ひと夏の充電期間
──まずはバンドの近況から聞かせてください。今年は夏フェス出演もセーブして、制作に時間を費やした夏だったのでしょうか?
木田 実はそういうわけでもなくて。「still e.p」は夏の前にはほぼ作り終えていたんですよ。
佐々木 珍しく夏にまとまった時間が取れたので、“バンドの夏休み”みたいな期間を設けてみました。
木田 「still e.p」を作り終えて、秋からリリースと対バンツアーが始まることは決まっていたんです。夏フェスの出演もあるし、ちょこちょこバンドの予定はありましたが、おそらく結成以来初めてじゃないかな? まとまった夏休みを取ってそれぞれ英気を養う時間があったのは。
佐々木 木田はサーフィンに初挑戦して、僕は富士登山に初めて挑みました。宏二朗は普段とあまり変わらず、夜の街をパトロール(笑)。
大野 僕はずーっと飲んでましたね。
木田 「still e.p」という、いい作品ができたことが大きかったと思います。これまでだったら「そんなにゆっくり過ごす余裕はない」と、全員が焦燥感に駆られていたと思うんです。でも今回は自信を持って世に出せる作品がすでにできていたから、「しっかり充電して、リリースを迎えたら全速力でツアーやライブをしよう」というマインドになれた。
大野 バンドの動きで言うと、「常夜灯」はひさびさのセルフアレンジだったんですよ。ここ何年かはアレンジャーさんやプロデューサーさんに入ってもらって作品作りをしていましたが、「常夜灯」に限らずEPの収録曲のいくつかはセルフアレンジで作っているので、それもバンドのトピックスとしては大きいですね。
──「セルフアレンジの曲が増えた」というのは、まさに今回の取材で聞きたかったことの1つでした。
木田 第一線で活躍するアレンジャーの方々と一緒にやってきた中で、これまでだったらアレンジャーを入れるか入れないかで、仕上がりのレベルが変わってしまう懸念があった。でも今のタイミングとメンバーそれぞれの実力なら、アレンジャーさんを入れるのと遜色ないレベルのものが作れるんじゃないか、と思い、「常夜灯」を含めて3曲は僕らのセルフアレンジで仕上げています。
大野 ちょうど1年くらい前に、木田さんとなんとなくの世間話で「これからバンドで何したい?」みたいな話を車の中でしたときに、「例えばセルフアレンジとかかな」と言っていたんですよ。1年前はまだ構想段階だったことを実現できているので、また1つこのバンドが一皮剝けたんだなと実感しています。
──制作中のどういったところで「自分たちがレベルアップしたな」と感じますか?
木田 ギターやコーラスの抜き差し、あとは各々のサウンドに対してのディレクションを自分たちのジャッジで進められるようになったのは大きいと思います。
佐々木 信頼しているエンジニアさんの意見も聞きながら、基本的には僕ら3人がメインで進めていったのが今作のレコーディングですね。でも混迷を極めるようなこともなくて、すごく平和なレコーディングだったんですよ。例えば僕が歌を録っているときは2人が見ててくれるし、その逆も然り。3人で作り上げている感覚がありました。
ブッタにストリングスが合う理由
──先にサウンドに関する話題に触れましたが、「still e.p」は収録曲すべてが佐々木さんの真骨頂とも言える失恋ソングで占められている、という特徴もあります。
佐々木 恋愛に関する曲は聴いてくれる方も共感しやすいだろう、という思いは変わってなくて。ただ、書くとしたらそこにはやっぱりリアリティや説得力が必要なので、どんな恋愛のシチュエーションがあるだろうとずっと考えてました。
──先ほどの鼎談で「恋を纏って」は別れることが決まっているカップルの最後のワンシーンを切り取った、とお話しされていましたね。
佐々木 はい。別れる最後に彼女を駅まで送るところを曲にしたのが「恋を纏って」。「If」という曲は、過去の恋人に思いを馳せて「今どうしているかな、幸せでいるかな」と想像しながらも、自分はいつでもヨリを戻せるとスタンバイしている、という曲ですね。特に「If」は音に引っ張られたところもあって、失恋の曲ではあるけれどもそこまで暗くもないんですよ。ちょっと空回りしている感じが明るく聞こえるというか。失恋というテーマの中でもすべてが同じような形ではなくて「どのような境遇に置かれたらどんな思いになるんだろう」というのをすごく考えました。
──MVが制作された「恋を纏って」は、ストリングスの音が入っています。先ほどセルフアレンジの話もありましたが、この曲では松本ジュンさんが編曲を担当されていますね。
木田 最初はバンドだけのシンプルなアレンジで作っていたんですが、松ジュンのスタジオにこの曲を持っていって「ここにギター、ベース、ドラム以外の楽器を入れるとしたら何を入れたい?」と質問してみたんですよ。そこで返ってきたのが「ストリングス」という返答で、「もうイメージも湧いてます」とまで言ってくれた。
佐々木 「もう聞こえてきてるので、弦で録りましょう」って。
木田 ストリングスをどういう雰囲気で鳴らすかは、けっこう話し合いました。「青は青でも、真っ青でもなければ明るくもなくて」「ちょっと沈んだトーンで、ちょっと冷たい感じでアンニュイさを出したい」とか。
──思い返してみれば「ドラマのあとで - retake」はRyo'LEFTY'Miyataさんが編曲で携わっていて、原曲からストリングスが加えられていました。2人のアレンジャーがブッタのサウンドにはストリングスが合う、と判断したわけですよね。なぜブッタには弦が合うんでしょうか?
