澤野弘之によるボーカルプロジェクトSawanoHiroyuki[nZk]のニューシングル「Chaos Drifters / CRY」が7月29日にリリースされた。
表題曲の1つ「Chaos Drifters」は現在放送中のテレビアニメ「ノー・ガンズ・ライフ」の第2期オープニングテーマで、Jean-Ken Johnny(MAN WITH A MISSION)がボーカルと作詞で参加している。音楽ナタリーではシングルの発売を記念して、澤野とJean-Kenの対談をセッティング。シンパシーを感じていたという2人がコラボに至った経緯や楽曲制作時のエピソード、そして互いに周年を迎えた今の心境など、じっくりと語り合ってもらった。なおJean-Kenの発言は編集部が日本語に翻訳している。
取材・文 / もりひでゆき
冗談で言ってくれてるのかな
──今回のコラボレーションはどのような流れで実現に至ったんでしょうか?
Jean-Ken Johnny(MAN WITH A MISSION / G, Vo, Raps) 一番のきっかけは、僕と澤野さんの共通の知り合いであるサバプロ(Survive Said The Prophet)のYoshですね。以前から僕のことをいろいろ澤野さんに話してくれていたみたいなんですよ。で、そんな流れから澤野さんがまず僕らのライブを観てくださって。
澤野弘之 そうですね。サバプロがオープニングゲストで出るというので、マンウィズさんの豊洲PITのライブ(昨年12月に行われたライブハウスツアー「MAN WITH A MISSION presents Remember Me TOUR 2019」)にお伺いしました。
Jean-Ken その後、改めて一緒にごはんを食べに行ったときに澤野さんから「今度一緒にやりませんか?」と言っていただけたんです。最初は冗談で言ってるのかなと思ったんですけど、その言葉を信じて「ぜひやりたいです!」とお返事しました。まさかこんなスピード感で叶うとは思わなかったけど(笑)。
澤野 僕も、Jean-Kenさんが「ぜひ」と言ってくれたのはきっと社交辞令だろうなと思っていました(笑)。でも、社交辞令であったとしても「やりたい」と言っていただけたわけだから、1回正式にアタックしてみようかなと思って。
Jean-Ken いやー、ものすごく光栄だなと思いましたよ。僕が澤野さんの作られた楽曲をちゃんと認識したのは「進撃の巨人」だったんですけど、ヤバいくらいにカッコいい音楽を作られる方だなとずっと思っていて。過去の作品もいろいろ聴いていく中で、「えっ、『ギルティクラウン』の音楽も澤野さんだったんだ!」と知って驚いたり。アニメ作品に込められた要素のすべてを統括して音楽で世界観を作られていく劇伴作家に対して、僕はかなり憧れみたいなものを持っているんですよ。そんな劇伴作家の中でも澤野さんはまだお若いのにすごい勢いで活躍されている。そういう意味でものすごく関心を持っていた方だったので、お声がけいただいたことは本当にうれしかったです。
澤野 ありがとうございます。僕もYoshさんからいろいろ話を伺っていた中で、カッコいい音楽を一貫して突き詰めているマンウィズさんの姿勢にすごく惹かれていたんですよ。過去に「七つの大罪」というアニメの劇伴を担当したとき、マンウィズさんがオープニングテーマを手がけられていたこともあって。そのときも、カッコいいサウンドをアニメーション作品にしっかり落とし込まれる方たちなんだなと強く印象に残っていたので、かなり前からどこかでご一緒できたらいいなという思いはあったんですよね。
──Jean-KenさんとYoshさんが対談されたナタリーの特集でも、Jean-Kenさんが澤野さんとのコラボについて興味を示されていましたよね(参照:Jean-Ken Johnny×Yosh対談 ブレることのない、ロックバンドとしての強い芯)。
Jean-Ken そうそう。Yoshはいろんな方々とコラボをしているけど、基本的にYoshがカッコいいと思う音楽を作っている方じゃないと絶対に組まないと思うんですよ、彼の性格的に。そういう意味で、澤野さんとのコラボレーションはお互いのクリエイティブな部分でしっかり共鳴し合いながら、強い手応えを感じているんだろうなという印象があったんです。だからつい、いろいろ聞いてしまいましたね。
澤野 その対談、公開当時に読ませていただいたんですけど、僕のことを話題に出してくださっていたことにすごくびっくりしました。「Jean-Kenさんが僕のことを知ってくれていたんだ!」って(笑)。
Jean-Ken いやいや、ほんとにYoshから澤野さんのお名前は頻繁に聞いていたんですよ。僕もすごく興味があったんですよね。
メインボーカルを僕の曲でやってもらえたら
──コラボ曲となる、テレビアニメ「ノー・ガンズ・ライフ」のオープニングテーマ「Chaos Drifters」は具体的にはどのように作られていったんですか?
