桜田通が、ポニーキャニオンが運営するデジタルディストリビューションサービス・early Reflectionによる新レーベル・Pandrecの第1弾アーティストとしてメジャーデビュー。5月12日にデビューシングル「MIRAI」を配信リリースした。
桜田は2005年に13歳で映像デビュー。その後ミュージカル「テニスの王子様」、MBS系ドラマ「コーヒー&バニラ」、Netflixにて配信中のドラマシリーズ「今際の国のアリス」をはじめとした話題作に出演する傍ら、楽曲制作やライブ活動など、長年音楽活動も行ってきた。彼のメジャーデビュー作「MIRAI」では、これまでも桜田とタッグを組んできた板井直樹がサウンドプロデューサーを務め、多くのアーティストへ楽曲提供を行っているクリエイター・辻村有記が作曲を手がけた。フューチャーベース調のサウンドが特徴で、歌詞には愛と優しさなど桜田が今伝えたいメッセージが込められている。
音楽活動自体は10年以上前から行っていた彼がなぜこのタイミングでメジャーデビューを決断したのか。音楽ナタリーでは桜田にインタビューし、その理由や音楽ルーツ、「MIRAI」の制作エピソードを聞いた。
取材・文 / 酒匂里奈撮影 / 大川晋児
じんさんの見ている世界が好き
──以前にコラムでUVERworldについて語っていただきましたが(参照:私と音楽 第6回 |桜田通が語るUVERworld)、改めて桜田さんの音楽ルーツについて伺えたらと思います。
意識して好きな音楽を聴き始めたのは小学5年生くらいでした。同じ頃に今の事務所に入って、役者ではなくて歌とダンスをやらせてもらってたんです。当時は洋楽を中心に聴いていて、歌詞がわかるわけではなかったけどノリがいいものが好きでした。中学に入ってからはUVERworldさんやONE OK ROCKさん、ELLEGARDENさんを聴くようになって。あとはニコニコ動画の全盛期だったのでボーカロイドの歌い手さんやボカロPさんも。地元の友達とカラオケに行って歌ってましたね。特にじんさんの曲が全部好きというか、じんさんが描く世界が好きなんですよね。
──特に好きなじんさんの曲を挙げるとしたら?
「カゲロウデイズ」が好きです。「チルドレンレコード」はライブでカバーさせていただいたこともあります。だいぶ前ですけど、じんさんと一緒に食事に行かせていただいたこともあって、すごく素敵な方でした。「#うたつなぎ」(SNS上で行われたリレー企画)ではじんさんにバトンをつないで。
──ちなみに事務所に入ったのは、もともと歌とダンスをやりたいと思って?
小学4年生の頃から今の事務所の先輩方にダンスを習うワークショップに通ってたんです。そこでスカウトみたいな形で声をかけていただいて。歌は事務所に入ってから始めました。
──「歌うのが好きだな」とか「得意かも」と思ったのはいつ頃からでしたか?
歌が好きになったのは中3くらいですね。「意外と高い声出るじゃん!」と気付いてからですかね。
──男性だと歌いこなすのに苦戦するような高いキーの曲も難なく歌われてますよね。
ありがとうございます。それもあってか、好きな曲は女性ボーカルの曲がめちゃくちゃ多いんですよ。今もK-POPの女性の曲をよく聴いてるし、男性ボーカルも声が高い方が好きなんですよね。好きな曲をカラオケで歌っていたら、自然と歌声が高くなったんじゃないかなと思ってます。一説によるんですけど、普段自分が話している声の音域の2音上が歌声にはちょうどいいらしくて。だから歌声を低い声で安定させたい場合は、普段からなるべく低くしゃべっていればいいと。そういうことを調べるのが好きで、一時期は音域のことを考えて生活していたこともあります。
──ほかのアーティストの方からも、普段の生活や話すときもキーも意識していると聞いたことがあります。
そうすると歌うときのキーが安定しやすくなるみたいですね。昔は声が高いのが嫌だったので低い声で話そうとしていた時期もあるんです。お芝居でドスが効いた声を求められても、強そうな感じが出せなくて。最近は無理することはなくなりましたね。自分のそのままの声色が一番いいものだと思うようになりました。
楽しくて怖い音楽活動
──ミュージカルや芝居の仕事を音楽活動に還元できている感覚はありますか?
ミュージカルをメインにやっていたのは高校生くらいで、20代では1本しか出演していないんですよ。ずいぶん前のことなので、ミュージカルそのものから音楽活動に大きな影響を受けたわけではないですが、芝居で培った経験や感じた思いを音楽に変えて、それをライブで放出するみたいな部分はありますね。放出してからっぽな状態になってからまたお芝居に臨むのが自分の中でいい感じですね。
──いい循環になっているんですね。桜田さんの中では、音楽活動はどういう位置付けなんでしょうか?
音楽は自分そのものを投影できるから、芝居に比べて自己表現の幅が広いんです。用意していただいた台本を覚えて、与えられた役に感情を込めていくのが芝居なので、必ずしも自分が言いたいことをストレートに伝えられるわけじゃないんですよね。普段の自分では思ってもいないようなセリフを言う機会がたまにあるんです。それに比べて音楽は自分がやりたいことや思いを素直に届けることができる。楽しいけど、怖いですね。
──怖い?
音楽だと言い逃れできないというか。「この歌詞嫌い」と言われたらそれはもう僕自身が否定されているわけじゃないですか。もちろん芝居でも思いが届かなかったら悲しいです。僕にとっての芝居は監督や制作陣に用意していただいた枠組みの中で役として精一杯表現するもので、いい意味で作品の歯車になっている感覚です。ただ、それは僕が企画を考えたり脚本を書いたりした経験がないから言えることだと思うんです。イチから映画やドラマを作っている俳優さんは、きっと僕の音楽に対する思いと同じ気持ちを抱いているんじゃないかな。
海外の方に自分の音楽を迅速に届けたい
──メジャーデビュー発表時に「この時代の中で音楽と共に歩んでいくことへの難しさも感じながら、その一歩を踏み出せずにいました」とコメントされていましたが(参照:桜田通、ポニーキャニオン内の新レーベルよりメジャーデビュー)、なぜこのタイミングで一歩踏み出せたのでしょうか?
人それぞれの価値観だと思うのでこれが正しいと思っているわけではないんですけど、心のどこかで「今からメジャーデビューしても遅いんじゃないか」という思いがあったんです。今はメジャーだからと言って売れる時代ではないのかなと。これまでは自分のことを受け入れてくれる人たちに向き合って、クローズドな空間で表現するほうがしっくりきていて、それで満足していたから、僕には大きな海は必要ないんじゃないかと思っていたんです。
──なるほど。
そんな中で今回メジャーデビューを決めたのは、海外の方に自分の音楽を迅速に届けたいから。そして応援してくださっている日本の皆さんにも音楽だけではなく、ミュージックビデオなどのいろいろな形で僕の価値観や思いを届けたいと考えたときに、レコード会社の方の知恵を借りながら一緒にやっていきたいと思ったんです。今回early Reflectionの方とお話しして、デジタルに特化して世界に音楽を届けたいという考え方がしっくりきたし、僕が思っていたメジャーデビューとはいい意味で少し違って。そういうことを知れたので決断できました。
──ご自身の価値感がどこかで切り替わったわけではなく、もともと持っている価値観にフィットする枠組みが見つかったという。
ありがたいことにそうですね。もちろん多少は価値観が変わった部分もあるとは思うんですけど、自分の気持ちに無理をせずにメジャーデビューへ進めています。
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メジャーデビューの印象が変わった