危なくても、やっちゃう
──先ほど話に出た小林さん作曲の「Channel Me」は、聴いてびっくりしました。まったく違う複数の楽曲がつながって、1つの曲になっている。しかも、通底する物語があるというよりは、まったく違う時間軸や世界線にあるものが大胆にくっ付いているような楽曲で。アルバムの真ん中に位置することで、ものすごい存在感を放っているなと……。
長屋 そうですよね(笑)。
小林 「Channel Me」はアルバムのリード曲を作ろうと思って考えた曲で。最近は動画でも切り抜きが流行っていたり、曲も15秒くらいに切り取られたものが広まっていったりするじゃないですか。すごく流行っている曲でもサビの頭15秒しか知らない、なんてのもよくある。それなら、いっそのことそういうものが好きな人たちにそれ用の曲を提供しようと。切り抜きやすいメロディや歌詞をチャンネル音で区切って切り替えていくような構成にすることで、「この曲のどこを使ってもらっても自由ですよ」みたいな曲を作ろうと思ったんです。それができれば、今の時代に対してのある意味皮肉にもなるし、面白いんじゃないかって。だけど、曲作りを進めていくと、うまくいかなくて。時間がない中で進めていったら、いつの間にか「リード曲」という言葉からは程遠いものになっていました(笑)。
一同 (笑)。
小林 でも、このアルバムを象徴する曲という点では、意味を成すことができたと思います。
長屋 この曲があることで、アルバムに1本、筋が通った気がする。
──いろいろな時間軸が並列されていることで結果的にリアルさが出ているというか。人生を感じさせるような曲になっていますよね。そして、この曲は作詞クレジットが「緑黄色社会」名義になっているのも気になりました。
長屋 そうなんですよ。実は、この曲はヴァースを分担して、メンバーそれぞれで歌詞を書いたんです。メンバー間で打ち合わせもほとんどせず、テーマも共有せずに書きました。それぞれのバラつきが、むしろいいなと思って。
──誰がどこを書いたのか、というのは……。
長屋 それはご想像にお任せします。わかる人にはわかるかもしれないですね(笑)。でも、こんなことでもないとpeppeが歌詞を書く機会もなかなかないと思います。
peppe 「それぞれが歌詞を書こう」って、最初冗談かと思った(笑)。
長屋 まあ半ばその場のノリもあったよね(笑)。
──こういう大胆な実験性を持った曲がアルバムを象徴するのは、緑黄色社会ならではなことだと思うんです。メンバーそれぞれが作曲家であるという面も反映されていると思いますけど、この「Channel Me」という曲のどういった部分が、自分たちにはしっくりきますか?
小林 多ジャンルの共存というか、そういう部分は緑黄色社会の持つチャンネルの幅になっていると思うんですよね。「Channel Me」にはカントリーっぽい部分があったり、ジャズっぽい部分があったりして、「なんでもできまっせ」というところを見せることができているのかなと。
長屋 あと、この曲には緑黄色社会特有の学生ノリも出ていると思います(笑)。さっき、真吾と壱誓が車内で盛り上がったという話をしていましたけど、そうやってアイデアが出てくることが多いバンドなんですよ。冗談から本気になっていく、というか。普通ならメンバーの誰かが止めに入るようなことでも(笑)、結果的にはやっちゃう。危なくても、やっちゃう。それは私たちらしさだし、「Channel Me」はそういう部分が出ている曲だと思います。かつて自主制作盤にボーナストラックとして入れた「夢の浮き橋」という曲があるんですけど、振り返れば、あの曲の時点で「Channel Me」に近いことはやっていたんです。「夢の浮き橋」はミュージカルチックというか、セリフが入っていて、いろいろな場面展開があって……という曲なんですけど、そういう曲をもう10年近く前に、私たちはやっていて。「Channel Me」は、その完成版みたいなもの(笑)。
穴見 より洗練されたバージョンだよね。
長屋 10年前よりも知識や技術を持ったうえで、やっと完成させることができた。そういう曲なんですよね。
peppe 10年前のまだ表現力が乏しかった頃は、「動物の声を入れたい」と言って、壱誓が人力で動物の声をやってたもんね(笑)。
長屋 あの化け物みたいな声ね(笑)。サンプリングとかもできなかったからね。
あの頃の壱誓と握手ができた
──穴見さんは、「Channel Me」という曲には自分たちのどんな部分が表れていると思いますか?
