音楽ナタリー PowerPush - 斉藤由貴×KERA

斉藤由貴、歌手デビュー30周年でKERAと再会

“斉藤由貴が歌うジャズ”は感慨深い

──KERAさんもジャズには深い思い入れがありますよね。

左から斉藤由貴、KERA。

KERA ええ。染みついてますからね。自分が作る舞台でも古いジャズを使うことが多い。というのも、もともとうちの親父がジャズをやってて、その影響で僕が子供のときから家ではずーっとジャズが鳴ってたんですよ。

斉藤 素敵な幼少時代を過ごしてらしたんですね。

KERA そうですね。今思えば。親父のようなジャズをやってた人からすると、僕が若い頃にやってた有頂天みたいなバンドは理解しがたい出来損ないの音楽なんですよ。僕はYMO(Yellow Magic Orchestra)で人生狂った人間だから(笑)、テクノやニューウェイブの影響下にある、いわば頭でっかちな音楽をやってた。親父は僕がそういう音楽をやっていることに眉をひそめているように感じてた。親父は僕が25歳の頃に亡くなってしまったんですけど、その後、父親の友人から「実は僕が音楽をやってたことをすごく喜んでた」っていう話を聞かされて。面と向かっては文句しか言わなかったんだけど(笑)。そうしたこともあって、有頂天を解散したあと、LONG VACATIONで4ビートの曲をたくさんやったんですね。例えば今回由貴ちゃんが歌ってる「Stardust」って、本当に赤ん坊の頃から聴いてた曲なんですよ。そういうなじみのある曲を斉藤由貴が歌うっていうのは、個人的に感慨深いんです。

──KERAさんもジャズの作品を作っているんですよね。

KERA そうなんです。もう20年ぐらい前から「ジャズアルバムを作りたい」って言ってて。1988年に秋元康さんプロデュースで、フルオーケストラを入れてあえて歌謡曲をやるっていうアルバムを作ったんですよ。当時はまだCDとアナログが共存していて、A面B面という考え方が残っていた。そんな中で「B面だけならば好きなことをやっていい」って言われたので、B面ではセルフプロデュースでジャズばかりを歌おうと思ってたんだけど、結局制作上の都合で入れられなくなっちゃって。

斉藤由貴

斉藤 じゃあ結局ジャズはできなかったんですね。

KERA そう。でもアルバムには10曲しか入ってないから、発売記念ライブでは笠置シズ子さんの「東京ブギウギ」とかBOØWYの「B・BLUE」を4ビートでやったりしました。アルバム収録曲も今、改めて聴き直すとなかなかいいんですよ。トム・ジョーンズみたいなアレンジの曲やら、淡谷のり子的なアレンジの曲やら(笑)。

斉藤 面白そう。

KERA 当時は音楽業界でやりたいことができない人って多かったと思うんですよ。でも今はCDを作るにしても、商売っ気のある変にギラギラした人が周りに集まってこないじゃない。だからもう、「みんな好きなことをやって出せばいいじゃん」みたいなムードになってるよね。昔ほどレコーディングも大変じゃないし。だから僕もやっと本腰入れてジャズの作品をソロ名義で作り始めることにしたんです。年末にはリリースできるかと。自分でもどんなアルバムになるのか、非常に楽しみなんです。

いろんなことを飛び越してでも、前へ

──アルバムリリースのあとは30周年記念コンサートも控えています。改めてこの「30周年」という響きについてどう感じていますか?

斉藤 全然30周年だという実感がないんですよ。周りの皆さんが言ってくださるから、こうやってアルバムを作ったりコンサートの準備をしていますけど、私の中では「ああ、もう30年も仕事してるんだなあ」って、本当にそう思うくらいのことなんです。

KERA 周りのスタッフやファンのほうが、こういう区切りには敏感なところはあるからね。

斉藤 でもすごく素敵なことだなって思ってます。周りの方々が「30年だからなんかやろうよ」と言っていろいろやってくださると、いろんなことを思い返す機会になるでしょう。それがすごくいいなあって。自分1人だと、あんまり思い返したりしないじゃないですか。言われて初めて「そういえばこういうことがあったな」と振り返ることができる。だからこういう節目を無事迎えられたことに、素直にうれしいと思っています。

──KERAさんもこれまでに何度も「○周年」を迎えて来られたと思いますが、どういうお気持ちでした?

KERA 一昨年はナゴムレコ―ド30周年で、僕自身が50歳だったので、記念に新宿LOFTで4日間ライブをやったんだけど、そのお祭り以外は特に何もしなかったんだよね。たまに過去を振り返るのは悪いことじゃないし、そのことによって自分にフィードバックされるものもあるんだけど、本腰入れて振り返ろうとするとそれだけで1年ぐらい平気で経っちゃうからね。「何周年イヤー」とか言って1年間ずっと忙しく振り返り続けるのは、それはそれですごく重労働だし。振り返るのもほどほどにしないと、「今」がなくなっちゃうでしょ。

──斉藤さんは今まさに、振り返ることの大変さを実感しているところですか?

