし。実際、結成したばっかりの頃は市の持っている貸しスタジオみたいなところにドラムを持ち込んで「せーの!」で録ってましたから。だから苦労らしい苦労といえば、その市のスタジオが週に1回、最長でも4時間しか使えなかったことくらいで。ドラムを持ち込んで組み立てるところからセッティングを始めると、それだけで2時間くらい平気で経っちゃうんですよ(笑)。だからドラムが組み上がったら「休んでる場合じゃねえ!」って感じで録ってました。

──あと、同人シーンでオリジナルアルバムも2枚出してますよね。オリジナル志向になったのはいつ頃から?

厚志 東方アレンジを始めたのとほぼ同時期にオリジナルも作ってましたね。

秀三 最初はリスナーさんの中にもちょっと拒否反応があったんですけど、厚志加入後に出演した東方アレンジのライブイベントの映像が動画サイトにアップされたら、だんだんいろんな人が僕らの同人CDを聴いてくれるようになって。その中には東方アレンジだけじゃなくて、オリジナルも何曲か収録していたんですけど「オリジナル曲もライブで聴きたい」っていう声も耳にするようになり。じゃあってことで東方アレンジとオリジナルを混ぜたセットリストでライブをやってみたら、これまた反応がよく。それでどんどん調子に乗って「ならオリジナル曲だけでCDを作ってみようぜ」と(笑)。ちょうどそんな話をしていた頃、東方アレンジのイベントなんかでもお世話になっていたCITTA'さん(川崎CLUB CITTA')から「ウチでレコーディングしてみない?」っていう話をいただいたんです。

──そしてリリースされたのが2008年の「ハイブリッドバディ」?

秀三 そうですね。で、これまたおかげさまでとても反応がよく「ああ、イケんじゃん」って感じでまた調子に乗り、って感じでしたね(笑)。

ニューアルバム「ヒュー」/ 2013年5月22日発売 / SPEEDSTAR RECORDS
初回限定盤 [CD+DVD] 3300円 / VIZL-518
初回限定盤 [CD+DVD] 3300円 / VIZL-518
通常盤 [CD] 2500円 / VICL-63998
CD収録曲
  1. サンライト
  2. アウェイク
  3. タフネス?
  4. 秘密のチャーム・バッド・ガール
  5. ヒューマニズム ノイズ
  6. アメノチアメ
  7. ラストカウンター
  8. ひどくラブ
  9. 流星の音がきこえる
  10. 青い雲
  11. 涙が渇くまでの時間を
石鹸屋(せっけんや)

厚志(Vo)、秀三(G, Vo)、BOSS(B)、hellnian(Dr)の4人からなるロックバンド。2005年4月に同人サークルとして始動し、東方Projectの楽曲をアレンジした「東方アレンジ」や、オリジナル楽曲を次々と発表する。コミックマーケットなどでコンスタントに作品をリリースする一方で、ライブも精力的に実施。骨太かつエモーショナルなバンドサウンドで着実な人気を獲得していく。2010年10月にビクターエンタテインメントよりシングル「シャボン」を、2012年にメジャー1stアルバム「プリミティブ・コミュニケーション」をリリース。2013年5月22日に2ndアルバム「ヒュー」を発表した。