穴見 僕たちが飽きっぽいバンドだということ(笑)。あと、僕と壱誓はもともとダンスやバレエをやっていたので、アートとエンタテインメントが混ざったものを吸収してきているんですよ。そういう部分はこの曲に表れていると思います。音楽はアートだけでも成立するけど、僕らの音楽には絶対にエンタテインメントがある。どんでん返しみたいな、人を楽しませたり驚かせたりする仕掛けがあるものが好きなんですよね。
──なるほど。
穴見 でも正直なところ、長屋がこれに応えてくれるのが昔から不思議なんですよね。歌う側からすると難しいじゃないですか。そういう部分も含めて、緑黄色社会は不思議なグループだなと思う。
長屋 そこに関しては、私自身びっくりしてる(笑)。私、普段の私生活では冒険しないタイプなんですよ。でもバンドではすごく冒険していて。そういう、冒険できる場所に自分がいるのはすごく不思議だなと思います。「夢の浮き橋」のときは、壱誓の頭の中にあるものになんとかついていく感覚だったんです。壱誓の頭の中に「こういうことがしたくて、次はこういうシーンで……」というイメージや世界観が明確にあって、それをもとに道筋を作ってくれるけど、あまりに独特なセンスなので、私自身のエッセンスを加えることはできなくて。壱誓の世界観に「わかった!」ってなんとか返事をしながらついていくような感覚だった。でも、あれから10年の時を経て、この「Channel Me」では壱誓の頭の中にあるものを一緒に作れた感覚があるし、同じ世界感に入り込めた感じがしました。ようやく、あの頃の壱誓と握手ができた(笑)。
小林 青年・壱誓とね(笑)。
peppe 本当に、「Channel Me」はよくみんなが同じ理解度で曲に向き合えたなと思う。なぜそれができたかというと、この10年でそれぞれベクトルは違えど、自分の曲に向き合う訓練を重ねてきたからなんですよね。ほかの人が作る曲の世界観に踏み込むのは難しいことだけど、各々が曲作りの訓練を続けてきたからこそそれができるし、だからこそ「Channel Me」みたいな曲を作ることができたのかなって。
長屋 この曲に限らず、お互いへの信頼度が増していると思うしね。数年前だと、それぞれが作った曲に対して100%相手の考えを理解したり、その世界観に入り込んだりすることはできなかった。でも最近は、お互いに世界観を提示するのもうまくなったし、理解することもうまくなったと思う。それぞれの解釈はあるけど、たどり着く場所は一緒というか。
peppe この10年間、いろいろなタッグで曲を作ってきたし、そういう経験の影響も大きいよね。
“らしさと新しさ”
──1曲目「PLAYER 1」は作曲がpeppeさんと穴見さん、作詞が長屋さんと小林さんですね。「Mela!」や「キャラクター」「Slow dance」といった楽曲を生み出してきた布陣ですが、このタッグでの制作も、作品が増えていくにつれて手応えは増していますか?
長屋 そうですね。これまでもこのタッグで作ってきたからこその難しさもあるけど、ちゃんと毎回、違う曲が生まれているなと思います。
穴見 自分たちの安心できるフィールドの外側で作った曲のほうが、世に広がる気がするんですけど、今回もちゃんとそういう曲を作ることができたと思います。「Mela!」なんかも、それまでああいうコード進行のディスコっぽい曲は自分たちにはなかったし、ちょっと浮足立った気持ちで出したんですけど、結果的にはあの曲が今の僕らの状況を作ってくれていて。今の自分たちをもっと遠くに連れて行ってくれる懸け橋として、現時点で一番いいものができたのが「PLAYER 1」ですね。
──「PLAYER 1」は、リフもビートも言葉もサウンドも、すべて突き抜けたポップさと力強さがありますよね。どんな曲を作りたいと考えていましたか?
長屋 「Mela!」も「キャラクター」も、みんなが大切に聴いてくれる曲になったという実感があるんですけど、それはやっぱり「背中を押してくれる」とか「元気になれる」とか、そういう私たちらしい要素があるからだと思うんです。「PLAYER 1」は、そういう曲にするつもりで作りました。真吾とpeppeには産みの苦しみもあったみたいだけど、結果的に“らしさと新しさ”がある曲になったと思います。
穴見 僕の作業場で作り始めたんですけど、制作はツアー中にもつれ込んで、広島のスタジオに入ったりもしました。ヒントを探しに、peppeと2人で「スーパーボウル」のハーフタイムショーを観たり。冒頭のギターフレーズに入る前のアブストラクトな雰囲気を、peppeが作ってきてくれたんです。ほかにも、peppeからはファンキーでカッコいいフレーズが出てきたので、それを2人で作り込んでいって。僕の中では、昨今流行りのK-POPや、ヨーロッパのハウスっぽい感じ、そういうものから逃げたくない、ということが裏テーマとしてありました。
──「スーパーボウル」のハーフタイムショーにヒントを求めたのもそうですけど、世界的なポップスの在りようにもちゃんと目を向ける、ということですよね。
穴見 そこから逃げないでいたいなと思っていて。そういう思いでアレンジャーの花井(諒)さんとも話し合いながら作っていきました。
peppe ハーフタイムショーを観ていたのもそうだけど、爆発系の曲にしたかったんだよね。
穴見 爆発系(笑)。そうね、特効が似合う感じの曲。僕とpeppeで作る場合、ファーストインパクトはpeppeが作ったほうが絶対にいいんですよ。ビックバンを起こすのが一番うまいのがpeppeなので(笑)。そこに油を注ぐのが僕の役割なんです。
peppe ゼロイチはすごく苦しんだけど、私は「真吾と一緒にやっているし、いつかは完成するだろう」と思っていました(笑)。そこは信頼ですね。
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そこには“最強”があるんじゃないか?