斉藤朱夏|走り続けて“君”と出会った、私の道のりについて

恋愛経験者の女の子の気持ち

──「ぴぴぴ」は片思いの気持ちを歌ったスカチューンです。この曲の主人公、サビの「せめて 君の前じゃ大きい声で 笑ってみようかな」とわざと大声を出して相手の気を引こうとしているところがかわいいですね。

でも、これはきっと学生のときだけできることなんじゃないかなって。大人になってからそんなバカみたいに大きい声を出したら不審に思われるかもしれないし(笑)。学生が教室や廊下で好きな人が遠くにいるときに、大きめの声で友達に「そうだよねえ!」って言ったりして、はしゃいで注目されようとしてるようなイメージです。それで相手に見られたらラッキーという。そういうときって、アンテナが張ると思うんです。

──そのアンテナの音が「ぴぴぴ」という。

そう。この曲もプロットを書いたんですけど、そういう学生の物語を考えていましたね。

──「ぴぴぴ」に関しては、どういう主人公をイメージして歌いましたか?

「恋のルーレット」の女の子は恋愛初心者のイメージなんですけど、「ぴぴぴ」の女の子は、ちょっと恋愛経験のある女の子なのかなと。初恋をして、叶わなくて、でも新しい出会いがあって……そういう恋愛経験者の女の子の気持ちをかわいらしく歌いたいなと思い、ちょっと今までは違って、息多めの声を使っていたりします。サビの「笑ってみようかな」というところはかわいく歌いたかったので、ここもオーディションをしましたね(笑)。1つひとつの細かいニュアンスを大切にして歌いました。

──これまで「パパパ」「しゅしゅしゅ」(2019年11月発売の1stシングル「36℃ / パパパ」カップリング曲)、「ぴぴぴ」と発表してきて、今後もこのシリーズは続きそうですかね?

あはは。よく周りからも言われるんですよ。「次は『ぷぷぷ』くるんですか?」って(笑)。「いや、『ぷぷぷ』はさあー」と思うんですけど、ここまできたらシリーズ化したいですね!

斉藤朱夏

がんばれないときは、がんばらなくてもいいんじゃない?

──6曲目「あめあめ ふらるら」は「こんな何にも無い日があってもいいよね やる気でなくたって今日はいいよね」という歌詞の通り、なんでもない1日を肯定してくれるような、カントリー調の優しい楽曲です。この曲はどういうところから生まれたんですか?

「あめあめ ふらるら」はここ半年くらいのケイさんとの日常会話から生まれた曲ですね。しゃべった内容がいろいろ取り入れられていて、私も歌詞を見ながら、そういえばこんな話をしたなって。例えば、学生時代や卒アルの話をしていたことから、掃除をしていたら埃かぶってた卒業アルバムが出てくるというような歌詞が入っていたり。

──「がんばれ!」という応援ソングにも励まされますが、こういうふうに「がんばれないときはがんばらなくていいよ」と言ってくれるような歌も世の中には必要だなと感じました。

ここ最近、「がんばれ」と人に言うのがおこがましいと思い始めちゃって。みんながんばっているし、「がんばれ」以外の言葉を見つけたいなと思うんです。この曲をもらって、「そっか……がんばれないときがあっても、がんばらなくてもいいんだ」と私自身も気付いて。私もどうしてもがんばれないときってけっこうあるんですよ。今日はもう無理だ、寝たい……みたいな。最近は「寝ちゃおう!」ってなります(笑)。今までの私って、ちょっと張りつめてたところはあったんですけど。

──確かに朱夏さんは何もしない日に罪悪感を覚えるタイプの方のようなイメージがあって……。

「なんにもない日あっちゃダメでしょ!」みたいな人間でした(笑)。そういう日は「もう夜!? 最悪! やばい!」って焦ってましたし、がんばれないときがあると、「いや、がんばれよ、自分! 何やってんの?」という。そんなふうに自分を責めてばかりだったんですけど、このアルバムを作っていく中で、ちゃんと自分のことを愛してあげようと思えたような気がします。自分を愛せたら、きっと人のことももっと愛せるというところに自然とたどり着きました。

──きっとリスナーの方々の心にも沁みる曲なんじゃないでしょうか。

ファンの方からラジオやSNSで「何も打ち込めることがない」「がんばりたいんだけど、がんばれないんです」という相談をいただくことが多くて。そういう方々に「がんばれないときは、がんばらなくてもいいんじゃない?」と伝えたいんです。

自然と自分の生き方を歌っていました

──では、朱夏さんとケイさんが歌詞を共作した「ワンピース」と「よく笑う理由」についてお話を伺っていきます。朱夏さんにとって初めての作詞曲になりますが、以前から作詞をやってみたいなという気持ちはあったんでしょうか?

はい。ずっとありましたね。そもそも2年前にデビューミニアルバムを作るときに「歌詞を書きなよ」とスタッフさんに言ってもらったんですが、そのときは「どうやって書くんだろう?」という状態で。それからなかなか書くタイミングがわからなかったんですけど、今回はフルアルバムだし、今年で25歳になるというタイミングだったので、書くなら今かなと思ったんです。やっぱりどうしても歌詞を書きたいなって。

──これまで歌詞のもとになるプロットを作ってケイさんに渡すことも多かったですが、プロットを書くのとはまた違う感覚でしたか?