木田 ピアノのサウンドもいい感じに混ざるんですけど、バンドそのものの音を際立たせようとするとストリングスになるのかな。
大野 ピアノを入れた場合、もう1人のプレイヤーの顔が浮かんじゃうというか……4ピースのような印象になっちゃうんですよね。でも弦の場合は、僕らの演奏を後押ししてくれるような存在になる。
佐々木 先ほどの取材で軍司監督に「ブッタの曲は情景が浮かぶ」と言っていただきましたが、もしかしたら歌詞がアレンジにも影響しているのかな、と思いました。僕らの曲で使われているストリングスのアプローチって、壮大にするような方向性ではなくて、ストリングスの音を足すことで切なさを増幅してもらう感覚がある。もしかしたら歌詞に向き合った結果、アレンジャーの方々がストリングスを選んでくれたのかもしれない。
時刻が表すリアリティ
──今回の取材で1つ聞いてみたいことがあって。佐々木さんの書く詞には具体的な時刻がよく出てくると感じるんですよ。「ドラマのあとで」なら「弁当をレジまで運ぶ21時」、今作に収録されている「バースデイ」には「一度画面消した 23時」「大体、丁度0時に」とあります。
大野 ホントだ! 「一目惚れかき消して」にもめっちゃ時間が出てくる。
佐々木 確かにそうですね。季節を書かないと言われたことがあるんですが、その代わりにめっちゃ時間を書いているのか。自分でも無意識でした。
──なぜ佐々木さんは歌詞に時間を記すのでしょうか?
佐々木 本当に意識はしてなくて、「バースデイ」の場合は、0時ちょうどにメッセージを送るために何時間も前からずっと悩んでいる様子を描きたかったからなんです。曲によって理由は違いますけど、自分の中ではもしかしたらリアリティを出すために自然と時刻に頼っているのかなあ。
──この時間を記すテクニックが、監督の話していた「曲を聴いて情景が浮かぶ」につながるかもしれませんね。
佐々木 だったらうれしいですね。言われるまで全然気付かなかったので、これから先、変に意識しちゃうかもしれませんが(笑)。
ブッタの芯は変わらない
──どれも失恋の曲で構成された「still e.p」、いい意味で佐々木さんらしい楽曲がそろっていると思いますが、バンドにとってはどのような意味を持つ作品になったと感じていますか?
木田 少し大袈裟に言えば「これがダメだったらもうダメかもな」と思っています。これは少しふざけて言ってますが(笑)、そう思えるくらい自分たちの今のすべてをぶつけました。いい曲が作れていると思います。
佐々木 デモを作ってアレンジを進めて、いい曲ができてるな、という感覚がすごくした。今の時代はSNSで楽曲の一部を切り取って使われる時代じゃないですか。歌詞を書いている僕の感覚だと、どうぞどこでも自由に切り取ってください、くらいに思ってます。どこをすくい取ってもらっても、素敵な曲であることには変わりませんから。
大野 この3人で曲を作ればリアクション ザ ブッタの正解になる、というのが証明できた作品だなと僕は感じています。変な話、この3人じゃなかったらもっといいアイデアが出ていたかもしれない。例えばドラムが僕ではないもっとうまい人だったらどうなっていただろう……とか考えるんですけど、リアクション ザ ブッタとしての正解はこの「still e.p」に込められたと思います。開き直りとかあきらめとかじゃなくて、3人でやる意味がある作品なんだなって、今回改めて思いました。
木田 これまでは恋愛の曲だけで構成されたアルバムやEPを出してこなかったんですよ。聴いてくれる人に寄り添うことを目的としているからブッタの音楽は応援歌が多くて。それなのに、恋愛だけに向かってしまうのはちょっと違う気がしていたんです。でも佐々木が作ってくる恋愛の曲は、聴き手に寄り添える応援歌になり得る歌だと気付いた。だから今回、初めて恋愛縛りの作品ができましたけど、そこにフォーカスしたわけでも吹っ切れたわけでもなくて、ブッタが今まで大事にしてきたものが芯にあり続けた結果だと僕は感じています。
佐々木 1つ言えるのは、僕らはこれまで出してきた音源の中でも一番いいものができたな、と感じています。
──11月からは対バンツアー、そして2026年2月からはワンマンツアー「リアクション ザ ブッタ still e.p release tour」が始まります。新たなEPがリリースされて臨むツアー、どんなものになりそうですか?
