佐久間貴生が1月13日にデビューシングル「Chase the core」をリリースする。
以前はバンドのボーカルとして活動していた佐久間。昨年、ソロアーティストとして活動していくことを発表し、3月よりメディアミックスプロジェクト「フットサルボーイズ!!!!!」に昂守希役として出演している。デビュー曲はテレビアニメ「スケートリーディング☆スターズ」のオープニング主題歌。1stシングルはカップリングの2曲も含め、R・O・Nが作詞・作曲・編曲を手がけたダンスミュージックとなっている。
音楽ナタリーでは、新たな道を踏み出した佐久間にインタビュー。表現者として常に高みを目指し続け、チャレンジすることを恐れない彼の姿勢を感じ取ってほしい。
取材・文 / 阿刀“DA”大志 撮影 / 斎藤大嗣
新しいことを始めたい
──2018年夏に、以前所属されていたバンドが解散したあと、貴生さんはどんなことを考えて過ごしていたんですか?
バンドでやりたいことは全部やったという気持ちがあったので、何か新しいことを始めたいなと思っていて。バンドが解散したときにすべてを考えていたわけではないんですけど、まず声優の仕事に挑戦したいという思いがありました。歌はずっと続けていくつもりだったんですけど、表現者としてもっと幅を広げたいなと。
──それはなかなか珍しい展開ですよね。
そうですね。バンドのときの所属レコード会社がランティスだったということもあって、音楽活動をしながら声優をされている先輩をよく見ていたので、声優とアーティストを両立されている姿を見て気にはなっていたんです。当時、僕は音楽のことしか考えていなかったんですけど、声優やお芝居にも興味が出てきたタイミングがあって。その話をしたら、前のバンドのメンバーに「歌にも生きるだろうし、チャレンジしてみてもいいと思うよ」って言われたんです。
──周りの人は貴生さんの中に何を見ていたんでしょう?
聞いたことはないんですけど、自分の内から出るものがそう思わせてたのかもしれないですね。なので、どこかずっと声優の仕事に挑戦したいという気持ちが頭にありました。
──そして、去年の春から声優の専門学校に通い始めたんですね。
1年間通ってました。声優をやるにはしっかり取り組まないと後悔すると思っていたので、一から勉強するつもりで学校に通ってお芝居の勉強をしていました。
──バンドが解散してから半年後にはもう声優としてやっていく意思を固めていたのは早いですね。
でも、ずっと表現者としてのあり方を自分なりに考えていて、そこでたどり着いた選択肢の1つが声優だったので、自分の中で将来のことを考えていた時間は長かったですね。
──専門学校に通ってみて、想像と違っていたことはありませんでしたか?
それはあまりなかったのですが、アニメの見方は変わりました。本当に細かいところまで観るようになりましたね。例えば、ひと言しかしゃべらないキャラクターでも、そのひと言があるからほかのキャラクターが生きるんだなとか、この言葉をウィスパーで言うのかとか、声の使い方を気にして観るようになりました。あと、声優の方はこれまでの自分にはない考えを持っている方がほとんどで。表現者なのでみんな行き着く先は同じなんですけど、そこへ向かうまでの過程や向き合い方が違うので、そういうところでいろいろな発見がありました。
表現者としてのレベルアップを目指して
──声優デビューとソロデビュー、どちらが先に決まったんですか?
声優が先で、それから1、2カ月後にソロデビューが決まりました。でも、歌に関しては常にやりたいと意識していたので、どっちが先という意識はあまりありませんでしたね。
──歌い手であるという意識はずっと強かった。
常にありました。譲れないというか。
──歌うことは譲れないという気持ちがありながら、声優という表現へと幅を広げていったのはなぜでしょう?
表現者としてもっとレベルを上げたいというのが第一にあって。声優としての経験も積むことによって、より幅広いものを表現できると思ったんですよね。
──貴生さんの中で表現というものが歌だけに留まらなくなってきたんですね。
そうですね。歌や演技もそうですし、体を使った表現という意味でダンスにも挑戦していて。そうやっていろいろ挑戦するのが楽しいんです。
──すごいバイタリティですね。
ですね(笑)。言葉では簡単に言ってますけど、やってみるとなかなか難しいので、そこは常に勉強ですね。習得するのに時間はかかりますけど、新しい発見ができることが楽しくて。
──そのための努力なら時間は惜しまない。
バンドのときもそうだったんですけど、そのときのノリだけではやりたくないし、しっかり時間をかけたいんですよね。やっぱりいいものを見せたいので。
──それにしても、バンドマンから思いっきり振り切りましたね。
自分の中では「やっとだな」という気持ちがあったんですけど、改めて考えると早いかもしれませんね(笑)。
──そのバイタリティはどこから湧いてくるんですか?
