笹川真生「STRANGE POP」インタビュー|取り繕わずに“自動書記”で作り上げた14曲 (2/2)

花譜「私にしたほうがいいと思います」

──ゲストの話で言うと、「ないてわめいてきらめいて feat. 花譜」には花譜さんが参加しています。

もともとは今回のアルバムの楽曲を誰かに歌ってもらうつもりはなくて、全部自分で歌おうと思っていたんですよ。たまたま、花譜と理芽が家に遊びに来た日があって、そのときに「最近アルバムを作っている」と話したら花譜が「この曲を歌いたい」と言い始めて。「確かに女性のボーカルが入っていたほうが面白いかもね」という話に対して「私にしたほうがいいと思います」と立候補してくれました。

──確かに、この曲の雰囲気には花譜さんの声が合う気がします。

そうなんですよ。めちゃくちゃ正解だったと思います。歌を入れてもらったときに「この曲はこうしたかったんだ」というのが見えた気がして。これを1人で仕上げていたらと考えると、ちょっと恐ろしさすら感じます。

──花譜さんの最新アルバム「寓話」には笹川さんも楽曲提供をしていましたよね。花譜というシンガーを笹川さんはどう評価していますか?

仕事のフィールドが近いのもあって今までは評価がしづらかったんですが、廻花にはすごく興味があります。

──花譜さんのシンガーソングライター名義ですね。

はい。廻花名義の曲の歌詞が本当に好きで。そのことに気付いてからは花譜の見え方も自分の中で変わりました。今ではシンガーとしても、クリエイターとしてもすごい方だと思っています。

──アルバムの11曲目「光にしないで」には花譜さんと理芽さんの2人がコーラスとして参加しています。この曲への参加も、先ほどと同じような流れで?

はい。「光にしないで」のほうはマイクを立てて2人に並んで歌ってもらいました。歌い直しはほとんどせず、「間違えちゃった」みたいな笑い声もそのまま入ってます。

──曲の最後に入っている理芽さんの笑い声は、一発録りで録ったものをそのまま入れたんですね。

にぎやかにしたかったのかな。人がいる感じが出て、すごくよくなりました。偶然の要素も大きいですが、アルバム制作中に2人が居合わせてくれて本当によかった。

──以前の取材で笹川さんの書く詞には「食べること」と「吐くこと」が多いという話をしましたが、「光」も頻出ワードですよね。ファンクラブの名称も「ひかりセンター」ですし。

はい。よく「光」って書いてます。

──笹川さんが書く「光」にはどんな意味が込められているんでしょうか?

光とはなんだ……難しい質問ですね。言葉の通りの意味とも言えますし。自分が目指すところでもあり、大切なものでもある。光を尊ぶときもあれば、疎ましく感じてしまうときもある。それが光のままならないところですね。

笹川真生

子供の声が絶対に必要だった

──アルバムの最後を飾る「このほしにうまれて」には花譜さんや理芽さんではない声でコーラスが入っていて、クレジット上は「あおと & はすみ」とあります。これは、子供の声ですよね?

私の作るアルバムの最後の曲って、だいたいこういう曲、いわゆる荘厳で集大成的な雰囲気になりがちで。これまでの流れだったら知り合いの誰かにコーラスをやってもらっていたのですが、今回は絶対に子供の声が必要だなと思ったんです。それで探してみたら、9歳でプロのコーラスをやっているチビっ子を見つけて、歌っていただきました。本当は1stアルバムのときから子供に歌ってもらいたかったので、その念願がようやく叶いました。

──子供っぽい声ではなく、本当に子供に歌ってもらったんですね。

しかもこれがかなりのプロの子供で、“上手バージョン”と“ちょっと下手バージョン”みたいなパターンを用意してくれて。本当にプロでした。あまりにもよすぎたので、いっそのこと子供の声だけにしようかと思ったぐらいでしたが、今回のアルバムでは恩返しというかファンに「あなたのことを愛していますよ」と伝えなくてはならないので、自分も歌う必要がありました。

──「このほしにうまれて」はイントロでちょっと演奏がモタるというか、音がジャストタイミングで鳴っていないのが特徴的だと感じました。この曲に限らず、笹川さんのボーカルの震えるような瞬間がそのままパッケージされていたり、揺らぎのようなものがそのまま生かされているのは今作の1つの特徴ですよね。