そうですね。やっぱりプロットって、気持ちのほんの一部といいますか。「ワンピース」に関しては勢いのまま気持ちをバーッと全部書いたので、時間は全然かからなかったです。けっこう早くできてしまった(笑)。

──初めての作詞でもそれくらい一気に書けたのは、きっと伝えたいことが定まってたんでしょうね。

書きたいことが自分の中にずっとあったんだと思います。それを今歌うべきことだなと思えたので、つらつらと書けた。書いていて思ったのが、私、嘘つけないんだなって(笑)。書いてから歌詞を見直したんですけど、どこか変えようかな?と思っても、変えたら嘘になるような気がしちゃったんです。言葉によって受け取るイメージも変わってしまうので。それで「このままいこう」とケイさんに歌詞を渡して、整えてもらいました。

──朱夏さんはデビューミニアルバムからずっと音楽活動において“言葉”を大切にしている方なので、いつか作詞をするだろうなとは思っていて。(参照:斉藤朱夏「くつひも」インタビュー)ただ、朱夏さんのディスコグラフィには自分の生き方を歌っている曲も多くあれば、「恋のルーレット」や「ぴぴぴ」のような少女マンガ的な恋の物語の歌もたくさんあるので、初めて作詞するならどっちの方向なんだろうなと気になっていたんです。

あー、なるほど。

──いざ蓋を開けてみたら「ワンピース」も「よく笑う理由」もどちらも朱夏さんの思いや生き方がそのまま反映された曲になっていて。初めて作詞するにあたって、どっちに振ろうかという迷いはなかったんですか?

それはなかったです。「今これを伝えたい」と思うことを書いたら、自然と自分の生き方を歌っていました。作詞をするにあたってケイさんに作詞講演会を開いてもらって、「一番言いたいことをサビに持っていく」と聞いて。それで「ワンピース」でまず書いたのが、サビの「天才なんかじゃないし 才能もないし」というフレーズ。私はこれが一番言いたかったんです。

──初めての作詞でサビのド頭にこのフレーズがきたのはちょっと衝撃的だったんですけど、一方で朱夏さんらしさを感じたフレーズでもあって。「ひまわり」(2020年11月発売の2ndミニアルバム「SUNFLOWER」収録曲)について話を聞いたときも、「私は自分のことを太陽みたいに光り輝いている人だとは思っていない」といったことをおっしゃっていましたし……(参照:斉藤朱夏「SUNFLOWER」インタビュー)。

あはは。私自身、本当に天才じゃないし、才能もないと思ってるんですよね。

──周りからすると、とてもそうは思えないですが。

いや、私には何もないんです。何もない自分にできることって、ひたすらダンスの練習をすることしかなかったんですよね。「ワンピース」は私のこれまでの人生のことを歌っている曲で。私はアーティストになるために学生の頃からずっとオーディションを受けていたんですけど、やっぱり周りにいる子たちって本当にキラキラ輝いていたんですよ。自分にないものをたくさん持っていて、いいないいなって。身長が高い子はすらっとしていて、私は身長が全然足りないなと落ち込んだり、極端ですけど「私は才能がないから落とされたんだ」と思ったり。だから私はとにかく練習をするしかなかった。ダンスを磨いて、こんなちっちゃい体でもこんなに大きく動けるんだぞ、というのを見てほしくて……だから「天才なんかじゃないし 才能もないし」というのは、芸能界を目指してからずっと思っていたことなんです。

──そのときの気持ちや経験が、今も朱夏さんの根底にあるんですね。

そうです。ケイさんにも「ワンピース」を作るにあたって、今までの経験の話をたくさんしました。Bメロで「次のステージへ ステージへ」って2回言ってるのは、「とにかく次のステージに行きたいじゃないですか。大事なことなので2回言いますってやつです」って(笑)。

──なるほど。個人的にはDメロの「特別な力は無くても 鳴らしたい音がある」というところが、朱夏さんの音楽に対する姿勢を感じて心に刺さりました。

天才じゃないし才能もないけど、どうしても鳴らしたい音があって、表現したいことがあるから、それをただただみんなに届けたいんです。私には魔法は使えないけど、自分の人生をひたすらがんばってきたし、だからこそ鳴らせる音がたくさんあると信じています。

──自分で作詞した曲を歌うにあたって、これまでのレコーディングと気持ちの違いはありましたか?

全然違いました! 「ワンピース」に関しては大号泣しながら歌って(笑)。

──これまでのことを思い出して?

それもあるんですけど、「もっとよりよいものにしたいから、こうしたいんだよね」というディレクションを受けて。「やってみます」と歌っているうちに「あれ? どうやって歌うんだ?」ってどんどんわからなくなってきちゃって……。

──自分で書いた歌詞だからこそ。

そうだと思います。自分が表現したい感情がうまく出せないことに対してすごく悔しくなってしまって。歌っては泣いて、歌っては泣いての繰り返しでした。今自分で聴いても、そのときの光景がすごく思い浮かぶ(笑)。あれだけボロボロになりながら歌ったけど、伝えたかったことはちゃんと込められたなと思います。