斉藤 これからどうしようか、考えているところなんです。今のKERAさんのお話を聞いて、自分の人生の限りある時間の中で、雑多であることというか、すっ飛ばすようなラフさっていうのも大事なんだと改めて思いました。ある程度の才能とか人から求められる何かがある人間ならば、必ず背負うものはたくさんあって。それら全部を緻密に精査していったら、絶対に時間が足りなくなってしまう。だからときには「えいや!」っていろいろ飛び越してでも、思い切って前に進んでいかなきゃいけないんだなって。30周年という節目の年ですけど、それくらいの心構えのほうが私には合っているのかなって今は考えています。

左から斉藤由貴、KERA。
ニューアルバム「ETERNITY」2015年3月11日発売 / ヤマハミュージックコミュニケーションズ
初回生産限定BOX [CD+グッズ] 8100円 / YCCW-10257/B / Amazon.co.jp
通常盤 [CD] 3240円 / YCCW-10258 / Amazon.co.jp
CD収録曲
  1. Top Of The World
  2. Tea For Two
  3. Cheek To Cheek
  4. Lovin’ You
  5. Blue Moon
  6. Stardust
  7. When I Fall In Love
  8. Across The Universe
  9. 窓あかり
  10. 永遠
天使のララ Presents 斉藤由貴 30th Anniversary Concert
  • 2015年3月13日(金)東京都 シアタークリエ
    OPEN 18:30 / START 19:00
  • 2015年3月14日(土)東京都 シアタークリエ
    [1回目]OPEN 12:30 / START 13:00
    [2回目]OPEN 18:00 / START 18:30
  • 2015年3月15日(日)東京都 シアタークリエ
    OPEN 12:30 / START 13:00
斉藤由貴(サイトウユキ)

斉藤由貴

1984年に行われた「第3回 ミスマガジン」でグランプリに選ばれ芸能界入り。85年に「卒業」をリリースし歌手デビュー。同年4月に放送がスタートしたドラマ「スケバン刑事」で初めて主演を演じる。86年に発表した「悲しみよこんにちは」で、同年開催の「NHK紅白歌合戦」へ初出場し、紅組キャプテンを務めた。また89年に発表した井上陽水のカバー「夢の中へ」は大ヒットを記録した。歌手活動と並行してドラマ、映画、舞台などの女優業に力を入れているほか、詩、小説、エッセイなどの著作業も行っている。2015年3月に歌手デビュー30周年を記念したアルバム「ETERNITY」をリリースするほか、30周年記念コンサート「斉藤由貴 30TH ANNIVERSARY CONCERT」を開催する。

KERA(ケラ)

1963年1月3日、東京生まれ。1982年にバンド有頂天を結成し、翌1983年には自主レーベル「ナゴムレコード」を立ち上げる。ナゴムレコードからは有頂天のほか筋肉少女帯、たま、カーネーション、電気グルーヴの石野卓球とピエール瀧が所属した人生(ZIN-SAY!)、俳優として活躍する田口トモロヲがボーカルを務めるばちかぶりなど個性的なアーティストを多数輩出した。有頂天はTHE WILLARD、LAUGHIN' NOSEとともに「インディーズ御三家」として全国区で注目を集め、1986年9月にシングル「BYE-BYE」とアルバム「ピース」でメジャーデビュー。1991年の有頂天解散と前後して活動を始めたLONG VACATIONでは約4年間で20作以上の作品をリリース。LONG VACATIONの活動休止後、1995年に結成したケラ&ザ・シンセサイザーズでは現在までに5枚のオリジナル作品と1枚のベストアルバムを発表している。またケラリーノ・サンドロヴィッチ名義で劇作家、脚本家、演出家、映画監督としても活躍しており、1999年、主宰するナイロン100℃への書き下ろしである「フローズン・ビーチ」での岸田國士戯曲賞をはじめ、受賞歴多数。テレビ東京系列で現在放送中のテレビドラマ「怪奇恋愛作戦」では脚本・監督を担当している。

ケラリーノ・サンドロヴィッチ・ミューヂック・アワー ♯008

2015年4月3日(金)東京都 新宿LOFT
<出演者>
ケラ&ザ・シンセサイザーズ / 新宿ゲバルト / J.トンプソン商会(KERA+中村哲夫)
料金:前売 3900円 / 当日 4400円(ドリンク代別)

<衣裳協力>

ワンピース タルボット
(タルボット ジャパン:03-6698-5971)

ピアス ヴァンドームブティック
(ヴァンドームヤマダ:03-3470-4061)