クオンタイズ(打ち込みのタイミング補正機能のこと)された気持ちよさもわかるし、人が演奏したからこそ出るグルーヴ感もわかる。さらに後者を打ち込みで再現するよさもわかるけど、今作の場合はとにかくどうでもよくなっちゃって、その瞬間に鳴ってる音がよければいいじゃん、という思いでした。演奏のところで言うと、今までとは制作手法がちょっと変わりまして。今回はなるべく打ち込まず、実際に弾いたそのままの音源を入れています。これまではピアノが弾けなかったけど、今回は練習してピアノもほとんど自分で弾いています。

──確かに、今作でピアノの音が多いのも気になっていました。

弾けるようになったのがうれしくて、けっこう弾きました。まだ完璧に弾けるわけではないからミスることもあるんですけど、そのミスもそのまま残すようにしています。そうするとオケ全体がちょっと揺れるから、そこに歌を乗せていくと自然と歌もちょっと揺らぐ感じが出るんです。

──ボーカルの録音に関しては何か変わりましたか?

2ndアルバムまではちゃんとしたスタジオで録ったり、家で録るときもちゃんとした吸音の機材を用意して録ってましたが、今回はそれもやめて机にパッとマイクを立ててそのまま録りました。それと「4回以上歌わない」という自分ルールを課して、どのテイクも3本以内に決めています。

──そこには経験則もあるわけですよね。たくさん歌ったところで、いいテイクが生まれるわけではないという。

そうですね。その日できないことは、そこから先どんなにがんばってもできないものなので。決して適当に作ってるわけではないのですが、今この瞬間を録っていたらこういう音源になりました。

笹川真生

ライブの楽しみ方の幅が広がった

──アルバムリリース後はいくつかライブが控えています。まず4月25日に笹川さんがかねてから好きだと公言しているBURGER NUDSとのツーマンがあります。

本当にかねてからなので、すごいことだなと思いつつ、好きだからこそ逆に「ふーん」と思って構えています。いい距離感でいられるように。

──さらに5月には神聖かまってちゃんとのツーマンもありますね。

ジャケットアートワークのイラストレーターさんが一緒、という共通点がありつつ、実は2年前の企画ライブに出させていただいた縁もあり。それと今年1月に出た神聖かまってちゃんのアルバム「団地テーゼ」がものすごくよくて。そこで食らったのもあって、ご一緒したいなと思いました。

──そのあとにはワンマンも控えていますし、タイミング的には今回のアルバム収録曲も披露するわけですよね。ライブで再現するには難しい曲もあるかと思いますが……。

3rdアルバムの曲が加わったことで激しくて楽しいライブにはなると思いますが、いかんせんどう再現するか悩ましいものがありまして。今、バンドメンバーからも「どうするんだ」と聞かれている最中です。ライブ用にバンドアレンジに振り切ってしまうと、それはそれでアルバムのよさがなくなってしまう気がしますし。とはいえ、好きなように作ったアルバムの曲を好きなように演奏するので、ステージに立つ側はもちろん、受け取る側も感情を出しやすい雰囲気になるのかなと予想しています。楽しみの幅が広がるというか。

──いろいろお話を伺いましたが、新作を作り終えてみていかがですか? 2ndアルバムを作り終えて「ひと区切りついた」と感じたときとは違う感慨がある?

ありますね。あのときはちょっと投げやりな感じというか「もういいや」と思ってたけど、今はポジティブな気持ちでいます。

公演情報

on tabuz twelve

  • 2025年4月25日(金)東京都 新代田FEVER
    <出演者>
    BURGER NUDS / 笹川真生

脈拍 Vol.4

  • 2025年5月8日(木)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
    <出演者>
    笹川真生 / 神聖かまってちゃん

笹川真生 単独公演「ひかりのそこ 第5層」

  • 2025年8月9日(土)東京都 東京キネマ倶楽部

プロフィール

笹川真生(ササガワマオ)

シンガーソングライター。中学生の頃にプレイしたニンテンドーDSのソフト「大合奏!バンドブラザーズ」をきっかけに音楽を作り始め、その後DTMで本格的に音楽制作を開始する。シンガーソングライターとしての活動以外にも、数多くのアーティストに楽曲提供をしたり、編曲で参加したりと作家としても活躍している。2019年9月に1stアルバム「あたらしいからだ」、2023年2月に2ndアルバム「サニーサイドへようこそ」を発表。2025年4月に約2年半ぶりのフルアルバム「STRANGE POP」をリリースした。