MVを観るたび母校に帰れる
──昨年8月の1stアルバム「産声みたいで、」に続いて、早くもミニアルバム「とあるアイを綴って、」が発売されます。前作がすべてギター1本で表現されていたことを考えると、今作は一気に彩り豊かな作品になりましたね。
このミニアルバムにも収録されている「朗朗」をテレビアニメ「花は咲く、修羅の如く」のエンディング主題歌として書き下ろしたんですけど、この曲の存在が自分の中ではすごく大きかったですね。おっしゃるように、それまではギター1本でやってきて、1stアルバムで弾き語りのカッコよさはしっかり伝えられたのかなと思ったんです。そんなタイミングにタイアップのお話が決まって、チーム内で「弾き語りから一歩進んで、バンドサウンドで歌うさとう。をみんなに見せたい」という話が上がって。最初は弾き語り以外の形が受け入れられるのか不安でしたが、「朗朗」が公開されたあとの反響がよかったので、安心してこのミニアルバムと向き合うことができました。
──その「朗朗」ですが、初めてのタイアップソング、しかもアニメのエンディング主題歌ということで、制作の進め方も今までとはちょっと違ったのではないかと思います。
去年の5月ぐらいに舞台(「三人芝居『怪物の息子たち』」)のために主題歌(「流れる色は」)を書き下ろさせていただいたことはあったんですけど、今回はアニメのファンの方もいれば原作ファンの方もいるわけなので、しっかりと原作を読み込んでから楽曲を作らないとダメだし、原作マンガの中に出てくる言葉や主人公たちの葛藤をちゃんと歌にするということは一番意識しました。「花は咲く、修羅の如く」は朗読を題材にしたお話です。自分も「3%」や1stアルバムをきっかけに、自分の声や言葉が届いていることが実感できましたし、その結果「花は咲く、修羅の如く」にも出会えた。サビの「誰かの言葉でも 構わない 伝えるんだ」というフレーズはこの作品を読んでなかったら出てこなかった言葉だと思います。
──この曲のMVは、さとう。さんの母校である中伊豆中学校で撮影されたそうですね。
そうなんです。実は、さとう。の今までの楽曲には学校をテーマにした曲ってあまりなくて。でも、今回は監督の吉田ハレラマさんがさとう。の世界観に寄り添った映像に仕上げてくださいました。キラキラしたきれいな世界なんだけど、どこか切なさがある。大人になった自分が観てもグッとくる作品になっていますし、しかも、それを母校で撮影できたっていうのがとてもうれしいです。こういう機会がないと母校を訪れることもなかったですし、自分の母校はこの春で閉校になってしまって、校舎自体の取り壊しが決まっていたので、MVの中に思い出を残すことができてよかったなと。MVを観るたびに何度でも母校に帰れるのはうれしいですし、私と同じように感じる卒業生の皆さんもたくさんいるんじゃないかなと思っています。
春に対する怒りを吐き出す
──ほかの収録曲についてもお話を聞かせてください。ミニアルバムのオープニングを飾る「点滅する」も、冒頭のアレンジ含めすごくカッコいい仕上がりですね。
この曲は私のミュージシャン仲間の子と一緒に、信号機をテーマに何度かスリーマンライブをしたときに書き下ろした楽曲なんです。さとう。の周りにいる人たちってキラキラ輝いているばかりじゃなくて、時には落ち込んだり弱いところを見せてくれたりする人たちが多くて、それがすごく人間らしくていいなと思うんです。そうやってキラキラしているときも落ち込んでいるときもあるのが人生だと思うし、タイトル通りチカチカ点滅するからこその美しさなんだろうなということを、周りの仲間から教えてもらえた。その出会いや感謝を歌で形にしたいなと思って、この曲を書いてみました。
──ずっと輝きを見続けていたら、いつかそれに目が慣れてしまい、幸せや美しさを見逃してしまうかもしれない。点滅するというメリハリがあるからこそ、人生ってやっぱり面白いと思えるんでしょうね。
それこそ「3%」でたくさんの人に知ってもらうまでのさとう。って、ライブハウスにお客さんが数人しかいないこともあったんですが、そういう時期を知っている人たちからしたら今のさとう。はキラキラして見えるかもしれない。私自身も最近とても楽しいですし、それはあの時代を経験しているからこそ、より強く思えるのかもしれません。「点滅する」は聴き手を暗闇から引っ張り上げるような曲じゃないかもしれないけど、あなたの暗闇にも寄り添えたらなっていう祈りも込められているので、そういう人たちに聴いてもらえたらいいなと思います。
──ミニアルバムの冒頭2曲ではバンドサウンドを軸に新境地を見せていますが、3曲目「アマレット」はギター弾き語りという原点に立ち返りつつもチェロをフィーチャーしていたり、4曲目「春一番」に至ってはギターレスでピアノを軸にしている。どちらも新たな可能性が伝わる仕上がりです。
どちらも比較的最近作った曲なんですけど、「アマレット」は題名縛りで曲を書き下ろすというライブハウスの企画があって、そのときに作った曲なんです。失恋がテーマの曲なので、ある意味では原点回帰の1曲かもしれません。「アマレット」はリキュールの名前で、曲中の舞台は海なので、このスウィングする曲調がお酒に酔いしれる感じだったり波の揺れ具合だったりとすごくマッチしていて。しかも、チェロの揺らぎもいい味を出していて、ギター1本とチェロと歌だけなのに不思議とバンドアレンジにも負けない厚みが出せているんじゃないかと思います。