Jean-Ken 曲自体は澤野さんがデモとして先に作られていて。そのイントロを聴いた瞬間、「あ、澤野さんとは今まで好きで聴いてきた音楽が共通しているんだろうな」と感じましたね。ほんとにカッコよかった。だからね、「ぜひぜひやりましょう!」みたいなテンションでお引き受けしましたけど、そこでちょっと緊張しました。「あ、ヤバい。これはちゃんとやんなきゃ」みたいな(笑)。
澤野 あははは(笑)。「ノー・ガンズ・ライフ」のお話をいただいたときに、オープニングテーマとして2曲制作したんですよ。1つはエレキギターを強調してグッとロックに寄せたもので、もう1つはダンサブルな四つ打ちのリズムにロックを足したもの。結果、ダンサブルなロックのほうを先方が気に入ってくださったんです。その段階で僕の中ではJean-Kenさんにお願いしたいなという思いがあって。Jean-Kenさんってマンウィズの中ではラップやAメロ、Bメロの歌を主に歌われているじゃないですか。サビではハモリに回ったりして。
Jean-Ken うん、そうですね。
澤野 なので、Jean-Kenさんが1曲通してメインボーカルを取るアプローチにすごく興味が湧いたんです。ほかの方とのコラボではそういった曲もあるとは思うんですけど、それを僕の曲でやってもらったらどんな仕上がりになるんだろうという。そこが楽しみだったので、お声がけをさせていただきました。
Jean-Ken あーなるほど。そういう流れだったんですね。本当にありがたいです。
──Jean-Kenさんが「聴いてきた音楽の共通性」を感じたのは具体的にどんなところだったんですかね?
Jean-Ken うまく言葉にはできないんですけど、サウンドのアンサンブルとメロディのあり方みたいな部分だと思います。洋楽テイストを強く感じたし、リズムとメロディをフックにすることを大事にされているんだろうなと思いました。だからこそ、歌詞を書くときにもそこに一番気を付けましたね。ダンサブルなリズム感が損なわれない、かつ力強い言葉の響きを意識したり。逆にものすごく単純な言葉であったとしても、アンサンブルとしっかりマッチさせることで説得力が増すようにしたり。それって洋楽にはけっこうあるアプローチだと思うんですよ。おそらく澤野さんもそういった感じが好きなんじゃないかなと思いながら書いていきましたね。
澤野 一発目に送っていただいたものが、もう何も言うことがないくらいの歌詞だったんですよ。曲が求めている以上のものをしっかり汲み取ってくださっていて。日本語と英語の配分であったり、リズムに対して強調する音のアクセントの付け方であったり、本当に見事でしたね。Jean-Kenさんは常にサウンドが求めているものを敏感に察知して作詞をされる方なんだなと改めて感じました。
Jean-Ken 恥ずかしかったですけどね。なんか自分の手の内がどんどん暴かれて裸にされている感じがするというか(笑)。でも、刺激的な作業ではありました。今回は「ノー・ガンズ・ライフ」の曲ということで、原作をひと通り読ませていただいたうえでその世界観を落とし込むことを意識しましたけど、それ以外に関してはほんとに自由に書かせていただくことができたんですよね。正直、澤野さんのプロジェクトだということもあまり意識せず、自分汁みたいなものがあるのだとすれば、それをしっかり出していこうと。そのうえで、作品としてよりカッコいいものになればいいかなという。だから澤野さんとは初めてのコラボだったけど、無理する部分が全然なかったですね。それは歌に関してもそうですけど。
