ナタリー PowerPush - SEBASTIAN X
春だから浮かれちゃえ!永原真夏が解説する新作&自主企画
「みんなで春を楽しもう!」
──続いて新曲「ヒバリオペラ」の話を聞かせてください。この曲は春を歌った曲ですよね。
「ひなぎくと怪獣」がメッセージ性の強い作品だったので、これからそういう作品が続くのかなと思っている人もいると思うんですけど、私はそこを裏切りたくなっちゃうので。「ヒバリオペラ」はそういうつもりで作りました。サウンドのテーマはポップスとロックと歌謡曲。歌詞は言葉遊びの要素が強くて、「みんなで春を楽しもう!」という感じの恋の歌で。
──この曲は確かに陽気なんだけど、情緒豊かな切なさも同居していて。真夏さんのファンタジックでリリカルな作家性と、どこまでも自由に転がっていく陽性のポップネスがすごく気持ちよく調和している。
ありがとうございます! この曲はホントにバンドで必死になってポップにしたんです。あと、今回はエンジニアの柏井(日向)さんにバンドにとって初の共同プロデューサーとして参加していただいたのも大きくて。サウンドの展開は目まぐるしいんですけど、曲としてすごく整理されてるかなあと。
──確かに歌とサウンドのバランスがすごくよくなったと思った。
それは柏井さんのおかげですね。ダビングは今まで以上に多いのにスッキリして聴ける。その秘訣は誰かに教えてもらわないとわからないことだったので、すごく勉強になりました。柏井さんはいい意味で抽象的な表現でアドバイスをくれるんですよ。それを私たちなりに噛み砕けたのがよかったと思います。特にキーボードのありり(工藤歩里)とかは何度もやり取りしてましたね。
──工藤さんが弾く優美なアコーディオンのフレーズもいいですよね。
いいですよね! アコーディオンのフレーズも柏井さんと話し合って何パターンも作ってましたね。
去年の「春告」をきっかけに変わった
──そもそもこの曲の原形はどんなときに生まれたんですか?
去年の夏、新潟に旅行に行ったんです。車で田舎のあぜ道みたいなところを走っているときに、ふと「BGMにこういう曲があったらいいな」と思ってメロディと恋の気持ちを歌っている歌詞のイメージが浮かんだんですね。そこから「今聴きたい音楽シリーズ」と題して3パターンくらい作って。AメロもBメロもサビも3パターンあるみたいな。
──なんで3パターンも作ったんですか?
今までそういうことってあまりなかったんですけど、「メンバーもメロディを選びたいかな?」って思ったんですよね。「私はこう思う!」という曲ではなく、それこそ車の助手席で聴きながら自分の気持ちを盛り上げてくれるような曲を作りたかったので。その曲がかかることでそのとき見ている景色が特別なものになるような。だから、メロディをメンバーに選んでもらおうと思ったし、柏井さんにプロデューサーとして入ってもらうことも自然にお願いできたんだと思います。
──自分の歌を人に委ねることができるようになったということですよね?
うん、そうですね。自分自身で100のものを作って、さらにほかの人に委ねて自分のいいところに気づいてもらったら200までいけるんじゃないかと思うようになって。
──それは成長ですよね。
成長だと思います! それこそこの前、宮地に昔の私の映像を観せてもらったんですけど、「キツい!」みたいな。
──どういうキツさだったんですか?
「私はそうじゃないと思う!」「私はやらない!」みたいな(笑)。自分で観ながら「おいおい」と思いましたね。
──それって、いつくらいの映像なんですか?
1stミニアルバム「ワンダフル・ワールド」(2009年11月リリース)を作っていた頃だから、21歳とかですね。人とのつながりが事務的な部分では柔軟だったと思うんですけど、作品制作に関しては人の意見を聞く耳を持っていなかったですね。それこそ、1年くらい前までは(笑)。ホントに去年大きく変わったなと思います。
──なぜそこまで大きく変われたんだと思いますか?
