ナタリー PowerPush - さかいゆう
一人多重奏で完全ハンドメイド 「ONLY YU」の核心に迫る
さかいゆうのメジャーアルバム第2弾「ONLY YU」は、作詞/作曲/アレンジ/演奏などすべてをさかい自身が手がけた、完全ハンドメイドの“一人多重奏(ソロケストラ)”アルバム。極上のポップスにほんの少しの毒っ気を添える、さかいのシニカルな才能がコンパクトに詰め込まれた1枚だ。
ナタリーPower Push 2度目の登場となる今回のインタビューでは、「ONLY YU」の話題を中心に、さかいゆうのアーティストとしての姿勢に迫った。
取材・文/臼杵成晃
あえて自分の頭の中にあるものだけで
──さかいさんへのインタビューは、アルバム「Yes!!」のリリース時(2010年6月)以来となります。その後はツアーなどもありましたが、状況はいかがでしたか?
うーん、いろいろ詰まってましたねぇ、去年は。ツアーが一番楽しかったかもしれないです。……ライブって苦手だなって思うこともあるんですけど、喜んでもらったときに、やっぱりいいなぁって思いますね。
──直にリアクションが返ってくる感じとか。
そう。この曲をライブでやったら喜んでくれるのかな、それとも静まるのかなって想像しながら歌詞を書いた新曲もあるんで。すごく難しい回りくどいことを言って、何回も読んでやっと気付くタイプの歌詞もいいけど、ライブでリアルタイムで聴き取れるともっと楽しいのかなと思って。
──今回リリースされる新作「ONLY YU」は、ライブでおなじみの1人多重録音“ソロケストラ”でまるまる1枚という、まさにライブを反映した作品になっていますが、メジャー2作目のアルバムとしてはかなり挑戦的な内容ですよね。
前回のアルバムはいろんなミュージシャンに支えられてできたもので、参加してくれたミュージシャンの芸術性に結構影響されたものなんですよ。僕の音楽って歌とピアノだけじゃなく、いろんな要素を含めてみんな楽しんでくれていると思うから、周りのミュージシャンの力もすごく大事なんです。今回はあえてそれを全部なくして、1人でデモテープをそのまま作品にしちゃったみたいな。
──「今回は1人で」というのはさかいさん自身のアイデア?
そうです。「本当はこの曲、ギターのうまい人を呼んでやったらいいのになぁ」って思っても我慢して、自分の頭の中にあるものだけで作っていく。自分の演奏能力と自分の機材の限界っていう抑制された状態で作ると、それはそれで面白いものができるかなと思って。
たくさんの人にアバンギャルドなものを
──ソングライターには、曲作りの段階でざっくりとした設計図しか浮かべない人もいれば、最初から頭の中で全体像ができあがっている人もいますよね。さかいさんは後者なのではないかと勝手にイメージしていたんですけど、実際はどうですか?
できあがってるほうですね。細かいフレーズまでだいたい。でも生楽器ってのは、そのフレーズが弾けたり吹けたりしない場合がありますから。だから今回は1人で全部やることをふまえてアレンジしました。「ケセラセLife」ではギターが前面に出てますけど、あれはキーボードのギターじゃないと出せないテイストになったと思う。
──あの曲も全部鍵盤でやってるんですか!?
ベースは生で、あとは鍵盤です。グランドピアノと、パーソナルスタジオの中にあるすっげえ古いピアノ。チューニングが狂った古いピアノがあって、それを使ってます。
──ギターの音は完全にギターをシミュレートするのではなく。
そうですね。新しい響きになればいいかなと思って。あの、よく「さかいさんはどこに行きたいんですか?」って質問をされますけど、いつも返答に困るんです。矛盾した考えかもしれないけど、たくさんの人にアバンギャルドなものを届けたいんですよね。なんというか……アンダーグラウンドでポップなものをやるのと、オーバーグラウンドでアバンギャルドなものをやるのは面白いと思うんですよ。これがインディーズ盤だったら、僕は全部キラッキラなアレンジにしてたかもしれない。
──その感覚はなんとなくわかります。天の邪鬼ってわけじゃないと思うんですけど……。
ま、天の邪鬼じゃないとは言いませんけど(笑)。やっぱり今までシーンを作ってきた人やクリエイティブな人は、どこかそういう部分があるんじゃないかと思うんですよ。耳触りがいいだけじゃないものが受け入れられなきゃ面白くないでしょ。このアルバムも聴きやすいのか聴きづらいのかよくわかんない、親切なのか不親切なのかよくわかんないアルバムになってると思うんですけど、ある特定のサウンドが好きな人たちにとってはたまんないものにはなったと思います。5000万人が聴けるアルバムではないとも思いますね(笑)。
──はははは。
5000万人が聴けるアルバムも作りたいけど、でも自分の言ってる言葉にウソつきたくないし、自分が何回も聴けるものを作って、それに共感してくれる人がいるのもしてくれない人がいるのも含めて、世に出ることはうれしいですね、こうやって。
CD収録曲
- music
- AHEAD
- ケセラセLife
- ソングライダー
- It's YOU
- 夏のラフマニノフ
<初回限定盤ボーナストラック>
- Rock With You(オリジナル:マイケル・ジャクソン)
- FUTARI(オリジナル:山下達郎)
さかいゆう
高知県出身の男性シンガーソングライター。20歳で上京し、独学で音楽を始める。2001年に単身渡米しロサンゼルスでストリートパフォーマンスを行いながら、ピアノを習得。同時期より作曲活動も始める。帰国後の2004年頃よりソロ活動を本格化。2006年に発表したミニアルバム「ZAMANNA」がFMチャートの上位を記録したほか、収録曲の「Midnight U…」がiTunes Storeの「今週のシングル」に選出され好評を博す。2008年1月にフルアルバム「YU, SAKAI」を発表し、2009年10月にシングル「ストーリー」で満を持してメジャーデビュー。胸に打ち響く歌詞、透明感あるハイトーンボイスが年齢や性別を超え熱く支持されている。また客演も多く、これまでにPUSHIM、マボロシ、KREVAなどさまざまなアーティストとコラボレーションを行っている。