澤野 そうですね。ボーカルレコーディングに関しては、Jean-Kenさんがいつも使われているスタジオにお邪魔した感じだったんですけど、僕からは特にディレクションすることもなく。事前に一度仮で歌われていたものを本番ではよりブラッシュアップしていただいた感じでした。強いて言えば、サビでのシャウトの強さはお互いに確かめ合いながらやったりはしましたけど、ほかはもう何も言うことはなかったです。
Jean-Ken 非常に歌いやすかったので、レコーディングは本当に楽しかったです。唯一、サビに入る前のブレイクの譜割りがちょっと苦労しましたけどね。おそらく澤野さんのクセだと思うんですけど、僕の中にない譜割りだったので、そこだけは何テイクかやったかな。
澤野 僕はけっこう独特なリズムの取り方をしちゃうことが多いので、ちょっと歌いづらいニュアンスになってしまったんだと思います。でも何度かテイクを重ねて、グッと入り込んだときに見せてくれたアプローチは、もう「まさに!」っていう感じで。さすがだなと思いましたよ。
Jean-Ken 基本的に澤野さんがこの曲で目指している方向性がものすごくはっきりしていたので、歌い手としてはとてもやりやすかったんですよ。例えば「ここ、こういう感じはどうですか?」と僕が言ったときの反応速度と処理速度がものすごく速いから、表現者としてどこまでアプローチするべきなのかが見えやすいという。
澤野 そう言っていただけるのはすごくうれしいです。そこもきっと先ほどおっしゃっていたように、お互いのルーツみたいな部分が一致していることでスムーズに進んだところがあったのかもしれないですね。もちろん同じ音楽を聴いてきたとしても、Jean-Kenさんは僕とは違った吸収の仕方をされている部分もあると思いますし、そこに対してのリスペクトも感じました。これまでコラボしてきたいろんなボーカリストの方々とはまた違った魅力があるなと改めて思いました。
アニメーションと音楽の融合
──アニメ「ノー・ガンズ・ライフ」のオープニングは最高にカッコいい仕上がりになっていますよね。映像と音楽が高い次元で融合していて。
澤野 そうですね。Jean-Kenさんとコラボできたということで大きな手応えと満足感はあったんですけど、やっぱり映像と合わさったときに生まれる高揚感はすごいものがありました。観たときに改めてテンションが上がりましたね。
Jean-Ken 映像と音楽の親和性ってすごいですからね。アニメの世界観は曲によってより深みを増すし、それで受け手側に多角的な情報を受け取ってもらえることにもなる。そこで生まれる高揚感って、アニメ独特のものがありますよね。海外での受け取られ方を見ていても思うけど、アニメーションに対して音楽が果たす役割ってものすごく巨大じゃないですか。だからこそアニメとコラボする音楽には世界水準の体力が必要なわけで。澤野さんの作品を聴いていると、そこを優にクリアされているのですごいなと思います。
澤野 そこはマンウィズさんもそうですよね。「七つの大罪」のときにも思いましたけど、アニメーションに対して自分たちの信じているカッコいい音楽をぶつけているじゃないですか。決して手を抜くことなく。それって相乗効果としてすごく大事なことだと思うんですよね。そうであるからこそ海外の方たちにも評価されているんだろうなって。
Jean-Ken いやー、うれしいですね。そのことに関しては僕も完全に同意。巨大なコンテンツになっているアニメーションとコラボするという手段にあぐらをかいていては意味がないですから。バンドやアーティストの芯がちゃんと見える音楽が映像と合わさったときこそ、純粋なコラボレーションということになるんじゃないかなって。そこはいつも肝に銘じないといけないなと思っています。
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この歌声は確かに惚れる