そう言われるとわからないんですけど、自分はもともといろんな作品に触れることが好きで、自分がああしたいこうしたいという気持ちも強くて、それが原動力になっているというか……あまり深く考えてないのかもしれないです。やりたいなと思ったらやっちゃうという感じかもしれない。
──好奇心が旺盛だと。
だと思います。いろんな人と出会うのが楽しいし、これまでもそういった出会い1つでいろいろ変わってきてるので。僕が歌を始めたのも、とあるミュージックビデオがきっかけなんです。
──それは誰の曲ですか?
UVERworldの「just Melody」という曲のミュージックビデオでした。当時、僕は中学生でライブというものを観たことがなかったので、お客さんが楽しんでる中で歌ってる姿がカッコよくて、それがきっかけで歌を始めたんです。そうやっていろんなものに出会いながら刺激を受けてきたので、行動に移すのが早いのかもしれないですね。
──バンドマンから声優になったことは、貴生さんの中で地続きの感覚はありますか? それとも生まれ変わったような感覚ですか?
地続きの部分も多いんですけど、声優に関しては生まれ変わったという感覚がありますね。というのも、自分の考え方が変わったというか。もともと僕は自分の芯を大事にして動くことが多かったんですけど、声優を始めてからは考え方に柔軟性が生まれたんです。「俺はこうしたいと思ってたけど、そっちのやり方もありだな」みたいに今は素直に思えるし、そういう考え方はこれまでになかったので、そこは生まれ変わった感じはしますね。
声優としての一面もあるからこそできる歌の表現
──ソロデビューシングル「Chase the core」はダンスミュージックに振り切っています。これも柔軟性の現れと言えますね。
そうですね。R・O・Nさんのサウンドプロデュースでデビューをするということが決まっていて、すべての曲と詞を書いていただきました。これまでの自分にない新しい曲が上がってきたので、そこに向けて全力で挑戦していきました。
──楽曲の方向性を決めるにあたって、R・O・Nさんやスタッフさんたちとカラオケに行ったそうですね。
はい。佐久間貴生というアーティストとして、これまでのバンドサウンドに捉われず、どんな楽曲の方向性で活動していくのがいいかという話をしていたときに、「歌ってみてもらうほうが早い」ということになり、みんなでカラオケへ行きました。R・O・Nさんやスタッフさんに選んでいただいた曲をいくつか歌ってみて、「この曲は合うね」とか、「これは悪くないけど、違うほうがいいかも」みたいな感じで話し合って、それをもとに制作していただいたのが今回の楽曲です。
──実際に歌ってみて貴生さんに合うと感じたのはどういう曲だったんですか?
K-POPや、おしゃれなダンスミュージックが多かったです。とにかくいっぱい歌いましたね。
──そういう作業を経て今回の3曲が生まれたと。歌うこと自体はバンドのときと変わらないとしても、今回はダンスミュージックということで楽曲に対するアプローチは変わりますよね。どうやって自分の新たな歌と向き合ったんですか?
リズムから言葉のニュアンス、細かいところまで意識しました。あと、これまでの自分にはなかったような声の使い方に挑戦する中で、声優としても活動し始めたからこそできる表現がどんどん生まれていって。マイクの使い方や表現はアフレコもレコーディングも一緒なんですけど、歌と演技は違うんです。演技をするときに、そんなに声を張らなくてもいい場面があるということがわかったので、その経験を歌にも落とし込んでみました。
──最初はバンドでの経験を生かして声優としての表現にも挑み、今度は声優の演技から学んだことをレコーディングにフィードバックできたと。「表現を広げる」という貴生さんの目的にうまくハマったんですね。
そうなんですよ。そこで発見したものを活用しない手はないなと思いました。
──今回、作詞・作曲・編曲を手がけているR・O・Nさんの楽曲の特徴を教えてもらえますか?
ひと言で言うと、メロディがすごくいいですよね。あと、R・O・Nさんの楽曲って難しそうに聞こえないんですけど、実際に歌ってみると細かいリズムが独特なんです。速く歌ってるようでいて、リズムはけっこう後ろにあったり。言い換えると、単語の言い方は速いんだけど、遅く歌ってるという。たぶん、R・O・Nさんは頭で考えてそうしているわけではなくて、R・O・Nさんにしかない歌のリズムなんですよね。
──テンポは速いけど、ノリが後ろって難しそうですね。
はい、難しいです(笑)。速いまま歌うとツルッと進んじゃうんですよね。歌にあまり波がなくなってしまう。だけど、R・O・Nさんのリズムで歌うとちょっとしたアクセントが生まれたり、耳に引っかかる部分が出てくる。そうすることで言葉の説得力も増すんですよ。だから、聴いていてすごく気持ちいいんですよね。
──この曲の引っかかる部分はそういう歌い方をすることで生まれているんですね。
はい。それが聴いてる人を飽きさせないんだと思います。
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これは自分の曲だな