──「春一番」はいかがでしょう。
「春一番」は去年の4月に書いた曲なんですけど、その時期ぐらいからピアノ曲を作るのがけっこう楽しくなっていて。春ってキラキラした出会いの季節という印象が強いけど、私にとっては別れの季節で、どちらかというと悲しいなと思うことのほうが多いんです。それこそ強い春風が吹くと、なんだか自分に吹きつけてくるような感覚がある。サビの「嗚呼、余計なことをするなよ」っていうフレーズでは春に対する怒りだったり、春が訪れるたびに感じる「ちゃんと変われているんだろうか」という自分への焦りだったり、そういう感情を流れるようなピアノのメロディに乗せて吐き出しています。
──ギター1本で感情を吐き出すのとは、また違った感情が伝わってきます。
ピアノを弾いているときのさとう。とギターを弾いているときのさとう。って、なんとなく歌い方が違うんですよね。それは、ピアノを弾きながらだと座って歌うからなのかもしれないですね。
いろんな“アイ”が詰まっている
──「夕陽になった人」は色に焦点を当てた歌詞が印象的です。
例えば、自分には色を思い浮かべたときに漠然と思い浮かぶ人がいたり、街の景色だったり目にしたものから連想してしまう人がいたりするんです。この曲は“触れられない色”とか“会えない人”をテーマに作ったんですけど、自分の中では離れて暮らす家族がまさにそれに当てはまりました。私の曲を聴いている人の中にも“もう会えないけど、街を見たりある色を見たりしたときに思い浮かぶ人”がいるとしたら、さとう。なりに寄り添えたらいいなと思い、今回のミニアルバムに収録させていただきました。
──そして、ミニアルバムは「Aini」のシンプルなギター弾き語りで締めくくられます。
自分は2019年から毎年12月31日に1曲書き下ろすということをずっとやっていて、これは2023年の12月31日に書いた曲です。2024年は「3%」がいろんな人たちのもとに届いて、1stアルバムを完成させてツアーも行うことができて、本当に「Aini」の歌詞の通りたくさんの人に出会えた1年だったと思うんです。その出会えた人たちへの感謝とともに、まだ出会えていない人たちにさとう。の歌を通して出会いたいという願いも込めて、このミニアルバムのフィナーレとして歌わせていただきました。
──ある種の願掛けみたいな曲なんですね。曲の終盤では大勢の声でのシンガロングが用意されていますが、1人から始まったさとう。さんが今では1人ではない、たくさんの仲間がいるんだと感じさせる素敵なエンディングだと思いました。
ありがとうございます。ライブではぜひみんな一緒に歌ってもらえたらなと思っています。
──そんなミニアルバムのタイトルは「とあるアイを綴って、」。カタカナの“アイ”は私を意味する“I”、LOVEを意味する“愛”、みんなに会いに行くことを意味する“会い”と、いろんな捉え方ができますよね。
もうまさにその通りで、いろんな“アイ”を書いた曲が詰まった作品だから、このタイトルを選びました。実は最初、「とあるアイを」の前にカッコ書きで「(あなた)」があって。ジャケットにも写っているメッセージボトルが誰かのもとに届いて、初めて「(あなた)とあるアイを綴って、」というタイトルが成立する。このミニアルバムを“あなた”が受け取って、初めて完成するミニアルバムなのかなと思って、こういうタイトルをつけました。
──なるほど。アートワークまで含めてコンセプチュアルな作品なんですね。この作品を携え、3月21日には全国ツアー「朗朗、その声だけを頼りに」がスタートします。
前回のツアーは弾き語りに重きを置いてやっていたんですけど、今回はベースとドラムと一緒という、初めてバンド編成でツアーに挑みます。前回のツアーからより進化したさとう。をお見せできると思うので、アニメで「朗朗」を聴いて気になった人や今回のミニアルバムを通して興味を持った人にもぜひ来てほしいですし、バンド形態ということでみんなを巻き込みながら一体感を作っていけるようなツアーにしていきたいです。
公演情報
さとう。LIVE TOUR「朗朗、その声だけを頼りに」
- 2025年3月21日(金)東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
- 2025年3月29日(土)愛知県 SPADE BOX
- 2025年3月30日(日)大阪府 knave
プロフィール
さとう。
2000年生まれ、静岡県伊豆出身のシンガーソングライター。2018年、高校3年生で本格的に音楽活動を開始する。2024年1月に配信リリースした「3%」がSNSを中心に広まり、Spotifyのバイラルチャートで最高3位を記録し、4月に日本テレビ「ZIP!」のコーナー「ハックツ!」に出演して歌唱。8月に1stアルバム「産声みたいで、」をリリースし、11月から12月にかけて行った初ツアー「線路沿い1Kを飛び出して」は全4会場でチケットがソールドアウトした。最新作は2025年3月リリースのミニアルバム「とあるアイを綴って、」。
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