それこそ去年の「春告」から始まったことだと思うんですけど、素直にいろんなことをやるようになったんです。「春告」は自分が企画者でもあったし、いろんな人にお願いをする立場でもあったので。「春告」はSEBASTIAN Xがイベントのアイコンではあるんですけど、主役ではないんですよね。そう思ったときにいろんな人の力を借りる大切さを実感したというか。あとは、人から何かを勧められたときにそれを受け入れられるようにもなったんですね。去年の秋に詩集(「三千世界の兎たちへ」)を作って販売したんですけど、それも私の父から勧められた話だったし、映画監督の話も自然に回ってきたから、ご縁があると思ってやろうと決めた。そうやって人との関係を受け入れながらものを作る喜びを知っていったんですよね。
春は浮かれてこそ健康的
──「ヒバリオペラ」のソングライティングの話に戻すと、この曲はラブソングなんですけど、登場する男女の関係はかなり微妙な距離感じゃないですか。ここにも真夏さんならではの「春視点」があるのかなと。
そうそう。個人的に冬はまっすぐで情熱的で「おまえだけを一生愛してる!」みたいなメッセージが合う気がするんですけど、春はもうちょっと微妙というか、「そんなにウマくいくはずがない!」という感じがあって(笑)。昨日もありりと井の頭公園に桜を見に行ったんですけど、若者が「わー!」みたいな感じだし(笑)。
──え、どういうこと?(笑)
いや(笑)、若者たちが割り箸に数字を書いて王様ゲームとかやってるんですよ! 「すごいなあ!」と思って。あとは、4月になると大学の新歓コンパシーズンも始まるじゃないですか。高田馬場駅前とかヤバいですよ(笑)。春はそういうところばっかり目に入るんですよね。
──浮かれている人たちが。
そうそう。だけど、それってすごく健全で健康的なことだと思っていて。
──暖かくなって浮かれることは動物として正しいみたいな。
そう思いますね。暖かくなったら男女が盛り上がらないわけがないし。っていうこと春をテーマにしたラブソングを書くうえで隠蔽したくないと思ったんです。男女が浮かれている様も日本の春の風物詩だと思うので。この曲も「ああ、やっちゃった!」みたいなところから始まっているんですけど、それも恋の始まりには違いなくて。どんな始まりであろうと、恋に向かう強い女心はあるし。
──確かに微妙な関係なんだけど、描かれてる女心は強いですよね。
そう、思いが強すぎですよね。だから、この主人公が今度どうなっていくか私は不安です(笑)。
SEBASTIAN X presents「TOKYO春告ジャンボリー2013」
- 2013年4月29日(月・祝)
- 東京都 上野水上音楽堂
OPEN 13:00 / START 13:30
- <出演者>
- SEBASTIAN X / 踊ってばかりの国 / うみのて / 曽我部恵一 / BLACK BOTTOM BRASS BAND / oono yuuki(acoustic ensemble) / 平賀さち枝 / 音沙汰(永原真夏&工藤歩里 from SEBASTIAN X)
- ※チケット一般発売中
収録曲
- ヒバリオペラ
- つきぬけて
- 春咲小紅
- さよなら京都の人
SEBASTIAN X(せばすちゃんえっくす)
永原真夏(Vo)、飯田裕(B)、工藤歩里(Key)、沖山良太(Dr)の4人からなるバンド。前身バンドを経て、2008年2月に結成される。同年6月に初ライブを開催し、その後定期的にライブを実施。2008年8月に自主制作盤「LIFE VS LIFE」を発表し、文学的な匂いを持つ詞世界やギターレスならではのユニークな音像が話題に。2009年11月に初の全国流通盤となるミニアルバム「ワンダフル・ワールド」を発表。その後も2010年8月に2ndミニアルバム「僕らのファンタジー」、2011年1月に配信限定シングル「光のたてがみ」とコンスタントにリリースを重ね、2011年10月に1stフルアルバム「FUTURES」を発表する。自主企画も積極的に行い、2012年4月には野外イベント「TOKYO春告ジャンボリー」を上野水上音楽堂で開催し好評を博す。同年7月に3枚目のミニアルバム「ひなぎくと怪獣」をリリースした。2013年4月に2000枚限定でシングル「ヒバリオペラ」を発表。