SCANDAL|自分たちだけの場所で迎えた第2章の幕開け

SCANDALが2年8カ月ぶりとなるニューシングル「マスターピース / まばたき」をリリースする。

昨年末に立ち上げたプライベートレーベル・herから届けられる第1弾作品は、SCANDALにとって初の両A面シングル。昨年からライブで披露されている「マスターピース」は、新たな始まりを高らかに告げるパンキッシュナンバー、もう一方の「まばたき」は柔らかな雰囲気をたたえたシティポップ調のラブソングに仕上がった。両極とも言える振り幅を持つ2曲を引っ提げ、4人は日本を代表するガールズバンドとしての矜持を改めてシーンに提示することとなる。

音楽ナタリーの特集ではとある日のSCANDALに密着。毎週入っているというスタジオに潜入し、カフェでのミーティングを終えたSCANDALにインタビューを行った。ここから本格的に始動する新たな環境での活動にワクワクを隠せないHARUNA(Vo, G)、MAMI(G, Vo)、TOMOMI(B, Vo)、RINA(Dr, Vo)の4人に「her」立ち上げに至るまでの経緯とそこに込めた思い、そして新作の制作について語ってもらった。

取材・文 / 清本千尋(レポート)、もりひでゆき(インタビュー) 撮影 / 草場雄介

HARUNA(Vo, G)の車でスタジオに到着したSCANDAL。

とある日のSCANDAL

SCANDALは週に1回、同じ曜日、同じ時間に必ず4人でスタジオに入る。HARUNA(Vo, G)がメンバー全員を車で迎えに行き、スタジオに到着。スタジオの予約時間はいつも2時間で、その時間のうちにセッションをしたり、新曲のアイデアを持ち寄ったり、はたまた楽器を置いて2時間たっぷりとおしゃべりをしたりと、好きなように過ごしている。

スタジオでセッションするSCANDAL。
スタジオでセッションするSCANDAL。
TOMOMI(B, Vo) HARUNA(Vo, G)
RINA(Dr, Vo) MAMI(G, Vo)

数年前まではツアー前にライブのリハーサルのためにスタジオに入るということが多かったというSCANDAL。あるとき“スタジオで遊ぶ”ということを覚え、今ではウィークリーの予定の1つに組み込まれた。

スタジオで何をするのかは前日に連絡を取り合って決める。この日はフェスで共演経験もある人気のバンドの曲をセッション。このスタジオワークについてSCANDALは「週に1回必ず同じ時間に4人だけの空間で会話することでグルーヴが高まっていくような感覚がある」と語る。新しいアイデアをみずみずしいうちに共有できることもあって、バンドとして健やかに過ごせているそうだ。

お気に入りのカフェでミーティングをするSCANDAL。

時間が来ると楽器を片付けて、4人はまたHARUNAの車に乗り込む。HARUNAの運転でお気に入りのカフェに到着すると、「昨日は何をしてたの?」と近況を報告し合い、またHARUNAの車でそれぞれの家まで帰る。メジャーデビュー10周年を迎えたSCANDALは、毎週2時間、4人きりで過ごしている。

SCANDALインタビュー

herの立ち上げで「まだまだこの4人でやって行ける」と思えた

──SCANDALは一昨年2017にバンド結成10周年、昨年2018年にはメジャーデビュー10周年を迎えました。

HARUNA(Vo, G)

HARUNA(Vo, G) “10周年”が立て続けに来た2年間は自分たち的に、区切りというか、1つの大きな節目を迎えた気持ちが大きくて。それがあったからこそ、新しいプライベートレーベル「her」の立ち上げにつながったんだと思います。

──昨年11月に開催された「SCANDAL TOUR 2018“感謝祭”」では、今回リリースされる「マスターピース」をいち早く披露されていて。「her」の立ち上げも含めてですけど、10周年への感慨に浸るだけではなく、すでに未来に向けて動き出していたわけですよね。

RINA(Dr, Vo) そうですね。去年はフェス出演もお休みしていたし、表に出る機会はちょっと少なかったんですよ。だから「何してるのかな?」と思われてたかもしれない。水面下では「her」設立の準備をしながら、曲作りもずっとしていました。4人で集まってインナーの活動をたくさんしていた1年でしたね。

──そもそもこのタイミングでプライベートレーベルを立ち上げようと思ったのはどうしてだったんですか?