木田 今作を出してからのライブはガラッと変わるような気がしています。シンプルにセットリストが変わるのもそうなんですが、これまでよりも、言葉や楽曲が描く情景をライブの中で思い描いてもらえるようになるんじゃないかなって。それがどんなライブになるかはまだイメージができていないんですけどね。イメージがまだ湧いていないぶん、すごく楽しみです。どんなライブになるんだろうって。
佐々木 音源で聴いてもらったときと、ライブハウスで観てもらったときでは違う感想が出てくると思っています。皆さんがどういうテンションで聴いてくれるのか、もっと言えば、その皆さんからのリアクションを受けてこの曲たちが育っていくと思うので、これからのツアーがすごく楽しみですね。
大野 どんな表情で聴いてもらえるのか、すごく楽しみだよね。
佐々木 EPの収録曲は、「恋愛」というテーマにフォーカスしてはいるものの、テンポが速い曲もあればしっとり聴く曲もあるし、ちょっとノレる曲もある。けっこういろんなジャンルのサウンドを詰め込めたと思っているんですよ。この6曲でセットリストを組んでも普通に30分くらい演奏できそうだな、という点も大事にしていたので。この曲たちをセットリストのどの部分に入れたらこれまでの楽曲がどう響くのか。そんな化学反応もすごく楽しみにしています。
公演情報
リアクション ザ ブッタ still e.p release tour(対バンシリーズ)
- 2025年11月2日(日)千葉県 千葉LOOK(with:The Cheserasera)
- 2025年11月8日(土)大阪府 Yogibo HOLY MOUNTAIN(with:yutori)
- 2025年11月15日(土)福岡県 Queblick(with:EVE OF THE LAIN)
- 2025年11月22日(土)宮城県 enn 2nd(with:リュックと添い寝ごはん)
- 2025年11月29日(土)香川県 DIME(with:スピラ・スピカ)
- 2025年11月30日(日)広島県 広島セカンド・クラッチ(with:3markets[ ])
- 2025年12月07日(日)北海道 PLANT(with:the paddles)
- 2025年12月13日(土)石川県 金沢GOLD CREEK(with:Laughing Hick)
- 2025年12月20日(土)愛知県 ell.FITS ALL(with:終活クラブ)
- 2025年12月21日(日)埼玉県 西川口Hearts(with:osage)
リアクション ザ ブッタ still e.p release tour(ワンマンシリーズ)
- 2026年2月14日(土)福岡県 DRUM SON
- 2026年2月22日(日)広島県 広島セカンド・クラッチ
- 2026年2月23日(月・祝)香川県 DIME
- 2026年2月28日(土)大阪府 OSAKA MUSE
- 2026年3月1日(日)愛知県 ElectricLadyLand
- 2026年3月7日(土)宮城県 enn 2nd
- 2026年3月20日(金・祝)北海道 PLANT
- 2026年4月28日(火)東京都 LIQUIDROOM(リアクション ザ ブッタ still e.p release tour final -still with you-)
プロフィール
リアクション ザ ブッタ
佐々木直人(B, Vo)、木田健太郎(G, Cho)、大野宏二朗(Dr)からなる3ピースロックバンド。2009年に行われたバンド選手権「TEENS ROCK IN HITACHINAKA 2009」で最優秀賞を受賞し、同年夏に開催されたロックフェス「ROCK IN JAPAN FES.2009」への出演を果たす。2024年5月にベストアルバム「REACTION THE BEST」をリリースし、2025年2月から3月にかけてライブツアー「リアクション ザ ブッタ ONEMAN TOUR 2025」を開催。10月29日にEP「still e.p」をリリースし、11月には同作のリリースツアーの一環で千葉、大阪、福岡、宮城、香川、広島、北海道、石川、愛知、埼玉の10都市を巡る。
リアクション ザ ブッタ (@rtb3_official) | Instagram
リアクション ザ ブッタ (@rtb_official) | TikTok
萩原利久(ハギワラリク)
1999年2月28日生まれ。埼玉県出身。主な出演作に、ドラマ「美しい彼」「真夏のシンデレラ」「リラの花咲くけものみち」「初恋DOGs」、映画「劇場版 美しい彼~eternal~」「ミステリと言う勿れ」「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」などがある。また「花緑青が明ける日に」が2026年3月6日に公開を控える。
萩原利久 RIKU HAGIWARA (@rikuhagiwara_official) | Instagram
軍司拓実(グンジタクミ)
1995年生まれ。武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業後、都内の映像制作会社を経て2021年にフリーとして独立。自ら撮影、編集を行うスタイルでミュージックビデオを中心にさまざまな映像を制作している。