MAMI(G, Vo) 昨年リリースしたアルバム「HONEY」は自分たちとしてもすごくいいものができたという手応えがあったし、10年という区切りも迎えたので、「じゃあ次はどうしようか」ってみんなで考えたんですよ。そのときに単純にもっとワクワクしたいし、新しいことがやりたいよねという気持ちが4人の中に共通してあって。最初は漠然とした思いではあったんですけど、週1でスタジオに入ったりとか、みんなで集まってミーティングをしていく中で、去年の夏頃くらいかな……1つのアイデアとしてプライベートレーベル設立という案が自然と出てきたんです。それが実現すれば自分たちの自由度もすごく広がるし、また新しいことできるかもしれないねということで、そこから具体的に動き出していったんですよね。

TOMOMI(B, Vo) 「新しくなりたい」というムードはバンド内にずっと流れてましたからね。だからそういう話になったときには全員が同じモチベーションでそこに乗っかれた感じでした。

──そして昨年のクリスマスイブ、12月24日に「her」の設立が発表されました。始動して約3カ月ですが、レーベル設立がバンドにもたらしてくれたものは何かあります?

RINA ガールズバンドが自ら立ち上げ、所属しているレーベルであるということが一目でわかるように「her」というワードを掲げたんですけど、それによって自分たちの今後の大きなテーマが改めて見えてきたような気がしていて。ロックバンドと言うとカッコよくて、鋭くて、強いみたいなイメージが一般的だと思うんですけど、それを女性がやることで甘さとか柔らかさみたいなものもプラスアルファとして表現できる。それこそがガールズバンドの楽しさであり強みでもあるから、SCANDALとしてはそこを突き詰めていきたいなと思っているんですよね。

──ガールズバンドとしての覚悟を新たにし、より腹をくくった感じですね。

MAMI はい。

RINA それによって「まだまだこの4人でやって行ける」と思いました。SCANDALとしての未来がグッと延びた感じがしました。

SCANDAL

──でもSCANDALはこれまですごく順調に活動を続けてきましたよね。築き上げてきた確固たるスタイルもあるので、未来に対する不安をそこまで感じることもなかったんじゃないかな、なんて思うんですけど。

RINA でも「もっとよくなりたい」という気持ちは常にあったんですよ。あと今思い返してみると2018年に「HONEY」を出したあと、制作がなかなかうまくいかなかったところもあったなって。自分たちの新しい“必殺技”というか、“最強の1曲”みたいなものがなかなか書けなかったんです。

MAMI そうそう。曲自体はできるからスランプというわけではないんですけど、どれも過去の楽曲の“パート2”みたいな感じになりがちで。そこに納得がいかなかったんですよね。

RINA 10年やってきてるからなんとなく曲は形にはなるんですけど、どれもが突き抜けてない。「もっと行けそうなのにな」ってモヤモヤする曲ばっかりしかできなかったからこそ、自分たちの音楽を作る状況をガラッと変えないとダメなんじゃないかと思ったところもあった気がします。今思えば、バンドにとっていいタイミングで壁にぶつかったのかもしれないです。

──その裏には「この4人であればもっといい曲が生み出せるはずだ、さらに高みを目指せるはずだ」という自信もあったんでしょうね。

MAMI そうですね。納得がいかない曲であっても、確実に過去の曲は上回っているものにはなっていたと思うんです。でも「自分たちならもっと上回れるはずだ」という思いは常にあるような気がしますね。

HARUNA うん。それはたぶんこの10年で積み重ねてきた自信だと思います。


2019年3月29日更新